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れいしょういっぱい  作者: 叢雲ひつじ
8セーブ目
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8セーブ目(13)

「「うう~……酷い目に遭った……」」

「こっちの台詞だ……」

 (うな)()れる双子の声にも言い返した月照の声にも、全く力が籠もっていない。

 しかしどれだけ互いに不満があろうとも、今は素直に全員無事生還できたこの奇跡を喜ぶべきだろう。

 だから月照は気持ちを静め、優しく双子に声を掛けた。

「……怪我無いな?」

「「みっちゃんは毛が無くなってしまえ!」」

 だがそんな優しさが通じる相手ではなかった……。

「恐ろしい事言うな!」

 人一倍ストレスに悩まされる人生を歩んできた月照は、本能なのか(とっ)()に頭を押さえて叫んだ。

 今は年齢のおかげで全く問題無いが、将来の心配は無い訳ではない。まして住職が化けて出る様な酷い放火事件があった寺社跡地前でこんな呪いめいた事を言われると、冗談では済まなさそうな恐怖がある。

 しかし双子は意を決した風に続ける。

「今度こっそりここに来て」

「そこの木に(わら)人形を打ち込んでやる」

「「『みっちゃんの胸毛』って書いて!」」

「生えてねえ!」

 ビシッ! と立派な木を指差す双子に、月照はつい声を荒げてしまった。

「てかなんでそれをピンポイントで呪うんだよ!?」

 呪いを叶える心霊的な存在が何なのかは知らないが、そんな事を頼まれても相当困惑すると思う。

「「だって、もじゃもじゃしてたらなんか嫌だし」」

 ※あくまで双子の個人的意見です。

「してねえし、家系的に将来も大丈夫だ」

 少なくとも一緒にプールに行った時などに見た限り、父親も生えている様には見えなかった。

「……でもみっちゃん、(すね)()はぼーぼーだし」

「……おじさんよりも男性ホルモン多そうだし」

「「将来、胸にばっかり栄養が回って頭に回らなくなったら困るもん」」

(……こ、こいつら……)

 まさか男の自分がそんな言い回しをされる日が来ようとは夢にも思わなかった。

 しかもこの双子に……。

 ついつい「現在進行形でそんな困った状態のお前等には言われたくない!」と強く言い返したくなったが、それを言うとまたセクハラがどうとか(うるさ)く言われるのでぐっと堪える。

(自分達は平気で胸毛とか禿げそうとか本人にはどうしようもない身体的特徴ディスってくる癖に、人に言われるとキレるのはずるいだろ……まあ俺は禿げねえし胸毛も生えねえけど)

 ハラスメントという言葉の闇を(かい)()()た月照だった。

「はあ……。木が可哀相だから止めなさい」

 色々言いたい事のあった月照は、完全に子供を(たしな)める口調になっていた。

「そんな事より、みっちゃん!」

 だが灯は全く聞いておらず、突然元気一杯になって近寄ってきた。

「いや、そんな事って……お前等が言い出したんだろうが」

 月照的に「そんな事」で済まされていい内容ではなかったのだが、この二人には言っても無駄だろう。

 諦めて呆れ顔の月照に、灯はもっと呆れた顔をした。

「何言ってるの、みっちゃん? 私達がわざわざこんな所まで、深夜にみっちゃんの胸毛の為だけに本当に来ると思ってるの?」

「そもそも私達、(うし)(こく)参りしたくても『丑の刻』が何時なのかよく知らないし」

 いつの間にか灯と同じ位元気になっていた蛍もそれに乗っかってきて、そのまま流れる様に連携トークになった。

「昼間の日曜大工もした事無いのに」

「真っ暗な夜中に釘なんて」

「「危な過ぎて打てる訳無いから!」」

 言い終わると二人で顔を見合わせ、同時に「ね~」と可愛らしく身体を横に曲げた。

「てめえら……!」

 今日もやはりチョップは必要そうだった。

「でもそんな事よりも!」

 月照が指をピンと伸ばした両手をゆっくり頭上へと動かし始めると、灯が慌てて言った。

 構わず更に大きく振りかぶると、蛍も慌てて繋ぐ。

「今日はつまり、心霊スポット巡りって事だよね!」

 そして連携トークで誤魔化そうとする。

「昼間ならあんまり怖くないしね!」

「てことは、次はこの近くだと昨日話してくれた三角公園だね!」

「「よし、早速行こう!」」

 ゴゴスッ!

 勝手に話を進めて背中を見せた二人の頭頂部に、月照のチョップが炸裂した。

 ほんの少し加減したが、痛めた右手はどうやらほぼ完治したらしかった。



「「うう~……酷い目に遭った……」」

「自業自得だ」

 項垂れながら三角公園に向けて歩みを進める双子の後ろから、月照は冷たく返した。

 三角公園には間もなく到着する。元々上の広場からなら子供の足でも十分も離れていない。

「でもお前等、俺基準で心霊スポット設定してたら町全体がそうなるって分かってるか?」

 月照の自室にだって何度も霊が出入りしている。今歩いている道路だってそうだ。今はたまたまいないが、ここに来るまでにもそれらしいのを何体か見た。

「みっちゃん……そんな細かい事気にしてたら禿げるよ」

 灯はどうあっても月照を禿げさせたいらしい……。

「お前等がストレス与えてこなければ一生フサフサなんだよ」

「え? でもみっちゃんのお父さん、確か――」

「あーちゃん!? それは内緒だよ!」

 何か言いかけた灯に、蛍が鋭く待ったを掛けた。

 あまりの勢いに灯と月照の足が止まった。蛍もそれに合わせて立ち止まった。

 しばらく驚いた顔をしていた灯だが、蛍を見詰めている内に何か思い出したらしい。或いはいつものテレパシーで教えて貰ったのかも知れない。

「あ、そっか。そう言えばそうだったね」

「もう……。気を付けないと駄目だよ」

「ごめんごめん。でももう大丈夫」

 二人で笑いながら歩き出した。

「――って、気になるわっ!!」

 月照は足を止めたまま大声を出した。

「「うわっ!? びっくりしたぁ」」

 双子が振り返ったので、ここぞとばかりに追及する。

「なんだ一体!? 親父の髪の毛か!? あの癖っ毛が一体どうしたってんだよ!?」

 すると双子は哀れむ様な目で月照を見て――いや少し違う。厳密には月照の頭部を見て、言った。

「「癖っ毛の方が自然に見えるよね……」」

「おいぃぃぃっ!??」

 こうして月照に又一つ、怖い話が増えたのだった。



 あれから三角公園に到着するまで何度もしつこく双子に質問したが、双子はただ一言、「知らない方が幸せな事もあるよ……」としんみりと答えて以降だんまりを決め込んでいた。

「くそ、もやもやする……」

 ついに聞き出せぬまま三角公園に到着し、月照は苛立ちを口にした。

「「もじゃもじゃしてる内が華なんだよ……」」

「もやもやだ! てかその不穏な言い回し止めろ!」

 ようやく双子が口を開いたと思ったらこれだった。

「「そんな事より、みっちゃん!」」

「……なんだよ?」

 双子は例の公園内に設置された公衆便所裏を見詰めている。

 三角形をした公園の角に建てられた、コンクリート製で何の飾り気も無い便所だ。

 この公園は遊具やベンチも全て基本に忠実な形をしており、個性という概念へのアンチテーゼでも目指しているのかと思ってしまう程「普通」だ。強いて普通じゃない所を挙げるとすれば、児童公園によくあるシンボル的な、動物をモチーフにした遊具やモニュメントが全く無い事。それにスペースの都合で砂場が無い事くらいだろうか。

 まあ砂場は最近撤去されただけで、元々は「滑り台から滑り降りた所が砂場」という没個性な配置だった。

 その撤去理由は「滑り台を滑ってきた子供が砂場で遊んでいる子供とぶつかるから危険だ」という、これまた最近よくある「子供の安全の為」というものだった。

 ここを実際に使う近所の住人には「過保護過ぎる」と大不評だったが、こういうのは声が大きい方の主張が通り易いらしい。役所の担当者も「言葉の通じない騒がしい数人」を(たしな)めるより、「聞き分けの良い圧倒的大多数」に我慢して貰う方が楽なのだろう。

 ちなみにその時、「ならば頂上や階段から転落する可能性があるので、滑り台の方を撤去すべきだ」という至極真っ当な意見が出ていたのだが、なぜかそれは無視されて砂場の方が撤去されてしまった。滑り台の方を撤去しなかった理由は定かではない――が、砂場と違って滑り台はメーカーが毎年有償で定期点検を行っている、という話は月照も聞いた事がある。

「どこにも人形なんて無いよ?」

 双子につられて公園を見回していた月照に、灯が首を傾げながら聞いてきた。

 草木の成長する季節なのでちょっとした茂みになっていて見えにくいが、見渡した限りではそんな物は無さそうだった。

「――って、当たり前だ! 一体何年前の話だと思ってんだ!」

「じゃあそのおじさんの幽霊もどこか行っちゃったの?」

 蛍も同じ様に首を傾げた。

「だから当たり前だろ。成仏したかどうかは知らねえけど、元々地縛霊な訳ねえし」

 月照もあの日以外には一度も見かけた事がない。

「むう……じゃあここは終わりだね。次はどこ?」

「来た道戻ってずっと行って山一つ越えた先の峠?」

「「……そんな遠く、行きたくない」」

 双子は勝手に話を進めてジト目で睨んできた。

「いや徒歩で行ける距離じゃねえだろ……」

 双子が言っているのは月照のトラウマになった峠の事だろう。加美華にも一緒に聞かせた、あの峠だ。

 あそこに行く道は山道で曲がりくねっており、恐らく(みち)(のり)に直したら数十キロになるだろう。アップダウンの激しい山道をそんな距離歩いたら、流石の月照でも今日中には帰ってこられないだろう。

「じゃあ今日の心霊スポット巡り、もう終わりなの?」

「つまんない」

「「だから折角だし、この公園で少し遊ぼうよ」」

 何が「だから」なのかさっぱり分からない双子の論理展開には付いて行けなかったが、返事を待たずに公園の入り口に向かう二人を放置する訳にもいかないので、仕方なく後に付いて行った。

「「うわぁ! 懐かし~!」」

 公園に入ると同時に大声を出し、双子は滑り台に向かって一直線に駆けだした。

「……子供かっ」

 月照は呆れながらも双子の様子を見守った。何と言うかこう、親戚の小学生の面倒を見ている時と同じ気分だ。

 小学生ならどれだけはしゃいでも可愛げがあるが、女子高生が大声を上げて滑り台を逆走して駆け上がっていく姿は、自分の連れだと思うとただただ恥ずかしい。公園内に誰もいなかったのが不幸中の幸いか……。

「うわわっ!?」

 月照が周囲の(ひと)()を確認していると、蛍が悲鳴の様な声を出した。

 どうやら一番手で駆け上がった灯が滑り台の狭い頂上で立ち止まった為、後を追っていた蛍は一歩手前の傾斜部分で止まる事になり、滑り落ちそうになったらしい。

 視線を向けると、丁度彼女が慌てて腰を折って手摺りに掴まるところだった。

 ひらり。

「――っ!?」

 パンダだった。

 動物を(かたど)った物が一切無いはずの公園に突然現れたパンダ、その正体は――……。

 というか、この双子はあれ程気にしていたスカートの事をどうして一瞬で綺麗さっぱり忘れられるのだろうか……。

「…………子供かっ!」

 描かれていた柄の事か行動の事か、或いはこの程度のハプニングで跳ね上がった自分の心臓に対してか、月照は再びそう声を漏らしていた。



 双子はそれから三十分程、小学生の様にはしゃぐだけはしゃいだら満足したらしい。

 最後に男子トイレの水道が勝手に出た霊障が今も起こるかどうか確認してがっかりしたら、もう興味は無いとばかりに「こっちよりもいつもの公園に行こう!」と月照に一方的に告げ、これまた小学生に様に駆けだした。

 月照が後ろから「おい、スカート!」と注意しなければ、きっとそのままの勢いでバテるまで走り続けていただろう。

 不自然なブレーキを掛けて歩き出した二人を後ろから追いながら、月照はデートの順番を間違えたかもしれない、と少しだけ反省していた。

 双子が目指すいつもの公園とは、三人の自宅から最寄りの小さな公園の事だ。三角公園よりも面積は狭いが、台形型の敷地をしていてトイレも無いので、体感的にはむしろそっちの方が広く感じる。

 幼少期、外で遊ぶ時はまず一度そこに寄っていたと言っても過言ではない位、三人にとっては馴染みのある場所だ。

 だから無邪気にはしゃぐ双子を見る内に、まずそこに寄るべきだったかもしれないと思ったのだ。

 上の広場を下見したいという自分の欲求を最優先して、一応とは言え「デート」と銘打っている今日のこの散歩を(ないがし)ろにするのは、双子に失礼という以上の問題を(はら)んでいる気がする。それが何なのかは分からないが、この後はもうちゃんとデートに集中するべきだろう。

 月照は、とても石段の件を押し切った人間とは思えない思い遣りのある思考に辿り着いていた。

 だから仕切り直しに、かつての様に三人並んで公園に行くべきだと判断し、定位置とも言うべき双子の間に入ろうとした。

 しかしその直前、双子が振り返って交互に口を開いた。

「あ、そう言えばみっちゃん」

「今日のお昼どうするの?」

「今日はおばさんお家にいるの?」

「お母さんは『今日も呼べ』って張り切ってたし」

「私達もそうしたいんだけど」

「どっちみち、外食するお店あんまり無いし」

「みっちゃんお金持ってないんなら」

「一回家に帰るよね……?」

 そして、そこで一旦言葉を切った。

 いつもなら二人同時に喋って終わらすのでそれを数秒待ったが、双子は黙ったままだ。

 だから自分の返事待ちだと思い、月照は少し考える。

 双子は大はしゃぎし過ぎて腹が減ったのかもしれないが、まだ昼食にはかなり早い時間だ。

 とはいえ食材を準備し調理する時間を考えれば、早いとは言い切れない時間でもある。もしかしたら、双子は母親から早めにどうするか聞く様に言われているのかもしれない。

 しかし月照の母親は、今日もパートの予定があるとはいえ昼食の準備をしてから出掛ける事になっていた。電子レンジで温めるだけのはずなので月照でも簡単だし、夜野家で御馳走になって丸々残したら母親に申し訳が立たない。

 ただ、今からなら電話を入れればそれに待ったを掛けられるかも知れない。

 (しゅん)(じゅん)していると、双子は急にモジモジしながら頬を染め上目遣いになって、月照を待たずに続けた。

「「家、来る……?」」

「…………え?」

 月照はなぜか聞き返していた。

 双子の自宅には良く誘われているし、今も文脈的には食事の為に誘われただけのはずだ。

 それなのに、どうしてだか妙な緊張感が襲ってきた。

(いや、こいつらがいつもと違うから!)

 いつもの様に誘われたのなら、行くにしても行かないにしてもいつも通りに返して終わりだったはずだ。

 それがどうして、こんな照れた様な誘い方をしたのだろうか。

 これでは何か、もっと深い意味が隠されているのではないかと勘ぐってしまう。

 月照の右手に、昨日の弾力ある柔らかい感触が蘇ってきた。それに反比例する様に、月照の思考が()()していく。

 気が付けば、口が勝手に返事をしていた。

「――いや、絶対行かない」

「「ええっ!? 絶対とまで!?」」

 双子がかなり衝撃を受けているが、月照の回らなくなった頭では適切な処理ができず、まるで霊障に掛かっているかの如く無意識に言葉が溢れ出す。

「なんか、お前等変だし……怖い」

「「なにが!?」」

 双子はびっくりしていたが、月照の様子が少しおかしい事に気付いたらしく首を傾げた。

「みっちゃん?」

「どうしたの?」

「「なんか変な事考えてる?」」

 聞かれた瞬間、ぼやけた頭に浮かんだパンダがビンタしてきた。

 ビクンと筋肉が強ばった衝撃で我に返り、月照は血の気が引く感覚と引き替えに正気を取り戻した。

 右手の感触とパンダ――むしろ「変な事」しか考えていなかった……。

「い、いや――」

 自己嫌悪よりも先にこの二人に悟られてはいけないという意識が湧き上がってきて、月照は慌てて取り繕おうとした。

 だがその時、何故か双子はそれ以上に慌てて被せて来た。

「別に、昨日言ってたカレールーのフライは冗談だよっ!?」

「ご飯のフライだって、一度も見た事無いし!」

「お母さん、そこまで意地悪じゃないし……」

「私達だって、騙そうとしてる訳じゃないし……」

「それにほら、一緒に食べたいのは本当だし!」

「べ、別にみっちゃんが来たくないなら無理しなくてもいいよ!?」

「お部屋で一緒に遊びたいとか、そんな事考えてた訳じゃないから!」

「だから大丈夫、来ないなら来ないで問題無いから!」

「「気にしなくていいよ!」」

 最後は顔を背けてあさっての方向に叫びながら、双子は月照を放置して再び駆け出した。

「ちょっ――!?」

 月照は呼び止めようとしたが、何と声を掛けるべきか迷ってしまった。

 その間にも遠ざかる二人の背中に、結局何も言わないまま小走りで追いかける事しかできなかった。

 まあ双子は百メートル程先でバテて歩き始めたので直ぐに追いついたのだが……。

 しかし追いついても横に並ぶ気が起きず、月照はそのまま少し後ろを歩いて付いていった。

 どう話しかけるか、話しかけても良いものか……。

(……そもそも俺、なんで拒否したんだ?)

 変な事を考えていたのは間違い無い。

 だがそれならどうして、あの思考が鈍った状態で下半身に逆らった「絶対行かない」と返事をしてしまったのだろうか。

「…………」

 考えても正解は分からないが、一応可能性は幾つか思い付いた。

 一、双子が性欲の対象じゃないから。

 二、自分が根性無しでどうせ手が出せない事を深層心理で理解しているから。

 三、文字通り相手のホームに行くと、双子に弱みを握られる危険性を本能が察知したから。

 そして四――。

(――……って、色々考えても仕方ねえ。多分こいつらがそういう対象じゃないから、って事でもういいか)

 そう自分に言い聞かせて、四番目に思い付いた可能性を無かった事にした。

「今日は母さんが俺の分作ってくれてるから……」

 月照は少し頬を赤らめながら双子の背中に話しかけた。四番目がなかなか上手く頭から消えてくれない。

「「あ、うん。なんだそうだったんだね! あ~もう、びっくりしたよ」」

 双子はなぜか前を見たままで返事をした。

 珍しい反応だが、今はありがたい。

 だからそれ以上は何も言わず、三人で思い出が詰まった公園へと歩いて行った。


 四、双子が大切だから――。


 普段あれだけぞんざいに扱って、結構な威力の物理攻撃まで行っているくせに、一体どうしてこの考えに至ったのだろうか。

 我ながらちゃんちゃらおかしいとまで考えて、月照はこの可能性を無かった事にした。

 そこで思考を無理矢理止めてしまったので矛盾に気付かない。

 双子が性欲の対象で無いのなら、どうして右手やパンダを気にしたのか。

 月照は不自然なくらいに気付かない。思考しない。

 まるでそれが、気付いてはいけない事だと既に気付いているかの様に。

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