表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アクアリネアへようこそ  作者: みるくてぃー
終章 未来への道筋
104/105

第104話 それは最高の恋の物語

 レイヴン元公子による客人陵辱(私の事よ!)未遂事件から早二週間。

 ドルジェ卿が裏で暗躍していた事は公には公表されず、陛下殺害未遂はレイヴン元公子による単独の犯行とされ、最終的に陛下の容体は、私が精霊達の力を借りて見事治療させたという、何とも胡散臭い噂を流す事で一先ず解決。

 なんでも私と精霊達の存在をあやふやにする事で、奇跡の治療を神秘的な存在に仕上げたのだとか。


 実際陛下が刺された事は事実だし、解毒薬を用意できたのも私が契約している精霊達のおかげなので、ある意味正しい解答といえよう。

 ただそれ以来、私がお城の廊下を歩くと、働いている人達が左右に分かれて道を開けるわ、お髭を生やした如何にも重鎮って方まで頭を下げてくるわで、今もアレクと一緒に街を散策していると、『あ、聖女様だ!』って可愛い女の子に指を指されるのだからたまったもんじゃない。

 いやいや、さすがに聖女様は言いすぎでしょ。


「ははは、リネアもすっかり有名人になってしまったね」

「笑い事じゃ無いわよ。昨日も腰痛を治して欲しいっていうお爺さんに捕まって、小一時間世間話につき合わされたんだからね」

 結局私にはそんな力はないと説明させていただいたのだが、その説明の過程ですっかりお年寄りの長話に付き合わされてしまった。

 私としてはそこそこ楽しい時間を過ごさせてはいただいたのだが、何度も同じ説明を繰り返すのだけは、精神的に疲れた事を覚えている。


「そういえばあの方は誰だったのかしら?」

 妙にアレクやセレスの事に詳しかったし、お城の中でも足を踏み入れた事がない場所に連れていかれた事もあって、不思議な感覚にとらわれた事を覚えている。その時は陛下に仕えている家臣の方かと思ったのだが……。

「あー、多分その人は前の公王様じゃないかなぁ」

 ブフッ

 アレクから出た言葉に思わず吹き出す。

「はぁ? 前の公王様って、アレクのおじい様ってこと?」

 いや、まぁ、年齢的にまだご存命のお歳なんだろうし、引退したからといってお城から出て行く必要もないんだから、別段不思議がる事でもないのだろうが、いきなり前の公王様が出てきたとなれば、驚くなという方がおかしいだろう。


「結構気さくな方だっただろう?」

「ま、まぁそうね……」

 率直な感想をいえば、ただの人の良いおじいちゃん、って感じだったので妙な気を使うような事もなかった。

「多分単純にリネアと話してみたかっただけだと思うよ」

「そう……なのかなぁ?」

 思い返せばなんだかんだと言いくるめられ、気づけば見知らぬ場所でお茶を頂いていたのだから、本当に私と話がしたかっただけなのかもしれない。

 それにしても私が陛下を救ったって噂が、神秘的な力(多分魔法?)で治療した、って事になっているのは流石に困ったものね。


 でもそんな問題も今日でおわり。この一週間は事後処理だなんだと、お手伝いをさせていただいたが、私が出来る事は昨日で全て終了した。


「これでやっと帰れるー」

「ははは、嬉しそうだね」

「それは勿論。アクアでやり残していた仕事もいっぱいあるし、リゾート化計画もまだ始まったばかりだもの。ちょっとセレスや公妃様とお茶会が出来なくなる事は寂しいけど、いつでも遊びに来ていいって言われているからね」

 最初の頃はどうかと思っていたが、セレスは私に懐いてくれているし、公妃様も同じ女性として尊敬できる部分も多くある。何より話をしていて楽しいと思えてしまうのだから、それだけでも十分だろう。


「女性であるリネアに言う言葉ではないんだろうけど、僕はやっぱり仕事をしているリネアの姿が好きだな」

「……//////////!?」

 不意をついたアレクからの告白。

 いや、告白と言うか単純に率直な感想を口にしただけだろうが、完全に油断していた事もあり、顔が自分でも真っ赤になっている事を自覚してしまう。


「リネア、実はリネアに聞いて欲しい話があるんだ」

 私はただ真っ赤になった顔を下向きに隠し、アレクからの言葉を聞くのだった。




「リネア、長い間ありがとう。貴女が居なかったら思うと、感謝の言葉しかみつからないわ」

「いえ、私も楽しい時間を過ごさせていただきましたので」

 私の為に用意してくださった馬車の前で、公妃様から感謝の言葉を頂く。

 昨夜は私がトワイライトで過ごす最後の日だという事で、ささやかながらも感謝の夜会が開かれた。

 そこで陛下から聞かされた話なのだが……。


「ドルジェの事、本当に感謝する」

 それは今回の黒幕でもあるドルジェ卿の処遇に関して。

 公けには発表されてはいないが、レイヴンの王族剥奪と時を同じくしてドルジェ卿は引退。その後を息子が継ぐ事になり、一連の事件は有耶無耶にされた。

 私としては単に濡れ衣を着せられただけだし、実質な被害を受けたご本人がそれでいいと言うのなら、それ以上口を挟むつもりもなかった。

 結果的にルナライト家はアレクを次期公王に推挙するという確約と共に、ドルジェ卿は息子に全てを託し、本人は貴族の地位から自ら退かれた。

 どうやら今回の責任を取る為に、これからは一人の市民として生活を過ごされるのだという。

 これは私の考えだが、卿も恨みと良心との間で苦しみ続けて来られたのではないだろうか? だから身分を自ら退かれ、一人の人間として領民の中で出直そうと考えられた。そうでなければ公王様も救いの手を差しだそうとは思われなかっただろう。


「私は何もしておりません。全ては陛下のお心と、アレクの心の広さからだと思っております」

 ドルジェ卿も不幸な事件がなければ別の道を歩まれていたのかもしれない。

 実際陛下の元で随分と功績を残されていたという話だし、アレクに平民の血が流れていなければ、今回の事件は起こらなかったのかもしれない。

 だけど実際事件は起こってしまい、わずかではあるが陛下の命が危険に晒されてしまった。

 恐らく本人も陛下の命を奪うまでは考えて居なかったのかのだろう。そうでなければ死に至るまで7日も掛かる毒など、使わなかった筈だ。


「そうだな、御主には本当に感謝しておる。今回の件もそうだが、ヘンドリックとオリーブの事、感謝しても足りぬぐらいだ」

 元々は複雑に絡みあってただけの関係なのだし、三人とも心の底では嘗ての関係を望んでいたのだから、誤解が解けて本当に良かったと思えてしまう。

「リネアお姉様、必ずまた遊びに来てくださいね」

「セレスもありがとう。今度は妹のリアも連れて来るから一緒に遊んであげてね」

「では名残惜しいが余り引き止めても迷惑だろう」

 お礼や別れの挨拶は昨日の夜から何度も繰り返している。

 馬車には出発を待つように御者の方が待たれているし、扉はエスコートしてくださるようにメイドさん達が待機されておられるので、これ以上待たせてしまうのは確かにも申し訳ないだろう。

 それにもう一人も……


「では行ってまいります、父上」

「あぁ、リネア、アレクを頼んだぞ」

「えっと……、陛下がおっしゃると言葉的にすっごく重いんですが、何とか頑張ります」

 そう、なぜかアクア領に戻るのは私と精霊達だけではない。アレクも一緒に戻る事になっているのだ。


 昨日アレクから告げられた告白。それはもう暫く私の元で学ばせて欲しいという話だった。

 どうやら私が進めている領地開発が、アレクが理想と考えている国づくりに似ているらしく、今ここでアクアから離れてしまうのは自分が望む事ではないのだという。

 その事を陛下を交えて話し合ったのだが、陛下も公妃様も止めるどころかアレクの背中を押してくださったのだ。

 ただヘンドリック様が、それならば私の息子をと、ゼストさんまで私の元で学ばせる仰った事は計算外ではあったのだが。


「お兄様、しっかりリネアお姉様を支えてくださいね」

「わかっているよ。これでも無理を言って国を開ける事になるんだからね、しっかりとした実績を証明するつもりさ」

「それではお世話になりました」

「えぇ、二人とも元気でね」

 アレクが先に馬車に乗り、私をエスコートする為中から差し出されたその手を取る。


「リネア、貴女はいま好きな人はいるのかしら?」

 公妃様が最後に掛けるその言葉、それはあの日に掛けられた言葉と同じも。


 そういえばあのとき本音を出せば、こんな大きな事件に発展しなかったのかもしれないわね。

 私は自然と笑みが浮かび、自分でも信じられないほど素直にこう告げる。


「はい、私はいま最高の恋をしています」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ