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れいしょういっぱい  作者: 叢雲ひつじ
6セーブ目
63/92

6セーブ目(3)

「最近の高校生はっ! ……腹が立つぅ!」

 お姉さんは一気にトップギアで怒り、髪を逆立てている。()(はつ)が本当に天を突いているのは生まれて始めてみた。

(な、なんだ!? なんで急にこんなキレてんだ!? スーパー日本人に変身すんのか!?)

 訳が分からないまま身の危険を感じた月照は、取り敢えず彼女との距離を取るべきだと判断して数歩下がった。

「……逃げる気?」

 ぼそり、と一言(つぶや)かれただけで凄い威圧感だ。これは刃向かわない方が良さそうだ。

「いいいいえ! あ、ゴミ! ほほほほら、さっきお姉さん抱き留めた時に道にゴミ()き散らしたから、それ拾わないと!」

「だきっ!? あ、そ、そうね……」

 お姉さんは逆立っていた髪の毛を降ろしてツンとそっぽを向いた。

(――てか俺の友達が多いせいで忘れてたけど、俺この人に殺されそうなんだった!)

 今頃思い出した。

 このままでは刃向かおうが従おうが命は無さそうだ。

 月照は一枚一枚ゆっくりとウェットティッシュを拾い集めていく。湿気が残っていたのと結構な勢いで手を伸ばしたのとで、幸いにもそこそこ離れた所まで飛んでいてくれた。

 しかしほんの数枚しかないので大した時間は稼げない。最後の一枚を拾い上げながら彼女の方をちらりと覗き見ると、ピタリと互いの目が合った。

 月照は蛇に睨まれた(かえる)の様に動けなくなってしまった。

 お姉さんは全く目を逸らしてくれない。

「(まあ、そうよね……それでも私を選んだのよね……)」

 また何かブツブツ言っていたお姉さんは、大きな溜息を一つ吐いてからにこりと微笑んで、今度は優しい口調になった。

「卒業までに(せい)(さん)したらいいわ」

(卒業まで(せい)(さん)にしたいわ!?)

 小さめの声だったせいで、少し離れた所にいた月照にはそう聞こえた。

「でも女の子は私、結構()いちゃうかも……。男の子はまあ妬くかもしれないけど、ほどほどなら……良い、かな?」

(女子を焼く!? 結構ってウェルダンて事か!? 男子はミディアム――って、程度に()らず燃やして良い訳ねえだろ!)

 なんて凄惨な事を考えるのだろうか。

 話の流れから月照本人は卒業まで生かしておいて貰える様に解釈できるが、見せしめの(ごと)く友人を一人一人燃やされるのであれば、折角増えた友人と縁を切ってぼっちに戻らないといけない。

(くそ、こうなったら先手を打って警察に――)

「あ、そうそう。今日の事は、当たり前だけど他言無用よ? 万が一警察に知られたらどうなるかは、あなたも分かってるでしょ?」

(――通報できねえ……)

 (ぶっ)(そう)(どう)(かつ)をちょっと照れながら楽しそうに言われる事がこんなに恐ろしいとは……。

 青ざめて(りつ)(ぜん)と絶句している月照とは対照的に、お姉さんは頬を赤らめて口元を隠しながらまたブツブツと独り言を言い始めた。

「(私も一応学校関係者だから、二人の関係が知られたら絶対に邪魔されるし、警察が出てきたらさっき抱き締められた事とかを理由に『(みだ)らな行為』とか言って捕まるかも知れないもの。どうせ捕まるならちゃんと淫らな行為をしてから――じゃなかった、捕まらない様にちゃんとお家の方を説得して、卒業したら即結婚ね)」

 その内容を聞き取れるはずもなく、彼女の禿(はげ)(たか)の様な鋭い眼光に月照は恐怖を(つの)らせてゆく。

「――あっ……と、そう言えばあんまりのんびりしていたら買った物が痛むわね」

 はたと気付いたお姉さんは、名残惜しそうに月照を見詰めて続ける。

「ごめんね。もう少し一緒にいたいけれど、そうも言ってられないから。今日はこれくらいにしておくわ」

「は、はいっ!」

 月照は気を付けの姿勢でそう返事をするのが精一杯だった。

(む、向こうが時間を掛けて完全犯罪を計画するなら、こっちはその時間を使って防御を固めながら、()()に悟られずに警察に通報し動いて貰うか考えるだけだ!)

 恐ろしいが諦めたりはしない。諦めたらそこで人生終了だ。

 強く決意する月照に、お姉さんはにこやかに笑顔で手を振って自転車を漕ぎ出した。

 月照も一応ちゃんと応えて手を振り返した。

 お姉さんが背中を向けたのでその手を下ろし、門へと歩こうとすると――。

 キィィ、ピタ。

 ブレーキ音が響いた。

 月照が驚いて振り返ると、十メートルも進んでいないところでお姉さんが自転車を止めてこっちを見ていた。

「――っ!?」

 軽く恐怖を覚えながらそちらを凝視すると、お姉さんはにこりと微笑んで再び手を振ってきた。

 意味が分からないまま手を振り返すと、お姉さんは満足げに頷いて再び自転車を漕ぎ出し――。

 また、十メートルも進まずに振り返って手を振ってきた。

(親が迎えに来た子供か!)

 別れたくない気持ちがひしひしと伝わってきた。

 と言っても、月照にとってそれは恐怖でしかないのだが……。

 だから彼女がいなくなるまで手を振り続けるしかなかった。

 そんな月照の対応に浮かれているお姉さんは、他の通行人なんてお構いなしだ。角を曲がってきた学生服姿の女子とすれ違っても、直後に停車して振り返って手を振ってきた。

(いや、本当になんなんだ……?)

 月照は一刻も早くスタンガンや(さい)(るい)スプレーの入手方法をインターネットで調べたいのだが、それを見越して邪魔しているのではないかと勘ぐってしまう程しつこい。

(もしかして、一時的とはいえ獲物を逃がす事が(くつ)(じょく)的だから、とか……? てか今日のこれ、説明しても結局時間無駄にして事態悪化させただけじゃねえか!)

 誤解されていると思っていたら正確な推理でちゃんと理解してくれていたのに、会話の結果なぜか彼女の殺意レベルが数段上がってしまった。

 よくよく考えれば、彼女に殺される理由らしい理由は無いはずなのだが。

 月照はお姉さんに手を振りながらも、今の出来事を脳内でじっくり検証し始めた。

「あ!」

 その検証を妨害するかの様に、予想外の所から声が聞こえた。

「咜魔寺、やっぱりここだった」

 お姉さんとすれ違った女子生徒が、月照に声を掛けて小走りに近付いてきた。何やら大きな荷物を持っているのでそれほど速くない。

「え? ――って、あえ!?」

 最初は誰か分からなかった月照も、彼女の荷物が楽器ケースだと気付いて誰だか分かった。

 着物女に酷い目に()わされていた、吹奏楽部の女子だ。

 そう言えば昨日今日と他校で合同練習と言っていたが、どうやらその帰り道らしい。

「昔一度前を通っただけだから自信無かったけど、外にいてくれて良かった。――で、でもそんなに手を振らないで! なんか恥ずかしいから……」

 どうやら彼女は自分が手を振って貰っていると勘違いしたらしい。

(んな訳ないだろうが! こっちはそれどころじゃないってのに……)

 クラスの女子を(みち)(ばた)で見かけて延々手を振る痛々しい男子だと思われるのは不本意なので、やむを得ず手を降ろした。

 じ~~……。

 お姉さんが凄く見ている……。

(やべえ! てかなんでこんなタイミングで知り合いの女子増えるんだよ!?)

 最悪なタイミングだ。しかもこっちの名前を呼びながらこんな風に()()として寄ってこられては、友達じゃないと言い張ってもお姉さんは信じてくれないだろう。

(どうする!? このままじゃこいつもウェルダンに!)

 中学からのクラスメイトなのに名前さえ知らないという、絶対に友達と呼べない仲でそれはあんまりだ。

「咜魔寺?」

 至近距離まで近付いたのに視線を向けない月照に、女子は()(げん)そうな表情になった。

「あ、いや……。何の用だ?」

「あ、うん……。ええと、昨日助けて貰ったお礼、まだちゃんと言ってなかったから……」

「いや、別にそんなもん――」

「だ、駄目! だって、その……本当に怖かったから……。言わせて」

 気の強そうな吊り目がちの目元を弱々しく伏せて、持っていた楽器ケースをぎゅっと胸に抱いた。

「い、今だって暗くなってきて、ちょっと怖かった、から……。手を振ってくれて、怖くなくなったし……」

 カリリ、と楽器ケースに軽く爪を立ててから、大きく腰を折って続ける。

「あ、ありがと。昨日は本当に助かったし、今もその……助かった、よ」

「あ、いやまあ、うん……」

 こういうのにあまり慣れていない月照は、ちょっと照れ臭くて視線を逸らした。

 まあ、手を振ったのが全くの別件だった事が後ろめたいせいでもある。

 逸らした視線を原因の方へと向けると。

 じ~~……。

(――って、お姉さんまだ見てんじゃねえか! やべえ、とっととこいつ追い返さねえと――)

 顔を上げた女子の方に向き直ると、今度は彼女の方が視線を逸らし、ぎこちなく笑った。

「あ、あはは、はは……。実は私ね、中学の時から結構、その――……」

「なあ」

 女子が何か言おうとしていたが、月照は敢えてそれを遮った。

「悪い、そろそろ家入んないと駄目だから……」

 上手い(ことわ)り方が思い付かなくて、ちょっときつい言い方になってしまった。

 案の定、女子は肩を(すく)めてしまった。

「あ……う、うん。ごめん、邪魔だったかな……? 何か、昨日もこんな感じだったね……。真っ暗になったら怖いから、私も帰る……」

「あ、いや……。こっちこそ、追い返すみたいで悪い……」

「あ、あはは。大丈夫、あんなに手を振って歓迎してくれたんだから、そんな勘違いはしないから」

 それは完全に勘違いだ……。

 とはいえ訂正できるはずもなく、少しの間沈黙が流れた。

 じ~~……。

 お姉さんは(まばた)きしているのかも怪しいくらい凝視を続けている。

(――って、とにかく何か言って別れねえと!)

 月照がお姉さんの視線に押されて慌てて何か言おうとした丁度その時、女子が大きめの声を出した。

「じゃ、じゃあね、また連休明けに! お礼言えて良かった!」

 やはり少し傷付いていたのか、女子はそのまま月照の横をすり抜けて走り出した。

「あ、おう!」

 驚いて反応が遅れた月照は、彼女の背中にそれだけを伝えるのがやっとだった。

 まあ大きな楽器ケースを抱えているので、視界から消えるにはまだまだ時間が掛かりそうだが……。

 しかし月照にはその背中を最後まで見送る余裕なんて無い。

 急いで振り返ってお姉さんの方を確認し――。

「――っ!?」

 いた、目の前に。

 あまりに驚いて飛び跳ねてしまった。

 こんなに跳んだのは中学の部活以来だ。

 心臓がバックンバックン鳴っている中、何とか声を絞り出す。

「……あ、あの、何か?」

 (おそ)る恐る声を掛けると、お姉さんはにこにこ笑顔になった。

「ううん、なんとなく」

(……怖え)

 何を企んでいるのかさっぱり分からない。もしかしたらさっきの女子の顔をよく見て覚える為だろうか。

 いや、そもそもいつ近寄ってきていたのだろう。背中を向けたのは僅かな時間だけだし、まるで気配を感じなかった。

「(私とちょっと似たタイプの子と思ったけど、ぞんざいに追い払ったって事は、やっぱり本気で私の事だけを――……)」

 そしてまた、不気味にブツブツと独り言を言い始めた。独り言の頻度は園香以上かも知れない。

「あ、あの……買った物、大丈夫ですか?」

 月照が緊張を強めて聞くと、お姉さんはハッとなって自転車をUターンさせた。

「じゃあ、本当に帰るわ。また連休明けにね」

 言うが早いか、「へ?」と声を漏らす月照を尻目に凄い勢いで自転車をすっ飛ばして走り去ってしまった。さっきまでの(ぎゅう)()とは真逆だ。

「…………な、何だったんだ?」

 月照は彼女の去っていった方向を、しばらくの間呆然と見つめていた。



 月照が我に返って自宅に入った頃――。

 園香は、道中ゾンビに襲われる事も犬に吠えられる事もなく、無事校門に辿り着いていた。

「……閉まってる」

 当たり前だが校門は閉まっていた。通用口まで閉められているのは予想外だったが……。

 休日で、しかも時間が時間なので、部活の顧問も片付けを終えて帰った後だ。おそらく今校内にいるのは、学校の機材を使いたい教師と(しゅ)(えい)くらいだろう。

「……乗り越えたら目立つよね」

 真っ暗になるにはまだもう少し時間が掛かる。

 できれば今日は旧校舎に入るまで変身――つまり実体化したままでいたかった。

 だがよくよく考えれば、旧校舎は確実に鍵が掛かっているので絶対に中には入れない。実体化状態でポルターガイストを起こして鍵を開けるには、今日はちょっと頑張り過ぎた。

「む~……仕方ないか」

 ()(ごり)()しいが諦めよう。

「えい!」

 園香は可愛らしい掛け声を掛け、校門をよじ登り始めた。

「諦めて、旧校舎の扉の前までで我慢しよーっと」

 (ほとん)ど何も諦めてない気もするが、悪霊に自制を求める方が間違っている。

 この門は園香の背丈よりも少し高いので結構苦労するが、それでも何とか上部に足を掛けて登り切る事ができた。後は向こうに下りれば良いだけだ。

 パンツルックなので中を見られる心配がない分、思いっ切り足を上げられたおかげだ。

 まあスカートよりも布が()()って足を上げにくかったせいで苦労したのだが。

「おい、そこの! 何してる!」

 と、突然少し離れた所から男性に鋭い声を掛けられた。

「うわ、見付かった!」

 ズボンが邪魔で時間が掛かった結果、中は見られなくとも姿を見られてしまった。

 慌てて校内に飛び下りて振り向くと、制服姿の警察官がこっちに駆け寄ってくるところだった。

「ご、ごめんなさーい!」

 園香は謝りながら、(いち)(もく)(さん)に旧校舎へと走り出した。

「待て、こらあ!」

 するとこの警察官はムキになりやすい性格だったらしく、有ろうことか校門を軽やかに乗り越えて学校敷地内へと飛び込んできた。いくら公立高校とはいえ、部外者がこんな侵入の仕方をしたら後で問題になりかねない。

「うきゃあ!?」

 背後の物音でそれに気付いた園香は、(はや)る気持ちに足が付いて来ずに派手に転けてしまった。

 急いで立ち上がって再び走り出したが、目的地の旧校舎入り口に辿り着くと同時に、この警察官に手首を掴まれてしまった。

「おい、どうして学校に忍び込んだ!」

 強い口調の警察官相手に、園香は顔を見られない様に俯いたままだ。

「おい、何とか言ったら――」

「ふ、ふふ、ふふふふふ……」

 更に(きつ)(もん)する警察官に、園香は静かに笑った。

「な、何がおかしい!」

「ふふふふふ……ようこそ、私のお家に……」

 園香は敢えて(よく)(よう)を押さえた口調でそう言うと――。

 実体化を解いた。

「ひぃ!?」

 確かに手首を握っていた相手がすぅっと消えてしまったのだ。警察官の驚きと恐怖は想像を絶するだろう。

 そこに追い打ちとばかりに。

 カチャリ……、と鍵の開く音。

 次いで、ぎ、ぎぃぃぃ……、と(きし)みながらドアがゆっくり開いた。

『いらっしゃい……』

 そしてトドメに、何も無い暗闇から声だけが聞こえて来た。

「ひ、ひぃぃぃっ!?」

 警察官は腰を抜かし、(ほう)(ほう)(てい)で逃げていった。



「ぷ、あはは、やったぁ! こんなに完璧に驚かせたのは久しぶりだよ。ちょっとピンチだったけど、今日は最高の日になったよ」

 ドアを締めて鍵を掛け直してから、園香は大声で笑った。

「正体も隠せたはずだし噂も流れるだろうし、自分に満点をあげたいよ」

 相手は霊障の影響で、園香の具体的な姿は思い出せ無くなるはずだ。

 代わりに「長い黒髪の女の霊」という印象的な部分だけが強く記憶に刻まれるだろう。

「ふ、ぷっ、あはははは! やっぱり無理、我慢できない!」

 相変わらず人の不幸が大好きな、(はた)迷惑な悪霊だった。

 いつまでも笑いが収まらず、腹を抱えて床を転がった。霊体なので汚れはしないが、正直かなりはしたない。

「あははははうっ!? けほっ、ごほっ! かはっ!」

 更に笑いすぎで咳き込み、息苦しくなっている……。

 それでもしばらく笑いが止まらず、最終的にはひゅーひゅーと息も()()えで死にそうになっていたが、さすがにその状態で数分も経てば落ち着いてきたらしい。

「……ぷっ、あははははは、はぁ……」

 最後にもうひと笑いしてから、仰向けになって窓の外を見上げた。

「……楽しいけど、やっぱり全然敵わないよ」

 昼間の幸せ過ぎた時間を思い出す。

「夢みたい……」

 最後の最後で扉一枚分妥協したが、今日は本当に特別に素敵な一日だった。

 朝一番に加美華に(から)まれた時は腹が立ったが、そのおかげで考えもしなかった「普通の女の子」としてのデートができたのだ。

「実体化して良かったぁ……」

 一日中実体化していたのでかなり消耗していて、正直もうくたくただ。

 だがその疲労に十二分に見合った成果は得た。

 おそらく彼なら、実体化していなくてもきっと同じ様に相手してくれただろう。

 だがそれでは、今日のデートには自分と彼しか登場人物がいない事になる。

 そうなれば、ただの自己満足か彼に(なぐさ)めて貰っただけの虚しい時間だったと、今頃悔しがっていたかも知れない。

 でも実体化のおかげで、加美華や月照の幼馴染み、それに無関係な警察官までもが登場人物になってくれた。「今日私がデートをした」という事実を証明する、とても大切な証人達だ。


『楽しかったですよ』

『今日のデートは、多分一生記憶に残ります』


 帰り道、何度も(はん)(すう)した彼の言葉。

 二人っきりの世界だったなら、きっと彼の本心だと気付いていても信じ切れなかっただろう。彼は優しいから、(そん)(たく)されたと疑ってしまっただろう。

 だけど、みんなと同じ世界にいたから――……。


「あはは、かみかみちゃんはざまーみろ、だね」

 この幸せの始まりが、嫌いな相手が起こしたほんのささやかな偶然だった事も、悪霊の園香には(えつ)(らく)に近いものらしい。

「うふふ~。これも全部、日頃の行いのおかげだね!」

 ……現在、園香の周りに突っ込みは不在だ。

「あ~あ……」

 園香は窓から離れて、自分の両手を見詰めながら続ける。

「駄目だよね、こんなにくたくたなのにこれ以上幸せになったら……。我慢できずに成仏しちゃうよ」

 まだまだ楽しみたい気持ちを無理矢理押さえ込んだ。

 今思い出を全部詰め込まなくても、この連休中は宿題以外何もする事が無いのだ。安全策を取って、明日体力気力が回復してから全身キラキラするまで楽しめばいい。

 だから今日のところは、彼の記憶に自分とのデートが楽しい出来事として保存されただけで満足しておくべきだろう。

「うん……それじゃあ、お休みなさい。咜魔寺月照君……」

 園香はゆっくりと目を閉じて、幸せの()(いん)(ひた)りながら眠りへと落ちていった。


 ――園香は知らなかった。


 自分との楽しいデートの思い出が詰まった月照の記憶が、お姉さんへの恐怖で上書き保存されてしまった事を……。

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