悲願
「こんにちは。久しぶりね」
女が帰った明くる日。別れは突然やってきた。
前日のことなどまるでなかったように、オセと勇者は甲斐甲斐しく魔王の世話をし、私とカイムはそれを眺めていた。
そんな時、前日とは対照的に、静かに扉が開かれた。
そこには二人の女が立っており、後ろに控えていたのは昨日のアリーチェという女だった。
そしてもう一人は。
「ルーナさん!」
驚いて名前を呼んだ勇者、リベルトの前任の勇者であり、そして。
「大きくなったわね、アモン」
「あんたは相変わらず変わらないな」
私の生みの親であった。魔王以外は驚きに目を見開き、勇者と女は絶叫した。
「えーと、つまり……ルーナさんは勇者として魔王を倒しに来たはずが、魔王に恋をして、魔王の子供を身ごもった、と」
衝撃の事実から何とか立ち直った勇者がまとめた。
「さすが私の弟子! 相変わらず呑み込みが早いわねー」
勇者は潔いほど自分の信じる者の言うことは素直に受け入れる男だ。一方彼女をここへ連れてきた女は、自分の尊敬する相手が悪の権化と信じてやまない魔王に懸想した挙句、悪魔まで生み落としている事実がとても受け入れられないようだ。
「信じられない……! ルーナ様ともあろうお方が、相手が魔王とはいえ悪魔なんかに誑かされるなんて」
「貴女はもう少し柔軟に考えられるようになったほうがいいわね。悪魔ってそんなに悪いものじゃないのよ?」
「そんなこと言っているのはルーナ様だけですよ!」
ルーナは苦笑している。人間界でもその姿勢は変わらなかったらしく、相当な変わり者扱いだったという。勇者はここで暮らして少し彼女の意見が分かるようになったらしく、何とも複雑そうな顔をしている。
「バティンくんも相変わらず可愛いわね」
「僕は気に入らないから、取り敢えず死にたいんだけどね。忠実な僕が言うこと聞いてくれなくて。君、魅了効かなかったよね? 何とかしてくれない?」
魔王がため息交じりに愚痴をこぼした。
「あら、そうなの。私もこの子に頼まれたから来たんだけど、無理やりは気が引けてたのよね。丁度よかったわ」
そう言ってルーナは巨大な鋏を取り出した。
突然の出来事に勇者は慌てだし、オセは殺気立つ。
「あの、ルーナさん、まさかこの子を殺すおつもりですか?」
「ええ、そのつもりよ」
ルーナはまるで明日の天気の話でもするかのようにあっさりと言った。
「ふざけるな!! バティン様に触るんじゃねえ!!!」
オセがルーナに殴りかかろうとした。しかしどういうわけか、彼女に近づくことすら出来ない。
そんな彼らを見て、ルーナは呆れたように言った。
「貴方たち、悪魔がどういう生き物かわかってるでしょう? そっちの彼なんて自分がそうなんだからわからないはずがないわよね? 悪魔は自分の欲に忠実よ? ちなみにバティン君、貴方のその情熱の先を教えてもらってもいいかしら?」
「イケメンに生まれ変わって、ハーレムの中ぐっちょぐちょのピンク色の日々を送ることだ!」
魔王は嬉しそうに答えた。
「あら、ステキ。ということだから、私は彼の望みを叶えてあげたいと思うの。ごめんなさいね」
そう言って何のためらいもなく、彼女は魔王の角を切り落とした。




