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勇者改め

「ねえねえリベルト君、ちょっとその剣でぼくの角をスパッと切っちゃってくれない? 大きくなるために切らないといけないんだ」

「そうなのか。よし、手伝おう」

「そんなわけないだろうこのボケ勇者が!!」

○月□日、今日も勇者は絶好調だ。


「貴様は危険だからバティン様に近づくな!」

 オセが魔王を背中に隠し、勇者を威嚇した。

「私が彼を危険な目に合わせるわけがないだろう? 私は彼を守ると誓ったのだから」

 勇者は呆れ顔で剣を肩に乗せた。

「無知とは恐ろしいものだな」

 私の言葉に勇者は首をかしげた。

 一般の悪魔の人間との大きな違いは、大気と水さえあれば生きていけること、特殊能力が使える種がいること、性別がないため発生方法がいくつか存在することの三点だ。他にも見た目の違いや、性格が少々単純で欲望に忠実なことなど細かい差はあるものの、基本的には人間と変わらない。

 しかし魔王というのは少々特殊な生き物で、いくつか悪魔と異なる生態を持っている。その中で最も特異なのが、『死』についてである。

「バティン様の角を折ったら死にますよ」

「え」

「あと、食事を抜いても死ぬな」

「それは普通じゃないのか?」

「そこさえ気を付けていれば、寿命が来ない限り死にません」

「そうなのか。悪魔というのは、変わった生き物なのだな」

 カイムの嘘による諸々の勘違いは、誰も訂正していない。死なないのは魔王が魔王であるからであって、普通の悪魔は普通に死ぬ。ちなみに魔王の角を折ることができるのも、勇者の聖別された武器だけだ。

「大丈夫だよ! みんなリベルト君をからかってるだけだから! ね、お願い」

 魔王は諦めていない。勇者は少し迷って、まずオセを見た。オセは凄い形相で首を振った。次に私を見たので、ため息をついて肩を竦めておいた。最後にカイムを見た。カイムも困ったように笑って首を振った。

「……私はまだまだ未熟者のようだ。すまないが、これからも私にこちらの世界について教えてほしい。」

 カイムの反応が決め手になったのだろうが、勇者はカイムだけでなく、私たち二人にもそう言った。同じ魔王を守る存在と認識し、少し態度を改めることにしたようだ。そして。

「君もこれからいろいろと知って行かなければな。先ほども食事を嫌がっていたし、先日も君にとって有害な人間界に行こうとしていた。今回だって天使様たちが止めてくれなかったら私は剣を振るっていただろう。好奇心旺盛なのはいいが、君はもう少し危機管理能力を身につけた方がいい。」

どうやら勇者は魔王のことを好奇心旺盛な無知な子供と認識したらしい。当然魔王はそんなこと承知の上で死のうとしているのだ。危機管理能力の問題ではない。


「今に見てろよ! 絶対ぼくは諦めないからな!」

 絶対に叶えてやる! と叫びながら自室に走っていく魔王の背中に、危ないことをするんじゃないぞ! と勇者が声をかけた。

結局勇者を利用しようとした魔王の目論見は見事に失敗し、彼の保護者が一人増えるという結果になった。

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