転生編
転生神との出会い。
第2話
神?
俺は不思議な場所にいた。
その場所には色がなく、音も聞こえない。あるのは地面を覆っている霧の様な物だけ。そんな空間に俺は一本の樹の如くぽつんと立っている。
見たこともない場所だが、何故か懐かしいような、心が落ち着くような不思議な感覚だ。
と、その時、俺は10メートル程先に人が1人立っているのを見つけた。さっきまでは誰も居なかったのに。途端、背筋に冷たい者が走るが、必死でこらえる。
見渡す限り、俺以外には前にいる青年しか人がいない様だ。ならばここがどこか、聞けば分かるかもしれない。
そう判断した俺は、その青年に歩みよった。歳は同じくらいだろうか。身長もさほど変わらない。
そんなことを考えながら青年に声をかけようとした途端、その青年がくるりと振り返った。
その顔には見覚えがあった。
いや、いつも見ている。朝の洗顔の時に。
そう、俺が観ていたのは俺だったのだ。
俺は声が出ず、唖然としていると、もう1人の俺が逆に声を掛けてきた。
「ようやく目覚めたか。ようこそ、転生の間へ。
永谷崇史君。」
俺は、更に唖然とした。一瞬鏡をみているのかと思ったが、それは直ぐに打ち消された。もう1人の俺が喋ったのだ。それに…今コイツ転生のナントカって言ったような…
「俺は…死んだのか?」
俺は必至に恐怖を押し殺し、それだけ言葉を紡いだ。するともう1人の俺は口元に笑みを浮かべながら返事をしてきた。
「おー、いきなり喋れるのか。普通はもっとガッ
クガクに震えてなだめるのが大変なのに…。め
ずらしい個体だな。そうだ、その通り、お前は
死んだ。出血多量でな。今頃お前の身体は棺の
中だとおもうぜ。」
妙に明るい者言いに、だんだん恐怖が晴れてきた。個体トカナントカ失礼なワードが聞こえた気がするが…悪い奴ではないらしい。
俺は質問してみることにした。情報は大事!mmorpgで学んだ俺の人生教訓の1つ。カードは出来る限り、多く持っていたい。
「アンタ…誰だ?」
「俺か?…俺はうーん…お前らの概念だと神って
のが一番近いな。そうだ、俺は神だ。ここで死
んだ魂の転生やってる。お前もこれから転生予
定だ。どこ行きたい?言ってみろ。」
「それは…行きたい世界に行けるという?」
「まあ…そうだ。ここは前世の教訓生かして次の
世界を選ぶ場所だからな。特に希望がないなら
元の世界にぶち込むが…良いか?」
俺の頭はオーバーヒート寸前だった。コイツは今、行きたい世界に転生させてくれると言った。
ならば…こんな現実にオサラバして…
「おーい、おい。どうした?ラグか?」
「お前!良いやつ!俺!お前の事忘れない!
レコードキューブ47の世界にいっちょよろ
しくお願いします!!!!」
俺はそういうと、神の手を強く、それは強く握りしめた。対する神は「お…おぅ…」と若干弱々しい声を出した。語尾が引き気味だったのは気のせいだろうか…。
「わ、分かった。やってやるからそこに立て。記
憶消して、直ぐ転生だ。他の個体の導きもある
んだから早くしろ。…………ん?どうした?」
俺は、愕然とした。今コイツは記憶の削除をすると言った。つまり…嫌な思い出だけじゃなく…消えるのは…あの子への想いも消えてしまうという事だ。今まで俺を支え続けてくれたあの子。どんな時でもあの笑顔があったから頑張れた。だから
、俺はここで引く訳にはいかなかった。
「あのー、記憶の削除…パス出来ませんかね?」
「ん?どうしてだ?」
「俺、日本にいる時、毎日毎日退屈で、生きる理
由がわからなくて…。毎日、涙を流さず泣いて
たんですよ。でも、そんな俺をあの子の笑顔が
救ってくれたんです。だから、俺はあの笑顔を
消したくないし、忘れたくない。憶え続けてい
たいんです。だから…」
そこまで言うと、脳裏に1つの情景が浮かんだ。
アニメの最終回、向日葵畑の中、登場人物全員が笑顔で撮った写真。俺も写りたかった写真。
神は顎に手をあて、暫く考えていた。やがて顔あげ、顎に当てていた手を放すと…
「まあいっか。お前1人が、前世の記憶があるって
言ったところで、誰も信じないしな。今回だけ
特別だ。次はないからな。」
神はそういうと、ニコッと笑ってみせた。普段なら自分で自分の笑顔を見るなんてタダの恥ずかしい人だが、今日は不思議と恥ずかしくはなかった。
「よーし、じゃあ記憶を消さない代わり、お前の
頭に向こうの世界での生い立ちの記憶を流し込
むぞ。記憶が消せないんじゃ、赤子からやり直
すのは無理だからな。えーと、産まれた時から
親に捨てられ…15年間施設で過ごし、この春施
設を出た。こんな感じでいっか。あとは向こう
でなんとかしろ。そんじゃ、1ついくぜ。やれ
やれ、とんだサービス残業だ。」
俺は神に感謝していた。やはりコイツ、悪い奴じゃ無いらしい。世の中には神に反逆をする人間を描いた作品も数多くあるが、神はそれほど悪い奴ではないようだ。
「ありがとな、神様。俺頑張ってくるぜぇ!」
「サービス残業は普通、礼なんかいわれねぇよ。
あ、1つ注意点。お前が行く世界、なんかのア
ニメらしいが、原作通りには行かないからなー
。そこんとこだけ注意しとけ、それじゃな。」
そういうと神は指をパチンッと鳴らした。途端、視界がぼやけ、色の無い世界が回り始めた。それはどんどん加速し、やがてその色の無い世界は薄れ、やがて何も見えなくなった。
ついに転生編終了です。次回からは、早速異世界生活について書いていきます。まだまだ続く予定なので乙ご御期待!です。