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干渉者

「僕の職業は、既に決められているのですか」


「いいえ、あちらの神は無断に召喚されることへせめてものお詫びの意を込め、あなた方の職業をある程度自分で選べるものとしてます。」


「選べる?いくつかの種類があるということですか?」


「いいえ、あなたの職業はあなたの"これまで"の経験と"これから"あなたが掲げる想いによって選ばれます。」

「想い?」


「ええ、ある者は皆を守る力を、ある者は純粋に強さを、ある者は金と権力を、それぞれを成すことのできる職業を貰いました。」

なるほど。抽象的でも、自分が思っている(もの)を貰えるのか。しかし、と女神は続ける。


「あなた方は絶大な力を得る代わりに"制約"を要求されます。」

「制約?」


「その制約は千差万別、あなたの想いとそれを成すための決意、責任から決まります。」


「具体的には?」


「先程挙げた例では、守る力は他者とむやみに争う事を禁じられ、純粋な強さは過剰な暴力を振るうことの出来ない枷を、金と権力には他者を貶めることの出来ない戒めを、それぞれ課しました。」

いわゆるデメリットか。そりゃそうか、もし凶悪殺人犯が召喚されれば現地人を虐殺しまくる可能性もある。そういうあちらの世界での不利益はなるべく起こさせないシステムなんだ。


「それを破った場合はどうなりますか。」


「程度によりますが、最悪の場合死にます。」

……重い。それだけのペナルティを貸してまで戦争のために身勝手に召喚されるのか。


「あちらの世界では、神が全て管理しているのか」


「全てではないですが、凡そを決めております。」


「なら、なぜ戦争が起きる?職業によって管理されているなら、何故あちらの人は神という存在が自分たちを支配していることを疑問に思わない」

口調が荒くなる。それは僕自身が他者に支配されることにひどい嫌悪を覚えているからに他ならない。


「彼の方は、争うことを禁じていません。神自身を疑うことを禁じていません。彼女にとってあちらの世界の、彼女に連なるもの全ては愛する対象なのです。だから尽くします。彼らの戦争が自らの、国のための正義ならば彼女はその行いを否定しません。……その限りでない場合は咎があるようですが。」

彼女は断言する。


「だからあなた達は、別の世界から来た者達は多くが死にます。得てして大きな力を得たものは必ず賢いものとそれ以外に別れます」

その言葉か重くのしかかる。僕自身が賢いものであるという保証はない。


「い、今まで聞かなかったけどこのままこの空間にいるという選択は……」

「この空間はあなた達7人の職業が全て決まるか、決まらない場合、決まったものだけを連れてこの空間は消滅します」

……決めるしかないのか。理不尽だが、仕方ない。


1度冷静になろう、深呼吸をして緊張をほぐす。


「分かりました。職業を選びます。」


意を決してそう言うと彼女は僕の顔を両手で包み込んだ。暖かさの感じない、無機質な手だった。手が離れ、彼女は僕に

「……あなたの経験、その濃密さ、全て見させて頂きました。あなたは何を望みますか?」


「運命を変える力」

間髪入れずに応えた。


「運命を、目の前の理不尽を自分で変える力、僕はそれが欲しい。」

彼女が悩んだ様子を見せる。


「あなたが望むのは傲慢な選択です。望んだ結果を得る。それがどんなに無謀で愚かしいことか、それでもですか?」

沈黙の後


「ああ」

前の世界に希望はもうない。やり残したことはあるが、戻れないなら諦めるしかない。せいぜい呪ってやることしか出来ない。

なら次の世界があるならば、自分の思い通りに生きてもいいのではないか、自分として生きていけるのではないか、そう思った。


「……分かりました。竜宮 宗玲(そうれい)、あなたは選びました。あなたの職業は"干渉者"、自らの運命を切り開くために他者へ干渉し、利用する傲慢で繊細な人。あなたの道は常に選択です。あちらを取れば、こちらを捨てる。その果てに何を得るのか……あなた自身が決めるのです。」

彼女がそう言った瞬間、瞼が重くなり、意識を保つのが難しくなってくる。重たいまぶたで見た彼女の最後の顔は儚げな笑顔だった。


「……憫然(びんぜん)たる"これまで"から利運(りうん)ある"これから"を。あなたに祝福を。」

彼女のつぶやきは僕の耳に届かなかった。

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