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Seasons In The Abyss   作者: oga
33/34

第33話 マイナスセルシウス


 長身のその男はスリムな黒の革パンに作業用ブーツ派手なTシャツに薄手の黒のコートを羽織り捲った腕には革のビョウの付いたリストバンドをしている、髪はハリネズミのように黒々と逆立ち見るからにパンクロック系のファッションだ、首と手にはタトゥーも見受けられ鋭角に整った顔の眉の辺りと下唇にリングピアスが付いている、もちろん欠けてギザギザの耳もピアスだらけだ。

 その男は全身に凍てついた冷気を纏っており 足下から周囲に白い霜が拡がっていった。

「 貴様が鎌池か 」

 男がさめざめとした声を発する。

「 動くな 」

 鎌池と我々の間で横向きに立つ男の頭部に向け銃身を構えながら御国が叫ぶ。

「 無駄だ 暴発して手首がなくなるだけだ やめておけ 」

 男が冷淡に御国に言いながら口元をニヤリと吊り上げた。

 いつの間にか御国の銃も所々白い霜が張り付きドライアイスのような煙が垂れ始めていた。まただ、銃は役に立たない、それならば。

 御国の背後から低く踏み出して斜め上方に特殊警棒を振り上げる。カキンっと硬質な音を立て男か氷柱 いや氷の剣でこれを弾き返した。だが間髪入れずに連撃を打ち込もうとした瞬間に片足が動かないことに気付く、見ると床から伸びた霜柱で靴が固められて地面に張り付いた靴が脱げそうになる。バランスを崩しそうになった瞬間、御国の警棒が足下の霜柱を打ち砕いてくれた、そのまま力一杯体重を乗せて警棒を叩きつける。男が構えた氷の剣が砕け散った。行けるッ と思った刹那に砕けた氷がするりと伸びて再び剣を構築する。

「 舐めるなよガキが 」

 男の放った氷の刃が無意識に(さえぎ)った左手を切り裂く。

「 斑咲 退がれ 」

 御国の声に左手の傷を押さえ一歩後退する。

「 大丈夫か 」

「 問題ありません それより部局長 氷って水から出来るんですよねぇ なんか量が多くないですか 」

 打ち抜かれた天井からは太い氷柱がニョキニョキと垂れ下がり地面からは無数の霜柱が伸びている、先程までは薄暗い礼拝堂だったはずなんだが今はまるで氷で出来た鍾乳洞のような有様である。

「 水道管だ 天井をぶち抜いたのは水道管を破壊する為だ ここは今 完全にヤツのテリトリーだ 勝ち目が見えん 無駄死にするな 相手が悪すぎる 」

「 少しは物分かりがいいようだな だが無駄死にしてもらう 獲物は逃がさん主義でな 」

「 ロックの旦那 上の二匹 殺してもいいっすか 」

 上階から耳触りで下品な声がした。

「 男は好きにしろ 女は俺がヤる 傷一つつけるな 」

 この会話から曳井と瑠衣は既に敵の手の中にあるのがわかる、しかももう一人上階にいる。どうすればいい、この男は氷を自在に操る超能力者だ、いや、水を操り凍らせるのか。これまでの超能力者とは明らかに違う所はこいつは近接戦闘型の超能力者ということだ。

「 やはりあのガーディアンズのメスを泳がせて逃がしてやったのは正解だったな まさかあのマイナスセルシウスがお出ましとは 実に素晴らしい能力だよ 」

「 あぁぁぁぁ 随分と余裕だな 鎌池 殺されるってのによ 」

「 殺されんよ 私にはまだまだ利用価値があるからな 貴様らの上もそうそう馬鹿じゃあるまい 」

「 気に入らねぇなぁ 俺は俺の好きなようにやる まあ確かに貴様は確保するように言われてるが どうするかは今俺が決める 死にたくなければ口の利き方には注意しろ 」

 更に室内の冷気が強まっていきピキピキと足下に霜が拡がっていき放射線状に紋様を描いていく、なんという圧倒的な能力なんだ。御国の言うようにこの場は完全にヤツのテリトリーである。

「 斑咲 魔境で聞いた話を覚えてるか 」

「 はい部局長 マイナスセルシウス 氷剣の六華 触れた物を凍らせる能力者 触れられれば自身の血の剣を抜き取られるとか 」

「 ああ だが触れられなければいいだけだ 対処法はある ただ ここは場所が悪すぎる 武器も警棒だけではどうにもならん 鎌池は諦めて撤退するぞ 速やかにルイとイチミンを救出後に脱出だ 」

「 了解です 」

「 させるかよ 」

 御国の合図で後方の扉に向き直った瞬間に男が手にした氷剣を振り下ろす、突然身体に無数の衝撃が走り自由を奪われ御国と共に崩れ落ちた。見ると足には5㎝ほどの氷柱がいくつも突き立てられていた。

「 どうだ氷の弾丸は 威力は無いが動きを止めるには充分だ 早く抜かねぇと足が凍りついちまうぜ カブ 女を連れて来い 女にコイツらをかき氷にするところを見せてやる 」

 ………………

「 何してる 聞こえてんのかカブ 」

 ガシャン。突然天井の穴から男が降ってきた。

「 御国部局長 抜けがけはズルいですよ 仲間に入れてくださいよ 」

 降ってきた男に続いてラフな出で立ちの青年がふわりと舞い降りた。

「 鎌池先生 迎えに来ましたよ 」

「 五月雨君か 」

 天井から垂れ下がった氷柱からポタポタと水滴が落ち始めた。

「 ガーディアンズ 彼が例のキャンセラーの青年だよ どうするつもりだ 面白くなってきたな 」

「 黙ってろと言ったはずだ 鎌池 ノコノコと出て来てくれて好都合だ 探す手間が省けた 」

「 そりゃこっちの台詞だ 六華 」

 ドン。と開け放たれた礼拝堂の扉から真桑が入って来た、背後には曳井と瑠衣も居るようだ。

「 こりゃ驚いた あんた真桑隊長さんじゃねぇかよ また部下をみな殺しにされに来たのか 怖くなってデスクに隠れてたんじゃなかったのか 今更何しに来た 」

「 仕事だ じゃなきゃ貴様の胸糞悪い顔なんか見たかねぇよバァカ 」

「 つれないこと言うなよ 泣き叫ぶ楓林夏織の最期を一緒に看取った仲じゃないか あの女は最高だったよな 強く握りしめたら身体がポロポロ壊れていってよ あんなに儚く壊れていく女は

「 黙れ 昔語りなら牢屋ん中で一人で死ぬまでやってろよ 」

「 隊長 もうやっちゃってもいいですか 」

「 五月雨 用心しろよ 今までの超能力者とはわけが違うぞ 」

「 わかってます 」


 真桑たちがやり取りしてる間に曳井と瑠衣がかけ寄り手当てしてくれる。

「 大丈夫ですか 」

「 ああ 氷柱が刺さってたが五月雨が現れてすぐ溶けたみたいだ 傷は大したことない 筋肉が凍結してたんだろう 」

「 トワ君 手もやられてるじゃない 」

「 僕は大丈夫だよ それよりルイたちは大丈夫なの 」

「 平気よ 氷で縛られてただけだから 」

「 イチミン もう一人は何だ 」

「 ヤツの手下だと思います 能力者かどうかもわかりません 普通に五月雨にぶっ飛ばされたっす 」

「 部局長 シズクさんの能力でヤツの冷気が解けました 今なら銃も使えます 」

「 待て斑咲 ヤツの低温がどの程度かわからん もしかしたら金属に亀裂等が発生しているかもしれんし銃弾が不良になっているかもしれん この状況での使用にはリスクが高過ぎだ それにヤツは依然氷の剣を手にしている 恐らく五月雨の能力は相手の超能力を完全にゼロにするものではないんだろう ヤツの剣のように身体に直接物質として触れているものまではキャンセル出来ない 今我々が動くのは危険だ 」


「 どうも血の気が多くていかんな 私としては五月雨君とマイナスセルシウスの対決への興味はつきんのだがどうも人数が多すぎる それにここがこれ以上荒らされるのは不本意だ ここはあの子たちの神聖な墓標なのだよ 少し慎んでもらえないかね どうだろう ここは一旦お開きにしないか 」

「 何言ってんだ 黙ってろって言ったよなぁ 死にたいのか鎌池 ならまずおまえからだ 」

「 六華君だったな 私が何の策も講じずにここに隠れていたとでも思っているのかね これでも専門家なのだよ もうじきホーネットの特殊部隊がここになだれ込んでくるだろう 軍隊を相手にするつもりか 」

「 どういうことだ 」

「 この場所を冒涜すれば岬七星が黙っちゃいないってことだ 今なら君に従ってやろう どうする時間がないぞ 」

「 ちッ 」

「 というわけだ 五月雨君 それから外Qだったかな 無駄足を踏ませて悪かった 私は予定通りガーディアンズに投降するよ 引き退ってくれたまえ さもなくば建物ごと吹き飛ばす もちろん 私だけ助かる算段はしてある 」

「 おいおい 何いきなり仕切ってんだこいつ 」

「 隊長 鎌池先生は本気だと思います 決して博打をするような人間じゃないです それにこのガーディアンズとやり合うには場所が悪過ぎです ここは湿気が多過ぎる 」

「 ……まあいい 六華 今日は見逃してやるサッサと行け 1週間後に例の場所に来い 」

「 ちッ どいつもこいつもナメやがって いいだろう そこのガキも連れて来い 終わらせてやる オイ カブ いつまで寝てる 」

 六華が横たわりピクリとも動かない男の腹にドスンと重たい蹴りを入れる。呻き声を漏らし男が腹を押さえヨロヨロと立ち上がった。

 六華と鎌池とふらつく男は当たり前のように僕らの脇を通過して扉から出ていった。

 全員で魂が抜けたように脱力しているとドカドカとフル装備の特殊部隊が入って来た。

「 貴様等 ここで何をしている 」

 凛とした女性の声が聞こえた。

「 あ あ アオ隊長 」

 瑠衣が先頭の小柄なアサルトスーツの女性に飛び付いた。

「 おまえルイか 確か政府機関に出向していたな 何をしている 」

「 作戦にちょっと失敗しちゃったみたいで 」

「 まあいい 全員連行しろ 話はホーネットで聞かせてもらおう 」


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