Five episode
この帝国ノロジーの皇帝様ご家族は一部の貴族一部の使用人にしか姿を現したことがない。
それは皇帝様とお妃さまが人目を嫌うということもあるが、暗殺の危険や反乱の鎮圧を早めるため、皇帝の威厳を保つためが主な理由だ。
市民が知っている皇帝様ご家族の情報は名前と誕生日、家族構成のみ特に、皇帝の血筋ではないお妃さまはどの貴族の出身かはおろか誕生日すら知らされていなかった。
知らされているのは名がシュガーということだけだった。
ムムは後宮にあるこじんまりとした図書室で『そんな、ノロジー国の今!!』という本を読んでいた。
三時の鐘が鳴り、お菓子を作ろうと自室に戻る。
昨日から下ごしらえしていたマカロンを作ろうと冷蔵庫から出来上がった生地とクリームを取り出し、今まさに生地の上にクリームを乗せて完成という時ドアが大きな音を立てて開かれる。
そこに居たのは美しいマダム。
栗毛の長髪がサラサラと靡かれ、着ているただのエプロンドレスが豪華絢爛なドレスに見えた。
マダムは口元にニッコリと笑みを湛えながらこちらへ向かってくる。
「とっっっっっても美味しそうな匂いがしたのだけれど!!甘くて甘くていい匂い!!」
生地を焼いたのは昨日なのになぜ今作っているのが分かったのかと問う前にマダムはテーブルに着席していた。
「私にも食べさせてもらえる?」
「は、はあ…いいですよ。」
得体のしれないマダムとはいえお客様が来たので紅茶を淹れる。
この人は何者だろうと思いながらもマダムがマカロンを食べるのを目の前で見ながらお茶を啜る。
マダムは数種類の味のマカロンを一つずつ食べ終えると美味。と呟き口の周りをハンカチで拭きため息をつく。
「とっっっっっても美味しかったわ貴方。これ手作りよね?」
良い笑顔で聞かれ「ええ、まあ。」と咄嗟に答える。
「凄いわ。凄いわ。若いのに!!私はこのレベルになるまで十年はかかったのに!!あ、私もラングドシャを持ってきたのマカロンのお礼に良かったらどうぞ。」
マダムはエプロンドレスのポケットから可愛い小包を出す。
マダムは笑顔で悪い人には見えない。
中には言った通り美味しそうなラングドシャが入っており、ムムは一つ食べてみることにした。
サクサクと甘いラングドシャ、見た目もバッチリで売り物のようであった。
「とても、美味しいです。」
そういうとマダムはニコッと笑う。
「私の家族はみんな甘いものを食べなくなったから私一人で作ったり食べたり楽しんでいるの…」
「そうなんですか…」
マダムはふと思い出したように名前は。と聞いてくる。
「ムムです。マダム、貴方の名前は?」
そう聞いた瞬間メイド姿の女性3人がドアを突然開けて叫ぶ。
「あー!!いた!!シュガー様」
「こんなところに!?」
「何故!?」
その3人をみたマダムはやばいという顔をし、窓から裏庭へ抜け出す。
「私の名はシュガーよ。今日は楽しかったわ、今度はちゃんと予定を立ててお茶会しましょ、ムムちゃん。」
最後に私に向けてウィンクをしたシュガーさんは走り去り、メイドたちも彼女を追いかけて走り去っていった。
今日図書室で見た本の現王妃の名「シュガー」と同じ名前でメイドに追いかけられる謎の美しいマダムはまさか王妃本人であったのかと思う反面、あんなに行動力があってお茶目な人がまさかねと思うムムであった。