勇者襲来
「我が名はリベルト! 勇者として、国王にとりつき呪い殺さんとする邪悪な魔王を退治しに来た! 覚悟!!」
○月×日、今にも雨が降り出しそうな曇天の日。我が家に勇者がやってきた。
「粗茶ですが」
そう言って勇者の前に湯呑みを置くと、睨まれた。
いつものように部屋に引きこもっていた魔王に勇者の来訪を伝えると、すぐに準備してくるから丁重にもてなしておくこと、と言われたため仕方なく応対している。
「悪魔から出されたものなんざ飲めるか」
「貴方がた人間はまるで全ての悪の根源は悪魔だと思っているようだ」
「その通りだろう? お前たち悪魔は人を惑わし、堕落させ、不幸にするために存在していると聞いた。疫病を流行らせ、負の感情を増幅させ、戦争を促すまさに悪の根源だ」
「そんなわけないでしょう?」
「悪魔の言葉など信じられるか」
ああ、面倒くさい。これだから人間は嫌なんだ。都合の悪いことは全て悪魔のせいにして、自分たちに責任はないと主張する。
端から聞く気がない相手との会話ほど無益なものはないと思いつつ、命じられた手前仕方なく会話を続ける。
「そもそもなぜ我々がそんな面倒くさいことをするとお思いで?」
「それがお前らの生きる糧なのだろう?」
「そこがまず間違いです。悪魔というものは、大気と水さえあれば生きていけるのですから」
「けど魔王は違う」
突然会話に加わった第三者の声に驚いて、勇者が勢いよく振り返る。どうやらやっとこの憂鬱な時間を終わらせることができるようだ。
「待たせたな。私こそが魔王、バティンだ。歓迎するぞ、勇者よ」
魔王の姿を見て勇者は目を見開いて固まっている。恐らく彼の口ぶりからして、世にも恐ろしい怪物が出てくると思っていたのだろう。しかし。
「卑怯だぞ! そんな愛らしい姿に化けるとは!! 正体を現せ!!」
そう、愛らしい姿。人間が好みそうな純真無垢な金髪金目の子供。その頭には猫のような耳と、ヤギのような角。背中には小ぶりの蝙蝠のような羽が、お尻からは悪魔のしっぽが生えている。見た目通り、彼に力は皆無だ。
「えー? 何言ってんの? 化けるとかできるわけないじゃん。そんなことより早くさくっと倒してよ!」
さっきの威勢はどこへやら。俯いて震える勇者に不穏な気配を感じ、とばっちりはごめんなので距離をとる。次の瞬間、勢いよく顔を上げた勇者が、その勢いそのままに魔王を抱きしめた。
「こんな可愛い生き物を倒せるわけないだろう!!」
「何でだよ?! 倒せよぉぉぉ!!」
魔王に力はないが、彼はただ一つ、凶悪なまでのレベルの能力を持っている。
「魅了、ばっちり効いてるみたいですね」
「この役立たずがぁぁぁ!!」
魔王の悲痛な叫びは、降り出した大粒の雨の音に虚しくかき消されていった。




