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皇子の初恋  作者: 雷炎
Chapter Three
11/14

Ten episode

…あれ?20話以内に終わらない…?

「ターキー!!ここで現れるとは流石は私の執事!!」


「おだてても何も出やしませんよ。まあ、私が来たのですからご安心ください。掃除は今回は私がいたします。皇子は水タオルをムム様にお付けください。」


「わかった!!」


「皇子、『今回は』ですよ。明日からお掃除とお料理の一般常識程度は学んでいただきます。」


「え、マジ?」


「はい。」

そんなやり取りをしながらも皇子は清潔なタオルを水に浸し、そのままおでこにのせる。

もちろん絞っていないので水で顔をがびしゃびしゃである。

「皇子、本当に常識がなっていないのですね。呆れてものも言えませんが…」


「え、」


「絞ってください。固く、水が出ないように。見てください彼女の顔、なんだかうなされているようですよ。」

見るとムムの眉が寄り、首をゆっくりと横に振っている。

その様子を見て「…愛らしいな。」などと漏らすので「早く絞れクズ。」とターキーは皇子に軽く蹴りを入れる。固く絞った水タオル額にのせなおし、皇子はぴったりとムムのそばにくっつきムニムニな手を擦っていた。

「ムム…」

その様子を見て

「皇子、手を触っているのですか?擦っているのですか?私には触っているように見えるのですが…」

と、漏らすターキー。

「擦っているに決まっているだろ!!何を言うんだお前は!!」

そう言っているアヴァンは両手でムムの手を持っている。

どこからどう見ても触っていたように見える。


「おまけに、表情筋緩みっぱなしですよ?それでは苦しんでいるところを見るのが楽しいクズかムム様に触れるのがとても嬉しい変態のどちらかのように見えますが…」

そう言われて気づいたのかアヴァンは片手で自分の頬を触った。


「おやおや、無自覚とは…ムム様のような愛らしい容姿の方よりもほっそりとした美人が好きだと思っていましたが…」

アヴァンはぐぅの音も出なかった。

確かにそうだ。

俺はムムのように可愛らしい容姿よりも比類なき美人のほうが好きなはずだ。

しかし、今俺はこの手を離せずにいる。心配して手を握っているというのは建前で、確かに俺は好きでムムの手を握っている。


「皇子にもついに良き女性が現れたのですね?これはめでたい。」


「な!!ち、ちがっ!!もうお前帰れっ!!」

顔を真っ赤にしながら大声でそう叫ぶのでムムは目を覚ましてしまう。

まずいと思い、ターキーのほうを見るともうすでにおらず、気づけばぐちゃぐちゃだった台所も綺麗に元通りになり、皿に温めてあるスープまで盛り付けられていた。

口は悪いがターキーには感謝するばかりだ。


「皇子…ずっといてくれたのですか?この水タオルも?スープも、本当に作ってくれたのですか?」

失敗だらけだったとは言えないアヴァンは「あ、ああ。」と返事をする。

「ひとまず、作ったスープを飲んでみてくれ。無理にとは言わないが…」

差し出したのは卵の白身の浮いた緑色のナニカ。


「…何を入れたのですか?」


「ほうれん草、カブ、人参、大根、モロヘイヤ…だったか…?食べやすいようにと言っていたからすりつぶしてみたが…」

中身を聞いてドン引きながらも一口食べる。なんとも形容しがたい味だ。

ほうれん草独特の青臭さ、次に来るのは人参と大根、株の円舞曲(ワルツ)最後にモロヘイヤの粘りが効いて不味かった。


おまけになぜかとても甘い。


「皇子、控えめに言います。不味いです。凄く不味いです。」

余程ショックだったのか石碑のように佇んでいるアヴァン。


「これ、味見しましたか?」


「してない…」


「多分、塩と砂糖取り違えてます。この味は…ひどいです。」

スープは不味く、掃除もできず、水タオルも一人では用意できない。

ろくに看病が出来なかったとガックリと肩を落とす皇子。そこにムムは「ですが。」と言葉を続ける。


「看病しようという気持ちがとても伝わってくる優しい味でした。右の手がやけに暖かいのは握ってくれていたのでしょう?もし、この看病に点数をつけるとしたら100点満点中100万点です。とても嬉しかった…ありがとう、アヴァン様。」


ムムは熱で赤い頬のままにっこりとほほ笑む。

アヴァンはそれを見て風邪がうつったように耳まで赤くしながら照れたように笑い返した。

仕事を放ってきたことをㇵッと思い出し、渋々ムムの元を後にする。

そのようすを陰ながら見ていたターキーは気づいていた。


アヴァンの心はもうムムのものだと。


アヴァンは一途にムムを思っているという事実に。アヴァンの心は気づいていてもまだ受け入れていないのであろうが今に受け入れるだろう。


ターキーはこの国の未来は明るいと薄く笑みを浮かべていた。

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