仕事上の秘密
アンダーグラウンドの仲介屋を名乗っている人のところで、私は住み込みで働いている。
1年以上経って、知り合いも増えた。
誰も彼も、何か脛に傷を持っているような人らばかりで、か弱い子供の私の面倒を見てくれる。
一応15歳にはなっているし、住民票もこの場所に移しているから、たまに私の友達もやってくる。
この世界を変えたい、という気持ちは、今も持ち続けている。
お金をためて、仲介屋が仲介をしてくれるぐらいの金額になったときに、私はどんな選択をするのか。
カランカランと、新しくつけたカウベルの玄関ベルが鳴る。
「いらっしゃいませ」
私がさっそくそこにいた男を、相変わらず新聞を読んでいる仲介屋のカウンターへと案内する。
椅子は、手作りの背もたれがない四角い椅子だ。
「今日はどうしましたか」
仲介屋が内容を聞いている間、私はお茶を客へと差し出す。
「……知っているだろ」
「ええ、もちろん」
彼は椅子に座ることなく、仲介屋を見下ろしている。
「紹介しておこうか。彼は手野警察署の刑事さんだよ」
「あ、初めまして」
ペコとお辞儀をする。
薄暗いけどよく見える店内で、私は彼から握手を受ける。
「こいつとは古くからの知り合いだ。手野警察署の緒方正史という。ところでこいつは誰だ」
「ああ、この店のお手伝いさんだよ」
「手伝いねぇ」
アルバイトにしては若いように見えるし、ここにいるような人じゃないことぐらい、刑事さんにはわかるだろう。
「ま、事情はいろいろあるんだろうが、こいつは最低だぞ。最悪よりかはましな程度だ」
「ひどいなぁ緒方さん。いろいろと教えて差し上げましたでしょ?」
にこやかな笑顔で仲介屋が、朗らかな口調で言う。
こういう時の彼は、必ず何か秘密を握っている。
今回も例外ではないようで、それを見て刑事は言葉を途切れさせる。
「元気にしているか、ということを見に来ただけだ」
「元気にしておりますよ。おかげさまで」
どれだけ昔からこの家業をしているかは誰も知らない。
おそらくは、10年は経っている話を聞いたことがあるが、それ以上の話もゴロゴロある。
「そうそう、そういえばですね緒方さん」
刑事が来るのはこれが目的らしい。
「新しい薬物が今度届くみたいですよ、大阪港に」
「それは本当か」
「ええ、確かな筋からの話です」
「荷主は」
「それはですね……」
ちらっとこちらを見る。
「ごゆっくり~」
ここから先は大人の話。
私はさっさと応接室兼玄関から出ていく。
一歩部屋から出ると、完全防音だということが分かる。
物音ひとつ聞こえてこない。
仕事上の秘密は、完全に守る。
それが仲介屋のポリシーのようだ。
それは、私も守る。
お小遣いをもらうために。
私の夢をかなえるために。