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レコードキューブ47  作者: TKCパート2
4/4

異世界フリーター

…遅れてすみません>_<

新展開です>_<

異世界フリーター


爽やかな朝。


心地よい鳥の鳴き声と共に、俺は徐々に意識を覚醒させてゆく。


こういう時間は毎日、毎日退屈だった日本でも、俺の数少ない至福のひとときだった。


俺はこの時間が嫌いじゃ無い。日本にいた頃の全国の高校生に聞いても同じ回答が得られるだろう。


だが、その至福の時間は長くは持た無い。至福の時間が終われば憂鬱な時間の始まりだ。飯を食べ、登校し、退屈な授業を6時間も聞く。日本にいる学生達は今頃学校行きたくない感、に苛まれていることだろう。


たが、しかし、それは日本の高校生の場合である。


不幸か幸いか、異世界に転生してしまった少年は…というと…


「カネがねぇ……。」


身に迫る危険を感じながら、しわがれた声を石壁に向かって解き放つ。




異世界転生3日目。


俺はとある宿屋の一室で、危機的な財政難に頭を抱えていた。


………………………………………………………………


事の経緯は転生2日目に遡る。


朝起きた俺は、飯を食べ、宿屋の看板娘に礼を言ってとりあえず街の探索に出た。


理由は2つある。


1つは日雇いでもいいから職を見つけること。副支部長から貰った生活費は10シル。明日までしか持たず、

生活費を使い果たす前に新しい職を見つけなければならない。


そしてもう1つは情報収集である。俺はレコードキューブのアニメは全話見ているのでだいたいの事は知っているつもりなのだが、物事に絶対は無い。そう、絶対はないのだ。とゆーわけで最低でも1度は偵察に出る必要があった。


現在俺が知っている事は、この世界の歴史、国以外に、1つ、魔術が存在する事。世界の2大国家の1つである、魔術国家バルギニアと聞いて分かる通り、この世界には魔術や呪術、結界術や召喚術がある。その中でも多く学ばれて居るのが魔術。精霊と契約し、魔力(マナ)を代償として事象の改変を行う術である。


呪術や結界術等はイズナ地方の少数民族や各地方の部族か起源であるため、知名度が低い。だが、最近は術の伝承者が居なくなる事を防ぐ為か、イズナ地方やラカール地方、その他諸々の地方から修行を積んだ若い術士達が来て道場的な物を開いて後継者探しをしているのだとか。


2つ目は「銃」が無い事。いや、正確には魔力を圧縮、収束させて打ち出す「魔銃」というものならば一応、存在する。だが日本にいた頃にあった引き金を引けば毎秒何発という単位で鉛の弾丸を弾きとばすものでは無い。魔銃には2種類あり、片方は前述した通りの魔力を弾丸として打ち出す、連射(といっても5発くらいが限界だが…)能力に秀でた中距離型。もう片方は、術式が組み込まれた銃弾に魔力を込めて打ち出し、連射性を犠牲に長い射程と威力を誇る遠距離狙撃型。余談だが、遠距離狙撃型は500〜1kmという射程のため、消費魔力もとんでもないらしい。


そして、俺が知る最後の3つ目の情報はここが完全なるファンタジー世界である事だ。前述の通りこの世界には魔法が存在し、魔法が存在すれば、剣が存在する。そして剣と魔法が存在すれば…


「モンスターが存在し、それを狩る冒険者や傭兵、騎

士団が存在する。」


俺はごつごつしていて体長2メートルはありそうな巨大な亀型のモンスターを檻に閉じ込め、ガラガラと馬車を引きながら目の前を歩いていく数人の冒険者を横目に見つつぼそっと呟いた。


「今のがモンスターか。やっぱりモノホンっていうの

は画面の中と違って怖ぇな…。」


周囲からは「おぉ、ロックタートルだ。珍しいな。」や「こりゃ、素材の買い時だな。」などと様々な喧騒が聞こえる。


どうやらさっきのデカガメは思いの外、レアモンスターだったらしい。


あんまり居座るのも何なので、そろそろ動こうと思ったその時、俺は視界の端に人だかりを捉えた。


何事かと思い、行ってみると掲示板。張り紙には「Lポーション、Mポーションそれぞれ一本3リル!イリヤの雑貨屋まで!」や「街の開拓!新規労働者募集!」など実に様々な内容が書かれている。


俺は一通りバイトを調べると、その中から手頃な日雇いバイトの張り紙1枚を取り、掲示板を後にした。


取ったバイトの張り紙はイリヤの雑貨屋での商品配達。1日3シル。今日のところはこれで十分だろう。


俺は張り紙を握りしめ、ここからさほど遠くない距離にあるフリヤの雑貨屋を目指す。張り紙に記載された地図によるとフューレンの街・東門の近くで店を開いているらしい。


生まれてこのかた、バイトなどしたこともない普通の高校生であるが、接客する訳ではないのでまあ、なんとかなるだろう。


とか、何とか考えている内にフューレンの街・東門の近くに来てしまった。案外早く着いたな、と思いつつ辺りを見回す。少し前までは住宅街だったのに、ここは狩りに行く冒険者や商隊を護衛する傭兵のためか、鍛冶屋や雑貨屋、素材屋がずらりと並び、道行く冒険者や傭兵で溢れていた。



フューレンの街は北へ進めば科学魔術研究区画、西はラグナロクの首都ラグノリアへ通じる街道になっている。フューレンの街・南門の先にはバロス密林が広がっており、バロス密林は危険度β〜αの超高難易度モンスターが生息している為、フューレンの街・南門は警備が超厳重。いつ何が来てもいいように、騎士団が常時駐屯している。


バロス密林に入るには最低でも冒険者ランクAが必要となる。その為か、フューレンの街から南へ100kmにある、イラルの街の商隊は毎回バロス密林を迂回する必要があるのだとか。


そして残るココ、東門はというとご覧の通り、冒険者や旅人の出入り口。東門の先は広大な草原が広がっており、バロス密林ほどの凶悪なモンスターは出現しないため、低級〜中級冒険者の良い狩場であるのだ。


そうしている内に、俺は一軒の雑貨屋を発見した。


どうやらここらしい。


若干ボロくさい建物に拒否感を感じながらも、俺はおどおど中に入った。


店の中はポーションや見たこともない魔法薬で溢れかえっており、中には「え?これ飲めんの?」と目を見開きたくなる商品もある。


俺は少々の間商品を物色すると、会計席で中年の冒険者と話し込んでいる、店主らしき人物に声を掛けようとした。


「8リル!8リルでどうだ!」


「ダメだね。その魔法薬、今原価が高騰してるんだ。

おや?いらっしゃい…見ない顔だね。」


完全に先を越された。


生まれつきのコミュ症は異世界でも発現するのかと悲しみを胸に抱きつつ、俺はもってきた張り紙を店主に差し出す。


年は25歳くらいだろうか?髪は赤髪でポニーテール。綺麗な顔立ちながらも、凛々しさを感じさせる悪くない女性である。


だが、その紙を差し出した途端その女性の顔は一瞬驚きに、次いで喜びの表情に染まった。


いや、店主だけではなく隣の中年冒険者も何故か驚きの表情を浮かべている。


もしかして、俺、何か悪い事したかなと少し怯えながら立っていると、店主らしき女性が口を開いた。


「よく来てくれた。私はイリヤ。ここいらの冒険者か

らは、イリ姐って呼ばれてる。よろしく。早速だけ

ど働いて貰うよ。あーそれと、名前は?」


どうやら俺の目が見抜いた凛々しさに狂いは無かったらしい。


イリヤは、どうやら男前のようだ。そしてイリヤの言葉にどこか喜びが感じられるのは俺だけだろうか…


俺は幾つか疑問符を頭に浮かべつつイリヤに答えを返す。


「崇史です。永谷崇史。」


「ナガヤ…タカシ。聞かない名前だな。まあいいや。

じゃあ、タカシ。早速だが仕事の説明だ。後ろの倉

庫まで来な。」


イリヤはそう明るく答えると、中年冒険者を追い払い、後ろの倉庫に俺を案内した。


倉庫内は薄暗く、たくさんの木箱や革袋が無造作に置かれている。


「じゃあ、説明するぞー。仕事は簡単。ここから600m先にある冒険者ギルドから、商品を受け取ってこの倉庫に置いといてくれれば良い。ここにリスト置いとくから、終わったら呼んでくれ。報酬を支払おう。」


俺はこの時違和感を覚えた。


ただ倉庫と冒険者ギルドを行き来するだけで3シル?良い話過ぎないかと。


その為、俺は質問してみることにした。


「倉庫と冒険者ギルドを行き来するだけで良いんです

か?」


「ん?あぁそうだ。私らは冒険者ギルドの庇護を受け

て商売してるからな。商品は全て冒険者ギルドが仕

入れる。販売代行。みたいなもんさ。それじゃ、頑

張れよっ少年!」


そう言うとイリヤは行ってしまった。


俺は仕方なく、フューレンの冒険者ギルドを目指す。


この時間帯はほとんどの冒険者が狩りに出ているからだろうか。人がまばらであり、冒険者ギルドへは10分ほどで到着出来た。


冒険者ギルドはやはりスカスカ。


だと、思っていたが違った。端の方に10人程度冒険者が集まり、何やら話し込んでいる。


よくよく見ると、掲示板のようで、俺は本日2度目の掲示板に溜息をつきながらも、次の瞬間、身体が強張るのを感じた。


「おい、見ろよ。ラグナロク議会で武装襲撃事件発生。議会を守っていた精鋭の騎士団は皆壊滅。ジオ・ボルニ上級議員が殺害された。だってよ。」


「ちょ…ま…ジオナントカってあれだろ、ラグナロク議会を仕切ってる11人のジジイ連中の1人……。」


ジオ・ボルニ。その名前は聞いたことがある。原作「レコードキューブ47」で主人公一行に情報提供をしてくれていた上級議会議員だったはず。


だが、アニメでも原作でもジオ・ボルニ上級議会議員が殺害されることは無かったはずだ。ということは…


「あいつが言っていた原作通りに行かないって、俺が

何かに介入しなくても発生するのか………。」


俺は新たに知識を覚えつつ、考えを脳内に展開する。


でも、生死や原作、アニメで発生するイベントが同じではなくても、キャラの職業は変わらない。


事実、ジオ・ボルニ上級議会議員は原作でもアニメでも上級議会議員であった。


ならばレイナやその他のキャラももうすぐ、高校に入学するはずだ。


ならば、その時に俺も人生2度目の高校生として、異世界LIFEを送ろう。


とか、何とか考え込んでる内に10分過ぎてしまった。


そろそろ、冒険者ギルドから雑貨屋までの荷物運びを始めなければならない。


そうして俺は冒険者ギルドの受け付け嬢に事情を話し、ギルド倉庫に案内してもらった。


だが…


「おい…木箱(大)50、(小)20個って…どうみても樽じゃねぇかかかぁ!」


そうなのである。実はこの冒険者ギルドから雑貨屋倉庫までの配達依頼、掲示板にはいつも貼ってあるのに進んでやる者はほとんどいない。


理由は単純。一件、楽そうに見えるが、荷物量がとてつもなく多いし、重い。結果、日雇いの中では給料が1番高いが、わりに合わないのである。


「ちっくしょおおお…。イリヤさんがなーんか笑顔だと思ってたらこれが理由か……。」


俺はショボくれた声を出しながら、引き受けてしまったものは仕方ないので、荷物を台車に積み始める。


木箱の中には回復ポーション、非常食などなど本当にバリエーション豊かな商品が積みこまれていた。


だがしかし…


重っい…。




結局、全て運び切るのに夕方までかかってしまった。


運動していなかったせいか、全身に激しい疲労と倦怠感を覚え、歩くのがやっとだった。


このぶんでは、明日は全身筋肉痛で動けないかもしれない。


俺は、何とか立ち上がると、依頼終了を告げるべく、イリヤさんのもとに向かった。


「よっ、おつかれ!い〜や〜助かったよ。普段は馬車を使うから出費がね。どうだい?来週も来てみないかい?」


「勘弁してください………。」


俺は、俺とは正反対に、今から商売!商売!といきり立っているイリヤさんに低く、嗄れた声でそう言った。日中、依頼に出ていた冒険者達が帰ってくるからだろうか、イリヤさんには今が始業時間らしい。


「連れないなあ。まあ、気が変わったらいつでも声かけてくれよ。あーあと、これ報酬。」


そういうと、イリヤさんは革袋を1つ寄越した。中には依頼達成のハンコが押された依頼の用紙と、約束通り3シル、銀貨が入っていた。


「ありがとうございます。」


俺は、今日1日の努力がやっと報われた気がして若干嬉し混じりに礼を言った。


「いいって。いいって。帰りに冒険者ギルドに依頼用紙の提出、忘れんなよ。」


どうやら、報われたと思ったのは間違いだったらしい。また、冒険者ギルドかよ!と思いつつ、俺は一気に疲れた身体を引きずって一路、冒険者ギルドを目指した。


冒険者ギルドに着くと俺は受け付け嬢に依頼用紙の提出とともにあることをした。


それは「ラグナロク第11高等学校」の資料請求。冒険者ギルドはただ冒険者が依頼を受けるだけでなく、様々な資料請求ができる観光案内所の役割も兼ねている為、冒険者だけでなく旅人の利用者も多い。


そして「ラグナロク第11高校」は「レコードキューブ47」で主人公やその仲間達が通うことになる高校。この世界の高校には固有の名前がなく、全て番号で管理されているのだとか。


だが、次の瞬間、俺は顎を外した。


「に、入学、初年度費用合わせて50ゴール………。」


………………………………………………………………


と、言うわけなのである。


結論から言えば、生活していくだけの金はある。


今後、日雇いから正式なバイト、就職などをすれば自由に使える金も出てくるだろう。


だが、今回は期限が決まっている。あと3ヶ月で最低でも入学金の20ゴールは稼がなければならないのだ。


「…カネがねぇ…。」


俺は再度、しわがれた声を出すと仕方がないのでベッドから立ち上がる。行動しなければ始まるものも始まらない。


俺は朝飯を済ませ、宿屋の看板娘に鍵を返して宿を出ると直ぐに中央市場を目指した。


とりあえず、手頃なバイトから始めてだんだん量を増やしていくつもりである。今できることはそれしかない。


やがて、活気ある中央市場が見えて来た。


通りは人が溢れ、店主と盛んに値下げ交渉をする者、自らの商品を宣伝する者、実に様々。このままもう少し市場を歩きたいなーと思いつつも、直ぐに首を横に振り、俺は掲示板の前までくると、今日の仕事を探し始める。


庭掃除、ベアウルフの散歩、魔法実験の手伝い…。


今回はあまり良いバイトがないようだった。


イリヤ姐さんの荷物運びのバイトは1週間に一度しかないため、来週まで待たなければならない。無論、もうあのバイトをする気はないが…


俺は悩んだ。ベアウルフは体力が無ければ出来ないし、何より名前から聴いて本能が激しく警鐘を鳴らしている。


かと、言って庭掃除は地味だし、報酬額低いし…


仕方なく、俺は魔法実験の手伝いの張り紙を掲示板から剥がす。一般人でも出来るみたいだし、時給もそこそこ。上手くいけばこの世界の魔法についても何か分かるかもしれない。


そう胸に期待を膨らませ、俺は張り紙の地図に従って市街地に足を踏み出した。


………………………………………………………………


目的地には20分程で着いた。


地図によると北東の科学魔術研究区に位置する為、やや南の中央市場にいた俺は少々、時間がかかってしまった。


思わぬ移動に、身体中から汗を吹き出しながらも、俺は地図に書いてある白い2階建ての建物の門を叩いた。


「すみませーん、掲示板のバイトに来たんですがー」


だが、返事が無い。


ゴンゴンゴン!と俺はもう一度扉を強く叩く。


「すみませーん、誰かいませんかぁ?」



やはり、返事が無い。ただのしかばねのようだ。


と、若干RPG風の言葉が脳内で再生された直後、扉が開いた。


ギィィっと、重苦しい音を建てて扉が開かれた先には1人の青年が立っている。


背は同じくらい、歳も…一緒だろうか。あまり変わらないように見える。顔立ちは良く、10人中9人が美男子の称号を彼にあたえるだろう。


すると、目の前の青年が、唐突だが、笑顔で話しかけてきた。


「いやー、すまない。居眠りしてしまったもので。失敬失敬。確か魔術実験のバイトしに来てくれたんだよね。助かるよ〜。散らかってるけど入って入って。」


…どうやら、ものすごく明るくフレンドリーな奴らしい。日本の学生なら間違いなく、クラスの中心にいるような奴だ。


俺は、言われるがままに、家に上がる。普段あまり他人と関わらない俺は、他人の家にドギマギしながらも、なんとか心を落ち着けさせ、ソファーに座った。


反対側には青年が座り、紅茶を勧めて来た。


「自己紹介がまだだったね。僕はシオン。君は?」


「俺はタカシです。よろしく。早速ですが何をすればいいですか?」


俺は手早く質問に答えると、仕事に移ろうとした。こんなの早く終わらせてとっとと帰りたい。


「あはは、働きずきなんだね。あ、それより紅茶、冷めちゃうよ。遠慮せず飲んでよ。」


シオンは、仕事内容には答えず、笑顔で答えを返してくる。俺は内心残念に思いながらも、紅茶に1口も付けないのはまずいと感じ、カップを口につけた。


そのまま少し飲み、そのまま飲み干そうとしたその瞬間、異常に気づく。


シオンの目が冷たい氷のような目をしているのである。直後背筋に強烈な悪寒が走る。



俺がカップを離そうとした時にはもう遅かった。身体が硬直し、カップが手から零れ落ちて、悲鳴を上げる。


そして、それと同時に今までになく強力な睡魔が俺に襲いかかった。


「っ……睡眠……毒…?」


俺は最後にそう言った後、一気に視界が暗転した。



そして


静寂が戻った室内に放たれた一言は。


「あーあ、またカップが駄目になっちゃった。」


………………………………………………………………



気づくと俺は知らない場所にいた。


知らない天井。


知らない壁。


知らない床。


どうやら室内にいることは確からしい。俺は起き上がろうと身体を起こした時、俺は身体が引っ張られるのを感じる。


いや、引っ張られたのではない。よくよく見ると、両手両足、そして首に拘束器具がつけられている。来ている服も薄い水色の入院患者の様な白衣である。


俺は何度かガチャガチャと脱出を試みたが、無理だった。黒い腕輪は、ランプの光を無慈悲に反射しつつ、俺を縛り続けた。


と、その時部屋の扉が開いた。中から3人の男が入ってくる。だが、その1人の正体は…


「っ……シオン!」


俺はいつぶりかに再会した雇い主の名前を呼んだ。動揺のせいか、いきなり大きな声が出てしまった。だが、この際仕方ないので、質問を続ける。


「おい、シオン!これどうゆうことだよ!離せよ!解放しろよ!こんな依頼だなんて聞いてない!なんで魔法実験の手伝いで、被験者を拘束する必要があるんだよ!」


俺は全身全霊で、シオンに今の怒りをぶつけた。部屋中に響き渡る声を出したので、喉が痛い。









だが、シオンの答えは…


口を三日月型に釣り上げた無言の笑顔。


俺は、その笑顔を見て途端に背筋に青いものが走るのを感じる。コイツは俺を売ったのではないか…と。


そして、その仮説はどうやら皮肉にも当たった様だ。

ずっと黙っていた付き添いの1人が被っているフードの奥から言葉を発する。


「よし、時間だ。始めよう。」


声からして男らしい。だが、その声は余りにも乾いていて、冷たい。そして………


言い終わると同時に男の手が刹那に煌めく。


ドスッ…


生々しい音があたりに響いたが、俺は最初、何の音かわからなかった。ただ、音と同時に胸に強い衝撃が…


と、そこまで思考を巡らしたところで、俺は自分の胸が、鮮やかに彩られている事に気がつく。胸の上には男の手が置かれ、やっと自分の状況を理解した俺は…


「あ、あ……あ…ち、…血が…血があぁぁぁぁ!」


徐々に覚醒して行く意識。全力で身体が悲鳴を上げる。ナイフが食い込み、今までに感じたことがない、とんでもない痛みが全身を駆け巡る。


男は刃物を捻りながら、肉を絶って行く。そのたびに堪え難い激痛が走り、拘束されているため反撃も出来ない。


俺は人生初体験の大激痛に、顔を歪め、拘束器具で恐怖の音楽を奏でる。


だが、その直後、痛みが消えた。


見ると、もう一人のフードの男が、何やら手から黄金色の光を放っている。その光に当たると、どうやら傷が回復するようで、俺の胸の穴はみるみる閉じてゆく。


一瞬、神が差し伸べた救いの手かと思い、俺は目から雫を垂らす。大激痛の後で視界が朦朧としているが、

俺はその光を精一杯受けようと、拘束された身体を動かす。


だが、そんな物は神の救いでも何でも無く。


むしろ逆だった。


「初回は上々。よし、2回目行くぞ。」








それからその小さな小部屋からは絶えず悲鳴が聞こえてきたという。中が地獄絵図なのは、間違いないだろう。



………………………………………………………………


暗い暗い部屋。


俺は考えていた。


なぜ、俺がこんなコトにならなければならないのかと。


今日で3日目くらいだろうか。


ここまでは、地獄だった。いや、地獄と言う言葉さえも生温いかもしれない。


痛みというものは慣れる事がないため、1番タチが悪いのだ。


今日まで、酷いことをされたというのは分かるが、何されたかまでは覚えていない。無論、思い出したくもない。


そこで、俺は再び原点に立ち返る。


何故、俺がこんなコトにならなければならない…


何故、今まで飛び切り悪いことをしたこともない俺がこんな仕打ちにならなければならない…


考えれば、考えるほど、心の中に憎悪と怒りが雪の如く降り積もる。


俺を売ったあのシオンへの怒り、運命への恨み、俺になんども刃を突き立てた作業員への恨み…


そして、人を簡単に信じてしまった俺自身への怒り、恨み。


そこまできて俺は頭に血が上り、拳を振りたい衝動に駆られるが、拘束器具がそれを許さない。


と、そのときドアが開いた。


入ってきたのはおなじみの作業員2人。俺は湧き上がる心の奔流を抑えつけ、静かに眼を閉じた。刃を刺されたことを認識した時が怖いだけで、それ以外は慣れてしまえばどうということはない。


俺は再び始まるであろう地獄に備えようとした時、フードの作業員が冷ややかな声を浴びせた。


「出ろ。」


俺はポカンとした。訳が分からなくなり、一瞬戸惑ってしまう。だが、それは次の瞬間起きた出来事により、強制的に理解させられた。


俺をここ3日縛っていた拘束が外れたのである。


手足には、くっきりと後が残っており物事の悲惨さを物語っている。


「付いてこい。」


再びフード作業員が冷たい声を出す。つまりは場所を変えるようだ。この隙に、脱出出来ないかと策をめぐらせるも、2人目の作業員の手が光を反射しているのを見て、中断せざるを得なかった。


自分の弱さに後悔しながらも、今は作業員に着いていくことにした。諦めなければ、チャンスは来るはずである。


やがて、壁が一面白い建物に出た。扉の前では武装した警備員が剣や弓をちらつかせている。


そして、部屋の上部には長方形の窓があり、そこから、ヘッドホンのような物を着けた作業員が2人、そして銀髪で高貴そうな衣服を着た女性が見下ろしていた。


俺は高みの見物客に怒りの視線を向けつつ、別の作業員と話している引率の作業員をチラリと見た。


やがて、規則正しい歩き方で戻ってきた作業員は、


「今日からこの部屋で、お前には戦闘訓練を受けてもらう。2032号。それがお前の番号だ。被験者は番号で管理する。これが、お前のキーだ。腕にはめろ。尚、質問、返答は許可しない。」


そういうと作業員は黒の腕輪を手渡した。どうやら、あの地獄は今日はしなくて済むらしい。そう思うと、安堵と緊張感の解れでその場に座り込みそうになるが、必死にこらえる。反抗的な態度を取れば、次は本当に殺されるかもしれない。


「説明は以上だ。お前の寝泊まりの部屋は番号に従い、2032号の部屋を探し出せ。それと、」


作業員はやはり冷たい声で話し出す。説明は以上と言いながらも、全然以上ではない。そう思いながらも、俺は最後の言葉の続きを待った。


「それと、ここから出たければ序列30番以内に入ることだ。見事序列の階段を駆け上がり、30番以内に入った暁には…………もう一度、外の世界を見せてやろう」


そう言い残し、作業員は去ってゆく。相変わらず言葉は冷たかったが、最後の一言にどこか温もりを感じたのは俺だけだったのだろうか…。



………………………………………………………………


弱肉強食。


この施設に名前をつけるのなら、この言葉がもってこいだと思う。


強い者が、弱い者を喰い、弱い者は強い者に喰われる。其れが当たり前だからだ。


実際、ガタイの良い奴のイジメにより、弱い奴が死亡するのは珍しくない。


そして、作業員もそれを黙認している。


つまり、ここは法律などという生易しい物は存在しない無法地帯なのだ。あるのはただ強さのみ。


食事を横取りする奴は勿論のこと、覚えたての戦闘術で喧嘩を売ってくる奴、一度協力を申し出てきたが、最後で裏切る輩もいる。


それも、これも、皆ここから出るには強くなるしかないと理解しているからだ。過去に警備員を力ずくで突破しようと試みた輩は幾度となくいたが、一度たりとも成功した奴はいない。


「使える物は全部使う。最後に勝利した者こそが全てか…。」


右も左も拳だらけ。そんな現実を見つつ、俺は施設の被験者達を分析する。今も、目の前で戦闘術を駆使した殺し合いが始まっていた。


この施設では、大まかに3つのカリキュラムがある。1つは、護身及び素手で戦う時の為に格闘術を習得させられる。流派はクロガネ流拳闘術と呼ばれる物らしく、相手の武器を奪うことと非常に攻撃に秀でた流派であるようだ。因みに今目の前では、クロガネ流拳闘術での殺し合いが行われている。


2つ目は剣、魔法、弓、魔銃、槍、短剣、刀の内から1つを選択して学ぶ、選択科目だった。俺は無難に剣を選択。意外と剣の選択者は多かったらしく、そこら中で火花が散りあうはめとなる。こちらの流派もクロガネ流であり、攻撃に秀でている為、技が決まると木刀でも死ぬほど痛い。でも、まあ、練習相手が多いということでは、いいことである。


そして、最後3つ目は戦闘や地形に関する知識。ペーパーテストなため、真面目に聞く輩は少なかったが、それでも役立つ情報ばかりだ。




ここを早期にでる方法は1つ。2ヶ月後のリーグ戦で序列30位以内に入ること。それを逃せばいつでられるかわからないため、次のリーグ戦では絶対に負けられない。


俺には、会いたい人がいる。その為にはなんとしてでもここを出なければ。たとえ、他人をどん底に叩き落してでも、


「俺はここを出る。」


俺は決意を新たに胸に刻むと、丁度通りがかりの挨拶に、飛び蹴りを食らわしてきた輩を投げ飛ばす。


人間とは、やればできる生き物らしく、こんな俺でもチンピラをぶちのめせるくらいにはなった。内心自分の進化に期待を覚える。外に出た暁には、転生直後に喧嘩を売ってきたチンピラに地獄をみせてやろう。


俺は意気揚々だった。


とある1人の男が話しかけてくるまでは。


「あ、あの。」


突然、背中に弱々しい声を感じた。声からして男だろうか。だがかなり貧弱だ。


「あ、あの!」


声が大きくなった。若干キレたのだろうか。俺はキレて飛びかかられても面倒なので、さっさと会話を終わらせようと、言葉を返した。


「何?」


振り向いた先には同じ歳くらいの青年が立っていた。俺は言葉に若干威嚇を込めたのだが、そんなことを機にするよしもなく、青年は言葉を発した。


「あ、やっと振り向いてくれた!俺、翔太郎っていいます。単刀直入ですが、もし良ければ俺と、2ヶ月後の試験、共闘してください!」



どうやらそういうことらしい。


2ヶ月後の序列試験は完全なバトルロワイヤル。最後の30人になるまで殴り合うルールである。


確かに、2人で行動すれば生存率は上がる。だが…


「無理。」


俺は冷たくそう言い放つ。脳裏に、うっすらと誰かの三日月型の笑顔が浮かんだからだ。


「そ、そこをなんとか。」


しかし、翔太郎は尚もしつこく迫ってくる。元商売人か何かだろうか。俺は、いい加減訓練に戻りたかったので無視して歩き出す。最終的に、「気が変わったら、いつでも言ってくださいねー!」と、背中に声がかけられたが、構いはしなかった。






………………………………………………………………





その日は、突然やってきた。


まず地面が揺れ、音魔術を使った術式だろうか。大音響で施設内に警報が鳴り響く。


丁度、被験者達は就寝時間。俺も私服に着替え、自分の部屋のベッドに入ってウトウトしていたところを狙ったかのように叩き起こされた。


慌ててドアを開けると、他の被験者達も同じらしい。ドアを開けたり、蹴破ったりしながら次々と顔を出す。


皆一同に今の心境を叫んでいるが、声が多すぎて聴き取ることは出来ない。統率性皆無だなと思いつつ、今の状況を把握しようとしたその時、又しても天空から大音響で声が響いた。


「第4ゲートに敵戦闘集団多数襲撃!レベル3〜5の警備員は至急現場に急行せよ!敵の武装は、魔導ランチャーと各種剣、弓の使用を確認!繰り返す!第4ゲートに敵戦闘集団襲撃!…」


その先は聴き取れなかった。皆一応に、雄叫びをあげながら出口へ向かって駆け出して行く。


理由は簡単だ。最初に誰かが、俺は逃げるぞと大声で叫んだからである。その言葉をピストルの音変わりに出口への全力リレーが始まったのだ。


俺も、人混みの中心に紛れつつ人に押されながら逃げる。何かあった時は端よりも生存率は高いはずだ。


そして、その予想は的中した。


先頭を走っていた被験者達が、丁度現場に向かうところだった警備員達と鉢合わせたのだ。


瞬く間に先頭で血みどろの戦いが始まり、次々に悲鳴や怒号が上がる。50メートル先では敵味方入り乱れての乱戦が起きている為、双方どちらも少なからず被害を受けてるようだ。


だが、このままでは押し負けるかもしれないと考えた俺はルートを変える事にした。施設内にある隔壁が降りていない事を見ると、敵の武装集団が装置を、破壊した可能性が高い。俺はそこまで思考を巡らすと誰もいない脇道を走り出す。


曲がり角は慎重に、直線距離は走る。


どうにかして出口を見つけなければならない。かと言って武装した警備員や敵と鉢合わせれば、即死だろう。


俺は色々な考えを巡らせつつ、一通り走ると見覚えのある道へでた。いつも食堂の時に通っていた道である。この辺りには備品が保管されている倉庫が多い。出口へ出たいのに食堂へ来てしまい内心情なく感じるも、来た道を折り返す。


と、その時、俺は少し扉が開き掛かった扉の前を横切る。そして、記憶の断片が蘇ると同時に言葉が勝手に零れた。


「ここ、もしかして」


言うと同時に扉を開け放つ。そして今の自分の状況を覆すかもしれないブツを俺は発見する。


「やっぱり武器庫だ。」


そう、武器である。


今まで手ぶらだったが、武器があれば話は別。俺は近くに転がっている剣を一本取ると、すぐさま走り出した。武器庫の中が真新しく散らかっている為、直ぐに離れた方が良いと判断したからである。今はとにかく急がなければ。


いつのまにか悲鳴や怒号はそこら中から聞こえてくる。俺がいない間に散り散りになったのだろう。それともゲートに集合した警備隊を敵の戦闘集団が破り、内部へ突入したのか。



俺は考えながらひたすら出口を求めて走った。いつのまにか曲がり角も速さに任せて突っ切るようになり、どこか古代ローマの主人公のようにひたすら走った。


そして、目的を深追いしすぎたせいか本来の冷静さを失ってしまった。


壁の角から女性が1人飛び出してくる。


俺は咄嗟に地面に足をつけるも、威力を完全に殺しきることは出来ず、女性を突き飛ばしてしまった。


俺は近くの壁に腰を打ち、軽い呻き声を上げるも今はそれどころではない。突き飛ばしてしまった女性を見ると、幸い大きな怪我はしていないようで、ほっとしたのもつかの間、俺は硬直した。


銀髪、ポニーテール、ドレス。


記憶の欠片が過剰な反応を示す。


間違いなく、俺の地獄が終わったあの日。長方形の窓から俺を見下ろしていた人物だ。


「いたた、すみません。追われていたもので、警備員をみませんで…し…」


そう言ったところで、彼女の口が止まった。


「貴方は…」


遅れざまに、言葉が放たれた。どうやら彼女も覚えていたらしく、驚きの表情を隠せないでいる。


まさか、こんなところで生きて再会するとは思わず、驚きがわきあがるが、それよりも遥かに強く俺にはこの女性を見れば見る程、とある感情が芽生えていった。


「失礼。以前、ガラス越しにお会いしましたね。私は、セリエ・エリビア。唐突ですが、警備員の居場所をしりませんか?応援の警備員を呼びたいのですが、場所が分からず、逃げてる内に内部に進入した敵に追われてしまって。…」


女性は、尚も急いでいるように話しかけてくる。綺麗な顔立ちだが、見れば見る程とある感情が嵐の如く、心の中を吹き荒れる。


「あの、警備隊をしりませんか?前線の警備隊はもう長くはっ…………」


ドタンッ。


俺はもう我慢が出来なかった。女性を押し倒し、喉に鞘から抜いた剣の先をあてがう。


「知りませんよ、そんな奴ら。てか、人にあんなことしといて良くそんなこと言えますね。人って助かりたければどんなことも言えちゃうんですかね。それとも、俺がされた事、今この場でしてもう一度あんな事が言えるか、試してみますか…?」


俺を支配していた憎悪は限界を越え洪水のように心から溢れ出た。剣だけが、何も言わずに女性の喉を無慈悲な銀の灯りで照らしている。


俺は女性の首を持ち、勢いをつけて吊るし上げる。勿論剣先を当てながら。女性は空中で身体を揺らして暫くもがいていたが、やがて死を受け入れたのか、俺の目に焦点を合わせると、震えながらもかすかに、しかしはっきりとこう言った。


「ごめんなさい。」


俺は何故か、左手から力が抜けていくのをかんじる。握る剣を押そうとしても、刺そうとしても何故か力が入らないのである。ただ、助かりたいだけに口から出まかせを言っているに過ぎない。そう分かっていても、女性の目の奥を見ると、どうしても左手が動かないのだ。仕方なく、俺は渾身の力で右手を大きく振ると、女性を放り投げた。


ドガッ、と壁に打ち付けられた女性は小さく呻き声を上げたがしかし直ぐに起き上がる。一瞬ゾンビかよと思った。


だが、その刹那。


一陣の紅の流星が、俺の目の前を尾を引きながら横切り、壁に当たると同時に小さく炎を吹き上げた。


俺は咄嗟のことに身構えると、小さな魔弾の飛んできた方角に向き直る。


「小隊長!居ました!目標です!」


「殺せ。」


向き直った先には5人程、さながら特殊部隊のような魔銃と大楯を持った武装兵がいた。どうやらさっきのやりとりで呼び寄せてしまったらしく、全員息が荒い。この女性を追っていたのはどうやら、彼らなのだろう。


女性はというと、隅っこで小さく震えている。俺は心底情けないと思いながらも、その場から立ち去ろうとする。この調子なら彼らに任せても問題ない。


が、立ち去る直前、女性は俺に目尻を光らせながら何かを伝えるように再度視線を向けて来たのだ。


俺は構わず立ち去ろうとしたが、何故か無意識に抵抗を覚える。身体がこれ以上進むことに拒否反応を示して進まない。日本にいた頃によく見た影の女の顔やとあるこの世界の青年の不気味な笑顔が走馬灯のように再生される。


俺は一度だけ、後ろを見た。


女性は尚も俺を見つめ続けている。ここで目の前の脅威を排除しても、あの女がその後、弱った俺を殺さないとは限らない。そう理解出来ているのに、何故か今日の俺は、その一歩を踏み出してしまった。


「っ……あぁ、もう…………くそう。」


俺は情けない声を出しながら後方に振り返ると、今にも女の命の灯火を消そうとした兵士2人の内、1人の首元に回し蹴りを打ち込む。


クロガネ流拳闘術 2ノ型3番「翔蓮波」


奇襲が成功したため、俺の回し蹴りは半円を空中に描き出して、兵士2人を纏めてなぎ倒した。俺は後ろに引いてバランスをとっていた両手を咄嗟に腰に回すと、今度は持っていた剣を片手で大上段に構える。


クロガネ流剣術 1ノ型4番「昇天雀」


大上段に構えた剣を地面と平行にし、一見突き技と見せかけて、剣を回転、下から袈裟がけ切りを放つ。盾の隙間から入れた剣先は、兵士2人を切り裂き、断末魔の絶叫を上げさせた。


だが、流石に数には対処しきれなかった。俺の剣は兵士2人を一度に下から真っ二つにし、続いて最後の隊長らしき人物を、永遠の闇に葬ろうとした時。


バンッ!


隊長は、仲間が身を持って稼いだ時間に一丁の拳銃を取り出すと自分の身を犠牲に最後の抵抗を試みたようだ。俺の剣と入れ違いに1発の魔弾が空を駆け、俺の左肩を貫く。


1テンポ遅れて、俺の剣が隊長兵士に到達し、肩から腹に掛けてを切り裂く。両者違いに魂の絶叫をあげてそのまま痛みを堪え、同時に地面に倒れこんでしまった。


即死なのか、隊長は硬く眼を閉じている。俺は左肩を撃ち抜かれ、出血に身悶えする。痛みには慣れて来たつもりだったのたが、突き刺されるのはやはり痛い。


暫く左肩を押さえ、止血しよう立ち上がろうとしたその時。


肩に手が掛けられた。


一瞬新手かと思うが、違う。見ると女性がドレスのスカートを切り取り、俺の左肩に巻きつけている。女性の目は涙で濡れているが、だがその眼だけはどこか慈愛に満ちた表情をしていた。


俺はポカンとして暫く口をあんぐり開けて待機して

しまう。


何故、この女は自分を殺そうとした人間を手当てするのか。


何故、この女は弱った俺にトドメを刺すでもなく、逃げるでも無く、治療という選択肢を選んだのか。


そこまで考えた時、俺は心の中に何かが入ってきた感覚に襲われた。慌てて女性の腕を右手で弾き飛ばし、何か心に入って来た物を追い払うように言葉を紡いぐ。


「勘違いするな。俺はただ人の獲物を横取りしようとした奴らをシバいただけだ。本当なら今すぐにでもお前をブチ殺したい。だが、生憎今日はハードスケジュール……だから次会った時は……」


そこで俺は一呼吸入れる。言いたい事は山ほどあるが、時間がない。


俺は一呼吸入れると今までの憎しみを最大限乗せ、銀髪少女に最後の言葉を言い放った。


「苦しませながら殺してやる。」


俺はそれだけ言うと血の匂いで充満した通路を走り出す。そうしなければならない気がしたし、そうしなきゃならないと思ったからだ。


……………………………………………………………


その先はもうあまり覚えていない。


ただ、そこかしこに死体が転がり、呻きごうがこだまする道を俺はひたすらに。外を、自由を目指して走り続けた。


やがて、懐かしい光の断片が見えてくる。


懐かしい、懐かしいオレンジの光。


俺は1歩。また1歩と走るスピードを速め、 そして


もう1度、世界を見つけた。


「帰ってきた。」


自然と口からは言葉が、目からは涙が溢れてくる。


今俺の眼下にはオレンジ色に輝きを放ち、半分だけ顔を出した太陽と今まさに眼を覚まそうとする夜明けのラグナロクが広がっている。


もう1度俺の物語を始めよう。


今度はちゃんとした青春ってやつを。


もう後悔しなくて良い様に。


俺はそう頭の中流れた声を聞きながら、夜明けのラグナロクの中にある、1つの建物をずっと見続ける。





それから数分間、ほのかに淡いオレンジの光だけが、俺の影を静かに揺らしていた。






皆さまこんにちは、こんばんはt2です。

まずは更新遅れすみません。>_<


今回は新展開です>_<次回から入学編に移るので皆さまご期待よろしくお願いしますです>_<


で、では…一回寝ます>_<

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