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リレー小説・♥(しいたけ・陸・森野・砂臥)  作者: しいたけ・陸 なるみ・森野昴・砂臥 環
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『結』(砂臥担当)

※新たに使用したワード

『棘』『女海賊』『アルティメルトオーガニックサンバイザーアルティメルトイラストレーター』『右手(の『星』)が疼く』『柿の種』『ダイス』『バイオリン』


 黒いもやのようなものがあたりを包み、景色が曖昧になっていく。失敗した水彩画のような中で、覚束無い足を進めた。


 明らかに、なんかやばい。

 最早やばくないかい、どころではない。


『しないと人間五十年で死んじゃうから』


 敦盛にしてはちょっとおかしな文。急にそんなことを思い出した。

 あの指輪と現状を関連付けて考えている自分がいる。敦盛だったら『人生五十年』、むしろ五十年生きれば大往生な筈だ。


 くそっ……なんてくだらないことを考えているんだ!?

 大体指輪が関係あるとか……罪悪感か?!罪悪感がそうさせるのか!!

 普段は可愛い嫁だが怒ると死ぬほど怖いからか!?

 もしもこんなことが起こってなくても、指輪を見つけ出せないまま家に帰ったら七回の死が待っているからなのかぁぁぁぁぁぁ!!!!


 そう思うともう何に逃げてるのかわからなくなってきた。


 無意識に縺れる脚で走っていると、ポツリ、と冷たい感触。

 突如降り出した雨は瞬く間に豪雨となり、それは激しい雷を伴った。


「うわぁぁぁっ!!」


 嫁の雷は怖いが、普通の雷も怖い。

 見るからに怪しい洞窟があったが、とりあえず入ってしまった。迂闊っちゃ迂闊ではあるが、入口付近なら大丈夫だと思ったんだもん!!


 洞窟に入ると少し生臭いような、甘いような独特の匂いがした。足元にぬるりとした感触……暗くて上はよく見えないが、外の光から照らされている上部から柿の種の様な、棘の様な形のモノが下がっているのが確認できる。


(鍾乳洞なんだろうか……)


 そう思いながら少しだけ歩を進めてみたが……


「——ふっっう……わぁぁぁぁぁぁ!!!!」


『思ったんだもん』と子供風に言い訳をぶっかますところでもおわかりいただけるように、やっぱり迂闊だった私。ツルッと滑った結果、ガーッと下に滑り落ちてしまった。

 なんか、坂になってた。それも急激な。


 ————そこで私の意識は途切れた。



 ☆★☆★☆



 ————プチン!


 趣味であるバイオリンを弾いていた時だった。……急に弦が切れたのだ。

 過る嫌な予感を肯定するように鳴り出すスマホ。電話の相手は旦那の同僚……彼との連絡がつかないという。その一言に私は立ち上がった。


 いよいよこの日が来てしまったのだ。


 ——あぁっ!右手の星が疼く……!!



「アルティメルトオーガニックサンバイザーアルティメルト!!」



 私は現代で言うところの魔法少女……『アルティメルト☆オーガニックサンバイザー』。

 謎の呪文を口にすると謎の発光とともに謎の美少女へと謎の変身を遂げるの!!

 ちなみに更に謎なことに、その際しっかりとポーズを決めるのがお定まりとなっているわ!勝手に身体が動くのよ。ウフフ……☆超怖い!!

 アルティメルトには私、『オーガニックサンバイザー』の他に『オーガニックコットン』や『オーガニックなんちゃら(忘れた)』とか全部で5人いるらしいけど、コットンにしか今のところ会ったことはないの。だって現代日本に魔法少女は二次元だけで充分だもの。

 そんなメルトの『コットン』は、現在彼氏募集中。

 SNSで、「私を後楽園に連れてって☆」「握手以上はダーリンだ・け・よ♥」等と発言してはちょいちょい彼氏を変えているが、ずっと昔から旦那一筋の私には信じられない。第一後楽園や握手は戦隊ヒーローでしょ?魔法少女じゃないわ。


「イチイチうるさいわね! アンタの方が信じられないわ、あんな呪いの指輪を旦那に渡すからこんなことになるのよ!!」

「だってぇ……『指輪を長く外す時は浮気をする時だ』と思ったんだも〜ん」


 いつの間にか参戦してくれていたコットンに頭ごなしに叱られた。オーガニックサンバイザーに変身すると身体能力が100万馬力に、口数が2.5倍になるからうっかり余計な事も喋っちゃってたわ☆テへ♪(※舌をペロリと出しながら)

 でもダーリンが浮気したらいつもの殺す(比喩)ではなくガチで殺るって決めてるの。情が邪魔して中途半端に終わったら困るでしょ?



 そう……あれは『祝福の指輪』という名の呪いの指輪。

 二人の愛が本物で、指輪を付けている限りは祝福をもたらしてくれる。『祝福』とは言っても、ちょっと運気が上がる程度のものだけれど。


 ——高校卒業間近の彼にした話は、幾つかの事実を交えた嘘。


 織田信長の『第六天魔王』という異名は伊達じゃない。織田だけに伊達じゃない。……なんちゃって☆

 信長は『魔界』と通じていた。そして魔界へと続くダンジョンを本能寺の下に作っていたのだ。

 その際出会った魔界の女海賊……通称『闇鍋の方』が私のご先祖様。彼女を気に入った信長はダイスで勝負を持ちかけて勝利し、見事裏の側室にしてのけた。裏と表を密かに繋いでいたのは、当時正室をもたなかった奥を差配していた興雲院——『お鍋の方』である。

 現世の柵に飽き飽きしていた信長は、魔界への移住を考えていた。明智はその駒に過ぎなかったのだ。手筈通りに『本能寺の変』は起こり、信長はまんまとダンジョンを使って魔界へと行ってしまった。全く酷い男である。

 そんな酷い信長だが、残されるお鍋の方だけは気掛かりだったようで、『闇鍋の方』に相談を持ちかけた。そこで出たのが件の指輪である。

 短筒は誰かの庇護下に置かれた時に取られてしまう可能性が充分に考えられたが、指輪ならば気付かれないだろう。お鍋の方には恩がある闇鍋の方が用意したのだ。

 現代人の私にはおよそ考えられないが、権力者の嫁というのはなかなか懐が広いものだ。結果的にお鍋の方はそれなりに落ち着いた人生を送る事が出来たというわけだ。


 闇鍋の方の元に指輪が戻ってきた経緯はよくわからないが、多分戻るようになっていたのだろう。なんせ、『呪いの指輪』だもの。


 あの指輪には大蛇が封印されている。


 封印、とは言っても、彼は柔らかな空間で微睡みを楽しんでいるに過ぎない。その空間を構築しているのが彼との『契約』だ。『契約』とは信仰心のようなものだと考えてくれたらいい。神が存在するために必要なそれと似通ったもの、それが『契約』。

『契約』は信仰心とは違い、誰に向けたモノでも構わない。それが、破られなければ。


 東京に行ってしまう彼に逆プロポーズをし、変な女に誑かされないように指輪をはめさせようと試みたが、なにぶん思春期である。照れだとかが邪魔をして上手くいかなかった。

 就職を決めた彼がすぐプロポーズしてくれて、ようやく再び出番と相成ったこの指輪の『契約』……それは「毎日付けなきゃダメ」。それと結婚式の誓いの言葉。

 ふたつにしたのは、喧嘩とかで食べられちゃった困るから。具体的な言葉ほど、『契約』は重くなるから、実質8対2位の割合かしら。


 この『毎日』は24時間。24時間離れると封印が解かれ、契約主を捕食する。だが眠りから覚めたばかりの蛇は、動きが緩慢である。そう簡単には捕食されない筈だ。

 ……仮に捕食されていたとしても、大蛇のお食事スタイルは丸呑みが基本である。そしてすぐには消化しない。

 ただし契約主が不貞を働いていた場合は四肢を砕いてから飲み込む。契約全不履行の罰。


 うん……大丈夫!!不貞を働いてさえいなければ。

 待っててね、今助けるから☆




 魔の気配を辿って現場に着くと、丸まった大蛇の一部がポッコリしていた。


「いやぁぁぁ! 既に捕食されてるゥ————! 予想してたけどなんか怖い!」

「うわっキモッ! キモッ!!」

「コットン! アルティメルトオーガニック三枚おろしよ!!」

「やだぁ! こんなの捌いたらアタシの包丁が穢れちゃう!! アンタの旦那でしょ?!」


 そうこうしているうちに蛇に気付かれてしまい攻撃を受けるふたり。


「フシャァァァァァッッ!!!」


 激しい威嚇音。しかし、それもコットンは気持ちが悪かったらしく『アルティメルトオーガニック昆布ポン酢』で応戦してくれた。酸っぱかったのか、激しく咳き込む大蛇。


「はっ! 喉元寄りに旦那が移動したわ! 今よ!サンバイザー!!」


 コットンの言葉通り、ポッコリしている部分は移動していた。私はすかさず大蛇の身体のポッコリより一人分位下の部分を抱え込み、ぶん回す。


「アルティメルトオーガニックジャイアントシュウィングウウゥゥ!!!」

「あ、甘噛みした」


 そういうツッコミだけは早い女、コットンの方へ、我が愛しの旦那様が蛇の口からスポーンと出てすっ飛んでいく。他の女に触られるのは嫌だけれど、受け止めてもらうよりない。


「コットン!!」

「わかってるって……うわッ!アンタの旦那、ヌルヌルするッ!!キモ!!」


 ……安心する反面、なんだか複雑な気分だわ。

 本当に嫌そうに、なるべく接する面がないように旦那様を保護するコットンを横目に見ながら私は大蛇を地に叩きつけた。

 右手の星が光る。取り出したのは私の魔道具……魔法筆。


「さぁ封印の時間よ、もう一度眠りなさい。……アルティメルトオーガニックサンバイザーアルティメルトイラストレーター!!」


 魔法筆で指輪を宙に描きながら、呪文(上記)を詠唱する。まぁ詠唱なんてもんでもないけれど、コレ一応封印の必殺技だから他のよりちょっとだけ長いので甘噛みが怖い技なの!!

 ぶっちゃけ『アルティメルトオーガニックジャイアントスイング』は力技だから噛んでも関係ないけれど!!


 激しい白があたりを包む。


 封印は成功したけれど、周辺が闇で仕切られた世界から元の世界へと戻ってしまう為、うかうかしてはいられない。このままでは『何のイベントもやってないのになんかコスプレしているヤベェ人』扱いになってしまうので急いでその場を立ち去るのだ。




「ふぅ……」

「じゃ、私帰るわ〜。謝礼金はいつもの口座に振り込んでおいてね☆」


 そう、コットンは私に雇われている『雇われ魔法少女』。現代日本に魔法少女(以下略)。

 普段は私も活動をしてはいないが、一応『闇鍋の方』の末裔である為あまりにアレな感じのアレなアレとかが出ちゃったときは仕方ないので封印してみたりしてみなかったり。

 ……いやね、私も疲れているみたいだわ。


 家に文字通り超光速で飛んで帰った私は、ヌルヌルしている愛しい人を絞ったタオルで丁寧に拭いた。寝言で「まさかスライムに転生するとは……」と言っているので、「リ○ム様素晴らしいです」と答えてあげると満更でもない顔をしている。


 彼を助けたのは、蛇のお腹がちゃんと人型にポッコリしてたから。時間を逆算しても不貞を働いている時間ではない。四肢がなかったら勿論助けていないし、おそらく助けられない。


 それに私は知っていたのだ。旦那様があの指輪を大切にしているからこそ、現場仕事の際には大切に机の中に入れておくことを。

 昨日はそのまま会社に戻らず飲みに行ったらしいので、指輪のこと失念していたのだろう。

「…………仕方のない男性(ひと)


 私はそっと、彼の指に指輪を戻してやった。


 七回殺してやろうかと思っていたけれど、なかったことにしてあげようと思う。

 なぜなら先程電話をかけてきた同僚の方に『熱射病で倒れていた』と適当な理由を付けて連絡したところ、「家を買おうと思っているからって、無理しないでくださいね」と言われてしまったのだ。このところ飲んで帰るのが多いのに腹を立てていた自分が恥ずかしくなった。

 プロポーズの時もそう。この人は私が考えているよりも、ずっと私の事を好きみたい。




 代わりにこみ上げてきた愛しさのあまりに豪華な食事を作ってあげたら、起きた彼があまりにあんまりな顔をして驚いた(むしろ恐怖していたようだった)ので……カチンときた勢いのあまり結局三回ほど殺してしまったけど、それは仕方ないわよね☆テへ♪



 おしまい。




砂臥

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