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Seasons In The Abyss   作者: oga
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第 8話 三枚刃


 僕達 宮内庁外部部局雑務処理係のメンバーは現在東京の西に位置するコンビニエンスストア セブンスマートのビルの地階にあるオカルト誌 百目奇譚編集部の部屋にいた。

 ソファーに腰掛けしばらく待つと。

「 お待たせしました 」

 鳥追月夜(とりおいつくよ)三刀小夜(みとうさや)海乃(うみの)の3人が入って来た。

「 最初に言っておきますが私は編集長代行となってますけど これは単に祖父からここの出版社百目堂書房(ひゃくめどうしょぼう)を相続して長期病気療養中の編集長が不在の為 肩書き的に置かれているだけですから 実質的にヘッドはサヤさんなのでそのつもりで話してくださいね 」

「 了解しました 」

 御国が答えた。

 実は僕はこの鳥追月夜編集長代行がさっきと同じように鳥籠片手に現れ編集長( 仮 )を御国に紹介するんじゃないかとドキドキしていたのだが、どうやら考え過ぎのようだ。

「 ちなみに編集長( 仮 )のセキセイインコの殿ちゃんは現在家出中です 」

 ……。

「 ……貴方らは本来シークレットのはずの我々の事を何故かよくご存知なようなので こちらも包み隠さず話します ただ他言無用で 」

「 承知した 」

 三刀小夜が腕組みして答える。

「 今 世間を騒がせている辻斬り魔事件は日本刀を使用する犯行手口から国神と同類の得体の知れない者による犯行の可能性があるとされ我々が動員されてるんです 」

「 要は宮内庁絡みということか まあ新帝国事変であんだけわけのわからんことをやらかしたのだから疑心暗鬼になるのも当然か 」

「 被害者の身体に残される刀の刃先でつけられる共通した傷が外道の印と言うものであると 先日 国神から聞き出す事が出来ました そしてそれは宮内庁の蔵書の中にも確認出来た 三刀さん貴方たちが警察内部からこの被害者に残される共通した傷を聞き出したのは察しがつく だが どうやって我々より先に外道の印に行き着いた そして何を知っている それを聞かせてもらいたい 」

「 そんなの簡単だ 共通した事件を洗ったのだよ 事件の特徴で挙げられるのは連続殺人事件 無差別通り魔事件 凶器が日本刀 答えなんて世間が教えてくれてるじゃないか 辻斬り魔などと言うわかりやすいネーミングまでして そして被害者に残されるシンボルマーク だから過去に起こった辻斬り事件で被害者にシンボルが残されたものを徹底的に洗った 300年前に京の都で起こった連続辻斬り事件に行き着くのに左程苦労はなかったぞ 」

「 さすがオカルト誌ってとこね 着眼点っていうか思考経路が違うのね 警察じゃ300年前の事件までは調べないわ 」

 瑠衣の言う通り辻斬り魔とネーミングされたからといって、過去の しかも江戸時代以前の実際に起こった辻斬り事件と関連付けての捜査はまずやらないであろう、我々は国神のもたらした外道の印と言うワードからそこに辿り着いたのだ。

「 宮内庁図書課では一般には公表されない部類の蔵書ということだったが記録が残ってたのですか 」

「 そりゃ42人殺されて京の都を恐怖に叩き込んだ事件だ 残らない方がおかしいだろう 処刑の時は色んな意味で大フィーバーだったらしいからな ただ外道の印などと言う言葉は何処にも記されてはない 被害者に共通する特徴的な傷が残っているがこれが何を意味するものなのかまでは奉行所もわからないとなっている 知っていたのは朝廷側のごく一部の人間だけなのだろう だから機密扱いになった ただ機密になったのは外道の印と言う言葉だけだ 事件自体は機密でも何でも無い 」

「 ならどうやってそのシンボルマークが外道の印だと辿り着いたのです 」

「 以前見たことがあったのだよ こんな仕事を長年続けてると色んなことを見聞きする その大半が意味も無いまやかしめいた都市伝説の類いなのだが全てが全て無意味なものでは無い その中に必ずもととなる何らかの事実史実事件事象が含まれているのだよ 何も無い所から都市伝説は生まれない 『 彼の地に都より追われし刻印の一族あり その者 外道畜生と交われし者なり その者と言葉交わすことなかれ その者と身体重ねることなかれ 魅せられし者もまた外道畜生なりき 努努(ゆめゆめ)疑うことなかれ その者 此の世の者にあらず その者 死をもたらす者なり 彼の星堕としの地に住まう山犬の眷属なり その者に押されし刻印 外道の印といふ その者の名を兇宿夕星(くすくゆふつづ)深雪(ふかゆき)ノ一族といふ 』 これは明治時代に刊行された美濃啞地(みのうあじ)の愚説大日本草記に記されてある一節だよ 外道の印の図と一緒にな 」

 一同、黙り込んでしまった。あの夜の光景が瞼に蘇る、あれはこの世の現実とはあまりにも掛け離れていた。傷つき地に伏した者の呻きの中 尚も繰り広げられる凶行、あれはこの世の地獄。これはもはや警察や僕達の手に負える事件では無いのでは無いか。いや事件では無く事象なんじゃないのか。ある特定の条件下でのみ起こりうる最悪の事象。

「 残念ながら私らが知っているのはこれだけだ だからおたくらの図書課の歴史学者でもある鍵谷教授に問い合わせたのだ 都から追われたのなら何らかの資料が残ってるかもしれんからな しかし貴様らが来たということは成果は殆んど無しといったとこか 」

「 ああ ただ平安時代に夕星深雪と言う女性が山犬の子を孕んだとされ一族が追放されている その時に外道の印と言う烙印が為されたらしい そして300年前に京都で起きた事件 それ以外は何もわからん 今 教授が京都に調べに行っているところです 」

「 ほう 深雪とは女性の名か 山犬の子なら八犬伝に似てるな 」

「 三刀さんはこの話どう思います 」

「 山犬の子と言うのは胡散臭いな 生物学的に人は犬の子は産めんからな その深雪と言う女性は身籠ってはならぬ者の子を身籠もったのであろう 比喩として畜生に例えられてることから罪人かそれに類する者 しかも烙印を押され追放になるなど相当の禁忌を犯したのだろう 相手が誰なのか気になるな 」

「 オカルト誌でもそこは否定するんですか 」

「 瑠衣君 科学的に不可能なことは不可能なんだよ オカルト脳の我々にだってそれくらいの分別はつくさ そして言ったろう 必ずもととなる事象があると この場合 深雪の懐妊と一族の追放だろう 」

「 サヤさん 」

「 なんだツク 」

「 外道と言うワードから近親相姦の線は無いんですか 」

「 無くはないが それなら山犬と言うワードの意味がわからない 愚説大日本草記にも外道畜生と交われし者とある 」

「 じゃあ両方とか とんでもない罪を犯した近親者との子供を懐妊してしまった 」

「 どうかな悪くはないが少し弱いな それなら一族内で秘密裏に処理できるはずだ 夕星一族が朝廷内でどのような役割りを担っていた一族なのか そして同時期に朝廷でなんらかの騒動が起きていないか その辺がわかれば何か見えてくるかもしれんな 」

「 三刀さん 興味深い話ではあるが我々には謎解きをしている猶予がない いつ犯行が再開されるかわからん現状で もっとこう 即効性のある対処方があるといいんですが 」

「 無茶言うな御国 犯人についての情報は女性らしいと言う以外何も無いのだろう 今のところ被害者は16人だからインターバルで16日は余裕があるんだからそう焦るな 」

「 ちょっと待て 三刀さん インターバルってなに言ってるんだ 」

「 ヒイさん……もとい カラムーチョ インターバルって間隔のことですよ 英語でそう言うんです 」

「 あのぉ 月夜さん 変な呼び方しないでもらえます あとインターバルの意味くらい知ってます じゃなくって その16日間のインターバルってどっから出て来たんですか 」

「 なんだ 知らんのか 300年前の事件では必ず被害者の数と同じインターバルが開けられているじゃないか 最初が3人で3日のインターバル 次が10人で10日 2人で2 6 17 とな 」

「 そうなのですか それは知りませんでした 」

「 でも部局長 被害者16人じゃないじゃないですか 」

「 そうだなルイ 三刀さん実は……

「 知ってる 警官が相当やられたのだろう だが それは辻斬りの被害者じゃないだろう 」

「 そうなのか 」

「 そうだ それはただの殺し合いの犠牲者だ 警官に外道の刻印がされた者はいないのだろう 」

「 そうか 辻斬り事件の被害者はあくまでも外道の印が施された者だけカウントすればいいんだ さすが三枚刃の三刀さん キレキレですね 」

 瑠衣がしきりに感心する。最初、オカルト誌の記者と聞いてどうせ胡散臭い種類の人間なのだろうと侮っていたのだが、どうやらその考えは正さなければならぬようだ。この三刀小夜なる女性は非常に理性的に理路整然とした思考とこの手の事案に対する豊富な知識とあらゆる角度から着眼する柔軟な分析能力を同時に持っているらしい、決して敵にはしたくない相手である。僕などひとたまりもないだろう。

「 それで御国 おまえら実際に対峙したのだろう どんなヤツだったんだ そもそも50人以上いたのだろう なんで一方的にやられてんだ 」

「 本当になんでそこまで知ってるんです 最初 瑠衣を除く私らが偶然犯行現場に出喰わしました 銃を携帯してたので3人で囲めば楽勝なはずが とんだ誤算でした ヤツには狙いを定めて撃つ銃による攻撃は通用しなかった 撃つ場所がわかりさえすれば必ず躱される イチミンの撃った玉なんか刀で弾かれた 恐ろしい反射速度です そしてヌラヌラとした操り人形のような動きがまったく読めない 剣道や時代劇などで見る剣技とはまるっきり別物でした そして警官隊による包囲が更に裏目に出た 逃げるどころか懐深くに入り込み内側から切り崩しにかかった 想定外すぎてパニックに陥った警官隊になす術はなくいいように蹂躙された まさに悪夢でした 」

「 そんな相手に最初に遭遇した貴様らが何故生きている 何か隠してるな御国 まあいい 我々もこれ以上被害者が出るのは願い下げなのは同じだ 捜査への協力は惜しまんよ 何かあったら言ってこい ウチで掴んだ情報は提供する 」

「 感謝する三刀さん 」

「 国神は他にも何か知ってるのでは無いのか 」

「 一筋縄ではいかないヤツですから 下手に頼るとこちらが足元を掬われかねない 用心しながらもう一度あたってみようとは思ってます 有用な情報があれば必ず共有しますんでお願いします 」

「 了解した その代わり 捕まった時はウチがスクープを取らせてもらうぞ 」


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