第17話 覚悟の時
すみません、セットしわすれてました(>_<)
「リネア様、一体手紙には何が書かれていたのです?」
近くで控えていたノヴィアが、私が手紙を読み終えたタイミングを見計らい尋ねてくる。
「ヴィスタがケヴィン様に気をつけてって。あと私の学園事情を漏らしていたのもこの方らしいって」
「ケヴィン様ですか?」
話を聞き終えたノヴィアが考えるような仕草で首を横へと傾ける。
そういえばノヴィアにはそこまで詳しい話しはしていなかったわね。私は掻い摘んでケヴィン様の素性を説明する。
「何ですかその人、恩を仇で返すような。しかもリネア様を監視するような真似までするなんて」
まぁ、ノヴィアが怒るのも無理はないわね。私だってまさか見張られていたなんて思いもしなかったんだから。
手紙には私やヴィスタの学園での行動が、逐一エレオノーラ様へ報告されていたようだと書かれていた。
なんでも元々はリーゼ様の監視をしていたらしいのだが、リーゼ様が学園を去ったあとはその監視対象が親友であるシンシア様に向かい、その範囲がやがて妹でもあるヴィスタへと向かったのだという。
以前叔父に呼び出され、ヴィスタとの親友関係を叱られたのだが、どうやら元をたどればこれが原因だったようで、手紙には私への謝罪とケヴィン様を警戒するようとの旨が書かれていた。
それにしても盲点だったわ。
私はてっきりクラスの誰かが、親を通じで叔父の耳に入っているものだと考えていたが、まさかヴィスタの様子を伺う過程で、私にまで観察対象が広がっていたなんて考えてもいなかった。
彼にしてみればリーゼ様を罠に嵌めた手前、自分が周りからどう見られているか疑心暗鬼からの行動だったようだが、いつしかそれが義姉の情報源として利用されてしまったのだろう。
ケヴィン様は今じゃ学園の全生徒からの宿敵。リーゼ様への謝罪も未だにないと言う話だし、ウィリアム王子との繋がりもないと聞いている。
そもそも罠に嵌めたリーゼ様ご本人に助けを求めるわけにもいかないだろうから、頼れる相手は我が義理の姉しかいなかったのではないだろうか。
だからといって私やヴィスタにまで被害を及ばすのはやめてほしいのだけれど。
「あの、実はそのシャルトルーズ家のご子息様なのでが、先ほどエレオノーラお嬢様がお屋敷にお連れになり、今は旦那様方と話をされておられるようなのです」
「えっ?」
ここにきて今までの話を聞いていたマリアンヌが、話が終わるタイミングでケヴィン様の来訪を伝えてくる。
「それは本当なの?」
「はい。普段ならご学友をお連れされたとして特に気にする事もなかったのですが、旦那様が帰宅されたと同時に奥様達一緒にと書斎に入られたものですから」
マリアンヌの言う事が事実ならば確かに妙な話だ。
王妃問題が勃発している時に、ウィリアム王子以外の男性を屋敷に招くのも、叔父の帰宅と同時に全員が書斎に押しかける事も普通ならありえない話。
これが何らかの仕事を持ってきたという話ならば納得もできるが、学生の身であるケヴィン様にそんな交渉を任せられると思えないし、叔母が同席しているというのも引っかかる。
すると考えられるのは、何らかの情報を持ってきたというのが正しい判断ではないだろうか。
「ハーベストは何も聞いていないのかしら?」
「ハーベストは旦那様方と一緒に書斎の方に、ただ……」
「ただ?」
「メイドの一人が旦那様の書斎の前を通った際、部屋の中からリネア様がどうのという話が聞こえてきたと言うので。その事をリネア様にお伝えしようと思っていた矢先に急ぎの手紙が……」
「なるほど、そういう事ね」
マリアンヌからの話を聞き終え、私の中でちぎれちぎれだった糸が一本の糸へと繋がっていく。
ノヴィア達には言わなかったがヴィスタからの手紙にはこうも書かれていた。
『昨日、ケヴィン様がリーゼ様のお屋敷を訪ねられていたらしいと』と。
どうもリーゼ様のブラン家が、ケヴィン様のシャルトルーズ家に対して厳しい抗議状を送りつけられたんだそうだ。
元々シャルトルーズ家はブラン家から多大な援助をしてもらっていたという話だし、息子の不始末で一族を路頭に迷わすわけにも行かなかったのだろう。
シャルトルーズ家はすぐに謝罪の手紙を送られたそうなのだが、ブラン家はこれを全面的に拒否。
和解へ道が一向に見えない状況に、父親からも追い詰められたケヴィン様は昨日、自身の立場を改善するためにリーゼ様の元へと訪れたのだという。
だけど訪れたはいいが、リーゼ様ご本人に来訪の案内すら繋げてすらもらえず、門番の人に門前払い。リーゼ様から伺った話ではご両親が相当お怒りだったとも聞いているので、もしかするとケヴィン様ご本人がやってきても、問答無用で追いかえせとでも伝えられているではないだろうか。
そんな出会えない状況で、シンシア様と私が乗る馬車がブラン家に入るところを見られてしまったのだという。
その事で翌日でもある今日、リーゼ様の親友でもあるシンシア様に助けを求められたそうなのだが、ケヴィン様の主張は自身の立場の改善のみ。そこにリーゼ様に対する謝罪の気持ちもなければ、『申し訳なかった』の一言すらなかったのだという。
流石に頭にきたシンシア様もケヴィン様を突き放されたそうなのだが、自身がブラン家への来訪を見られていたと、エレオノーラ様に私たちの事を告げていた事実を知ってしまい、ヴィスタを通して急ぎの手紙を届けてくれたらしい。
確かに馬車の中にいて、外からは見えないようにカーテンを閉めていたとはいえ、シンシア様が来るまで私はブラン家の前をウロウロしてしまった。
もしその姿が見られていて、シンシア様の馬車に乗り込む姿を見られていたとなれば、今のこの現状も容易に推測はできてしまう。
シンシア様もケヴィン様に対して相当怒り心頭だったとの事だったので、後になって私の身を案じてくださったのだろうが、その事に対して私は責める気には一切なれない。
もしこれがヴィスタに対しての行動ならば、私も恐らく頭にきていただろうし、自分の判断でリーゼ様に会いに行ったのも間違いなく私だ。
それにリーゼ様とお会いした後の私にはある程度の覚悟もできている。
あの方は自分が窮地に追いやられてしまったというのに、はっきりと前を向いて歩いておられた。
勿論私と置かれた状況が違うのも分かってはいるが、ウィリアム王子と別れた事、学園を自らの判断で辞められた事、そして新たな目標に向かい突き進んでおられる事。その全てが今の私にはとても眩しかったのだ。
もしかすると私は心の何処かで『もう少し準備をしてから』『もっと知識を得てから』と、自分自身に言い訳をしていたのかもしれない。
潮時かもしれないわね。
コンコン。
私が心の中である覚悟を決めた時、ハーベストが苦悩な表情を浮かべながらやってくるのだった。