勇者、再び
「バティン様ー、お食事ですよー」
「さっき食べたから大丈夫―」
「嘘は感心しないな。さあ、いっぱい食べて大きくなるんだぞ」
「お前ら僕の為に動きたいんだろ!? なら放っておいて! 切実に! お願いします!!」
「「わかったからご飯にしような」」
「家出してやるー!!」
「平和ですねぇ」
「全くだ」
○月○日、雲一つない晴天。平和とはなんと儚いものか。やはりあの時追い返しておくべきだった。
勇者がやってきて十二日が経過した。彼はすっかり馴染んでいる。
「なあ、お前本当に帰らなくていいのか?」
オセが訪ねた。
「問題ない。元より天涯孤独の身であったし、共に戦ってきた仲間には私が帰らなかったら力及ばなかったと思えと言ってきたからな。それに今はバティンを守ることの方が大切だ」
「リベルト、お前ってやつは……!」
最初の険悪ムードはどこへやら。彼らは魔王の保護者としてすっかり意気投合したようだ。最初は面倒なことになったと思ったが、彼がカイムの悪戯の対象になることでオセの負担が減り、魔王の世話を手伝うことによって魔王の意識が彼へと割かれたことにより、私への彼らの相談という名の愚痴が激減したのは嬉しい誤算だ。
しかし、それは突然やって来た。
「魔王ぉぉぉぉぉ!!!」
激しい怒声と共に扉が勢いよく開かれた。そこに立っていたのは、人間の女。その女は、扉の正面で寛いでいた私をまっすぐに睨みつけてきた。
「よくも……よくもよくもよくも!!! リベルト様の敵!! 殺してやる!!!」
そう叫んだと思ったら、手にした杖を振りかざし勢いよく殴りかかってきた。随分と物騒な女だ。この周りが全く見えないところといい、思い込みが激しいところといい、人間というのは皆こうなのだろうか。
「アリーチェ!?」
勇者の声を聞き、女の動きがピタリと止まった。
「リ……ベルト様? 本物……?」
恐る恐るといった感じで女が声のした方を振り返ると、そこには驚いて間抜けな顔をした勇者がいた。みるみるうちに目に涙を溜めた女は、ついに耐え切れなくなって号泣しながら勇者にタックルした。その際に放り投げた杖は勇者の近くにいたオセの顔面に直撃し、完全に油断していた魔王の保護者二人は仲良く撃沈した。
「リベルト様ぁぁぁ! よかったぁぁぁぁぁうあぁぁぁぁ!! すっっっごく心配したんですよぉぉぉ!! 何で一年も連絡してくれなかったんですかぁぁぁぁぁ!!!」
「アリーチェ……ギブ、ギブ……!」
その光景を離れた場所で見ていた私たちはといえば。新たなオモチャの登場に隣のカイムは面白そうに口笛をふき、新たなチャンスに魔王は目を輝かせ、新たな厄介事の気配に私は深くため息をついた。




