第 2話 宮内庁外部部局雑務処理係
僕、斑咲トワは陸軍特殊任務部隊員養成所を経て宮内庁職員に登用される、宮内庁外部部局雑務処理係 それが僕の配属先である。しかし、この部署は表向きには存在していない事となっているらしく正規の公務員では無い。部局長の御国鷹虎から聞かされた話ではかなりヤバい内容も処理する部署のようである。ただ、そうは言っても国の機関である以上 犯罪組織とは違うはずだ、御国の話をどこまで真に受ければよいのか判断に戸惑う、とりあえず頭でガツンと釘を刺しておく意味合いが強いようにも思える。どの道、もう退路は無い、成るようにしか成らない、本来 それは僕が一番望んでいた事ではないのか、自分自身を持たないこの僕が……
「 あれ 逃げ出さなかったの つまんない 」
「 もう顔合わせは終わってるだろうが今日からウチで働いてもらう斑咲トワ君だ 」
「 改めてよろしくお願いします 斑咲です 」
「 これがウチの局員の曳井一見と川上瑠衣だ これが現在のウチの総員だ 」
「 総員って 部局長 3人が4人になってなんか変わるんですか 」
「 なんだイチミン 不満か 死ぬ確率が3分の1から4分の1に下がるだろう 」
「 足手まといなら上がっちまいますよ 」
「 そうならんようにちゃんと教育しろ 」
「 ちょいたんま なんで俺が教育するみたいになってるんです 」
「 だってイチミンしかいないじゃない 」
「 ルイ ふざけるなよ おまえが一番後輩だろ おまえがやれよ 」
「 出た パワハラだ 部局長 これは職場内におけるパワハラ行為です 公務員のパワハラ行為ですよ 絶対アウトのやつですよこれ 訴えます 訴えてやる マスコミにもリークしてやる 」
「 まあ待て 3人しかいないんだ 手分けして教えていけばいいだろう 」
「 いやですよ 俺ら今 例の辻斬り魔事件で忙しいんですよ 一番暇な部局長が1人でやって下さいよ 」
「 そうだそうだ ちゃんと使い物になったら私の下僕に雇用してあげるから それまで部局長 頑張れ 」
「 ダメだ 俺がおまえらの後処理でどれだけ苦労してると思ってる とにかく新人指導は分担だ イチミンは実務 ルイはデスク 雑務は俺がやる いいな これは命令だ 」
「 うわっ パワハラだ 」
さっきまでの御国との個室面談とは打って変わってのやりとりにいささか拍子抜けな展開で更に混乱してしまう、ここはいったいどういう職場なのだろうか。
「 で 部局長 これからどうするんですか 午後は開けとけって指示でしたが 」
「 お得意さんだ 」
「 げっ 私もですか 」
「 こればかりは仕方ないだろ 」
「 私 あいつら苦手なんですよねえ 」
「 ルイ 得意なヤツなんていないだろ しかし俺らの1番の仕事だからな 」
「 そんなのわかってるわよイチミン 部局長 やっぱ正装ですよねえ 」
「 当たり前だ 昼メシ食ったら準備しろ 」
「 はあぁぁい 」
それからデスクを割り当てられ整理をしてから川上瑠衣に伴われ昼食をコンビニに買いに行く。
「 使いっ走り もとい 飲食料及びお菓子雑誌タバコ等の調達はトワ君のこれからの重要な仕事よ 近隣のコンビニは把握しといてね あと私の好みもちゃんと把握すること 他のヤツらは味覚なんて高機能は持ち合わせてないからネコ缶と水道水でも構わないわよ 」
「 あのぅ 川上さんはもう長いんですか 」
「 川上さんって ルイでいいわよ 私トワ君より一つ下よ 私は1年ちょいかな 部局長とイチミンは事変後の発足時からよ 」
「 じゃあ……ルイさんは僕みたいにどこかから配属されたんですか 」
「 なんかぎこちないわねえ あなた女性苦手でしょ それとも人間が苦手 いい線いってるのに勿体無いなぁ 私は外からの派遣よ ホーネット医薬研の特務課所属 人手が欲しいって政府からの要請で人柱よ なんか人生損してるなぁ 」
ホーネット医薬研 その名は知っている、新帝国事変の際の民間反乱組織 あらがいの団ホーネットの母体となった企業である。
「 私ね 3年前の事変の時にホーネットに参加したの もちろん当時武器なんて扱えない一般人だったから後方支援組よ その時に運命の出会いがあったの 西部地区総隊長青狛蒼 カッコよかったなぁ で 私もあんな女性になりたいッて思ってそのままホーネットに残ったの なのに何よこれ なんで新宿の穴ぐらで陰気な犬供の世話焼かなきゃなんないのよ トワ君 頑張ってね 私が愛しのアオ隊長のもとにいつ帰れるかはあなたにかかっているのよ 」
青狛蒼 ホーネット西部地区総隊長 瀬戸内編成艦隊をわずか10分の1にも満たない戦力て沈めた英雄である。その戦いで父と兄は死んだ。
「 トワ君の家族はあの戦いで戦死したんでしょ 資料は見たわ 私の家族はこの新宿で死んだ 恨みっこ無しよ 」
「 ……はい 誰も恨んでなんかないです 恨んでるとしたら当時何もしなかった自分自身です 」
「 うわっ やめてよ 怖いわよ なんで政府のヤツらはみんなインキンタムシなのよ 変な病気うつさないでよね 」
事務所で買ってきた昼食を取る。あまり食欲はわかなかったのでサンドイッチ1つにした。3年前から何を食べても味を感じた事が無い、匂いや甘さ 辛さは知覚できるので実際には感じているのだろうから機能的にでは無く精神的なものだと思う。ネコ缶と水道水で充分なのはきっと僕の方だ。
その後、御国から高級そうな黒のスーツ一式と革靴を渡される。
「 これに着替えろ 日常勤務は普段着で構わない 地味で動きやすいものにしろ これと言って決まりは特に無い スーツのサイズは合わせてあるが問題があれば言ってくれ 普段はAのロッカーにある 着用後はBに入れろ クリーニングに出すからな 武器の携帯が必要な時は必ず指示を出す それ以外はそのスーツの時は刃物類などもNGだ 鉛筆削りやカッターの替え刃 セラミックナイフ カギ 縫い針等もだ 武器として代用出来る物には細心の注意を払え 手帳とボールペンは支給品以外は使うな まあ支給品の手帳とボールペンとハンカチとティッシュ以外持たないのがベストだな 」
「 財布は持たなくてもいいのですか 」
「 車にカードがあるからな 今から行くとこには必要無い そのへんは慣れればすぐにわかるようになるだろう それまでは指示が無い限り何も持つな 」
「 わかりました 」
それからスーツに着替え事務所を後にした。
近くの駐車場から曳井が黒のボックスワゴンを回しそれに乗り込む、全員ビシッとしたスーツ姿である。運転している曳井も指輪とピアスは外しているようだ。
向かった先は渋谷特区であった。
「 斑咲 渋谷特区につて説明してみろ 」
隣りのシートから御国が言った。
「 はい 今から20年ほど前に焼失したこの国のかつての象徴的な都市です 焼失の原因は戦後整備された地下下水施設が老朽化により汚染水が漏洩 長年にわたり地下を侵食し続け可燃性の有毒ガスが大量に発生 これが侵食され出来た地下空洞に蓄積され限界値を超え一気に地表面に噴出 緊急非難勧告発令 ガス除去作業が行われるも落雷により大火炎を引き起こし都市焼失となる 死傷者数約2600名 その後汚染物質の除染作業が難航 高さ114mの壁で囲み旧渋谷区特別立ち入り禁止指定区域とされる 」
「 まあそんなとこか だがな それは嘘っぱちだ 」
「 やはりそうなのですか 」
「 まあ この件に関してはさまざまな憶測がなされ都市伝説化しているがそれすら政府の情報操作だ 疑わせることにより真相を更に見え難くする 後で機密資料をルイから貰って確認しろ それでだ 特区の管轄は復興庁の旧渋谷区特別対策局に置かれてあるが壁の内側は宮内庁の管轄だ そしてそこを管理し監視し観測するのが我々の重要な職務の一つだ もちろん日常的な管理は内部部局の対策室が行なっている 我々は外部からの観測だ 」
「 何を観測するのです 」
「 行けばわかるさ 」