7セーブ目(4)
「おはよう、たまたま君!」
双子と別れた月照が足早に駅へ向かっていると、途中のコンビニ前で制服姿の園香に声を掛けられた。
駅までは後五分位で、学校からはそこそこ離れている。
「……おはようございます」
月照は周囲を確認し、店の横手の人目に付かない所まで移動してから挨拶を返した。
彼女が今、実体化しているのかしていないのか、全く判別できないからだ。
双子に時間を取られたせいであまりのんびりしていられないのだが、彼女は「旧校舎の幽霊」だ。ほぼ地縛霊な彼女がこんな所まで出向いて声を掛けてきたのだから、無下にする訳にもいかないだろう。
「なんでこんな朝っぱらからこんな所に居るんですか?」
月照はちょっとわざとらしく時計を確認し、時間が無い事をアピールした。
しかし当の園香は全く気にした様子も無く、むしろしたり顔だ。
「むふふ~。意趣返しって奴かな」
「はあ? 俺、なんか仕返しされるような事しましたっけ?」
昨日の自宅デートの事を思い返すが、問題行動はあっても大体その場で解決したはずだ。
「あ、たまたま君にじゃないよ。昨日私にちょっと意地悪した人が居たから、その人にちょっとだけ意地悪するんだよ」
「昨日? 帰りになんかあったんですか?」
「ううん、デートの前にされたんだよ」
「はあ……?」
そういえば、昨日待ち合わせに少し遅れただけにしてはすぐブラック化したり何かを誤魔化すような態度を取ったりと、色々不自然な行動が有った気がする。
それにあの時三十分程待っていた様な事を言っていたので、実体化していた事を考えると知り合いに会って何か会話していても不思議ではない。
(もしかして、つとむん先輩じゃねえだろうな……?)
どうやらあまり首を突っ込まない方が良さそうだ。
時間ももう全く余裕が無い。
「まあ誰に仕返しするのか知りませんけど――」
「うん、秘密」
「――あんまりやり過ぎると、坊さんに言いますからね」
「ひぃっ!?」
万が一相手が勉だったらと思うと好き勝手させる訳にもいかないので、グサリと深く釘を刺しておく。
案の定青ざめた園香を尻目に、月照はその場を立ち去ろうとした。
「じゃあ、俺急ぎますんで」
「あ、待って! ちょっと待って!」
しかし園香が慌てて前に回り込み、道を塞いだ。
「何ですか……? 待ち合わせ有るの、知ってるでしょうに」
ちょっとイラッとしながらも、月照は立ち止まって園香の返事を待った。
「あ、ええと……。実は、君にはしばらく一緒に居て欲しいんだよ」
「はあ?」
ちょっとバツが悪そうな顔をして、園香は視線を逸らした。
つられて月照もそっちをちらりと見てしまったが、背の高い男性が店に入るのが見えただけだ。
「仕返ししに行くんでしょう? 加減を弁えてんなら俺だって何も言いませんから、早く行って下さいよ」
「だ、駄目だよ。君が私と一緒に居る事が大事なんだから!」
「いや、駄目って言われても……」
慌てて言い返す園香の様子に少し驚いて、彼女がこんな行動に出た理由を考える。
(……あ、まさか本当につとむん先輩なのか?)
諦めきれない勉に校門の前でしつこく言い寄られて、今日彼と会う約束を無理矢理させられたのかも知れない。
(この町に詳しい先輩なら、俺が今日この店の前を通る事は簡単に予想できただろうし……)
咄嗟にこの場所とこの時間を指定して、月照と仲良くしているところを見せ付けて諦めさせようと考えたのかも知れない。
(……でも、つとむん先輩は別にそんなストーカーっぽい事する様な人間には見えなかったけど……)
とはいえ彼との付き合いは殆ど無いので、ただの第一印象でしかない。
(いや、そういや音楽室の件は結局花押先輩目的だったんだよな)
我が儘で強引な性格をしているし、短絡的な行動や振られても諦めずにすぐまた言い寄る空気の読めなさを考えると、やはりストーカーの素養がある様な気がしてきた。
(――って、そういや今あの人と同じ位の身長の奴が店に入って行ったな!?)
ちらりと見えただけなので、本人の確証は無い。
確認したいが、しかしもし本当にあれが勉だったら、下手に顔を合わせたらそのまま修羅場に巻き込まれてしまうかもしれない。そうなれば確実にデートに遅れてしまうし、勉の恨みを買ってしまうかも知れない。
かといって我が身可愛さに逃げたら園香が困るだろうし、その仕返しにブラック園香が後で絶対悪さをしに来るだろう。
いや、仮に困らなかったとしても等閑に扱えば、彼女は来る。きっと来る。そういう悪霊だ。
だから園香からちゃんと許可を貰わないと立ち去れそうにない。
「……仕方ない、五分だけですよ?」
結局月照が折れた。
我が儘を言い出した悪霊には敵わない。ましてや相手は美少女だ。暴力で解決できる相手なら気にも留めなかっただろうが、月照は「可愛い」には勝てない。
しかし加美華との約束を反故にする訳にもいかない。日頃から仲良くしてくれている相手だし、恩人でもある。
彼女がいなければ月照の周りは今でも双子しかいなかっただろうし、彼女のおかげでただ厄介なだけと思っていた霊感でも役に立つ事があると知ったのだ。
だから彼女には、今日のデートを楽しんで貰いたい。
成り行きと自己都合で誘ったデートではあるが、行くと決まってからは恩返しの様な気持ちも強い。そんな相手を待たせる訳にはいかないし、待ち合わせ時間をこんな直前で変更する訳にもいかないだろう。
五分程度のタイムロスなら、本気で走れば多分間に合う。
「わあ! ありがとう、たまたま君!」
もう一度ちらりと腕時計を確認した月照の心情など知る由もなく、園香は屈託無く笑った。
いつものどこか不自然な笑みでも悪戯めいたものでもないその表情に、月照は面映ゆくて視線を逸らした。
昨日も何度かこの笑顔を向けられたが、彼女から無防備に感情を向けられるのにはまだ慣れない。
まあ慣れるも何も、数日前に初めてまともに会話した相手なのだが……。
(……でもなんか花押先輩って、ずっと昔から知ってる様な不思議な感覚があるんだよな)
幼少期に可愛がってくれた近所の憧れのお姉さんに久しぶりに話しかけられた様な、そんな不思議な感覚だ。
まあ月照にはそんなお姉さんはいなかったはずなので、あくまで想像に過ぎないのだが……。
だからその感覚がなんなのか深く考えても答えを出せるとは思えないし、何より今は時間に余裕が無い。
月照は思考と視線を元に戻した。
(正直、あの先輩とあんま揉めたくないんだよな……。気の毒というか気不味いというか、同情の気持ち強いし。それに気に入らなかったらすぐ手を出してきそうだし)
勉の柄の悪い所も見ているので、余計にそう思う。
月照だって当然痛いのは嫌だ。だから暴力沙汰は避けたい。
(でもなぁ……)
だが本当にストーカー行為が行われているのなら、霊である園香は警察に頼る事もできないので相当心細いはずだ。
いざとなったら実体化や霊障を止めればすぐに被害を免れるので逃げ道はあるが、しかしそれは今まで続けてきた学校生活を全て失う行為だ。まさに最後の手段だろう。
「……なんで昨日何も言わなかったんですか? 今日唐突に巻き込まれる位なら、先に話しておいて欲しかったです」
相談できる相手は自分しかいない、そう思うと月照は自然と真剣な表情になった。
「え? あ、うん……あれ?」
それを見た園香は不思議そうにしている。
「まあ、俺の都合もありますけど、できるだけ協力はしますよ」
「え!? あ、うん……。え? いいの?」
「ええ、まあ」
「えっと……協力して貰えるなんて思ってなかったから、こんな騙し討ちみたいにしたんだけど……ごめんね、今もてっきり約束を優先すると思ってたよ」
嬉しそうというより照れ臭そうに、園香は頬を赤らめて俯いた。
こんな美少女にこんな表情をされたら、こっちまで赤面してしまいそうだ。
「い、いや……さすがに事情に因りますよ」
「へ? あ、うん……ん?」
月照が照れ隠しに頬を掻きながら言うと、園香は少し首を捻った。
(やべ、またからかわれる前に何か言わねえと!)
こちらの内心を見透かされた気がして、月照は慌てて店の入り口へと視線を移し「えっと……」と少し頭の中を整理してから一気に喋る。
「こうやってここで普通に会話してるだけで良いんですか? なんかもっと、店から見える所に行って、なんかこうそれっぽく、いちゃいちゃって言うか手を繋いだり腕を組んだり、『恋人っぽく』した方がいいんじゃないですか?」
あれが勉だったら、多分こちらに気付いていなかったはずだ。彼の性格なら気付いた時にこちらに声を掛けてきて、園香との先約は自分だと主張したと思う。
だから一緒に居られる五分――いや、もう後残り四分弱か、その間に店内の彼に気付いて貰い、尚且つ園香の事を諦めさせる為に、手っ取り早く見た目重視の作戦に出るべきだろう。最悪そのまま店内に二人で入って行く事になるかもしれない。
「ほええっ!?」
しかし月照の作戦を聞いた園香が、聞いた事のない素っ頓狂な声を上げて固まってしまった。顔は真っ赤だ。
「あ、いや、勿論嫌ならいいんです! そうですよね、いきなり人前でそんな事! 人がいなくても昨日みたいな感じは俺も無理でしたし、やっぱ無しにしましょう!」
「あ、う、うん! そ、そうだね、まだ早いよ!」
慌てて取り繕った月照に園香も慌てて同意して、互いに視線を逸らし頬を染める。
「(……あ、あのね、でも別に嫌とかじゃ――……)」
園香が何か小声で呟いた。
「え?」
「あ! ううん、なんでもないよ!」
聞き返すと、大げさに首を振って背中を向けられた。
「(でも、いつかきっと……『――ぽく』じゃない本当のを、お願い……する、ね?)」
向こうを向いたまま口元を隠し何か言い始めた園香の言葉を聞き取ろうと、月照は背後から近付いて耳を澄ました。
(お願いする……? ――って、ああ、ストーカー対策の事か)
かろうじて聞き取れた部分から推察し、
「ええ、任せて下さい!」
彼女を勇気づけようと、力強くそう言い切った。
「……え?」
園香が目を見開いてゆっくりと振り返り、胸を張っている月照と視線が合った。
彼女の頬は真っ赤なままだ。
「あ、あはは……や、やだなぁ、たまたま君てば。お姉さんをからかっちゃ駄目だよ」
「いや、からかうって……そんな訳ないでしょ。こういうのは半端にしないで、本気で徹底的にした方がいいですよ」
「…………――ぴぃ」
園香は数秒固まってからひよこの様な声を漏らした。
二、三歩よろけたかと思うと、突然勢いよく背を向けてしゃがみ込んだ。
何が起こったのか分からないが、両手で顔を隠している彼女の耳は真っ赤になっている。ここまで耳を赤くできるのは加美華位だと思っていた。
……というか、霊なのになぜこんな血圧が上がっていそうな状態になれるのだろうか。
「せ、先輩? どうしたんですか?」
原因が全く分からない月照は慌てて周囲を見回すが、特に変わった事は無い。
強いて言えばすぐそこの道を歩いていた高齢女性に怪訝な顔を向けられた事位だが、それは心の平静を保つ為にカウントしていない。
(先輩に変な事してるって思われたのか!? それとも俺の目付きが悪いからコンビニ横の人目に付き難い所にいるだけで怪しまれたのか!? いや、単にあの婆さんの表情筋がボケ始めてるだけに違いない!)
カウントしなくても平静は保てなかったのだが……。
(――いずれにしても、先輩をこのままにしてたら目立って仕方ないよな……)
月照は園香に近付いて後ろから肩に手を伸ばした。
「ぴゃっ!?」
その手が触れるや否やと、園香は短い声を上げながら飛び上がり、数メートル走ってからようやく振り返った。
「……ええと?」
事態が把握できず、月照は困惑して彼女の言葉を待った。
園香は首から上の肌を全部真っ赤にしたまま、大袈裟に両手を動かして深呼吸をしている。
「先輩?」
「あ、の……。だ、駄目だよ、たままた君。私今、変身してないから。他の人に変な目で見られるから、ええとね、触ろうとしたり大きな声で話しかけたりしたら、あの、あれ! あれなんだよ!」
いやどれだよ、とか「たままた」って誰だよ! とか色々ツッコみたいが、それをしたところで答えはきっと特殊詐欺のごとく「あれだよあれ!」しか返ってこないのだろう。
(ん……? いや、それじゃなんで俺、五分も付き合わされるんだよ!?)
遅ればせながらそこに気付いた。
霊感の無い勉に仲が良い所を見せ付けるなら、実体化は必須だ。
だから既にその状態のつもりでいたのに、実は周囲から独り言とパントマイムの激しい危ない男と思われるだけの状態だったなんて、とんだ裏切り行為だ。
「(あのですねぇ……)」
「あ、ほらほら! もうそろそろ約束の時間だから、早く行ってあげた方が良いよ!」
月照が小声で話しかけようとすると、園香がわざとらしく被せて来た。
(なんなんだよ、一体……)
本当になぜこの数分の足止めをされたのかさっぱり分からず、月照は溜息を吐きながら項垂れた。
ついでに腕時計で時間を確認するが、約束の五分までまだ後二分以上有る。
「(後少しなら大丈夫ですよ)」
「あ、大丈夫! もうほんと、行っても大丈夫だよ! ほら早く!」
今度はさっきと一転して、追い払おうと言わんばかりだ。
「あ、ええと、ね……」
不満が顔に出たのか、月照の顔を見た園香は口籠もって少し悩んだ後、続けた。
「わ、私を選んでくれたから……もう、仕返しは良いかな、って……」
左右の人差し指を絡めて文字通りもじもじし、最後に「もう無理、駄目! ごめんね!」と付け加えて走り去っていった。
「…………なんだったんだ、結局?」
残された月照は余計に訳が分からなくなって、彼女の背中が見えなくなってもしばらく見つめていた。
「――ってやば、時間!」
思い出して腕時計を確認すると、結局約束の五分を丸々使い切り、既に加美華との待ち合わせ時刻ぎりぎりだった。
呆然としていた事を反省し、月照は走り出した。
考えても分からないので今の出来事は取り敢えず忘れておこう、そう結論付けて。
月照から逃げ出した園香は、全力疾走のまま路地裏に飛び込み、そこに置かれているエアコンの室外機に掴まってへろへろになった足をなんとか支えながら、心の中で絶叫していた。
(OKされた、オーケーされた、おおけえされたぁぁぁ! 任せろって言われたぁぁ!)
独り言が癖になっている園香にしては珍しく、ここに着いてからは一言も発していない。
その理由は――。
「……ぜぇぇ~、はぁぁ~……」
と、激しく息が切れて声が出ないから――ではなく、あまりの出来事に一周回って言葉が出なくなってしまっているからだ。
昨日加美華に良い気分を妨害された事は、結果オーライだったとはいえ、きちんと仕返ししてやろうと考えていた。
その手段として、月照を少し遅刻させて、待ち時間にやきもきさせてやろうと思っての悪戯だった。
そんな事を彼に堂々と説明したら絶対に断られるのは分かっているので、如何に上手く誤魔化して足止めしようかと思っていたが、行き当たりばったりな作戦だったせいか彼は何やら勘付いた様子だった。
しかしまさか、その結果加美華とのデートよりも自分の我が儘を優先してくれるとは思ってなかった。ましてやその彼が「恋人っぽい行動を取るべきだ」なんて提案をするなんて、お釈迦様でも予想できないだろう。
更に更に、将来的には「恋人っぽい」の「ぽい」を取った行動をしてくれると、堂々言い切ってくれたのだ。
園香は成仏していないのが不思議な位、ずっと全身からキラキラと光の粒を派手に撒き散らしている。薄暗く物寂しい路地裏で、彼女の周りだけまるでクリスマスイブの様だ。
(これはもう、事実上の告白だよね! むしろプロポーズと言っても過言じゃないよね!?)
嬉しさのあまりつい両手で小さくガッツポーズを取ると、まだ回復していない足は身体を支えきれずにかくんと膝を曲げてしまった。園香はひっくり返って地べたに仰向けに倒れ込んだが、あまり気にせずそのまま寝そべった。
(あ、あはは……これ、運動のせいじゃないよね……)
昨日頑張って一日中霊障を起こしていた事とも、きっと無関係だと思う。
月照に会うまではちょっとだるい感じはあったものの、悪戯の為にここまで出向いて来られる位には元気だった。それに今日は変身どころか物を動かしたりもしていない。霊力が影響しているとは考えにくい。
(あはは……)
だからこの倒れてもなお笑い続ける膝は、多分さっきの月照の発言にびっくりし過ぎたせいだ。事実、両手も握り拳を作っているが力は全然入らずプルプル小刻みに震えている。
(はぁぁ~…………)
園香は力を入れるのを諦めて、大の字になって脱力した。
霊体だから汚れないし世間体も関係無いので、慌てて起き上がる必要は無い。無理に立ち上がってもまたすぐに腰砕けになるだけだろう。
だから両手両足に力が戻るまでそのまま寝転がっている事にした。
「…………」
しばらくそうしていると、次第に興奮も収まり冷静になってきた。
(たまたま君の、お馬鹿……)
本当は分かっている。
そこまで都合が良い話なんて無い事くらい。
きっとどこかでお互いに齟齬が発生していて、彼は優しさからあの発言をしただけだろう。
自分を選んでくれた訳ではない。
加美華を捨てた訳でも、幼馴染みを捨てた訳でもない。
彼はそんな事は絶対にしない。優し過ぎて、誰かを捨てるなんてできない。
命ある彼女達の事は――。
(私が捨てられる事はあっても……)
彼が自分にも優しくしてくれているのは分かっているし、生者と死者の区別無く接してくれているのも知っている。
それはとてもとても嬉しくて、感謝しているなんて言葉だけでは表現できない。
でも、自分はどこまで行っても死者であって、彼とは違う。もう同じには成れない。
それが悔しくて切なくて、でもどうしようもない。
最後に自分が選ばれる事は決して無い。
(でも、それでも――……)
最後に選ばれる事は無くても、今だけは選ばれたい。
我が儘だと分かっていても、彼に迷惑を掛けると分かっていても、誰かを傷付けると分かっていても。
選ばれたい。
――どんな手を使ってでも――
その言葉が浮かんだ時、園香は気付いた。
気付いてしまった。
今どころか最後まで、ずっと彼に選ばれる方法に。
(そう、だ……。そうだよ!)
光明を見出した園香は、ぎゅっと拳を握り締めてしっかりと立ち上がった。
幸せに向かって踏み出した足取りは軽く強く、ゆらりずるり、前へと進む。
路地裏はまるで二人の未来を祝福する様に仄暗く、向かう先は更に曇天の夜空の様だ。
彼女の表情は幸せに歪み、にたぁと陰惨な笑みで溢れた。
(私は彼と同じには成れなくても――……)
――彼は、私と同じに成れる――
その希望の大きさを示す様に、あれ程溢れていた光の粒子はもう、どこにも見当たらなかった。




