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皇子の初恋  作者: 雷炎
Chapter Three
10/14

Nine episode

第三章(?)開幕(あんまり章に意味はない)

「はぁ…」

アヴァンは腕の小さな青痣をさすりながら大きなため息を何度も繰り返し吐いていた。

「はぁ…」


「なんですか皇子、気色悪いですね。いつも通り女とお酒大好きなバカっぽい皇子でいてください。」

辛辣な言葉を投げかけるのはアヴァンの執事ターキーだ。

ターキーは聞いて「しまった。」と後悔した。

いつもの女と酒に溺れるおバカな皇子ではないが別の意味でおバカな皇子が出てくると思ったのだ。


「いやな?昨日とある令嬢…俺がレシピメモを書かせたムムという令嬢なのだがな?昨日のムムなら喜んで抱きたいなと思ってな…俺がムムを庇って怪我をしたのは知っているだろ?」


やはり始まってしまったとため息交じりに「ええ、まぁ。」と答える。


「それで、結果擦り傷と痣という大したことのない怪我だったのだが、ムムのやつずっと泣きそうになりながら腕をさすってくれてな?平気だといっても医務室の隣で待っててくれてな?いつもは俺に興味なさげで妙に毒吐きなアイツが心配そうに顔を覗き込んできたときは思わずキスしたくなったものだ…フフフ、アイツ分かってないだけで俺に惚れているだろ…フフフ…フフフフフ…だが、あんなに俺を拒絶していて、俺のことに興味がないと言い張ったムムが…」


やはりナルシストで少し子供じみたおバカな皇子が出てきているとターキーは思った。


最後らへんの浮かれたり沈んだりというのは独り言だとしても気持ち悪すぎると若干引きながらも頭にはとある言葉が浮かんでいた。


「なんだか、恋をする乙女のように語りますね皇子。」


「は?」


「彼女が自分を好きかどうか好きではないか、悲観したり楽観したりと乙女のようです。それがなくともバカっぽいのにさらにバカっぽいですよ皇子。」


「な、な!?俺が、この俺があんなのを好きになってるだと!?別に特別な美人でもないあいつを!?そんなわけあるわけがない。特別な美人でさえも色目を使ってくるような俺に、アイツが言い寄ることはあってもこの俺がアイツに惚れるなんて…。」

一瞬ずっと忘れていた王からの任務が頭をよぎり、もしそうなら本末転倒ではないかと内心苦笑いしていた。

「バカっぽい」という言葉をスルーした時点でかなり盲目的にムム様のことを考えているなとターキーは少し笑みを浮かべながら「では、そんな好きでもないただのご学友であるムム様が昨日の雨で高熱を出してうなされているなんて関係ないですね。」と言い切る前にアヴァンは仕事を放って部屋を後にした。


あからさまな態度にターキーは随分ムム様に惚れこんでいらっしゃると思った。


__ゲホゲホと咳をしながらムムはやっちまったと考えていた。

昨日自分のせいで怪我をした皇子が心配で身体を軽く拭いただけでずっと付き添っていたのがいけなかった。皇子の湯浴みが終わるまで廊下で待ち、その後医務室で異常がないかの診察を隣の部屋で診断をずっと待っていた。皇子が擦ってくれというので腕を擦ったり、足を擦ったりと色々している間に身体が完全に冷えてしまったようでこのありさまである。


一人でもなんとかなるだろうとベッドでうつらうつら眠ろうとしているとドアがものすごい勢いで開く。

シュガーさんかなと上半身を起こし、見てみると皇子が血相を変え、息を切らして寄ってくる。


「だ、大丈夫かムム!!」

間髪入れずにアヴァンはおでこに手を置く。

ひんやりとした感触に少し声が漏れる。

なぜか皇子は少し驚いた顔で顔を赤らめて私の目を見ている。

そんなに熱が高いのかと眉を顰めると一つ咳払いをする。


「待ってろ!!今に水タオルを持ってくる!ムム!!バケツはどこだ!?た、食べやすい物も作ら…ムム!料理ってどうやるんだ!?」

アヴァンはオロオロと部屋中を駆け巡る。そんな彼のパニックぶりを見てクスリと笑い内心で「ポンコツ皇子」とムムは名付けた。


「えっとですね皇子、そこの棚にバケツが…あ、食べやすい物でしたらスープとか簡単ですね、その鍋に水を入れてそこに置いてある塩を入れて、卵を入れて、あとお野菜を小さ…ゲホッゴホ。」


「ムム!!」

アヴァンはすぐさまムムのそばへ駆け寄り、むにむにとしている小さなムムの手を握る。


「大丈夫か!?…今に俺が何とかしてやるからな…」


「大丈夫です…ただの咳です。でも、少し眠いかも…」

瞼の重そうなムムの手を放し、アヴァンは言われた通り水を鍋にかけ、塩と思われるものを入れて蓋をする。卵をとき、色々な野菜をすり鉢ですりつぶし、鍋にかけてぐつぐつと煮込む。吹きこぼれはしたが、無事に出来上がった。のはいいのだが、野菜は一面に散らばり、卵を何度も床に落としたりと辺りはぐちゃぐちゃになっていた。


「なんてことだ…俺は掃除もろくにしたことがないぞ…」


「やはり、こうなりましたか…皇子?」


開けっ放しになっていたドアを見るとターキーが壁に寄りかかっていた。

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