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アクアリネアへようこそ  作者: みるくてぃー
終章 未来への道筋
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第103話 決着

 ドルジェ・ルナライト。先王の弟にあたる家系で、現在は家臣の中でも強い発言力を持つ一人として、息子と共に国から月光の名を与えられた、いま公国で陛下からの信頼がもっとも厚いとされる人物。

 一見これだけ聞けば裏切りなどとても考えられないのだが、継承問題ではレイヴン公子を強く推しており、平民の母を持つアレクの事は敵意すら見せていたのだという。


「公妃、お待たせいたしました。こちらがヨルムンガンドを治療できる解毒薬です」

 あの後すぐ、ドルジェ卿が解毒薬を持参し登城してきたと、私たちの元に知らせが入った。

 どうやら公妃様と陛下は、予めドルジェ卿が解毒薬を用意していると予想していたらしく、現在陛下不在の玉座の間で公妃様と対面中という訳だ。

 因みに私とセレスは玉座の隅にある王族専用控えの間で、こっそり行く末を見学させてもらっている。


「流石です。貴方ならかならず解毒薬を見つけてくれると思っておりました」

 早速、という感じで控えていた医師の一人が薬を受け取り、そそくさと玉座の間から退出していく。

 このあと受け取った薬を調べ、異常がないか、解毒薬として本当に効果があるかを分析する手筈になっている。

「それで薬はどのように手に入れたのかしら?」

「私の知りうる伝を使いまして、国中の商人や薬師に当たり本日ようやく」

 予め質問されるであろう内容を考えていたのだろう。迷いなく公妃様の問いかけに答えられる。


「そう、よくやってくれました。これで私は心置きなく公妃の座を退くことができるわね」

「何をおっしゃいますか公妃様、陛下が助かっとしても公務にお戻りになられるのはまだ先のこと。それまで公妃様がこの公国を支えるべきです。不肖、私もお力添えをいたしますので、何度ぞそれまでは」

 お決まりの言葉遊び。公妃様はレイヴンの事件で妃の座から退くと話されていたし、陛下も助かったとはいえ復帰出来るのは当分先の話。

 そしてアレクは現在有らぬ嫌疑を立てられている状態で、空席となる王の座は誰かが代理となって動かさなければならない。そう王族の血を引き、陛下からの信頼も厚く、更に解毒薬を用意できたという功績があれば、どこからも非難するような言葉が飛び出さないだろう。

 実際ドルジェ卿が国に貢献した実績は多いそうだし、血筋も信頼も中々のものだという話。

 公妃様も陛下もまさかとは思われたらしいのだが、私の存在を利用できる環境におり、尚且つレイヴンとも深い繋がりもある事から、ドルジェ卿に疑いの眼差しを抱かれた。

 勿論確かな証拠がなかったため、この6日間様子を伺いならも状況を見守られてきたのだが、やはり限りなく黒に近いという事と、決定させるだけの証拠が見つけられなかったという事から、公王様と公妃様はこの日に目算をつけ、ある罠を仕掛けられた。


「いいえ、今回息子の不祥事は私の力が至らぬところ。既に陛下へも事情を説明し、公妃の座を返上する事に了解を得ております」

「ですが、妃の座を空席にするなど」

「心配なさらないで、何も夫婦の仲を解消しようというのではないのよ。あくまでも政治としての妃を退くだけ。もし形だけの妃が必要と言うのならば、陛下には新しい女性を用意すればいいだけですもの」

「しかし現状陛下がいつ復帰されるかわからない状況では」

「貴方が心配する気持ちのは勿論わかるわ。でもね、これは妃として……いえ母親としての私のケジメ。幸いアレクシスも戻ってまいりましたので、必要な公式の場は、義息子に任せるつもりです」

「なっ、アレクシス様をですか!?」

 ここまでは事前に聞かされていた筋書き通り。

 これは公妃様から聞いたのだが、ドルジェ卿の目的はおそらくアレクの公位剥奪。なんでも昔平民が起こした通り魔騒ぎで、愛する夫人と娘を亡くされてしまったらしく、それ以来残された息子を男手一人で育てながら、本人は平民を敵視するほど性格が変わってしまい、平民の母を持つアレクを疎ましく感じていたのだという。


 不幸な事件だったとはいえ、ドルジェ卿が心に負った傷は分からないでもない。私だって妹のリアが殺されてしまえば、例え愛する領民であったとしても許せないだろう。

 だけどそれを関係のない他人に当たる事も、ましては自分の目的のために他者を誑かせ、殺害にまで及ぶのはお門違いというもの。

 おそらく当初ドルジェ卿が考えていたのはレイヴンの妃に私を付け、そのまま公位を継がせようとでも考えておられたのだろう。

 実際私を公妃様に紹介したのもドルジェ卿だというし、旧メルヴェール王国の貴族であり、アクアの領民にも慕われ、アレクに多種多様の技術を提供している者として、レイヴン公子の妃相手に相応しいと判断されたらしい。


 実際もう少し調べれば私にも平民の血が流れていたり、アレクとは実は昔からの知り合いだったとも分かっただろうに、自分の都合のいい部分のみを切り取り、私を公妃様に紹介された。

 ただドルジェ卿にとって誤算だったのは、レイヴン公子の暴走で私は被害者となり、当の本人は公位が剥奪とも思える事件をおこして投獄。おまけに足止めしていたはずのアレクまでもが戻って来てしまい、ドルジェ卿は更に追い込まれることになってしまった。

 そこで考えたのが私という不確定人物を利用して、逆にアレクを貶める計画を立てた。

 もともとアレクに公位をという話も、単純に継承順の消去法でしかなかったわけだし、アレクに謀反の影ありと噂が流れれば、もう一度考え直そうという声も上がる事だろう。

 そして陛下を助けたという信頼と、陛下が公務に戻れない間で実績を残し、アレクを排除した後に自分の息子に公位を継がす。

 例え息子に公王の座が降りてこずとも、少なくとも平民の血が流れるアレクだけは排除できる。セレスに関してはアレクと一緒に謀反の意図あり、とで言っておけば簡単に排除できるし、場合によっては息子を王に継がすために利用しようと考えていたのではないだろうか。


 だから公妃様は敢えてこの場で自分は引退し、後続を次期公王となるアレクに任せると告げられたのだ。貴方が行って来た行為は全く意味がなかったのだと言い含めて。


「お待ちください、なぜアレクシスなのですか! あの者はアクアの領主であるリネアと共謀し、レイヴン公子を誑かせたのですぞ。それをよりにもよってアレクシスに国を任せるなど、あってはならぬ事です」

 ドルジェ卿の中ではすっかり私とアレクは事件を起こした黒幕なのだろう。こうまでハッキリを告げられれば、逆に清々しくもなってくるが、完全な濡れ衣ではやはり気持ちが良いものでは決してない。ましてや真犯人に言われるなど言語道断だ。


「妙な事をいいますね。リネアを私に紹介して来たのは貴方でしょ? それなのに彼女を犯人扱いにするなんて、まるで貴方が裏で操っているように聞こえるのは私だけかしら?」

 この時、明らかにドルジェ卿の表情に焦りが見えた。

「め、めっそうもない! 確かに彼女を公妃様に紹介したのは私ですが、神に誓っても私が謀反を起こそうなどとは考えた事もありません」

 そういえば昔誰かに聞いた事があったかしら、自分の身の潔白を証明する時、神だとか天にだとか、有りもしない存在を口にする者ほど信用が出来ないと。


「ねぇドルジェ卿、貴方は本当に解毒薬を探してくれたのかしら? ヨルムンガンドなんて珍しい毒なのに、貴方はたった6日という短い期間で見つけて来てくれたわ。私やオーシャン公国の兄上ですら見つけられなかった解毒薬を、どうやって見てけてくれたのかしら?」

 表面上、トワイライトとオーシャン公国は本気で解毒薬を探させたのだと聞く。その方が公王様が危篤だという信憑性も高く、実際解毒薬が残っているかという事実も確認できる。そしてその結果なのだが、今日に至るまで見つかったという報告はゼロ。もしかすると範囲を拡大させれば地方に残っているのかもしれないが、この世界じゃ車や電車があるわけでないので、各地を回るだけでも数日はかかってしまう。

 仮にもし解毒薬が見つかったとしても、情報の伝達から持ち帰るまでの時間を考えれば、とてもじゃないが6日という期間では見つける事など不可能と言えるだろう。


「まさかお前が私を裏切るとはな」

 状況を見計らい、力強い足取りで陛下が玉座の間に現れる。


「へ、陛下!? な、なぜここに!!??」

「別に驚く事でもなかろう、毒など精霊の力をもってすればたやすく治療できる。知らなかったのか?」

 いやいや、ただのハッタリだとは言え、そんな自慢げ言われても逆にこちらが恐縮してしまうというもの。

 陛下も万全の体調とは言えないが、解毒の処置が早かったためご覧の通りと言うわけだ。


「精霊!? まさかそんなものが……」

「勉強不足ね、貴方が紹介してくれたリネアには三人の精霊がついているのよ」

「おかげで余の体調もこの通りだ。そんな彼女が余の命を狙うはずもなかろう?」

 ドルジェ卿の狙いは私とアレクに謀反の疑いを掛ける事。当初の目的はどうだったかは知らないが、レイヴンのせいで今の形に修正せざるを得なかった。

 だけど肝心の陛下暗殺未遂が、知らない場所で救われていたとなれば計画は丸つぶれ。むしろヨルムンガンドなんて解毒薬を持ってきた方が、怪しいと言うわけだ。


「先ほどお主から受け取った解毒薬、いま薬師達がいつ頃製薬されたかを調べておる」

 おそらくドルジェ卿にとっては信じられない光景であろう。何といっても陛下は毒で生死を彷徨っており、レイヴンに刺されたという事実をワザと外部に漏れるよう仕向けたのだ。

 こちらとしてもメイドに扮した間者に侵入を許したという反省から、事実と嘘を巧みに利用させてもらった。


「お主なら知っておるだろ? 昔に作られた毒も解毒薬も、100年近くも経てばその効果は従来の1割すら発揮できないという事を」

 そう、ヨルムンガンドを調べる中でわかったこと。

 薬師の話から、100年も経てばヨルムンガンドの毒もその解毒薬も、本来の効果はおそらく殆ど効果は出ないとの見解だった。

 冷静になって考えれば当然よね、この世界じゃ冷蔵庫も冷凍庫もないのだし、元は植物を原料に作られたものなら、10年も経てば乾燥しきってしまい元の成分などあって無いようなものだろう。

 つまり陛下が犯された毒が効果を発揮し、先ほど受け取った解毒薬が100%効果を発揮すれば、それはもう最近作られたものだと言っているようなものだろう。

 初めから陛下に盛るために用意されていたとは考えられないので、アレクかセレスに使って脅そうでも考えていたのだろうが、結果的に苦しめる目的で用意した毒薬から足が着くのだから、救いようがない愚か者である。


「……」

 陛下の登場で自分が罠に嵌められたと気づいてしまったのだろう。ドルジェ卿は全てを諦め、ぐったりと項垂れるのであった。

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