第30話 鳥殺し
またややこしい状況を自ら招いてしまったことにひどく後悔する。僕は何をやっているんだろう、六礼参事官の指示で僕の前に現れたガーディアンズの2人をデリートするだけの単純なミッションだったはずである、もちろんそれが最高難易度であることくらい承知の上だ、しかしやるべきことはわかっていた、なのに……
あの2人がそのまま六礼に報告すればthe endだ、本当に帰してよかったのか、やはりどちらかが死ぬまで殺し合うべきではなかったのだろうか、そうすれば僕は余計な物を抱え込まずに済んだはずだ。どうしてこうも余計な物ばかりを収集してしまうのか、自身が嫌になる。
男はヨツビシシメイ 女はシビシシミチと名乗った、苗字は読みが違うだけで同じ漢字なんだろう、女は男を終始兄様と呼んでかいたことから兄妹であることもほぼ確定した、その2人がこちら側につくと言うのだ、六礼の命令通り僕に従うと、僕が六礼に反していると知っていながら。あの2人も仕方なく六礼の側にいるようなニュアンスを使っていたし分からないではないが やはり危険すぎる、2人はガーディアンズなのだから、例え本当に一旦は僕に協力したとしても何時裏切られるか知れたものじゃない、次に接触する時が分かれ道となるだろう。今日死なずに済んだだけ良しと思うしかなさそうだ。
回り道をして細心の注意を払い西東京に向かう、さっきのヤツらが油断させておいて実は尾行している可能性だって十二分にあるのだ。
廃工場に着くとクリステンが1人ノートパソコンを操作していた。
「 あら斑咲君 隊長たちは当分戻らないと思うわよ 」
「 そうですか 」
「 あっ そうだ 鳥図切君がセブンスマートに寄って欲しいって言ってたわよ 」
「 砂叉丸がですか また バイトを手伝わせるつもりかなあ 」
「 あなた そんなことまでやってるの もの好きねえ 」
「 いやいや あそこの人たちには僕なんか逆らえませんよ この前は間宮総理がバイトやらされてましたよ 」
「 それ本当なの ウチは外Qと違ってあそこの事は深く知っちゃいけない事になってるから実際よく分からないのよねえ 鳥追月夜さんが我々人類において最重要危険人物だなんて胡散臭い話があるくせに普通に売れないコンビニの店長やってるし わけわからないわよ 」
「 僕も配属されてからわけわかんない事だらけですよ 」
「 お互い 一般人歴の方が長い人間として同情するわ 」
「 それじゃあ ちょっと行ってきます 」
「 トワ 遅い 3階に行きなさい 」
セブンスマートに着くと 客の居ない店内で商品の陳列を1人でやっていたまひるに何故か怒られて渋々3階への階段を上がる。例の黒い鳥居を構えた黒い社のある異質な場所の鉄の扉をギィと押し開く。
そこには黄色いエプロン姿の鳥追月夜と白の道着の砂叉丸がいた。鳥追月夜のエプロンの下から見える柔らかそうなセーターとショートパンツから伸びる白い生足が妙に艶めかしい。
「 斑咲トワさん こちらに 」
彼女にそう言われ1mほどの距離に向かい合う。
彼女のしなやかな左手がすっと目の前に伸びた、と、その刹那、彼女の手に黒く白銀の刃を持つ糸切り鋏が握られた。目の前で間一髪にこれを躱す。
なぜだ、彼女の手には何もなかったはずだ。横に躱すと同時に踏み込んだ彼女の肘が顔面にヒットする。
「 ちゃんとしてください セーターを血で汚したくありません 」
クルリと僕の前で反転して背を向けた彼女にいつの間にか手を取られ一本背負いの形になる、そのまま背負われると思いぐっと腰を落とし堪えた瞬間彼女の裏肘が心臓の真上あたりにめり込んだ。息が出来ずに思わず膝をつく。
「 立ちなさい 斑咲トワ スナ丸君 武器を渡してあげて 」
「 かしこまりました ツク様 」
砂叉丸が鞘から抜かれた1mほどの小太刀を立ち上がった僕に手渡す。前に向き直ると彼女の両の手には出刃庖丁のような凶悪な刃物が逆手に構えられていた。
それから3時間ほど鳥追月夜に徹底的に痛めつけられた。彼女は様々な形状の刃物を瞬時にその手から繰り出してきたのだがその仕掛けがサッパリ分からない、ただガーディアンズが使う超能力とは根本的に違う何か薄気味の悪さを感じずにはいられない、体術でも剣術でもまったく手も足も出なかった。
「 少しは力が抜けてまともな動きが出来るようになりましたね 」
「 ツク様 力が抜けたんじゃなくって消耗して力が無くなっただけだと思うんすけど 」
「 それが重要なんでしょスナ丸君 トワさん 今の感覚を忘れたらダメですよ 」
「 あっ ハイ 」
「 それよりトワ おまえの動き あれ何だよ 」
「 辻斬り魔の動きだよ 見よう見まねなんだけど 」
「 付け焼き刃じゃ武術経験者にはなかなか通用しませんよ それでも今の力が抜けたしなやかな動きを身につけて精度を上げれば有効な武器にはなるでしょう 時間を見つけスナ丸君かまひるちゃんに手合わせしてもらうといいわ その辻斬り魔さんとやらは常にスタミナを消費し尽くした0の状態のはずよ だからこそしなやかに動ける まずスタミナをいかに早く燃焼させるかを心掛けるといいと思うわ 」
「 店長代行はどうして僕に 」
「 はてさて どうしてかな 答えが必要 」
「 いえ 」
澄んだ瞳で悪戯っぽく覗き込まれ思わず顔が熱くなる。
「 あっ 私 発注しなくっちゃ 2人で掃除しといてね 」
そう言い残し鳥追月夜は急ぎ下階へと下りて行く。
それから砂叉丸と3階のスペースを掃除する。
「 これって神社なの 」
社を雑巾がけしながら砂叉丸に話しかける。
「 ああ 雨倭頭巳神社だ 蛇神様が祀られてるんだ 」
「 えっ 鳥の神様じゃないんだ 」
「 鳥殺し様の祠は中国地方の山中にあるんだ まあ俺の故郷なんだけどな それに鳥を殺すんだから鳥の神様じゃないぞ この社は農村で信仰されてた地主神様の社だよ 小さな可愛らしい神様が住まわれているらしい 」
「 住んでんの 」
「 ああ 俺も一瞬だけ女の子が社の角に隠れるのを見たことがあるぜ 」
「 そうなんだ ちょっと前なら信じれない話でも最近普通に思える自分がなんか怖いよ 砂叉丸はもちろん信じてるんだよねぇ 」
「 そりゃ鳥殺し様の神守りだかんな でも正直 ツク様以外のことはトワと大して変わんないと思うぜ そうホイホイとオカルト的なこと鵜呑みに出来るわけないじゃんか これでも普通に高校までは行ってたんだぜ 」
「 やっぱそうだよね なんか少し安心したよ 」
「 何だそれ 意味わかんねぇ 」
砂叉丸と話していると日頃張り詰めた糸が緩まるのを感じる。彼には隠す必要が無いし喋る必要も無いし彼は何も詮索しようともしない、おそらく僕が問題を抱えていることは気づいているとは思う、だが、それを気にすらしてない様子だ。彼は僕の数少ない対等に会話することの出来る人間なのだ。
掃除を終えてセブンスマートに降りると店内のレジカウンターでは鳥追月夜と羽折まひるが女の子らしい表情でキャッキャとお喋りに夢中になっていた、2人の普通の女の子の一面を見てしまい 何だかこちらがドギマギしてしまう。
「 何よトワ 変な顔して さっさと廃棄商品持って帰りなさい 」
「 いや 廃棄商品はいらないから 」
「 ダメですよトワさん ちゃんと食べないと元気出ませんよ 」
「 いやいや 期限切れの商品ばっか食べてたら逆にお腹に悪そうじゃないですか 」
「 大丈夫 今のお弁当は色んな薬品使ってるから期限切れでも2〜3日は腐りませんよ 」
「 若なんか冷蔵庫に入れてた5日前のお弁当食べさせてもなんともなかったのよ 」
「 ちょっと待て まひる 5日前の弁当って何だよ 」
「 だって美味しそうに食べてたじゃない 」
「 …… 」
「 今度 何日まで大丈夫かスナ丸君とトワさんで試してガッテンしてみましょうか 私は冷蔵庫なら2週間くらいいけそうな気がするわ 」
「 いやいや ツク様 2週間は無理っすよ そんなこと俺らで試さないでくださいよ そもそも腐らないように薬品使ってるって本当なんすか トリオイ製薬の関係者が言ったらシャレにならないっすよ 」
「 魔法の粉よ 死体にかければ1週間くらいは余裕で大丈夫なはずよ 死亡推定時刻も誤魔化せられるわ 」
「 そんなもん誤魔化してどうするんです 」
「 アリバイ工作 」
「 殺してんのかよ ってもういいです とにかく期限切れは翌日までにしてください 」
「 いやいや砂叉丸 当日までにしとこうよ 」
結局、この日貰った期限切れの商品で3日間を過ごすことになる。こんなでいいんだろうかと思いながらもセブンスマート組に関わると まあいいかと思えてしまうのが不思議だ。




