第 1話 paradiselost
懲りもせずに新連載始めます。前作の『 鳥殺しの唄 』のその後の世界で新主人公斑咲トワを中心にしたさまざまな登場人物たちの繰り広げる都市伝説オカルトミステリーにしたいと思っております。
見切り発車ですがなんとか破綻せずに完走目指して頑張ります。
よろしくお願いします。
新宿東口エスト前。
「 斑咲トワだな ついて来い 」
「 あっ はい 」
男はぶっきらぼうに言った。男は30才くらいだろうか、少し長めの髪が似合ってるのか似合ってないのかなんだかよくわからない神経質そうな顔立ちだ、身なりは公務員らしくキチンとしており……いや、よく見るとピアスだの指輪だのトレッキングシューズだのチグハグのインチキ感が目に付く、本当にこの男は自分の職場の同僚なのだろうか。
僕の名前は斑咲トワ、23歳、今年の春に防衛大学を卒業して新設されて間もない陸軍に入隊する。特殊部隊候補生として半年間実習演習を行っていたいたのだが この度、配属先が決定したのだ、配属されたのは……宮内庁である。
「 どの程度 話を聞いている 」
歩きながら男は振り向きもせずに問いかけてきた。
「 いえ 何も ただ出世はあきらめろ とだけ 」
「 おまえ 特殊部隊志望だろう 出世なんてハナから無いじゃないか もう平和な日本はとうに終わってるんだぞ 特殊部隊なんて海外に派兵されてthe endだ なんで志望した バカなのか それとも自殺志願者なのか 」
「 私は ただ 国の為に 」
「 やっぱバカだな まあいい 残念ながらおまえは落第だ 宮内庁の雑用犬としてうだつの上がらない犬としての一生を送ってもらう それ以外の人生なんて有ると思うな 」
「 …… 」
父と少し歳の離れた兄は共に自衛隊員だった。母を幼い頃に亡くし父と兄の背中を見ながら僕は育った。そんな父と兄も3年前に戦死する。
新帝国事変、3年前にこの国で起きた大規模クーデターである。このクーデターは先の大戦時に旧帝国により決めらていたシナリオであった事が後に明らかとなった。世界が混沌期に突入した折に実行されるシナリオとして事前に準備されていたと聞く、そして実際に北米大陸西岸部巨大津波を引き金に第1期混沌世界が訪れた。父と兄は旧自衛隊員として新大日本帝国軍に編入されクーデター側となり、そして新政府に反乱した民間組織と政府及び旧自衛隊離反組による連合反乱軍との瀬戸内大海戦で共に命を落とした。そしてこのクーデターは連合反乱軍勝利という形で幕を下ろす。
この戦いで戦死した数万人の戦死者は政府軍反乱軍を問わず国の為に戦った戦死者として慰霊される事となる。父も、兄も。
そして道しるべを失った僕は父と兄の軌跡を辿るだけのゼンマイ人形となる。しかし、その道も閉ざされた、宮内庁の雑用犬、なんだそれ、笑いすら出てこない、怒りすら出てこない。
「 オイ 聞いてるのか 」
「 あっ はい 」
「 初出勤だぞ しゃんとしろ 」
「 あのぉ 名前を伺ってもよろしいですか 」
「 あぁ 俺のか 俺は曳井一見だ 」
「 ヒイさんでよろしいですか 」
「 好きにしろ 着いたぞ 」
そこは新宿の古い雑居ビルの地下だった。ここ新宿は新帝国事変の際 民間反乱組織 あらがいの団ホーネットにより占拠されており激戦区であった。その傷痕が未だ至るところに残されている。
しかし、僕は宮内庁に配属されたはずだ、宮内庁と言えば内閣府の下に組織された皇室関連の全般を執り行う機関である。軍からの配属となった僕は当然警備関連の職に就くものと思っていたのだが、これはいったいどういうことなのか、このような新宿の裏側のさびれた雑居ビルに真っ当な政府の機関があるなど考え難い、どうやら僕は真っ当な人生から脱線してしまったようだ。しかしナゼ、自分なのだろうか、何か悪い事をしてしまったのだろうか。
地下への薄暗いジメッとした階段を降り古びた鉄の扉を曳井一見が押し開ける。
「 連れて来たぜ 」
「 イチミンお帰り ナニナニ それが噂の新人君 カワイイ 特殊部隊から配属って言うからゴリラかと思ってたらラッキーじゃん もしゴリラだったら速攻イジメて追い出そうと思ってたのに でも逆にそんなの使いモンになんの 軍から不良品押し付けられただけじゃないの 」
「 知るかよ 返品きかん不良品なら廃棄処分するだけだ それより部局長は 」
「 奥にいるわよ あっ 私は川上瑠衣 よろしくね新人君 」
「 あっ 斑咲トワです よろしくお願いします 」
人のことを不良品呼ばわりしといてよろしくもないだろうとは思うが、もしかしたら本当の事かもと思ってしまう自分が情け無い。
川上瑠衣と名乗った女性は年齢は自分と大差ないように思える、Tシャツに黒のジャンパーにジーンズにハイカットスニーカーという出で立ちは とても職務中の公務員とは思え無い、整った顔も化粧っ気が全く無く身なりを気にしない学生といった感じだ。
「 新人 奥の扉だ ノックして入れ 」
「 はい 」
曳井に言われるままにデスクが5つ置かれた室内の奥にある木の扉をノックする。
「 どうぞ 」
「 失礼します 」
そっと扉を引き中へと入る。
「 斑咲トワ君だね まあ座りたまえ 」
「 はい 」
一礼して席に着く。
黒のスーツ姿のその男は30代半ばだろうか、目つきは鋭く突き刺さるような威圧感を発している、髪はキレイにバックに整えられており薄い唇から発せられる声は低く凍てついていた。
「 私は部局長の御国鷹虎だ 君の直属の上司となる 話はどこまで聞いている 」
「 配属先で説明があると 曳井さんからは先ほど 宮内庁の雑用だと それ以外はまだ 」
「 ちッ 面倒なことはみんな俺に押し付けやがる まあいい ここは宮内庁外部部局雑務処理係 表向きには存在していない 要は宮内庁関連の公式には出来ない問題を非公式に処理する部署だ 」
この話がきた時から嫌な予感はあったが、やはりそっち系の話だったか、まあ特殊部隊自体 秘密裏に行動する部隊なのだから大差ないようにも思えるのだが。
「 それでだ 存在してないのだから当然公務員ではない 国から給料は出るがなんの保証もない 一応表向きは探偵事務所となっているが保険も労災も適用外だ 謂わば真っ当な職ではない で 貴様にはまだ現段階で拒否することが出来る その場合ここで聞いた話は忘れ宮内庁の警備員として一生を送ることになる それ以外の選択肢は既に無いと思え どちらかだけだ ここまでは理解したか 」
「 はい 」
「 まず貴様が選ばれた理由は家族がいないことだ 内容によっては国家機密レベルのこともある よって特定の異性との交際もNGだ 資料では貴様は恋人等はいないとなっているが本当か 」
「 はい いません 」
「 将来 結婚したければ こちらが用意した相手としてもらうことになる 子供も作りたければ作ることは可能だ この二つはあまりオススメはせんがな 風俗等に通うのは自由だ だが特定の相手と親密になるのはNGだ どうだ まだ話を続けるか それとももう止めるか 」
「 続けて下さい 」
「 確認しておかなければならんことがある 貴様の父親と兄弟は瀬戸内大海戦で政府軍として戦死しているが現政府はその政府軍を打ち倒して樹立されたものだぞ 何もないのか 」
「 父と兄は組織に属し職務を全うしただけです 民間の反乱組織側にも多数の戦死者は出ています 共に国の為に散っていった者らです 遺恨などありません 」
「 模範的な解答だな 気に食わん もし俺が貴様の父と兄を殺した相手だとしても同じことが言えるか 」
「 はい 」
「 ムラサキトワ おまえ つまらん人間だな まあいい いままで人を殺した事はあるか 」
「 いえ 」
「 殺せるか 」
「 それが職務なら 」
「 全く罪のない人間でもか 」
「 ……わかりません 」
「 何がわからない 」
「 罪のない人間を殺さなければならない理由が…… ここでの職務はそのようなモノなのですか 」
「 時と場合による 」
「 それが必要な職務ならば出来ると思います 」
「 必要か必要じゃないかは問題じゃない 出来るか 出来無いかが問題だ ちゃんと解答しろ 」
「……たぶん出来ません 」
「 少しは人間らしいところもあるようだな だがな 貴様の父と兄の死はそういうモノだ 貴様の父と兄の死は必要なモノだったか 違う そんなモノ必要でもなんでも無い それでもそれが現実だ 誰かが殺し誰かが死ぬ そんなモノに必要も何も無い そして 時と場合によりここでもそれが行なわれる そして 出来る出来無いも問題では無い やらなければ自らが処分されるだけだ 」
「 殺されるということですか 」
「 一応国の機関だ そうほいほい殺さんよ 脳に外科的施術を施し解放する 犬猫並みの余生は送れるだろう 怖くなったか 」
「 はい しかし 私は特殊部隊を志望していました ある程度の事は覚悟してました この話をもし特殊部隊員として聞かされていたら納得出来たでしょう ただ今はこの状況に対応出来ずに戸惑っています 」
「 正直でよろしい しかし返事を待つほど甘くは無いぞ 今決めろ 残るか 去るか 」
「 私には去る場所がありません もう何も無いのです ハナっから選択肢など無いのです 知ってるんでしょう だからこそ私なのでしょう 」
「 物分かりがよくて助かる ようこそ 人生という名の地獄へ 斑咲トワ 」