願い事
かつてこの世界には、たしかに神様がいた。
どんな願いも叶えてくれる、すごい神様が。
頭の中で声がする。
「なんでも一つだけ、願い事を叶えてあげましょう」
「じゃあその権利を百個にしてください」
「わかりました。なんでも一つだけ、願い事を叶えてもらえる権利を、百個、ですね」
「左様」
「かみさまじかる!!!」
「え?!」
目を覚ますと、目の前に魔法少女チックな格好をした少女が立っている。
「だ、誰?ここ僕の部屋なんだけど…」
「神様です!あなたの願いを百個叶えるために人間になりました!!!」
「どっひぇー!?」
「なんでも願いを叶えられる力は、もう無くなりました! 代わりになんでも願いを叶えてもらえる権利×百個が、あなたの元には残ったのです!必ず叶うとは限りませんけどね!」
「ななな、なんだってえー!? さっきのは、夢じゃなかったのか!?」
「左様」
「そんなバナナ…。僕は願いを無駄遣いしてしまったのか…」
「あえて言います、否であるとっ!」
「え!?」
「私にできることなら百個まで、なんだってしますよ!」
「例えば?なにができるの?」
「普通の人間の女の子にできることなら、大体なんでもできる筈ですよ!」
「普通ってなに?たとえばお菓子作りはできる?幼馴染みのミカンはできないけど…」
「まっかせてください!はい!!!」
胸を張って返事をしてみせた少女は、満面の笑顔のまま両の手のひらを差し出してくる。
「その手はなに?」
「材料費とレシピをください!それでなんとか!」
「そこ、神様の力でなんとかならない?」
「もう人間なので無理ですね、はい」
「なん……、だと……?」
「ワタシは犠牲になったのだ…、願いの犠牲にな…」
「つまり…、どういうことだってばよ!?」
「ですからー」
少女はおもむろにグーを作ると、それを僕の前に差し出す。
「これが、願いを叶える力です。なんでも願いを叶えられる力ですが、その効果は一回きりです!使うと無くなります!」
「はあ」
「そしてあなたは願いました!願いを叶えてもらえる権利が百個欲しいと!叶いました!」
少女は握っていたグーを、ぱぁっと爆発の真似事のように広げ、ひらひらと儚く揺らしてみせた。
「だから無くなったんです、願いをなんでも叶える力は。 残ったのは2つ。“なんでも願いを聞いてもらえる権利が百個”と、“なんでも願いを叶えようとする気概が百回分”です!」
「つまり?」
「できることはなんでもします!!!」
「じゃあ…、キスして?「「却下!!!」」」
「早いよ…」
そんなこんなで、僕と神様だった女の子の、不便極まりない願い事解決ライフが始まった。
「例えば、たくさんたくさん働いて、僕に貢いでほしい、っていうのは?」
「戸籍が無いから無理ですね!」
「じゃあキス」
「気持ち悪いから無理ですね!」
「ならなんならできるのさ、役立たず」
「えーっと……、……肩揉み?」
「幼児からおじいちゃんへの誕生日プレゼントレベル!!!なめてる!!!」
「誕生日は年に一回しか来ませんよ!?それをいつでもなんて最高じゃないですか!誕生日なめんな!」
「幼児ならな!!!お前元神様だろうが!!!」
「ああん!?」
「おおん!?」
「もうやだ、出てきます!」
「おう出てけ出てけ!役立たずをタダで置いとけるほど、我が家の土地代は安くないんだよ!」
「はい願い1個ー!!!最低のスタートーっ!!!!」
「おおん!?」
時に喧嘩して、時に仲直りして、時に一緒に笑って、時に一緒に泣いて。
「なんか今まで、あっという間でしたね!」
「あぁ…そうだね」
「ちなみに願い事…、あと、一個ですよ?」
「知ってるよ」
「かれこれ40年も温存されてる訳ですが、あなたは一体、なにをお望みで?」
「わざわざ言う必要があるのかい?」
「願いを百個叶えないと、私は神様に戻れませんから。それは困りますよ」
「でも、もう神様みたいなもんじゃないか? 君はこの40年間、ひとっつも歳を取っていないじゃないか」
「ですねー!あなたはこんなにシワができて、白髪だらけになって、おじさんになってしまったのに」
「はは」
「…あの」
「なんだい?」
「100個目のお願い、当ててもいいですか?」
「やぁ、どうぞ」
「……死ぬまで一緒に居て欲しい、ですよね?」
「ぶっぶー。 キスして欲しい、だよ」
そう言いながら、僕は不意をついて彼女と唇を重ねる。
すると彼女の体は、たちまちの内に光の粒に溶けて、天高くへと昇っていってしまった。
「僕が先に死んだりしたら、君は悲しむだろ?その優しい性格だって、充分知ってるさ。 …う、ゴホッ!ゲホッ!! …はぁ、はぁ……、はぁ……! 楽しかったなぁ…、この、40年間………。 神様、ありが……とう………」
…そんな、素敵で悲しくて、やっぱり嬉しいような、寂しいような、複雑な出来事があったから。
神様は、容易く人の願いを叶えることをやめて、それから、人自身の力で人を幸せにできる可能性を、信じるようにもなりました。
そうして生まれた今の世界を、あなたはどう思いますか?
評価&ブクマ&感想、ありがとうございます!
今回は前回とは全く違う感じを狙って書いてみました(´∇`)
SSってやつですかね。
前回のを気に入ってくださった方には“なんか違う…”という印象を与えてしまうかもしれませんが、個人的には満足の子です。
いやぁ、しかしブクマに評価に感想、やーっぱ嬉しいです。
これからもまた違ったタイプの文章を投げていきます!なにがどう変わってくやら?まだ自分でもわかりません(´∇`)
とにかく楽しく書きたいです。それを楽しんでいただける方がいたら、それこそが最高ってやつですね!
ぼくは、ぼくの願いを自分で叶えますよー!