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アクアリネアへようこそ  作者: みるくてぃー
一章 精霊伝説が眠る街
37/105

第37話 再会は川の中で

すみません、セットしたつもりができてませんでした(>_<)

「た、ただいま……」

「お帰りなさいませ、お嬢さ…ま……」

「おかえり、リネアちゃ…ん……」

 戸惑いながらノヴィアとヴィスタに挨拶するも、私の様子を見るなり同時に頬を染めながら固まる二人の姿。

 うん、ごめん。私が一番恥ずかしいの!

 

 お姫様抱っこの状態で、恥ずかしさのあまり思わず両手で自分の顔を隠す私。

 一方ノヴィアは見てはいけない現場を目撃してしまったと目を逸らし、ヴィスタは頬を染めながらもマジマジと私の様子を観察する。


 ちがうの! これには訳があるの!!




「ア、アレ……ク……?」

 彼、アレクとの再会は余りにも唐突すぎた。


「まだこのペンダントを持っていてくれたんだね」

 未だ状態が把握出来ていない私はただその場で立ち尽くすだけ。

 今、目の前の男性は私とアレクしか知らない想い出に触れてきた。

 このペンダントに込められた約束は、その場にいたリアと、亡くなった両親を除けばヴィスタとノヴィアにしか話しておらず、現物のペンダントを知る者もまたほんの数人だけ。

 例外をあげるとすれば叔父のお屋敷でお世話になっていた一部の使用人さん達だが、彼らにアレクとの想い出を話したことは一度もない。


 つまり、残された人物でこのペンダントの存在を知るのは彼しかいないわけであって……


「アレク……なの?」

「うん、そうだよ」

 体の奥底から湧き上がる熱い感情。

 思わぬ形での彼との再会に、この10年間で苦しかった日々が一気に私を襲いかかる。


「ちょっ、ちょっとどうしたのリネア?」

 見知らぬ男性と向き合い、ただならぬ私の様子に心配したヴィルが川の中まで駆け寄ってくる。


「ごめんヴィル、ちょっと色々思い出しちゃって」

 自然と溢れ出てくる涙を必死に抑えようとするも、次から次へと流れ出る涙。

 お姫様がピンチの時に必ず助けに来てくれる王子様、って訳でもないが、両親が亡くなった時、ヴィスタとヴィルとの関係を失いかけた時、そして生まれた国を離れる時と、私が弱くなった時には必ず元気をくれていた存在。

 その為ずっと溜め込んでいた辛い思い出が一気に私へと襲いかかり、涙といった形で溢れ出てしまう。


「お久しぶり、アレク」

 溢れ出た涙を袖口で拭い、一度呼吸を落ち着かせてから改めて再会の挨拶を交わし合う。

「うん、リネアこそ元気そうでよかったよ」

 国元を離れたこのアクアの地で再会するとは思わなかったが、恐らくそれは彼も同じであろう。

 私も随分女性らしく成長したし、彼も見違えるように逞しく思える。

 あの頃はお互い子供だったから仕方がないのだが、もし普通に街中ですれ違っていたとしても、お互い気付かなかったのではないだろうか? そう思うとこのペンダントは、私とアレクとを引き合わせてくれるような魔法のアイテムなのかもしれない。


「リネア、その……知り合いなの?」

「えっ、あぁ、うん。その……」

 ヴィルに話しかけられ、自分でも歯切れが悪いと思える返事。

 別にアレクの存在を隠していたわけでもないが、乙女心ともいえる淡い想い出をペラペラと話すのも恥ずかしく、他人からは意味不明の涙を見せてしまった後なので、今更なんと説明していいのもわからない。

 とりあえず冷静に、冷静にと必死に心を落ち着かせようとするも、アレクが唐突に自分のハンカチで私の目元を拭きだし、顔を真っ赤に染めながら頭の中が真っ白に塗りつぶされる。


 って、なにさり気なく私の涙を拭き取ってるのよ!


 嫌か嬉しいかと問われれば当然後者になるわけだが、今のこの状況では私の心臓に非常に悪い。

 自分でも顔が真っ赤になっているのが分かっているので、ヴィルを正面から見れないわ、アレクにもまともに顔を見せられないわで、何も知らない人がこの状況を見れば、若い男女三人が複雑な関係を拗らせているとも見えてしまう。

 今もうっかりこの状況を見てしまった村人その1が、見てはイケナイ現場を目撃してしまったかのように、足早にと逃げ去っていく。

 まってまって、違うの! 俗に言う男女の縺れとかそういった現場ではなく、偶然と偶然が重なり合って、今の状況になってしまったの!


 そもそも私のアレクとの関係はそんなに深いものでなく、ヴィルとの関係もまた普通の友達関係。そこに淡い乙女心が全く無いかと問われれば、多少言葉を詰まらせてしまうが、決して恋人同士でないとは断言できる。

 

「あ、あの……アレク、その……自分で拭けるから……」

 火照った顔を反らせながら、やっとの思いで言葉を吐く。

 彼も私の言葉でようやく今の状態が理解できたのか、慌てた様子で両手を挙げ、決して疚しい気持ちはなかったと猛アピール。


「ち、違うんだ。リネアの顔に涙の後が残っていたから、つい自然と手が出ちゃっただけで、決して疚しい気持ちを抱いていたわけじゃなく、その……二人の関係を壊そうとか、そんな感情は一切ないから安心して」

「……は?」

 二人の関係?

 ……って、もしかしてアレクは私とヴィルを恋人同士だとかと勘違いしてない?


 冷静になって考えてみれば、男女二人が野菜いっぱいのカゴを持ち、のどかな農道を一緒に歩いていればカップルに見えるのかもしれない。

 私としては単に荷物持ち&仲のいい友達同士の感覚なのだが、今のアレクの反応を見る限り、私には必死に謝罪し、ヴィルには決して疚しい気持ちはなかったんだとアピールしている。

 うん、ここはヴィルの為にもちゃんと誤解を解いておかないとだね。


「あの、アレク。多分誤解してると思うんだけど、私とヴィルとはそんな関係じゃないわよ。今日はちょっと買い忘れがあって荷物持ちをお願いしたの」

 農道に置かれた野菜いっぱいのカゴを指差し、まずは勘違いなのだと誤解を解こうと説明すると、なぜかアレクは私の指差す方に顔を向け、ヴィルはガックッと肩を落とす。

 あれ? なんでヴィルが落ち込んでるのかしら?


「そ、そうなんだ。ちょっと早とちりをしてしまったようだね」

「そうよ。私の恋人だなんて、ヴィルに失礼だわ」

 お相手は伯爵家の跡取りだからね。一応何か危険があるかもしれないのでワザワザ説明をするつもりはないが、貴族を捨てた私ではヴィルのお相手は不釣り合いだろう。


「うん、もうそれぐらいにしてあげたほうがいいかな。ちょっと彼が可哀想だ」

「えっ? それってどういう……」

 アレクからの意味不明の言葉を問いかけようとするも、タイミング悪く遠くの方から彼の名前を呼ぶ声が聞こえてくる。


「しまった、ゼストの事をわすれていた」

「ゼスト……さん? お知り合いですか?」

「うん、一緒に旅をしている仲間なんだ」

 あぁ、アレクは出会った頃と同じように、今も旅の商人を続けているんだろう。見れば旅装束に身を包んだ若い男性が一人、こちらに向かって走ってくる。


「とりあえず川から出ましょうか。このままじゃ三人とも風邪を引いちゃいます」

「ははは、そうだね。すっかり川の中で話し込んじゃったね」

 私はスカートを捲り上げているのでそんなには濡れていないが、アレクとヴィルはズボンの裾が完全に川に浸かっている。

 まずは川から抜け出し、濡れた部分を絞るなりしなければならないだろう。


「ごめんねヴィル、結局貴方まで濡れさせてしまって」

 元をたどれば私がペンダントを川に落としてしまった事が原因なのだから、ヴィルにはなんとも申し訳ない気持ちが湧き上がってしまう。


「気にしないでリネア、僕が勝手に誤解して飛び込んじゃったんだから。それよりもそこに大きな石が転がってるから気をつけて」

「ん? 誤解?」

 ヴィルの何気ない一言に気をとられたのがいけなかった。

 ワザワザ石が転がっているとの忠告を受けたのに関わらず、私は物の見事に石を踏みつけ、そのまま大きくバランスを崩ずしながら近くにあった支えと共に川へとダイブ。


 ザッ、ザバーン。

「ちょっ、リネア、大丈夫!?」

「いたたたた」

 私だけが濡れていなかったというのに、結局は私が一番濡れてしまった。

 若干柔らかい感触が痛みを和らいでくれたが、このままでは流石に風邪を引いてしまう。


 ……ん? 柔らかな感覚?


「いたたた、大丈夫か?」

 何故か私の耳元で聞こえて来るアレクの声。

 あれ? 私倒れる時になにか支えになる物を掴んでなかったっけ?


 ……サァーーーーーーッ


「きゃぁーーごめんなさいアレク。私ったらアレクを巻き込んじゃったのね」

 恐らく倒れる瞬間、私が怪我しないように庇ってくれたのだろう。すっぽりと彼の胸元に収納されてしまっている状況を見れば、軽い打ち身だけで済んだのは彼のお陰。

 だけど今のこの状況は、なんというか恥ずかしいと言う思いがどうしても先行してしまう。


「いや、僕の方こそ支えられれば良かったんだけど、咄嗟に反応が出来なくて。それよりも足の方は大丈夫?」

「足?」

 大丈夫よ。っと見せるために右足に力を入れて立ち上がろうとするも、全身を電気が走ったような痛みが駆け巡り、再びアレクの胸元へと収納される。


 わ、わざとじゃないのよ! 不可抗力。そうよ、これは不可抗力なんだから!


 よく男性の気を惹くために似たようなシチュエーションを目のするが、私はそのような気も演技力も持ち合わせてはいない。

 どうやら石を踏み外した際に、足首を捻ったか痛めたかをしてしまったのだろう。

 すぐに気づけなかったのは恐らく長い時間冷たい川に浸かっていたから、痛いという感覚が鈍くなってしまっていた。

 でもこれじゃ川からでれないじゃない!


「アレク様、そのお姿はどうされたので?」

「ははは、ちょっと水浴びをしたい気分でね」

 先ほどゼストと呼んでいた男性が駆けつけ、私とアレクの状況に目を丸くする。


 なにも知らない者が見れば、今のこの状況をどう理解するだろう。

 男女三人が川の中に入り、そのうちの二人が背中から抱き合った形で座り込んでしまっている。

 幸い漫画やアニメのように水に濡れて胸元が透けて見える、なんて状態ではないが、それでもマジマジと今の状況を見られているというのも恥ずかしい。


「水浴び、ですか? まぁ、その辺はおいおいお伺いするとして、取り敢えずは濡れた服を乾かされたほうがよろしいですね」

「その方がいいね。流石にこのままじゃリネアが風邪を引いてしまうよ」

 一瞬ゼストと呼ばれていた人が私の名前に反応したような気もしたが、まずは濡れた体を温めなければならないだろう。

 私はアクアの加護のお陰で風邪を引きにくい体にはなっているが、それでも冬の川にダイブしてしまえばその限りではない。


「あの、この道を少し行けば小さな街があって、そこに私が暮らす家があるので取り敢えずそこで着替えを」

 ここまで濡れてしまえば家に帰って着替えた方が早いというもの。

 家に帰ればノヴィアが部屋を暖めてくれてもいるはずだし、アクアに頼めば暖かなお風呂も用意できる。

 流石に男性の着替えまでは持ち合わせてはいないが、ヴィルに頼めば服を乾かすまでの間、代わりの何かを貸してくれるだろう。


「わかった。それじゃ少しじっとしていて」

「えっ、あ、はい。きゃっ」

 そのまま横に抱えられたかと思うと、視点がアレクの胸元辺りまで浮上する。


 ここここ、これってお姫様だっこ!?


 慌ててアレクの腕の中で暴れるも、すっぽりと収納されてしまった私の体は抜け出せず、逆にアレクから暴れないでと注意を受ける始末。


 だから違うの! 私はそんなキャラじゃないのよぉーーー。


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