2セーブ目(12)
あまりに突然すぎて、月照はただ呆然と柔らかかった感触を思い出していた。
「うーむ……儂も多くの霊を成仏させてきたが、ぱふぱふで成仏させる者が現れるとは」
「ぱふぱふはしてねえ! 抱き締められてただけです!」
月照は顔を真っ赤にして突っ込んだ。
そもそもこの住職はなぜそんな言葉を知っているのか……。
「ふむふむ、冗談はさておき、包丁も綺麗に消えた様だ。これで一先ず君の身の安全と、話をする環境はできたわけだね」
住職はご神体を指差して続けた。
「さてさて、それではそいつを明日にでも埋めて貰えるかな?」
そういえばそんな話をしていた。
「いやいやいや、ちょっと待って下さい!」
月照は慌てて話の腰を折った。
「今の! おかしいし、何があったのかとか気にならないんですか!?」
「いやいや、何万もの霊を成仏させてきた者としては、それほど驚く事でも無いよ」
さすがに万は盛り過ぎだとは思うが、しかし人生経験に死後経験も加算すれば月照の何倍も経験を積んでいるのは間違い無い。きっと本当に彼女の成仏について何か推測できているのだろう。
「今のご婦人は、君を死んで欲しくなかった大切な誰かだと誤認したんだろうね」
「ご、誤認って……」
もしそうなら、彼女はドジで成仏した事になる。
「ふむ……推測と推理を交えてみようかね」
住職は顎に手を当てて少し考える素振りを見せた。さっきの適当に言ったという話とは異なり、本当に真剣に考えている様だ。
「彼女は、おそらく無理心中したのだろう。高校生――いや中学生の息子を自ら殺めたのだろうね」
「えっと……根拠は?」
月照にとって、彼女の事を知るヒントは「完全に人間らしい思考が吹っ飛んでいた」「包丁を持っていた」「住職の同情話に反応した」「下着姿の美人(でも年増)」「おっぱいが柔らかかった」くらいしかない。
それだけでは息子の話や無理心中なんて死に様、どうやっても導き出せない。
「なに、簡単だよ。包丁を持った君を見て、『生きていて良かった』と言ったんだ」
住職は往年の推理小説に出てくる名探偵になったかのように、煙管を燻らせるような仕草をした。
(エア煙管とか……。さっきからこの坊さん、めっちゃ俗物っぽいんだが……)
「その相手が赤の他人の男子なら、あれ程狂気に囚われていた霊が正気に目覚めるわけがない。そして誤認した君の年齢や胸に抱くという行動から、旦那さんや年の離れた愛人とも考えにくい。そんな相手なら、普通に抱き付いたはずだろうからね」
住職が得意気に言うだけあって、筋が通っている気がしなくもない。
「ならばきっと、腹を痛めて産んだ実の息子だ。目の前に包丁を持った息子が立っているのを、死ぬ間際に見たんだろうね」
なるほど、彼女は同情話で様子が変わったわけではないらしい。確かにあの時、包丁を持った月照が目の前に立っていた。
「え? でもそれじゃあ、包丁を持ってた息子があいつを殺したって事になりませんか?」
自分がその状況にいたからこそ、住職の話の矛盾点に気付いた。
しかしそれは、住職にとっては期待通りのものだったらしい。
「いやいや。息子はきっと、別の誰かを刺したのだ。それを彼女が目撃したのだろう。発狂するほどの妄執、誰彼構わず殺そうとする行動はほれ、後悔からくる自棄と、息子の罪を隠し自分で背負い周りの目を自分に向けさせる為のものだよ。つまり、息子の持っていた包丁を奪い取ったんだね」
住職はどや顔で踏ん反り返って続ける。
「息子を刺したのは、罪を償わせようとしたのだろうね。しかし動かなくなった息子を見て自分のした事に気付き、彼女自身も同じ包丁で……」
じゃあ息子は誰を殺したのか、という問題が残るのだが、しかし彼女の直情的な行動を実際に体験してしまった月照には、なるほどと思うところが多くあった。
ただ、この推測が正しくとも間違っていようとも、確実に一つだけ言える事がある。
(胸、凄かったな……じゃなくて! やっぱ霊ってのは自分勝手で好き勝手して、関わるとロクな事がない!)
自分が犯した罪を心のどこかで理解していて、その重さから逃げる為に発狂して周りの人間に襲い掛かって……。
成仏できない苦しみから逃れる為に自分に都合良く事実を誤認して、自分で勝手に救われてしまったのだ。
こんな勝手な奴等とは、やはり関わり合いたくない。
でも向こうから勝手に関わってくるのでどうしようもないのだが……。
(本来ならぶち切れてたところだ!)
では何が「本来」じゃ無くしたのかは追及しないでおこう。月照だって年頃の男の子だ。
「さてさて、それでは本題に戻ろうか。ご神体だが――」
「あ、いやその……そうですね……」
相変わらずそれに拘る住職に、月照はこの話題からもう逃げられないと諦めた。
しかし。
「ちょっと……時間を下さい……」
堂々と、この問題から逃げる選択をしてみせた。
「……ほうほう、なるほど」
住職はその豊かな経験で一体何を察したのか。
「しかし、儂にもあまり時間がない、という事は理解しておいてくれ。確かに儂が消えてから埋めても効果はあるだろうが、儂も安心くらいはしたいのだ」
慈悲に満ちた表情を浮かべながらもどこか辛そうに笑い、住職はすぅ、と姿を消した。
「…………はい」
霊障を終えた住職に、月照は小さくそう返事をした。
ご神体はベルトで腹に押さえ付け、服で隠して持ち出す事にした。ここに放置しておくと、教師に回収されてどこかに保管されてしまうのは目に見えている。
「月くん……あの……」
桐子は何か言いたそうにしているが、それ以上は何も言えないのか、黙って月照の手を握った。
月照は空いた手で肝試しの札を持って、桐子の手を引いてさっき鍵を掛けたドアへと歩き始めた。
今まで参加したどの肝試しよりも恐ろしい体験だったが、終わりよければ全て良し。ここ数日の懸案事項も解決したし、後はこれを持って他の参加者と合流すればこのイベントも終了だ。
新しい懸案事項を腹に入れているのは、まあ今は考えないでおこう。
と、薄明かりの向こうにそのドアが見えてくると、突然ドアが、ガン、ガン、と結構派手な音を立て始めた。
(な、なんだ!? まだ何かいるのか!?)
只事ではない勢いで叩かれている。古い建物なので、いつドアが破られてもおかしくない。
(って、破ったらまた住職出てくるじゃねえか!)
どんな乱暴な霊がやっているのかは分からないが、月照は走り出した。このタイミングでもう一度住職と顔を会わすのは気不味すぎる。
浴衣姿の桐子がいるので全然速くないが、それでもすぐにドアへと近付き――
「「みっちゃん、大丈夫!? いるの!? 返事して!」」
ドアの向こうから双子の泣きそうな叫び声が聞こえて来た。
「ええい、先生はまだか! やはりこうなったら、窓を割って中に入るしか――」
続いて瑠璃も、切迫した感じだ。
(だああ! 時間かけ過ぎたぁ!)
「待て待て、いるから! 無事だから!」
月照は内側から声を掛け、一旦桐子の手を離してドアの鍵を開けた。
「「みっちゃん!」」
ドアを開くと同時に、双子が飛び付いてきた。
「うお!? な、何もそこまで──……」
いつもの様に突き放した言い方をしようとしたが、双子の顔を見て何も言えなくなった。
「全く……あまりに遅いから心配で様子を見に来たら、ドアに鍵が掛かっていたんだ。危険な霊の話をしておいてこんな状況になっていたら、私だって心配になるさ」
瑠璃も本気で心配していたらしく、頬に伝っていた冷や汗を袖で拭いながら言った。
「「大丈夫だった!? あんまり遅いから怖かったよ!」」
双子の声はまだ悲鳴に近い。
「はは……どうやら杞憂でござったな」
「もう……。お姉ちゃん、体当たりでドアを破るなんて無茶、今後絶対しないでよ?」
なるほど、ドアを破りそうな攻城兵器級の攻撃は、どうやら幸の仕業だったらしい。優も一緒に心配してくれていたようだが、正体が分かると、むしろ建物倒壊の心配をしろと言いたくなった。
「あ、あの……。済みません、信じてあげられなくて……」
加美華は後ろの方で、申し訳なさそうに言った。頬と目元を拭ったが、その事を知られたくないのか後ろを向いてしまった。
「あ~……」
遅くなったのは確かに包丁女が一番の原因だが、鍵を閉めたのは自分なので、ここまでの騒ぎになってしまうと責任を感じてしまう。
「「みっちゃん、足怪我してるの!?」」
この暗がりで本人すら忘れていた怪我を見付ける双子がちょっと怖い。
「え? だ、大丈夫か?」
瑠璃がすぐに足下に屈み込んだ。
「や、ややばいです! これはきっともしかしなくても部長の私の責任ですよね!?」
「つ、月照君!? そんなに危険な状態だったんですか!?」
優がおろおろして、加美華が顔面蒼白になりながら一瞬で目の前まで飛んできた。
幸は……左肩を押さえて「何度も体当たりした自分の肩の方が絶対痛い」アピールをしている。
幸はまあ完全スルーするとしても、こうなってしまっては仕方がない。
月照は素直に、中で包丁女に襲われていた事を話した。
彼女が成仏した事も、正体の推測内容も、月照がどうして足に怪我をしたのかも全て。
ただ、住職の事は一切を伏せておいた。
それを語れば、ご神体の事まで話さなければならない可能性があったからだ。
それはまだ、心の整理がついていない。
月照は、加美華や瑠璃と一緒に自分の足首の傷を心配している桐子の頭を撫でた。
桐子は一瞬不思議そうな顔をしたが、何を思ったのか頷いて笑顔を見せた。
その様子に、加美華もほっと胸をなで下ろしている。
この二人には、やはりちゃんと相談しないといけないのだろう。
(だけど、まだ……)
これだけは、まだ誰にも話すわけにはいかなかった。
――あ、いや。
おっぱいの件も、誰にも話すわけにはいかなかった。
◇◆◇◆◇
イベント終了から数日が経ったある日。
月照の足の怪我は思った通りかすり傷で、もう既にかさぶたも取れて殆ど跡は無くなった。
双子は予想通りいきなり部活をサボろうとしていたが、「それをしたら今後一緒に登校しない」と月照が言うと、「じゃあ帰る時間に迎えに来い!」と無茶な条件を押しつけてきた。
本当は相手をしたくなかったのだが、月照は帰宅部とはいえ野球部に入る為の自主トレーニングをしなければならないので、放課後学校の外周をランニングして時間を潰す事にした。
家に帰ってからだとどうしても誘惑が多くて自主トレなんてできないからだ。
加美華とはあれから会っていないが、あの晩あの後交換したメールアドレスには毎日メールが送られてくる。
内容は主に桐子の事だが、霊の服装を変える方法やら何やらと、聞かれても困る事ばかりだ。
偶に脈絡もなく不自然に話題を変えてプライベートな質問をぶつけてくる事もあり、野球部の予備部員的な立場になった事などをついつい教えてしまった。
中学時代から友達がおらずメールなんて誰からも貰えなかった月照にとって、親しくしてくれる女子からのメールは内容なんてあまり関係無い。毎日独り言を言いながらにやにやと返信していた。
ただ、同じ加美華からのメールでも、「オカルト研究部」という名称が入っていると少し意味合いが異なった。
「多分、この事件ではないかな」
加美華に呼び出されるがままオカルト研究部の部室行くと、瑠璃はイベントのあの時現場にいた人間だけを残して他の部員を人払いした。
始めて見た先輩の男女それぞれ二人ずつが、渋々と言った感じで外に出て行った。
「がおー」
去り際、その内一人の女子が耳元で可愛らしい声でそう言ってくすくす笑った。黒髪で真っ直ぐなロングヘア、少しノリの軽そうな雰囲気と身軽そうな小柄な体型をしていて、声だけでなく顔も可愛い。
(ああ、着ぐるみ先輩か……。そういや、男子のどっちかはベートーベン先輩か?)
多分月照と一度も目を合わそうとしなかった方だろう。
月照は軽く会釈して全員を見送ってから、瑠璃が机に出していたA4用紙数枚分の資料を見た。
「これ、ですか……」
「勿論、確証は無い。だが隣の県とはいえこの町に近いし、あの日聞いた推測内容と重なる部分が多い」
別段頼んでいたわけではないが、オカルト研究部は包丁女の正体を調べてくれていたのだ。
情報源はネットと新聞のようで、今から十年近く昔のニュースだった。
「まあ、これ以上古い情報は素人の好奇心だけではなかなか集められない、という理由でとりあえずこれに決めただけなんだがな」
瑠璃に会うのも久しぶりだが、相変わらず歯に衣着せぬ小気味よい先輩だ。
「ではではそれでは、とりあえず一先ずそれを見てみてね」
優も優で相変わらず早口で元気が空回っている。聞いている分には楽しい先輩だ。
見ていると何時ぶっ倒れるか分からない不健康な外見なので不安になってくるが……。
「それを調べるのに式神を四体も必要としたでありんす」
幸はまあ……とにかくスルーを突き通そう。
というか、式神とはさっき出て行った先輩達の事では無かろうか。
(そりゃ『がおー』って言いたくなるな)
脈絡は無い。
ただ月照は先輩達に同情した。
「あ、あの……ごめんなさい。勝手な事かも知れないと思ったんですが……」
加美華はいつの間にか月照の横にいて、資料の置かれた席の椅子を引いてくれた。
素直にそこに座るしか無いが、その両隣に既に双子が陣取っているのでちょっと腰が引けた。
さっきから静かなのがなお不気味だ。
それでも席に座ると、加美華は背後に立って肩越しに月照が手に持った紙を覗き込んできた。
顔が横にあるので気になってなかなか内容を読めない、と思っていたら、蛍が加美華を押しのけて椅子ごとピタリと横付けしてきた。反対側から灯も同じように寄ってくる。
一瞬ありがたいと思ったが、双子に両サイドをきつく抑えられ、背後に加美華がいるこの状況は、単に逃げ道を奪われただけではないだろうか。
深く考えると折角用意して貰った資料が頭に入らなくなるので、月照は周囲を無視して資料に集中した。
それは隣の県で起こった事件だった。
ある夫婦に病気の息子がいた。
アメリカで手術を受ければ治る可能性があるが手術費があまりにも高額で、その夫婦の収入ではかなり厳しいという、偶にニュースで見かける状況だった。
だから夫婦は生活費を削って、寝る間を惜しんで、ひたすら無理して働いていた。
勿論寄付も呼びかけたが集まりは悪く、時間が経てば経つほど息子の症状は悪化して国内での治療費が嵩んでいった。
何年も何年もその状況が続き、しかし手術費は全然貯まらない。
夫婦は精神も生命も磨り減らしていき、やがてどこかが壊れてしまった。
出費を抑える為に息子の入院費を倹約しようと自宅療養に切り替え、徐々に通院回数まで減らし、やがて一切の治療を打ち切ってしまった。
息子が中学生だった事から医師が児童相談所に連絡して行政組織が動いたが、それが夫婦をより一層追い込んでしまった。
結果、父親は息子を殺そうとした。
息子は自分で身を守ろうと、病の身体で必死に抵抗した。
入浴中に只事では無い物音に気付いた母親は、下着姿で慌てて飛び出し、包丁を持つ父親と血を流す我が子を見て──。
我が子を守ろうと父親の凶刃の前に身を晒し、首を深く切られた。
父親は苦難を共に耐えてきたパートナーを自分で傷つけた事に動揺し、包丁を手放して母親を抱き起こした。
母親は薄れ行く意識の中で、父親の背後で包丁を拾う息子の姿を、その包丁を父親に何度も突き刺す息子の姿を、そして血を吐き崩れ落ちる息子の姿を、何も出来ずに見ていた。
彼女の瞳には、それは一体どのように映っていたのだろうか。
それはもう、誰にも知る事は出来ない。
「…………なんか……」
一通り目を通した月照は言葉に詰まった。
果たして、これを好奇心だけで調べても良かったのだろうか。
一つの家庭が一つの不幸をきっかけに、苦しみ壊れて最悪の結末を迎える話なんて、知らないままの方が良かったかもしれない。
少なくとも月照は、あれほどの恐怖を与えられて服を一着駄目にされ怪我までした恨みがあるのに、こんな物を読まされては恨みようが無い。おっぱいの感触も不謹慎にしか思えなくなった。
何より、父親が凶行に出た理由。
瑠璃の集めた資料、新聞の写しの中にほんの二、三行ほど記載されている、家計簿の雑記欄にあったメモ。
『息子が生きている限り、息子の手術代は貯まらない。息子を救えない』
そこには、紙が破れそうなくらい力を込めた文字でそう書かれていたらしい。
「……俺は、きっとこういうの知っちゃいけない人間だと思います」
月照は資料を置いて立ち上がった。加美華も双子も邪魔をしなかった。
「「みっちゃん……」」
あの住職のように「説法」と言い張って理不尽な暴力をふるえるくらい強靱な精神を持っていれば。
父親のように「それはお前の事情だ!」と割り切って霊に目潰しするくらい切り替えられるようになれば。
その時は、霊の身の上話を聞いてもいいだろう。
だが今はまだ、自分の身を守る術すら持っていない。
「下を向くな!」
「成仏させたんだよ!」
灯と蛍が、急に大きな声を出した。
「偶然でも勘違いでも!」
「救ったのはみっちゃんだ!」
「「胸を張れ!」」
言って、二人同時に月照の背中をどすんと強く叩いた。
両方の肺に同時クリティカルヒットしたので、月照は文句も言えずに咳き込んだ。
誰かが背中を撫でてくれているのがありがたい。
「私も色々考えた上で君に見せた。ショックだったのなら尚更、こんな物は気にするな」
すぐ横から瑠璃の声が聞こえた、どうやら撫でてくれているのは瑠璃らしい。
「これが君の見た包丁を持った霊の事とは限らないんだ。事実、この母親は誰も殺していないし、誰彼構わず斬りかかる動機だってどこにも無い」
言いながら、瑠璃は月照の胸も撫で始めた。
「ちょっ!?」
咳が治まった月照が慌てるが、時既に遅し。瑠璃は月照をしっかり抱き締めていた。
「先輩! 近い、離して下さい!」
「いいや、君がそんな顔をしている間は何があってもぉおおう!?」
瑠璃が抵抗する月照を押さえつけようとしたが、その腰に加美華が抱き付いて後ろに引っ張ると、同じく二人を引き離そうとしていた双子が驚くくらい簡単に外れた。
「あ、ああ。いや、少し悪乗りしてしまったが、まあ、なんだ……」
瑠璃は赤くなった頬を見られまいと背中を向けて、誤魔化すように続けた。
「君がこの部を去ったとしても、私達は君の味方だ。いつでも気軽に相談に来てくれ」
瑠璃の言葉に優と幸も大きく頷いた。
こう言われて悪い気はしない。
「ええと……。まあ、機会があれば……」
しかし同時に気恥ずかしくなって、月照はそのまま部室を出ようとした。
その背中に、
「「お疲れ様。それじゃあみっちゃん、下校時刻に校門でね」」
いつもの笑顔といつもの声で、双子が声を掛けて来た。
片手を上げる事で応え、そのまま部室を後にした。
(胸を張れ、とか……偶には格好いい事言うじゃないか)
本人達には言えないが、今の月照には一番ありがたい言葉だった。
(背中の痛みさえ無けりゃ、素直に礼を言っても良かったけどな)
しかし相変わらず双子に対してだけは、素直になれない月照だった。
読んで頂きありがとうございます。今回で2セーブ目は終了です。
この章は書きながらアップしていましたが、伏線を入れたり回収したりがかなりきつかったのと、文章がダラダラと長くなってしまう傾向があったので、やはり私にはこの方法はまだ早かったと痛感いたしました。
次からは書き溜めしてからアップする事にしますので、更新間隔がかなり空くとは思いますが、また目を通して頂ければ幸いです。




