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誤解

「……」

「……」

○月△日、魔王の忠実な僕と勇者が遭遇。一触即発の空気が非常に面倒くさい。


 魔王を倒しに来たという勇者は、会って一秒で魔王を保護対象へと改めた。一方魔王は、自分の野望が叶うかもしれない千載一遇のチャンスを逃すまいと必死に頭を巡らせている。私はもちろん完全なる傍観者だ。

「君は本当に魔王なのか?」

「だーかーらー、そう言ってるでしょ? 王様呪ったのも、戦争起こしたのも、ついでにリベルトくんが僕を倒したくないと思っちゃうのも、みーんな僕のせいなわけ! だからほら! 一思いにポキッとやっちゃって!」

 当然だが王様を呪ったのも、戦争を起こしたのも魔王ではない。惑わせているのは本当だが、それも魔王の狙ったところではない。

「……君を疑うのは申し訳ないが、私にはとても信じられない。思うに、君は本物の魔王に無理やり命令されて逆らえないのではないのか? もしそうなら私が君を守ると約束しよう。だから本当のことを教えてほしい」

 勇者はどこまでも頑固なようだ。しかしそれを聞いた魔王が何か閃いたらしい。勇者に気づかれない位置でほくそ笑んでいる様は実にあくどい。

「……本当? 守ってくれる?」

「勿論だ! 約束しよう!」

「わかった。けどここじゃ話せないの。だから、一度僕をリベルト君側の世界へ連れて行ってほしいんだ」

「そうだったのか。ならばすぐに出発しよう」

 勝った! という魔王の声が聞こえた気がした。私は止めるべきなんだろうが、魔王がすごい顔でこっちを見ている。止めると後々面倒くさそうなため、何も言わず見送ることに決めた。


「……」

「……」

 逞しい青年である勇者が、見た目は可愛らしい子供である魔王をその腕に抱き部屋を出ようとした丁度その時、外から扉が開いて、魔王の忠実な僕であるオセが入ってきた。なんと間の悪い。

「貴様、何者だ? バティン様をどこに連れて行く気だ?」

「お前も魔王の手下か。この子は私が守る。そこをどけ」

「ふざけるな! お前は人間だろう! バティン様を殺す気か!」

「守ると言っているだろう! そこをどけと言っている! この子は人間界に連れて行って保護するんだ! お前らの良いようにはさせんぞ!!」

「やはり殺す気じゃないか! バティン様を離せ!」

 勇者と魔王の僕が魔王を巡って争っている。その元凶である魔王は、勇者の胸に顔をうずめてまるで怯えているかのように震えている。当然演技だが、それによって勇者の勘違いは加速し、目の前の悪魔への殺気は強まるばかりだ。


「落ち着きなさい、バカ犬」

 今にも実力行使にでそうな二人だったが、そこに第三者の声が割って入った。

「これが落ち着いていられるか! 止めるな、カイム!」

 ため息交じりに肩に置かれた手を振り払い尚も臨戦態勢なオセに対して、オセの後ろから現れたカイムをみた勇者は驚いて動きを止めた。

「て、天使様!?」

「取り敢えず、バティン様を離していただけますか? 大丈夫ですので」

 にっこりと微笑んでカイムが言うと、少し迷った後に勇者は魔王を下した。

「ありがとうございます」

「とんでもございません。天使様のお言葉ですから」

 相変わらずカイムはにっこり微笑んでいる。彼はサラサラな銀の髪に青い瞳、白い翼を持っている。見た目こそ天使だが、彼は天使ではない。そもそも魔界に天使などいない。カイム本人は自らを悪魔だと言っているが、見た目に加え中身も少々変わっているので、本当のところはわからない。しかし勇者とまともに話をするには最適だろう。ちなみに私もオセも、黒い髪にヤギのような角、蝙蝠のような翼に悪魔のしっぽという姿なので、勇者から見れば悪魔そのものだ。

「少し中で話しませんか? 貴方は少し間違った認識をお持ちのようだ」

「天使様のお話を聞けるとは、光栄です」

「そんな大層なものではありませんよ」

 毎度のことながら、その見事なペテン師ぶりには舌を巻く。魔王を見ると、二人が帰ってきた時点で無理だと察知したのか諦め顔だ。

部屋に入ってきたところでようやく私の存在に気づいたオセに睨まれたが、私がそんな面倒くさそうな状況に手を出すわけがないだろう。いつまでたっても私の性格を理解しない彼に、だからバカ犬なんて呼ばれるんだと思う。彼らを落ち着かせることに成功したカイムは、一番公平そうだという理由で私に経緯の説明を求めた。一つため息をついて、先ほどより話が通じるという点でまだましかと思い、これまでのことをざっくりと説明した。

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