Six episode
数日後、ムムは少々最近運動不足を感じていたので運動不足はいけないとあまり馬には乗ったことがきっとなんとかなるだろうと乗馬場に行くことにした。
中庭から突っ切って行ってみると、一人の令嬢が馬に乗ってギャロップしていた。
「アレーネさん?」
「あら、ムム?」
アレーネもこちらへ気づいたようで馬に乗りながらこちらへ寄ってくれる。
「貴方も馬に乗るの?」
「ええ、たぶん乗れるかなと思って…あれ?ほかの人たちは?」
取り巻きが見えないのでムムがきくとアレーネは吐き捨てるように「ああ。」という。
「私。嫌になっちゃって、もうやめたの。」
やめるというのは何をかと思いながらも口には出さなかった。
「したくもないドレスやアクセサリーの話し、リーダーとして毎日お洒落なファッションに変えること、アイツらの嘘のご機嫌取り、すべてもう嫌になってやめたの。」
ムムはそういうことかと頷く。
「貴方に感化されたのかもね。まっすぐなあなたの言葉を聞いて私も正直に好きに生きようって思ったの。」
ムムは見るからに大人しそうな馬を選んで乗り、アレーネの隣について続きを話す。
「だから大嫌いな親、しかも父の為に別に好きでもない皇子に取り入るのなんてやめたってわけよ」
「と、取り入るために身体まで皇子に差し出したのですか。」
ムムは言っていて恥ずかしくなり顔を赤くしながらアレーネの反応を待つ。
「いやだそんな言い方、皇子とは一回だけの関係よ。皇族に抱かれるほどいい女って、箔がつくじゃない?今後のことを考えてね。それに私がこんな後宮に入ったのにはちゃんとした理由があるのよ。」
「それは?」
「…一度だけ皇族主催のパーティーへ行ったことがあってね?その時に私…恋に落ちたの…」
ムムは唾をのんで次の言葉を待った。
「執事のターキー様に…」
執事ターキー・トミリ、彼は皇子専属の執事兼騎士の美青年だ。
何時もにこやかに笑っているが何を考えているのかは分からない。
彼女はそんな彼が良いと熱弁していた。
「そうなのですか…私、ターキー様には会ったことがありませんが、アレーネさんがそういうんですからとてもカッコいいのでしょうね。」
アレーネはギッとムムを睨み、「まさか取る気。」とすごい剣幕で言ってくる。
「まさか、私はただここでのんびり暮らして、そのまま家に帰ることが目的ですから。」というとアレーネはいつもの顔を戻る。
「ふふ、今頃取り巻きのアイツらは私が離脱して躍起になって皇子の気を引こうとしているわよ。」
アレーネはとても楽しそうだった。
ムムはそんなアレーネを見て微笑む。
「あら、ムム。笑顔じゃない。どうしたのよ?」
「いえ、アレーネさんが前よりもキラキラと輝いて綺麗だったので、嬉しくて。」
アレーネは「おかしな子。」とクスクス笑う。
二人の間に和やかな空気が流れ、この二人でお茶にしようという話になった。
アレーネが馬小屋へ入れようと馬から降りた途端ムムが乗っていた馬が馬小屋へ帰されると悟り、一度大きく嘶くとムムを振り落とさん勢いで乗馬場を駆け回る。
当の本人は手綱にギュッとつかまり、下を向いている。
「ムム!!いやだ…どうしましょう…何よあの茶色の馬!!さっきまで大人しかったのに!!ムム、待ってて!!今助けを呼んでくるから!!」
ムムは振り落とされまいと必死に手綱に捕まっている。
アレーネが走って中庭をつっきると皇子が女と散歩をしているのを見かける。
アレーネは頼りにならなそうだと思いながらも男という理由で呼びかける。
「どうしたアレーネ。そんな乗馬服のまま血相を変えて…」
「む、ムムさんが!!暴れ馬の上に!!今も、必死に!!」
それだけ聞くと皇子は持っていた女の細い手を振り払い、アレーネを置いて乗馬場へ向かった。