『転』(森野担当)
※使用キーワード
『まわる、ダンジョン経営』
※スペシャルキーワード
『黄色、銀色』
はは。どこまで記憶が飛んでいるのやら。
やはり、昨晩のはしご酒で深酒した影響だろうと思い、苦笑をする。
よく同僚からの話で、同じような深酒をして前後がわからなくなった状態でも、しっかりと目的の電車に乗り、我が家まで帰り着いたぞという武勇伝を度々聞く。
不思議なことに帰巣本能なのか、記憶が飛んでも家に帰れるのだろう。
もちろん、そのまま寝過ごして、どこだか知らない終着駅で終電となり、ホテルもないもんだから、その駅のホームで夜を明かたという話も同様にしばしば聞く。だからこの帰巣本能云々も、どうかと思うところはある。
それはそうとして。
今の私なら、ルーチンの仕事を無意識でもそつなくこなしてしまうものだろう。
伊達にこの仕事を続けているものではない。
それでも汎ミスとか、いつもよりも多いだろうな思うと、頭が痛い。
うーん。怖いな。
私に明日という日は、あるのだろうか。
さてと。ここでゆっくりとしていられない。指輪を探しに行かなくては。
え。あー。そうか。指輪探しのクエストか。
凄いことには、あの指輪にはドラゴンの鱗のような模様までもある。
ははは。これでは、まるでファンタジー系のRPGみたいだ。
あと、織田信長といえば、蛇石伝説なんてあったりしたな。
なんだか、今のテクノロジーでも持ちあげることが困難な蛇石とかいう大石を、安土城まで持ち込ませたとか。だけど、その石は城内のどこにも見当たらないそうなのだから、ほんとかどうかは定かではないけれど。
それとあの時代には珍しく、神仏を信じていないような人物だったらしい。
こんなところからか、まことしやかに悪魔崇拝者だったんじゃないかなんていう噂めいた話まである。
それじゃあ、城の地下で魔物を従えて?
だったら、ダンジョン経営でもやってたのかよ。
それと、あの指輪って。
いやいや、やめよう。なんだか、私まで毒されてしまったようだ。
……しかし、指輪の痕って、こんなに早く消えるものだったかな。
自らの左手を掲げて、薬指をしみじみと見つめる。
んー。ま。いっか。この指を見たって、わからないや。
さてと。そろそろ行こう。時間が惜しい。
「つっ。」
川沿いのベンチから立ち上がると、ふらりと眩暈がする。目がまわるのだ。
これは起立性低血圧のふらつきか。
いや、暑い最中の日なたのベンチに座り、思いに耽り込み過ぎたからか。
よく言われる熱中症の初期症状かもしれないな。
そういえば、いやに太陽が黄色く見える。
妻のことを思えば、昨日の記憶をつてにして18時に帰るまでにあの指輪を見つけないといけない。焦りと共に気が滅入る。
それでも動かないと、ことが始まらない。
さあ。探しに行こう。
えいやと一歩、前へと足を運ぶ。
くらっ。景色が大きくうねる。
これはどうも、そうともいってはいられない感じだ。
七回殺される前に、まじで死んでしまう。
急がば回れ。近くの日陰に入って休み、何か飲み物を飲もう。
いや。その前に。ここは人気がない。まずは連絡だよな。
スマホを左手に持ち、その画面を見る。
ってあれ。圏外? 今のここって、電波の状態が悪いのかな。
さらに、うねうねうねり、まわる景色。とても気分が悪くなってきた。
うねうね。うねうね。まるで大きな銀色の蛇のようなものが、空をうねる。
川面の光が反射して、そのように映って見えているのかもしれない。
しかし、その蛇のようなものがうねる鱗の模様と色が、まるでなくした指輪と同じ模様と色であるような気もしないではない。
今になっての二日酔いなのか、このおかしな事態に思考が追い付かないからか。
視界が、ほの暗くなる。
これって、やばくないかい。