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れいしょういっぱい  作者: 叢雲ひつじ
5セーブ目
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5セーブ目(5)

 インターホンを押さず勝手に上がり込んだ園香に驚いた月照は、(とつ)()にファイティングポーズを取って握り拳を固めたが、彼女の見るからに落ち込んでいる様子に気付いて攻撃を止めた。

「何かあったんですか? もしかしてあいつらに変な事を言われました?」

「え? ううん、変な事を言ったのは私の方だよ」

 そう答えると、すぐにいつもの笑顔に戻った。

「私の問題だから気にしなくていいよ」

「目茶苦茶気になりますけど……気にしなくていいなら不法侵入で鉄拳制裁です」

「気にしてくれると嬉しいな! 心に傷を負ったから物理で傷付けるのは止めて欲しいな!」

「はあ~……。まあどうせ追及してもはぐらかすんでしょうし詳しくは聞きませんけど、それよりも実体化してるならそうと言ってて下さいよ。『霊体でいいから楽』って理由で俺をデート相手に選んだくせに」

「あ、あ~……そう言えばそうだったね。まあ事故的要素もあったんだけど、結果オーライだったし良かったでしょ? 霊のままであの子に私達の会話の現場見られてたら、もう私生きていけないところだったよ」

「既に死んでるでしょうが」

 月照が素早く突っ込むと、園香は何やら「んん~……!」と唸りながら力を込めて、満足げな表情になった。

「? まあいいですけど、実体化してるならいきなり親が帰ってきたりあいつらが入って来たら困るんで、玄関鍵掛けてきます。そっちの部屋、居間になってるんでそこで待ってて下さい」

「あ、はーい」

「大人しくね!」

「勿論だよ」

(…………)

 その笑顔が色々と物語っているので、急いで鍵を閉めて来よう。

 ドタドタとけたたましい足音を立てて往復し居間に戻ってみると、園香は意外な事に何もせず突っ立っていた。

 しかし様子がおかしい。

「先輩?」

「こ、これ……は……」

 月照が声を掛けると、園香はプルプル震えながらテレビの前の床に(じか)置きされているゲーム機を指差した。配線は既に終えてある。

「ま、まさか……テレビゲームって奴かなっ!?」

 目を輝かせながら凄い勢いで詰め寄ってきた。

「は、はいっ!」

 ()()きされそうな勢いで顔を近付けられたので()()りながら答えると、園香はくるりと一回転して流れる様な動作でゲーム機の前に正座した。

「も、もしかして、これ! これ、今日これするの!? 私も触って良いのっ!?」

「え、ええ。そのつもりで家に――」

「んきゃあああああ! 凄い! 嬉しい! そんな、こんな高価なものを!? 嬉しいぃぃっ!!」

「ちょ、先輩ちょっと落ち着いて!」

 予想の数十倍喜んでいる園香の様子に驚くと同時に、ゲーム機に何かされないかと心配になって、慌ててそこから力尽くでズルズルと引き離す。

「もしかして私の為に!? 私が喜ぶと思ってこれ用意してくれたの!?」

 後ろに引っ張られながらも正座を崩さず、手でゲーム機を指差し興奮している。

「え!? い、いや別に、新しく買った訳じゃないですよ?」

 ある程度の距離ができたので手を離したが、近寄りこそしないものの園香の視線はゲーム機に釘付けだ。

「そんなの当たり前だよ! でも私にテレビゲームさせてくれるんだよねっ!?」

 後ろから話しかけてもなんだか虚しいので、月照の方が彼女の視界に移動した。

「まあ、はい。その為に家に誘ったんで、勿論です」

「んんんん~~~……!!」

「せ、先ぱ――?」

「嬉しいよ! これ以上ない位嬉しい!」

「あ、そ、そうです、か……」

 ここまで喜ばれるとかなり怖い。

 悪意とか全く無く純粋に喜んでいるのは分かるが、興奮し過ぎてギターでテレビとかを目茶苦茶に殴り壊されそうだ。

 ……いやまあ、ギターなんてこの家には無いのだが。

「んもう、君は私を殺す気なのかなっ!? 嬉し過ぎて成仏しそうだよ!」

「えぇっ!? ってもう死んでるでしょ! てか、できるんなら早く成仏して下さい!」

 身体はキラキラしてないが、瞳はビームが出てそうな位キラッキラだ。

「凄い……ふぁぁぁぁ……。最先端のテレビゲーム機だあ……!」

「い、いや……それ、二世代前のゲーム機なんで、ソフトも古いのしかないですよ?」

 ちなみにこれは父親のお下がりで、裏が黒いDVDを使うタイプだ。先代のCD時代のゲームもプレイできる優れもので、その機能故に先行販売されていた同等性能のライバル機を駆逐したという歴史がある。

 だからこの家にもCDとDVDを合わせれば結構な種類のソフトがあるのだが、逆に最新機の仕様でそれらが使えないと知った父親が、「又か……今回も様子見だな」で乗り換えを保留した。

 月照としても残念だったが、更なる次世代機に期待だ。

「それでも良いの! カセットじゃない奴だよねっ!? 容量が一杯あって、十六ビットがどうとかって! 充分最新だから!」

「ビ、ビット……? 容量なら古くてもギガバイト単位ですよ?」

「それは私もよく分からないけど、みんな言ってたの!」

「そ、そうですか……」

 何をどう突っ込んでも園香の興奮は収まらないらしい。

「私は結構テレビゲーム上手いんだよ! ピンクの(かに)とか亀とかも、凍った床の上で火の玉避けながら倒せるんだから!」

 世界一有名な配管工兄弟が活躍するシーンを思い浮かべている園香。

「………………」

 その配管工がスーパーになってからの噂しか知らない月照は、ゲームシステムが全く違うせいで作品を連想できなかった。

 だがそのゲームを確認しようとすると、多分またジェネレーションギャップを理由にブラック化するので聞き流しておく。この興奮状態でブラック化されたら何をされるか分かったもんじゃない。

「ねえ、早く早く!」

 ゲーム機を指差しながら、空いている方の手で月照の手を掴んで(さい)(そく)してくる。

「ああ、はいはい。そんなに慌てなくても今日は夕方まで目一杯遊べますから」

「――っ!!? ~~~~~~~っ!!!」

 指差していた方の手で月照の足をペスペスと叩き始めた。もう興奮しすぎて自己表現できなくなっている様だ。

(これ以上はあれこれ何か言うより、早く始めた方が良さそうだな……)

 身の危険を感じた月照は、慌てて最初のソフトを用意したのだった。



 ゲームを始めれば、きっと園香は夢中になって少し落ち着くだろう。

 そう思っていた三十分前の自分が恥ずかしい。

「たまたま君、次これ! こっちの奴もやってみたい!」

「ちょ、これもまだ最初のムービー終わっただけですから!」

 ソフトを交換しながらオープニングムービーを鑑賞するだけで、ゲームを始める事ができなかったのだ。

 園香の記憶にあるゲームは電源を入れたらタイトルがいきなり表示され、後は何の説明も無いままスタートボタンでプレイを始める物ばかりだった。設定などは全て取扱説明書に書いてあるが、それを読んでプレイする子供なんてほぼ皆無だ。

 だからオープニングがあるだけでも驚いていたのだが、そのムービーのクオリティーで完全に()(ぎも)を抜かれたらしい。

 月照が失敗したのは、「こっちのゲームの方が()ってますよ」とプレイよりも先に別のゲームを示した事だ。おかげで園香のオープニングムービー鑑賞会になってしまい、既に五つ目だ。

「だって凄いんだもん! とりあえず一通り全部見てから、面白そうな奴を全部しようよ!」

 園香は変わらぬ輝いた瞳を向けてきた。

 しかしそうは言っても時間が無制限にある訳でもない。

 なのに毎回ゲーム機本体をリセットし、本体システムのロード時間を待ち、ゲームデーターがどのメモリーカードに入っているのかを確認し、やっとソフトを挿入してゲーム起動のロードが始まるのだ。

 そしてメーカーのクレジットを飛ばすとオープニングが飛ぶ事もあるせいで、その僅かな時間短縮さえも()(かつ)にはできない。

 全ソフトプレイするつもりなら、どう考えても一回軽くプレイをして、実際に面白い物を探す方が時間のロスが少ない。後で「思ったよりも面白くなかった」は絶対にあるはずだ。

 事実彼女がプレイ候補に残している物には、「発売された時期を考えれば(りゅう)(れい)なグラフィックだ」という無理矢理にしか褒めるところがないソフトもある。

 中古買い取り価格が十円だったせいで売りに行く交通費の足しにもならないからと父親が放置し、そのまま一番奥に仕舞い込まれて忘れ去られていたものだ。やり始めたらクリアするまでとことんやり込むタイプの月照でさえ、進行の遅さや操作性、それに設定やシステム――という問題点を上げればキリがない、ほぼ全面的なクソゲーなので途中で止めてしまった。園香が全ソフトを引っ張り出さなければ、きっと二度と本体に入れる事は無かっただろう。

(つってもまあ、今日の主役は先輩だし、別に良いか……)

 園香が楽しんでいるのなら効率がどうだなんて言って水を差すのは()(すい)だ。ゲームなんて楽しんだ者勝ちなのだから。

「あ、でもこれはオープニング無かった気がします。あったかも知れませんけど、後回しにしてプレイする時に確認しましょう」

 園香が差し出していた、おどろおどろしいゾンビのイラストが入ったパッケージのゲームを受け取って、そのまま反対方向に置いた。

「ええ~? 後で絶対見るからね!」

「はいはい」

 ゾンビゲームを下手に触らせると、後でそれを参考に通りすがりの善良な市民に悪戯をしかねない。

 どうせこのペースとテンションだ。色々と他のゲームを見ていく内に、きっと存在を忘れるだろう。

「次はこれ! 可愛い女の子の奴!」

 園香は(はや)る気持ちに従って、過ぎた事などどうでもいいとばかりに次のゲームを差し出してくる。

「ギャルゲー!? これはでも、どうせしないと思いますけど……」

「オープニングはあるんでしょ?」

「え、ええ。テーマソング入りで。あ、名前入れてからだったかも知れませんけど」

「じゃあ早く! 名前まで入れて!」

「はあ……。分かりましたよ」

 しぶしぶとゲーム機に押し込む。

 中学の頃、親の目を忍んでこっそりやり込んだゲームだ。

 別に隠れる必要性は無いのかもしれないが、女子好みに自分を鍛えて、女子をデートに誘って親密になって、最後は伝説の木の下で告白されるというシステムが、男子中学生には何か照れ臭い様な、或いはいやらしい事の様な気がして、親の前ではできなかったのだ。

 まあその親はこのゲームを購入した張本人で、ついでに隠れキャラを含めた全キャラクター全イベントクリア済みなのだが。

「これって何するゲームなの?」

 オープニングアニメーションを見ながら園香が聞いてきた。

「あ、えと……」

 女子には説明し辛い……。

 とっとと別のゲームに興味を移させた方が良さそうだ。

「そ、それよりも次のゲームを――」

「む、なんか怪しいなぁ……。あっ! もしかしてこれ、秘蔵のゲーム!?」

「違います!」

 この変な勘違いをされたままの方が大変なので、やむを得ずちゃんと説明した。

「ふーん……。そっか」

 園香は画面ではなくパッケージの裏を見ている。

「で、たまたま君はどの子が好きなの?」

「いや、そう言うんじゃなくって!」

 どうしてだろう、ただのお気に入りキャラクターを伝えるだけなのに、女子が相手だと凄く恥ずかしい事の様な気がする。現実で好きな女子の名前を言うよりも抵抗があるかもしれない。

 まあ、現実では彼女にしたい「好き」はまだよく分からないのだが。

「そ、そこまでやり込んでませんから……」

「ふーん……」

 目茶苦茶ハマっていたのに嘘を言って誤魔化すと、園香はあまり興味無さそうにパッケージを床に置いた。

「うちの学校にはそんな丁度良い木って、旧校舎とか裏庭の側にはないよね。正面玄関にしか無いから、ほぼ公開告白だね」

 しかも下に生徒が入らない様にわざわざ段差にしてある。

「それは木が伝説になるんじゃなくて、告白した女子が伝説になりますね」

「あはは、確かに目立つね。でも告白スポットに男女でいたら、それだけで十分目立つし大差ない気もするけど」

「そ、それはまあ……」

 ただのゲームの設定にそこまで現実を求められては、楽しいゲームなんて無くなってしまう。

「……ねえ、たまたま君は告白されるならどっちがいい? 二人っきりで予想できない突然される告白と、大勢の前でそうだと分かってされる告白」

「え?」

 質問の意図はよく分からない。

 ただ上目遣い気味に聞いてきた園香に、先日の校舎裏での出来事がフラッシュバックした。

 あの時は園香と二人っきりで告白されるかと思ったのに、予想できない突然のブラック化をくらった。

「……大勢の前で」

「え!? 人前の方がいいの!?」

「え!? いや、どうでしょう……?」

 殆ど無意識の回答だったので、園香にびっくりされてすぐに我に返った。月照としてはそのどちらよりも、二人っきりでそうだと分かってされる告白の方が嬉しい。

「……でもいいね、それ」

「え? 伝説の女子が!?」

 園香は大勢の前で堂々と宣言したいのだろうか。それは凄い度胸と覚悟がいると思う。

 ……ふと脳裏に勉の姿が浮かび上がりかけたが、あまりにも()(びん)すぎて心が思い出すのを拒絶した。

「ふふ、それも面白いけどあの木の下での告白だよ」

 園香はちょっと照れ臭そうに、悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「それはどういう……?」

 会話の流れ的には全く同じ意味だと思う。

「だって、私なら誰にも知られずに告白できるから」

 言われて、月照は園香が霊だという事を思い出した。

 確かに園香なら実体化しない限り、どれだけの人混みの中でどれだけの大声で告白しようとも、誰も気付かない。

 しかしそれなら勿論お目当ての相手も気が付かないので、自室での独り言と何も変わらない。

「ああ、それはそうですね」

 だから月照はどこか(きょう)()めした様な感覚で適当に(あい)(づち)を打ち、ゲーム機からソフトを取り出した。

 それを仕舞おうと、園香の前に置かれたケースに手を伸ばし――。

「(……鈍感)」

 手に取った瞬間、不満顔の園香が小さく呟いた。

「え? 何か言いました?」

「別に、何でもない! 次のゲーム、早く!」

「はいはい」

 急かされたので呟きの内容を気にせず、言われるがまま次のゲームを起動させた。

 だから気付かなかった。


(聞く人がいないと、告白って言わないんだよ……)


 住職が行けない正面玄関前で霊の告白を聞く事ができる人間は、園香が知る限り一人しかいないという事に。


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