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Seasons In The Abyss   作者: oga
19/34

第19話 収束点


 東京都内を恐怖に陥れた連続無差別殺人事件は犯人射殺という形で結末を迎えた。

 あれから既に1週間が経過していた、辻斬り魔と野犬の死体は秘密裏に平成ノ宮へと運ばれその後は僕は知らない、御国は何か知ってはいるはずだが我々に特に話すことは無いようだ。

 この日、珍しい客が外部部局のアジトである新宿の事務所を訪れていた。

「 ゲンさん いいんですか どうせまた単独行動なんでしょ ウチなんかに来てたらクリスさんにまた怒られますよ 」

「 かまわんかまわん どうせもうじき定年だ 固いこと無しだ御国さん 」

 公安警察特殊事例対策班、通称ハム特のゲンさんこと矢白弦白である。

「 事後処理もひと段落ついたんでな 一応報告にと思ってな 斑咲君と川上君は親しくしてくれてたみたいだしな 」

「 五月雨君のことですか 」

「 ああ あの時 五月雨が何かやらかすことはわかってた 三刀小夜ちゃんに内密に連絡が取りたいと言って来たからな あの電子ガンも小夜ちゃんのルートから入手したんだろう 」

「 電子ガン 」

「 そうだ 脳の機能の一部を停止させるパルスを撃ち込むらしい 対エスパー用に開発されている試作型だそうだ まだ至近距離からしか効果は無いらしいがな しかも一歩間違えば一生昏睡状態だそうだ 」

「 それでシズクさんは 」

 御国と矢白の会話に堪らず口を挟んでしまった。

「 大丈夫だよ斑咲君 次の日には目を覚ましたよ だが知っての通り五月雨は職務違反を犯した 犯人逃亡幇助だ 警察官としては流石にこれはまずい 」

「 部局長 ウチに引っこ抜けないんす 組織としては宮内庁のが一応上でしょ 」

「 無茶言うなルイ 公安と揉めるとウチでもまずいに決まってるだろう 」

「 公安は五月雨を手放しませんよ 決してね 彼は対エスパーの最終兵器だ ここならガーディアンズなる組織を知ってるでしょ 未知のエスパー集団だ 事変後動きが活発でね その点では五月雨の事は心配いりません だから真桑も好きにやらせた あの男 あれで意外に部下思いなんですよ その辺は誤解しないでやってください 問題なのは公安の黒い部分です 戦後から色々と裏の裏がある組織ですからね そいつらが以前から五月雨に目を付けている 五月雨がウチを離れ投獄されているこの機会に動いて来る可能性が高い 」

「 どう動くのです 」

「 マインドコントロール 洗脳です 私も長年刑事やっとるとこの手の話は嫌と言う程耳にしてきた 公安の裏の歴史に洗脳在りきと言っても過言じゃない 所謂スペシャリストです どんなに意志が強くても逃げ場は無い 真桑は逆にこの期にそいつらを炙り出すつもりです もしかしたらどこからか特命を受けているのかもしれない だが失敗する 刑事の勘っていうヤツですよ 」

「 どうして私らにそんな内輪の話を 」

「 いやね 刑事の勘っていうヤツですよ 話しといた方がいいかもってね 」


「 食えないじいさんだよ 何が刑事の勘だよ 」

「 で どうするんです 部局長 」

「 何だイチミン 古巣が気になるか 他所の内輪揉めに首突っ込む程暇じゃないぞ 」

「 でもシズク君 洗脳されちゃうんですよ 」

「 ルイまで いい加減にしろ 」

「 でも でも いいんですか ウチの龍の巫女様はエスパーなんですよ もしかしたら洗脳されたシズク君に封じられちゃうかもですよ 」

「 なっ バカ言うな この国最大級の祟り神様だぞ あんな青二才に封じられてたまるか 宮内庁を舐めるなよ…… しかしここで真桑に恩を売ってハム特を手懐けとくのも一計かも知れんな ルイの言う通り万が一もあるやも知れんしな 」

「 おっ やる気になった 」

「 いやいやいや やっぱナシナシ 何言ってんだルイ バレたら一発アウトのヤツじゃないか それに内輪揉めは他人事じゃ無いぞ ウチだって充分キナ臭いんだからな 」

「 だぁかぁらぁ 相互協力ってヤツですよ 袖すり合うも何ちゃらかんちゃらって言うじゃないっすか 」

「 ルイどうした おまえなんかえらく積極的だな もしや五月雨に惚れたのか 」

「 うわっ セクハラだ 訴えるぞイチミン そう言うイチミンはどうなのさ 」

「 俺は首は突っ込みたかないが無視すんのも気がひけるっつうか 後味悪いよな 斑咲 なんか喋れ 」

「 僕は……シズクさんにはパートナーとして散々助けてもらったし厄病女神にも助けてもらったし 公安の上のやり方にはちょっと でも違う組織だし真桑さんにも口出しするなって言われたから 正直解らないです 」

「 ある意味斑咲のが正論だな まあ探りは入れて見るよ ただ目立つ行動には注意しろ どこから火の手が回るかわからんのが現状だ 公安の闇は深いぞ 宮内庁の闇も深いがな 歴史がある組織ってやつはイヤになるな やはり1回徹底的に解体するべきなんだよ 」


 その日の夕刻、曳井と共に西東京のセブンスマートに向かった。

「 いらっしゃ……なんだよ トワとカラムーチョかよ 」

「 あんだとスナ丸 」

 レジには鳥頭切砂叉丸が1人立っていた。

「 これ返しに来たよ 砂叉丸 」

 布に包んだ長い棒状のモノを渡す。

「 おう 鳥殺しの槍か 役に立ったろう 」

「 うん ありがとう 」

「 おい 助けてもらっといて何だが無届けでそんな物騒なモン本来なら銃刀法違反だぞ そもそもなんでおまえがあそこに来たんだ スナ丸 」

「 あぁ ツク様が様子を見て来いって言うから行ってやったんだろ 本当は俺も参戦したかったけどハムのヤツらがいたからな さすがにアイツらの前で槍振り回す訳にはいかねぇだろ 」

「 俺らの前でもダメだろ 」

「 外Qは表向き単なる個人探偵事務所で逮捕権限なんてないじゃんか だいたい銃刀法違反は貴様らもだろ 」

「 屁理屈捏ねるなよ 」

「 それよりシズクが逮捕されたって本当か 」

「 砂叉丸はシズクさん知ってんの 」

「 ああ 何度かここにゲンさんと来たことあるからな 」

「 五月雨は犯人逃亡幇助で投獄されてる だが表向きには出来んから罪にはならんだろう それで三刀さんに話を聞きたいんだが 」

「 班長なら編集部にいるはずだよ 」

「 そうか じゃあ行ってみる 」

「 帰りにちゃんと弁当買いに来いよ 」

「 わかった じゃあ後で 砂叉丸 」

「 おう 」

 店を出てビルの裏手の地下にある百目奇譚編集部に降りて行く。


「 何だ 貴様らか 人をこき使っといて遅いぞ 」

 編集部では三刀小夜と海乃大洋がデスクに向かっていた。

「 すんません 事後処理でバタバタしてたもんで 」

 それから曳井が事件解決の報告を行った。民間人に話していいものかとも思うが内々に捜査協力をしてもらったのだから当然にも思える。

「 やはり本当に死んだのか もしかしたら確保しておいて死亡と発表したのかと勘繰ってたんだが考え過ぎだったか 」

「 あんなの生きたまま確保なんて絶対ムリっすよ 」

「 それで死体はどうなった 」

「 平成ノ宮に運ばれました それから先は我々も知りません 」

「 怪しいっスね 」

「 だな 」

 海乃の言葉に三刀が頷く。

「 何が怪しいんです 」

「 平成ノ宮は以前国神を蘇生したんだぞ 」

「 考え過ぎでしょ 国神は一応国の神だが深雪は単なる殺人犯ですよ 利用価値なんて無いっしょ 」

「 ならいいんだがな 貴様ら宮内庁はどうも信用出来ん あと 今更だが分かった事があるぞ 」

「 何です 」

「 外道の印の山犬だ 300年前の京都でも野犬騒動が起きていた それが辻斬りの犠牲者の数に比例してるみたいなんだ 」

「 どういうことです 」

「 これはあくまで推測だが犠牲者に外道の印を残すのはやはり儀式的な意味合いが強いように思える そして犯行のインターバルの間に外道の印の山犬が犠牲者の数だけ召喚される つまり辻斬りは山犬を増やす為の儀式だ 」

「 何の為に山犬を増やすんです 」

「 山犬を兵士とするなら戦争する為じゃないのか 」

「 誰と 」

「 朝廷しかないだろ 」

「 何の為に 」

「 子供を取り返す為に 」

「 いやいや 三刀さん 子供はその場で殺されてます 」

「 殺された子供の屍はどうなった 」

「 そりゃあ……分かんないですよ 」

「 とにかくなんか引っかかるんだよ 300年前と現在に都に現れた意味が分からん 何か共通することがあるはずなんだが 」

「 それも考え過ぎでしょ 」

「 ならいいんだがな ところで何の用だ 報告だけじゃないんだろう 」

「 五月雨の件で 」

「 ハムの若造か 逮捕されたらしいな ゲンさんから聞いている ヤツに頼まれて電子ガンを調達したのは私だ まさか自分に使うとはな 私はヤツ自身がサイキッカーだとは知らなかったぞ てっきり辻斬り魔の動きを止める為に使うものと思ってた 」

「 辻斬り魔にも効くんですか 」

「 知らんさ だが 脳の機能の一部を停止させるんだから脳で動いてるんなら効果はあるんじゃないか 射程は15㎝くらいしか無いがな 」

「 15㎝じゃ無理だな 辻斬り魔の射程は5mですよ 近づけるわけ無い それであんなモンどこから入手したんすか 」

「 何だ知らんのか あれはハムがホーネットに依頼して研究させてるモノだぞ その試作器を拝借しただけだ しかもハムの若造の依頼でな 」

「 マジかよ 公安は裏で何をやってんだよ 」

「 サイキッカー対策を強化したいのだろう 噂ではガーディアンズと政府の要人が繋がっていて新設のサイキッカー部隊の設立を画策しているらしい そして行く行くはガーディアンズが公安に取って代わる計画だ ガーディアンズは元々戦後この国の裏の公安警察のような役割を果たしていたからな 事変後の不安定なこの機に表舞台へと打って出るつもりなのかもな 当然公安としては容認出来る話ではない そこでサイキッカー狩りなんだよ 」

「 単なる権力争いじゃねぇかよ でも これで話が全て繋がるな 三刀さんは何でそんな話まで知ってんだよ 」

「 サイキッカーの知人が何人かいるんでな この手の情報ならまかせろ もちろんガセも多いがな 」

 ほんの少し前の宮内庁外部部局に配属される前ならとてもではないがこんなオカルトで都市伝説的な話を間に受けることは無かっただろう、きっと笑って聞き流したと思う。しかし、今では真剣に聞き入っている自分は一体なんなんだろう、いつの間にか僕もこちら側の一般から見たら胡散臭い人間になってしまったみたいだ。

 三刀小夜の言うサイキッカーとはエスパーあるいは超能力者の同意なのだろう、そしてガーディアンズとは超能力者の集団であるらしい、政府内部ではこのガーディアンズから成る超能力者部隊を新設する動きがあり これを公安は潰す為に対超能力者対策を強化しようとしている、その為の五月雨雫であり超能力者を無効化する電子ガンなる武器の開発なのだ、瞬間移動の超能力者である厄病女神を無理にでも始末しようとしたのも話の流れ的に辻褄が合ってしまう。

 ハム特と五月雨雫は思っていたよりも厄介な事に巻き込まれている様子だ、そして僕たちも迂闊に首を突っ込むととばっちりを食らう可能性が大きい。

「 それでヤツはどうなる 」

「 ゲンさんの話じゃあ五月雨はこのまま洗脳されるかもしれないんだとさ 」

「 マインドコントロールか ハムのお得意分野だな それと貴様ら外Qがどう繋がる さすがに公安は管轄外だろう 」

「 どうも繋がんないですよ ただハム特とは合同捜査した仲だから後味が悪いってだけです 」

「 真桑は何を考えてる 」

「 よその隊長が何考えてるかまで知らんですよ そもそもウチのボスが何考えてるかも分かんないのに ただゲンさんは真桑さんは失敗するだろうと 」

「 ゲンさんがそう言うんならそうなんだろう ハム特はもう終わりだな 」

「 マジですか 」

「 ゲンさんが貴様らに話したんならもはや真桑だけではどうにも出来んと判断したのだろう 真桑もつくづく哀れな男だ 」

「 三刀さんは真桑さんの事よく知ってるんですか 」

「 なんだ斑咲君 いたのか 気づかなかったぞ 」

 さすがにいたのかと言われると凹んでしまう、僕はそんなに存在感が薄いんだろうか、瑠衣の無気力背後霊という言葉が思い出された。

「 班長 イジワルっスよ トワ君凹んでるじゃん 」

「 何だ 海乃もいたのか 」

「 あっ いつも俺が横から喋るとうるさいって怒るくせに 」

「 それは海乃が考えなしに的外れなことしか言わないからだろう 怒られたくなければもっと考えてから喋れ 」

「 ムリっスね 俺の個性が死んじゃいます 」

「 ……バカはほっといてだ 真桑は個人的にはよくは知らんが経歴くらいは知っている ヤツは機動隊時代に部下を全員死なせている その中の女性隊員は恋人だったはずだ 相手はガーディアンズのサイキッカーだ 現場は酷い有り様だったらしい 」

「 マイナスセルシウス 氷剣の六華(ろっか)っスよね 」

「 何なんですそれは 海乃さん 」

「 そのサイキッカーの通り名っスよトワ君 触れた物を凍らせて武器にする 身体に触れられたら自分の血で出来た紅い氷剣を引き抜かれてその剣で貫かれる とにかく残虐な殺し方を好むらしいっス 」

「 真桑は氷漬けにされ部下を目の前で1人ずつ惨殺された 特に恋人の遺体は人の痕跡をほぼ留めて無かったという 真桑だけを生かしたのは一生苦しめる為だろう 」

「 聞くだけで胸糞の悪くなる話だな あの隊長 そんな過去があったのか 」

「 私らも取材はしたがさすがに記事には出来なかった それからの真桑はよく分からんのだよ 六華を追うわけでもなく 仕事を辞めるわけでもなく のらりくらりの窓際刑事だ その行き着いた先がハム特だよ 」

 真桑が動かなくなった五月雨に手錠を掛けていたシーンが蘇る、あの時、真桑は何を考えていたのだろうか。


 三刀小夜との面談を終えて砂叉丸との約束通りセブンスマートで弁当とお茶を買ってから事務所には寄らずに帰宅する。何か違和感を感じ思い返してみると、この日は鳥追月夜に会って無いことに気付く、彼女はまたあの3階にある黒い鳥居を構える黒い社に祝詞を奉じていたのだろうか、鳥居から見下ろすあの黒い九官鳥の店長( 仮 )と一緒に。それとも、今日はセブンスマートには居なかったのだろうか。

 その夜、夢を見た。冷たくて動かない脳死状態の兄久遠に僕は馬乗りになり手錠を掛けていた。「 久遠兄さん 職務違反により逮捕します 兄さんは部下を殺した 罪は償わなければ でないと僕が背負うことになる 兄さんの罪を背負うのなんて真っ平御免です 自分の罪は自分で償ってください 」手錠を掛ける時、腕を無理に捻じ上げたせいで腕が折れてしまったが構うことは無い、2度と目覚める事など無いのだから、漆黒の鳥居の上から鳥追月夜が僕を見下ろしていた。「 斑咲トワ 守るべきものは見つかりましたか 」「 はい 店長代行 僕は空っぽの入れ物である自分を守ります 」「 斑咲トワ おまえ つまらんヤツだな 」御国がそう言って僕に鳥殺しの槍を手渡した。僕は真桑が抑え付けた五月雨雫の首の下に槍を差し入れ力一杯引き上げた。


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