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Seasons In The Abyss   作者: oga
13/34

第13話 firestarterZERO


 旧渋谷特区平成龍ノ宮神社奥の院で、この国の神とされる国神に謁見する。しかし、国神は3年前の軍事クーデター新帝国事変の首謀者でもあり、ここ渋谷特区平成ノ宮に隔離されている身でもあるのだ。

 この国神から聞かされた話を僕は鵜呑みにしてしまってよいのだろうか、3年前の事変時に国神率いる新帝国軍として鼠仔猫島で戦死したとされていた兄が、実は脳死状態で生きている。そして、その兄を宮内庁の六礼参事官はある計画に使おうとしていると言うのだ。

 上司の御国部局長からは国神には重々注意しろと言われている。この男は僕の心を揺さぶり遊んでいるだけではないのか、そんな疑いを抱かずにはいられない。


「 しかし国神様 事変前までは兄は一介の自衛隊員でした そんな兄をどうやってリーダーにまで押し上げるのですか いくら妖しげな術が存在するとしても 全国民をコントロールすることなど不可能ではないのですか 」

「 そらそや そんな都合のいい術があるならウチがつこうとったわ そこは正攻法にPRするんや 陸軍に枢機部隊を新設してそこの長に任命する そんで北方領土奪還作戦や そん次は沖縄奪還 強い日本の象徴にするんや 」

「 そんなに都合よくいくのですか そもそも そんな作戦 間宮内閣が承認するとは思えません 」

「 やから間宮は宮内庁外部部局が暗殺するんや 近々御国に命令が下るはずやぞ 国の為 間宮総理大臣を暗殺しろ とな あそこはそういう部署や もし御国が逆らえば処分されるだけや そん時は御国の処分と間宮の暗殺はトワちゃんの仕事やで その為の配属やぞ 」

 国神が鋭い視線を僕に向ける。これで、先日の六礼の話と繋がってしまった。僕の配属にはそういう裏があったのか、始めから全てが六礼参事官の計画の一環なのだ。配属初日に御国も言ったではないか、必要か必要では無いかではなく出来るか出来ないかが重要だと、出来なければ処分されるだけだと、ならば、僕のやる事は一つしか無い。命令に従い任務を遂行するだけだ。しかし……本当にそれでよいのだろうか。あの(ひと)は守るべきものを探せと……

「 ほんま トワちゃんはおもろいわ オモチャにしがいがあるなぁ 」

 国神が僕の心の揺らぎを見透かしたようにおちょくる。

「 やはりオモチャなのですか 」

「 そや 退屈しのぎにはもってこいや これでトワちゃんがどないすんのか存分に楽しませてもらうわ 」

 やはりこの男は僕にあえて真実を伝える事により僕がどう行動するのかを観察して楽しむのが目的のようだ。

「 この話はこれで終いや さっきも言うたが内緒やぞ 1人でゆっくり考えてみ 」

 考えて答えが見つかるはずが無いことくらい明白だ、答えが見つからないからこそ命令に従うしか道は無い。そんな事、百も承知でこの男は考えろと言う。やはりこの男は蜘蛛で僕は搦め捕られた羽虫のようだ、もうなす術は無いんだろう、ゆっくりと体液を吸い尽くされるだけだ。


「 んじゃ本題やな 」

「 本題 」

「 なんや 呆けちょるんか 辻斬り事件で来たんやろ 」

 言われ無くてもそれぐらい判っている。しかし、こんな話を聞かされて本題と言われても簡単に切り替えれないし集中出来るはずが無い。だがそうも言ってはいられないのだ、それが本来此処に来た目的なのだから。

「 外道の印が平安時代に夕星(ゆふつづ)一族に為された烙印だとは判りました そして300年前に京都で外道の印を用いた連続辻斬り事件が起き犯人は夕星深雪という名の女性だったという事も しかし今起きている事件との関連は不明です そもそも外道の印とは何なのですか 」

「 夕星一族は北の星堕としの地に住まう山犬の星追いの一族や 」

「 何ですかそれは 国神様も先ほど山犬だと仰いましたが 」

「 そや やがウチはこん国が出来た時に国の神へと具現化された 好奇心から人に関わり過ぎちょったからな 人はそんなウチを利用したんや ウチもおもろいから利用された 神さん言うんはなあ 人が創り出すもんなんや ほんまはそんな都合のいいもんおらへん 日照りによる水不足 大雨による水害 台風 地震 津波 疫病 作物の不作 それら目に見えずに形の無いモノを災厄と呼んだ そして一旦災厄が訪れたらどうする事も出来へん やから 姿形無きモノに神と言う名を与え具現化する事で対処しうるモノに変容させたんや 畏れ敬い奉る 神とは人が生み出した畏れを具現化した形や 単なる山犬も人により国の神に成り得る それがウチや 『 北に星堕としの地と言ふ場所ありき そこに住まうは三匹の山犬なりき 』その内の一匹なんや 」

「 それで夕星一族とは 」

「 残りの二匹の山犬の内の一匹の星追いや 星追い言うんは神守りの事で まあ神に仕える者らや その山犬の名を兇宿深雪(くすくふかゆき)と言う 美しい山犬やった 」

「 深雪 」

「 そや 深雪は人やあらへんで 神の名や しかも禍いを宿す禍ツ神(まがつかみ)や 」

「 なら何故夕星深雪と しかも文献では山犬の子を宿したとなっているんですが 」

「 朝廷内の権力争いや ウチに対抗する為にある者が夕星に命じたんや そして夕星は星追いでありながらも御星を裏切り策略を持って神である兇宿深雪を人に(おとし)めた それが夕星深雪や そして深雪はその権力者の子を宿す やが 50日足らずで産み落とされたのは山犬の子やった 怖れた権力者はその場で山犬の子を踏み潰す そん事をウチが知った時には深雪は既に気が狂れちょった 権力者も呪いでおかしなっとった やから権力者の一族は全員首を刎ね 夕星一族には外道の印をして追放したんや 夕星は自らの犯した罪の重さに深雪を連れ星堕としの地の深部へと沈んだんや それが平安時代に起きた事件のあらましや 」

「 それで 深雪はどうなったのですか 」

「 呪われた夕星一族と星堕としの地に居ったで 夕星は人か山犬かようわからんようになっとったがな 深雪は相変わらず美しい山犬やった どうやって戻ったかは知らへんがな ただ 時折 夕星深雪が顔を出すみたいや まあ二重人格みたいな感じやな 」

「 なら 」

「 そや 辻斬り犯は人である方の夕星深雪の犯行やと思うで 」

「 しかし 300年前に死罪になってますよ 」

「 江戸時代 ウチは都を離れて自由気ままに旅しちょったからな そん事件はよう知らんのや やが ウチが最後に深雪に会ったんは終戦前やぞ ある儀式を加勢して貰ったきにな 」

「 なんの為に無差別殺人を 」

「 知らんがな よっぽど酷い目にあわされたんちゃうんか 孕まされた挙句子供目の前で踏み潰されたんやで 人の男に怨みを持ってて当然やろ それに人の深雪は気が狂れとるんやからな ヤツは人が創り出した人の姿をした災厄なんやろ 」

「 じゃあ夕星深雪は人なのですね 」

「 人の姿しとればそりゃ人やろ 殺せば死ぬで ウチかてそうや 」

 国神の話を信じるのなら本来深雪とは国神同様 人ではない何者かで それを朝廷内の権力争いに利用しようとしたある者が夕星一族を使い策を弄し人に貶め己の子を産ませようとした。しかし産まれた者は人では無くその場で処分される。その事が明るみになり国神により権力者一族は死罪になり夕星一族は深雪と共に外道の印を為され追放になる。その後、深雪は人では無い者へと戻るが時折 人としての夕星深雪の人格が目覚め復讐なのかわからぬが凶行を行う。そう言った所だろうか。

 しかし、昔話としてはありだが現在進行形の事件としてはどう受け止めればよいのだろうか、そもそも深雪は千年前の人物となってしまう。ただ、目の前に国神が居る以上否定する事も出来ない、国神自身、建国から存在する事になっているのだから。

 国神の言うように深雪とは、人が創り出した人の姿をした災厄だと考えるのが最もしっくり来るように思えてならない。こんな考えに至ってしまう自分はもう狂ってしまっているのだろうか。

 そもそも兄が生きているはずなどないじゃないか、もしかしたら夢を見ているのは僕なのかも知れない。これは気が狂れた僕が見ている白日夢、それが最も合理的な解答である。

「 あれ 」

 国神との謁見を終え奥の院を後にして、くだらないことを考えながら 渡り廊下を歩いていたはずだが、見慣れぬ場所へと出てしまった。廊下に分かれ道など無かったはずだがどう間違えたのだろう。

 そこは若草色の竹林となっていた、おそらく神社の裏手にあたる場所のようだ。そして竹林の中を尚も続く高さ1mほどの渡り廊下を進むと六角形の屋根を持つ東屋へと行き着いた。そして、そこには。

「 やっと来た 」

 それは1人の巫女姿の少女であった。少女は野を吹く風のようであった。

「 君は 」

「 私はゼロ ずっと待ってたんですよ 」

 パチリとした瞳で僕を下から覗き込む。竹林が風にサワサワと音を立てる。

「 僕に何か用があるの 」

「 うぅぅ〜ん 今の君には用は無いかな 」

「 じゃあどうして待ってたの 」

「 ちょっと頼み事があるの でもその前に 」


 ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ


 突然、向かい合った僕と少女の前に一匹の灰色の大きな野犬が踊り出た。

 僕が身構えるより先に少女が手を伸ばし親指と中指をパチンと鳴らす、指先から青白い火花がバチリと散った、瞬間、ボンと野犬が爆炎に包まれ弾き飛ぶ、野犬は燃えながら廊下から落ちていった。

「 もう 邪魔なんだから 」

 少女は少しむくれた表情をして唇をとんがらがせてみせる。

「 お星様 大丈夫ですか 」

 廊下を音も無く神官姿の男が駆けて来た、以前見た右禰(うね)だか左宜(さぎ)だかのどちらかだ。

「 あっ 右禰 これくらい大丈夫ですよ おおげさな 」

「 何匹か結界を抜け入り込んでおります 充分にお気を付け下さい んっ おまん この前御国が連れて来た新米やんか こげんとこで何しよるんや 」

「 あっ 申し訳ありません 国神様に呼ばれての帰りに通路を間違えたみたいで 」

「 んな訳あるかい 結界張っとるんやぞ 国神でも許可無く通れんわ…… お星様の仕業ですね 」

「 右禰はイチイチうるさいです 」

「 うるさいですやないです 山犬どもが入り込んじょるんですよ 無闇に結界を解かないで下さい 」

「 ……山犬 」

「 なんや おまん何か知っちょるんか 」

「 だから呼んだんじゃないですか 国神様とコソコソしてたから 」

「 またヤツかいな ほんま早よ追い出さなあかんな で山犬について何を知っちょる 勘違いすなよ この宮においてはお星様が1番上や 国神なんぞ単なる厄介モンや なんの権限も持っちょらんさかいな 隠し事したらそこの山犬みたいに一瞬で消し炭やぞ 」

「 もう 私はそんな事しません 」

 ようやく飲み込めた。この少女は前に御国らから聞いたこの国最大級の祟り神である星宿零(ほとおりぼしれい)その人だ、なら先程の野犬を包んだ爆炎は彼女の放った炎なのだろうか。

「 最近起きております辻斬り事件で国神様にご助力頂いております 被害者に残されるシンボルが外道の印だと あと夕星深雪についてです ただ まだそれ以外は何も判っていません 」

「 右禰 何か知ってますか 」

「 深雪ゆうたら兇宿深雪か んじゃ この山犬どもはヤツの星追いの眷族か でもなんでここに入り込むんや 単にお星様の力に引き寄せられたと見るべきか こいつらから特定の意思みたいなもんは感じられへんしなあ 」

「 もう わかりません 」

「 あっ こら失礼しました 兇宿深雪ゆうのは星堕としの(もり)に住まう旧き神にございます 人の世にはあまり係らん神やったと思います 神殺しとの噂を耳にした事もあります ただ平安時代だかになんや朝廷と悶着があったとか 詳しくわ知りまへん 山犬の神守りらを束ねちょるち聞いた事あります 確かそん山犬らに外道の印が その山犬を調べられればいいんやけどお星様が炭にしてもうたしなあ 」

「 むぅぅぅっ 私 悪くないもん 」

「 今 左宜が狩っちょりますきに 時期に何か分かるでしょう おい 新米 ウチらは国神とは違い基本宮の事以外には関われん取り決めになっちょる 下手に関わるとこん国が消し炭やさかいな そのへんはよう憶えときいや 」

「 はい 」

「 あっ そうだ はいこれ 」

 少女が僕に向け一本の長い棒状の物を差し出す。

「 お星様 何しよるんでっか それは堕ち星の太刀やあらしまへんか 」

「 見ればわかるでしょ 」

「 わかるでしょや無いでっしゃろ 何で此奴に渡すんでっか 」

「 この太刀は今は私の太刀ではありません だから彼に返してもらおうと思って あの持ち主に 」

「 意味がわかりまへん 」

「 いいんです 」

「 あのぉ 僕はどうすれば 」

「 これを鈴音(すずね)姉様に渡してください 」

「 僕はその人を知らないのですが 」

「 新米 鳥殺しの娘のこっちゃ もう知っちょるやろ 」

「 鳥追月夜さんですか 」

「 そや 」

「 ゼロがあの人に返してくれと言っていたと伝えてください 」

 手渡された物は朱色に黒と金で美しい龍の意匠が施された鞘に納まった一本の太刀であった。


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