和解と誤算
「勇者が来た。魔王が魅了した。お持ち帰りしたい。以上」
「わかんねーよ!」
「大体合ってるぞ」
最低限の言葉で説明したが、オセには通じなかったらしい。しかしカイムは理解したらしいので良しとする。
「申し遅れました。私はカイムと言います。そこにいるバティン様に仕えるものです」
「あ、これはご丁寧に。私はリベルトと申します。一応勇者をやっています」
「勇者って一応やってるとかいうようなものなのか」
勇者と天使のようなものが向かい合って頭を下げ合っている。私と魔王は成り行きを見守ることにした。
「勇者……ですか。では貴方はバティン様がどういう存在かご存知で?」
「彼は魔王に魔王の影武者を命じられている、とだけ。そのため連れ帰って保護しようとした次第でございます」
「なるほど」
勇者の話を聞いてカイムは顎に手を当て少し考えた後、再び口を開いた。
「まず、貴方はここがどこか、当然わかっていますね?」
「魔界、と認識していますが」
「その通りです。では、魔界とはどういった場所かはご存知ですか?」
「……悪魔の住まう場所、くらいです」
「ああ、それがわかっていれば大丈夫です。貴方の言う通り、人間界には人間が住まい、魔界には悪魔が住んでいる。それは何故か? 答えは簡単、そこがその生き物にとって最も適した環境だからです。」
その堂々とした演説に勇者は納得しているようだが、実際は悪魔が人間界で生きることも、人間が魔界で生きることも可能だ。実際に勇者は現在魔界にいるが、体の不調を訴える様子はない。
「バティン様は魔界の存在。人間界になど連れて行けば、すぐさま消耗して、命を落としてしまいます」
「なんと……!」
もちろんそんなことはない。オセという食事係がいなくなるせいで命を落とすかもしれないが。
「まさかそれすらも卑劣な魔王の罠だったのか……! おのれ魔王! 許すまじ!」
「その魔王なのですが……実はもうお亡くなりになっているのです」
「なんと! それはどういうことでしょうか!?」
「彼は力を使いすぎたのです。魔王といえど、万能ではございません。しかし最後まで魔王らしい方でした」
「まさか最後の力を使って我が国王に呪いを!? 最後まで卑怯な!」
「ここまでお越しいただいたのに大変申し訳ないのですが、残念ながら私たちにはどうすることもできないのです」
「なあ、勇者ってアホなのか?」
少し離れたところで成り行きを見守っていたオセが呟いた。
「まあ、賢くはなさそうだな」
「なんかオレ、あいつが不憫に思えてきた」
カイムの話は九割が嘘である。人間界と魔界で住み分けられているのは、彼らの多くはそれらの世界の行き来が出来ないからで、亡くなった魔王というのは先代で、国王の病気はそういう運命だっただけだ。当然訂正などしないが。
打ちひしがれる勇者の肩に優しく手を置いて、カイムは微笑みかけた。
「さあ、あまりここにいては貴方にもよくありません。せめて国王の愛する国民として、最後まで彼の傍にいてあげてください。」
散々からかって満足したところで、勇者を追い出しにかかったようだ。しかし。
「天使様、私は無力です。勇者と言いつつ、魔王をこの手で倒すことも出来なかった。とても帰ることなどできません。せめてもの償いとして、私はここで命が尽きるまで人間のために悪魔共と戦おうと思います」
「帰れよ!!」
思わずオセが叫んだ。全面的に同意する。




