異世界転生初日
説明回。
第3話
異世界転生初日
俺はハッと眼を覚ました。
徐々に明るくなる視界。
鼻をツンと刺激する嫌な匂い。
見ると何処かの路地裏にいるらしかった。
周囲には大小様々なゴミが散らばり、その種類も生物から、タイヤから中には新品な自転車まで、実に様々だ。
幸い、道も分からない迷路のような路地裏では無いらしく、近くの角からは自動車が走る音や人々の喧騒が聞こえてくる。
俺は、久々に感じた新鮮な外の空気を吸うために表通りへ出ようとした。その時だった。
突然、曲がろうとした角から人が出て来た。どうやらタイミングが悪かったらしく、新鮮な空気を吸おうと走り出していた俺はその人と盛大にぶつかってしまい、思わずよろけた。
慌てて起き上がり、さっさとぶつかったことを謝ろうと思ったのだが…
「って…あ?…ガキじゃねぇか。俺等のテリトリーで
何やってたかはしらねぇが…一応ボスには報告し
ねぇと…。ちぃとツラかしてもらうぜ。」
どうやらタイミングだけでなく運もとんでもなく悪いらしい。
見ると男は金髪、サングラス、黒のジャケットでリアルガチなチンピラだ。今現在も口元に笑みを浮かべながら、指をゴキゴキならしている。
相手は1人。このまま大人しく投稿するか、逃げるか…。
俺は一瞬考えると、迷うことなく後者を選択した。
理由は至極単純。チンピラのお誘いなんて碌なもんじゃ無いからだ。大方、5〜6人で取り囲んでのリンチだろう。現に目の前のチンピラの腕の音がそれを物語っている。
俺は近くのボールを1つ拾い上げた。
「あ?なんだ?キャッチボールか?お前ナメてんの?」
どうやらこの世界にもキャッチボールは存在するらしい。半ばどうでも良い知識を手に入れた俺は、無言で、だが華麗なホームでチンピラに返事を返した。
狙いは眼球。上手くいけば暫く眼が麻痺し、見えなくなるはずだ。幸い至近距離だったこともあって目論見は成功。チンピラは左目を押さえながら地に倒れこんだ。
「があああぁぁ!眼が!眼がぁ…眼が見えねぇ!!」
半ば厨二チックな言葉を発しながら身悶えするチンピラを横目に見ながら俺は全速力で走り出す。チンピラの視力が回復する前に逃げ切らなければ次は無いからだ。
間違えて表通りではなく、路地裏にきてしまったが、この際仕方ないので走る、とにかく走る。
が、ここで俺はあることに気がついた。
足が速いのだ。日本にいた頃よりも格段に上がっている。それどころかこのスピードならクラス1足が速い宇野と勝負しても負けないレベル…。
「いったい…どういうことだ…?」
俺は無意識にそう呟くと自分の身体をまじまじと見つめる。するとどういうことか、全く運動などしていなかったのに、筋肉ががっちりついている。
「え…コレ…もしかして…」
そこで俺はある1つの可能性を思いつく。俺はその仮定を確かめるために走るのをやめ、とある物を探す。
それは透明で、平べったくて、反射率100%の…そう、鏡である。
俺はおずおずとその鏡に自分の姿を写す。すると、先ほど俺が予想した仮定はあっていたことが証明された。
どうやら転生に伴い外見リニューアルされたらしい。
鏡に写った自分の眼はエメラルドグリーン。髪は全体的に毛先が左側に整えられている。素顔は、まあイマイチだが、日本にいた時の地味な顔つきと比べれば、
万々歳である。
「マジか、コレ俺?…眼がエメラルドグリーンとかち
ゃんと2次元補正もされてる…。嫌外見だけじゃな
く体力もか…結構サービスいいな。」
俺はあの自称神に半ば本気で感謝すると、改めて自分の顔を見つめる。イケメンとはいえないが、まあ、悪くは無い。至って平凡。
だが、それが命取りになった。次の瞬間、背中に強い衝撃が走る。いきなり奇襲を受け、倒れざまに後ろを見ると…さっきのチンピラだった。
「散々てこずらせやがって…。挨拶がわりに顔面にボ
ール投げつけるか良い度胸だな。あ?オトシマエは
きっちり返させてもらうから、覚悟しとけや。」
どうやら自分で自分の顔に見惚れている内に、さっきのチンピラに追いつかれてしまったらしい。しかも、投げたボールがかなりのクリティカルヒットだったらしく、とんでもない量の血が頭に登っているようだ。
周囲に武器になりそうなものはなし、この1本道を真っ直ぐ走れば表通りだが、こんな1本道で背中を無防備に晒せば背後からの攻撃は避けられない。
チンピラはジリジリ滲み寄ってくる。何処かに隠していたであろうナイフを左手にちらつかせて。
絶対絶命…最大のピンチ…。
だが、その時神のおぼしめしか半ば奇跡が起きた。表通りから足音が複数、数にして3人、こちらに走ってくる。そしてその3人の正体は…
「公安局だ!おい、そこのお前!何してる!」
全員青の軍服のような物を着ていて、1人は腰に刀、2人は杖を持っていた。と、その時俺は今まで感じていた恐怖の源が瞬時に消え失せるのを感じた。見ると、さっきまでの威勢はなんだったのか、チンピラは背中を向けて全力疾走していた。
この世界のチンピラはこんなにも情けないものなのかと、1人愕然としていると、不意に声を掛けられた。
「君、大丈夫か?私は公安局ラジール支部副支部長、
ラグナ・ドリエルだ。先ほど眼が痛いという悲鳴を
聞きつけ、急行したのだが…良かった。怪我はして
いないようだな。」
そう言うとラグナ副支部長は手を差し伸べて来た。本来ならあのチンピラに差し伸べられるハズだったが…都合の良い解釈なので乗っかっておこう。
俺は副支部長の手を取ると、お礼を言った。
「ありがとうございます。助けていただいて。」
「いやいや、これが我々の仕事だから。お礼はいい
から、いったん支部までついてきたまえ。保護した
人物の手続きやらなんやらをやらないといけないか
らね。」
そういうと俺は4人の公安局職員に護送され、ラジール支部を目指す。さっきは気づかなかったが、どうやら4人いたようだ。
支部へは20分ほどで行けるようで、俺は歩きながら頭の中で記憶の断片を探す旅にでた。
(公安局…確か日本の警察のような機関のはずだ。一般市民の取り締まりや、街の警備。唯一違うところは
+で徴税の役割くらいか…。)
と、すると大きな建物の前にでた。正面の扉の前に2人、同じ青い制服をきた門番が立っていることからここが支部だろう。思いの他早かったなと思いつつ、俺は大きな広間に通された。
暫くここで待つように、と護送してくれた公安局員の1人がそういうと、副支部長は奥の部屋に入っていった。見渡す限り、普通の部屋だった。壁は灰色のコンクリート。中央には2つのソファーと1つの長机。暫く待つには持ってこいの部屋だった。
やがて、副支部長が戻ってくると、その手にはある1枚の紙が握られていた。
「いやはや、遅れてすまない。これに名前と出身地、
それから履歴を書いてくれ。」
どうやら軽いアンケートらしい。俺は、あの自称神が作ったこの世界の記憶を思い出しながら、スラスラと身分証明を進める。生まれた時から親に捨てられ、15年間施設で過ごし、16歳になったつい先日、施設を出た不幸な子として。
「生まれてすぐ親に捨てられ、15年間施設、でつい先
日施設を出たばかり…君も大変だね。えーと出身地
は…おや、イズナ地方からか、ここまでかなりの長
旅だったんじゃないか?」
「え、えぇ…かなりの長旅で…疲れたところをあの不
良に襲われてしまい、逃げてる内に良く分からない
ところまで来てしまったのですが、ここ何処です
か?」
俺は即興の作り話を展開し、なんとか場をやりすごし、ついでに自分の現在地も聴きだす。この先、自分の居場所も分からなければ面倒なことこの上ないからだ。
「ここかい?ここは科学魔術研究都市ラグナロク第2
の都、フーリエ 。そこそこ有名な都市のはずなんだ
が…まぁ、フーリエは入り組んでるしな、無理もな
い。」
そこまでいうと、部下だろうか、部屋に突然公安局員が1人入室し、副支部長に耳打ちした。一瞬、俺の処分でも考えているのかと、背筋が青くなったが、直ぐにそれは打ち消された。
「すまない。実は今までの面談はただの言い訳だ。実
は、君を襲っていたあの不良。あの不良が所属して
いる組織に近頃怪しい動きがあってね。君も仲間じ
ゃないかと疑っていた。けどもう大丈夫。データベ
ースの情報では、あの組織に君みたいな少年はいな
いし、それにこうやって面談しても君は悪い人間に
は見えない。」
俺はポカンと口を開けた。
一瞬何を言っているのか分からなかったが5秒後にようやく理解し、慌てて応答する。
「いえ、私は助けて貰えただけで感謝ですし、一緒に
いた人間を疑うのは無理ないと思いますです。」
若干、言葉遣いがコミュ症待機勢の俺にあるまじき物になっているが、この際仕方ない。
「そうか。なら良かった。ところで…何も荷物がない
ところを見ると全て盗られてしまったのだろう。こ
れを使いなさい。」
なんとか場を繋げたことでホッとしていると、副支部長がテーブルの下から1つの皮袋を取り出した。置かれたときにジャラッと音がしたことから察するに…
「これは…銀貨?」
予想どおり金だった。中には10枚ほど、銀貨が入っている。
「10シル。これで2日は生活出来るだろう。」
「え…でも私何もお礼が…」
「何を言っているんだ。税金は皆のため、迷える子羊
のため。今使わなくていつつかうのかね?」
何やら占い師のような事が聞こえた気がするが、この際どうでも良い。俺は仕方なく、2日ぶんの金を受け
取り、公安局をでた。どうやら相当長くいたらしく、夜はだいぶ冷え込んでいる。見上げれば見渡す限り、満点の夜空。時間がたつのはこんなにも早いものなのかと、思いつつ、俺は今晩の宿を目指した。
副支部長は、もう遅いから今晩は支部に泊まるようにと言ったが、助けて貰った上に2日ぶんの生活費まで貰い、その上泊めて貰うのは気が引けたので、俺は半ば強引に断る。
ならばと副支部長は1番近く安い宿へ行く道が書かれている地図を寄越し、俺を解放してくれた。
良い人ではあるが、ちょっとおせっかいな人であるらしく、副支部長の部下の日常が気になるところ…
と、なんだかんだ歩いているうちに、宿についた。看板には大きな文字で「風の酒場」と書かれている。本業は宿屋なのに何故酒場?と思いつつ、俺は目の前の大扉を押し開けた。
「いらっしゃい。あいにく酒場はそろそろ閉店でして
…宿泊ですか?」
中からは、赤髪ポニーテールの女性が出てきた。年は同じくらいだろうか、いかにも酒場の看板娘、という感じである。
「あ…はい。宿泊です。取り敢えず今日の夜お願いし
します。」
俺は一瞬たじろぐと、矢継ぎ早にそう答える。女の子への免疫がないせいか、一瞬たじろいでしまった。
「そうですか、ではこの羊皮紙に記入を。それとこれ
がお部屋の鍵です。部屋は2階の1番奥にございます
。ではごゆるりと。」
赤髪の看板娘はそれだけ言うと、酒場の方に行ってしまう。俺は用紙に必要事項を記載すると2階の部屋に向かった。
途中、階段が急で登りづらかったが、なんとかたどり着きドアを開ける。だが…
「うわあ…ベット以外何もないな。1日5シルしかしな
いのはこうゆうことか。」
この世界の平均的な宿の値段は約8シル。安くても7シルくらいなため、5シルという破格の値段で提供しているからには仕方ない設備だ。でも分かっていても、小部屋にベットが1つしかないのは、精神的に落ち着かない。
「でもま、1泊止まるくらいなら十分。さてと、疲
し、そろそろ寝るか。」
そういうと俺は、靴下と靴を脱ぎ、布団に入る。風呂は…朝風呂で良いだろう。
俺は布団に入り、藁布団をかける。そしてそのまま意識を睡魔に委ねようとした時、ハッと気がつく。
「あ、やべ。そういや現時点で俺が知ってるこの世界
の情報、整理しとかなきゃ。」
俺は何か書く物はないかと探したが、布団と自分以外には何もなかった。仕方なく、紙の捜索を断念し、記憶の引き出しを漁り始める。
浮遊世界グラヴィア。
それがこの世界の名前である。その名の通り、この世界は空に浮いている。
分かりやすくいえば、昔ヨーロッパで信じられていた、世界は円形で世界の果ては滝。という考え方が最適かもしれない。
この世界も円形であり世界の果ては滝である。滝の先はグラヴィアがとんでもなく上空にあるために滝の水が霧となって視界を覆い、何もわからないらしい。
グラヴィアの中心には大きな円形の大陸がある。その周りは小さな列島や島々、弓のように曲がった大陸が取り囲むように点在している。
そして今俺がいるのはグラヴィアの中心、世界1デカイ円形の大陸、ジラルダ大陸。およそ100年前この大陸で大きな戦争が起こった。
7年戦争と呼ばれたその戦争。争ったのは北部の科学武装国家エリビアと、南部の魔術国家バルギニア。
その名の通りエリビアは科学、バルギニアは魔術が発展し、当時、最強の国家だった2国は表面上は仲良くしていたが、裏では国交断絶寸前だった。
やがて圧倒的な軍事力で周辺諸国を次々に属国にしていくエリビアに対し、「脅威になる」、と判断したバルギニア上層部は隙をつく形でエリビアに宣戦を布告。
国中の魔術師、物資、兵器を総動員し、全力でエリビアを潰しにかかった。
そして、突然の宣戦に対応しきれなかった国境近くのエリビア軍は壊滅し、勝敗はバルギニアに傾いたと思われた。…だが…エリビアも負けてはいなかった。
国境近くの砦が全て制圧されてしまったことに対してエリビアは異常事態宣言を発令し、エリビアの全戦力を持って砦の奪還作戦を決行。その中に…エリビアの切り札がいた。
未確認特殊能力。通称uspや固有能力とも呼ばれるその力。言ってしまえば超能力である。特徴は能力使用時、身体から青く光る粒子を放出すること。
この青い光りの粒子が何なのかは科学の力を持ってしても未だ分からず、謎が多い。ただ、この青く光る粒子の放出量が高い能力者は全て、極めて強力な能力をもつ。
例えば隕石を降らす、空間を歪めるなど、いずれも反則級な能力である。
エリビアはそんな超能力者を集め、研究し、青く光る粒子の招待はわからなかったが、代わりに偉大な成果を上げていた。
即ち、超能力者は「きっかけ」があれば誰でもなることができると。普通の極平凡な一般人でも「きっかけ」さえあれば、次の日から世界が変わる。だが、その「きっかけ」にめぐまれ、能力者になる人はごくわずかだとか。
…当時、この事実は国のトップ数人以外、秘匿されていたが、現在は公開されている。
と、思考がズレてきたが、要は反則級の能力を持った能力者達をエリビアは切り札として戦場に送り込んだのである。
結果、能力者達はエリビアの期待を半分実現し、半分実現できなかった。というのも、能力者は確かに戦場を蹂躙した。だが数で押されればいくら能力者でもきつい。結果砦を奪還することはできたが、上層部の思惑通り、そのまま首都まで占領は無理だった。
この、世界の2大国同士の戦いはやがて7年間戦争を続け双方合計犠牲者5億人というとんでもない数字を出し、見兼ねた中立国が間に入ったことでようやく集結した。
現在ではこの7年戦争の激戦地であるエリビアとバルギニアの国境地帯(ついでに言うと俺が今いる場所も)は、再び戦争になることを防ぐため、いかなる国、機関にも所属しない研究都市や学園都市が集中している。
双方本気でぶつかりあったため収拾がつかなかったとか。
そして、100年後の今、とある学園の少年少女達が己の願いを叶える為、レコードキューブと言われる記録装置の47番目を探す。
それがこの「レコードキューブ47」の世界だったはずだ。
と、そこまで思考を、回していたところで窓を見るとすでに外に灯りはなく、皆寝静まっているようだった。酒場の喧騒もいつの間にか止んでいる。
俺は少し夜更かしし過ぎたかな…と思いつつ俺は本格的に意識を睡魔に委ねることにした。
明日からは異世界生活。きっと楽しいこと、辛いこと、たくさんあるだろう。でも、俺は俺成りのやり方で未来を切り拓いていく。
徐々に薄れゆく視界。俺は決意を新たにしつつ漆黒の海に呑まれていった。
こんにちは!こんばんは!TKCパート2です(*^ω^*)
イヤー私としたことが投稿日の記載を忘れると言う(殴
改めましてレコードキューブ47は毎週月曜更新予定です(*^ω^*)楽しみにしてた方、すみませんm(_ _)m今後とも応援よろしくお願いしますm(_ _)m
次回は入学直前までの話を書こうかな(´∀`=)
それでは、皆様、また来週〜!