第7話_ケモ耳への反応
「おっは~♪」
元気良く、朝の教室に入る。今日は、いつもより5分遅く学校に来たからか、教室内の人数もそれなりに集まっていた。
「あ、おはよ~、グスターちゃん。――ふぇっ!?」
「ちょ、グスターちゃん!!」
「っ、きゃ~!!」
「なにソレ、かわいいっ! 本物なのっ!?」
「ケモ耳だ、ケモ耳!!」
「リアルケモ耳!」
「尻尾も生えてる!?」
何気ない様子を装って教室に入ってみたものの、すぐにクラスメイトに囲まれた。
ちっ、みんな鋭いな。グスターの変化に気が付くなんて。
簡単に事情を説明しながら、思わず、苦笑いをしてしまった。
「触りたい。触っていい?」
「うむっ、いいぞ♪」
「あ、モフモフしてる♪」
「尻尾もふさふさね」
「わたしも触りたい!!」
「俺も」
「――はっ? 男子は遠慮しなさいよね!」
「で、でも……」
「女の子のデリケートな所、触るなんて変態よ!?」
「そーよ、そーよ!!」
「ぐっ! そ、それもそうだな、すまなかった」
ピコピコ。
「やんっ♪ 耳が動いたよ!!」
「動かせるの? すごい!!」
「グスターは、尻尾も動かせるぞ?」
フサフサ。
「「「っきゃ~、可愛い過ぎるッ!!!」」」
クラス中が揺れる大絶叫。
ちょっと楽しくなってきたかも。でも、それを遮るヤツがいた。
「――ちょっと! 静かにしてもらえますか!? 周りに迷惑ですよ!!!」
一瞬だけ、教室がしんとした。
本を持った背の高い女子が無表情で立っていた。
多分、「クール系美人」っていうヤツだと思う。身長は170センチ以上あるだろうか? 冷たい視線と濃緑色のアンダーリムの眼鏡、肩の上で切り揃えられたサラサラの黒髪が印象的。
その全身から発せられるピリピリとした威圧感に、クラスメイト達がしゅんとなる。
「「「あ、すみません……」」」「「「ごめんなさい」」」「「悪い……」」
「分かってくれれば、それで良いです!!」
ぴしゃり、という言葉がぴったりとくるニュアンスで言い放った女の子。
だからつい、口から言葉が漏れていた。
「あんまりカリカリすると、健康に良くないらしいぞ? 委員長も煮干し喰うか?」
「委員長? もしかして、私のことですか?」
「ああ、グスターはよく覚えていないけれど……委員長っぽいから、多分、お前がクラス委員長なんだろ?」
「違います! 私、クラス委員長じゃありません! 一般的な図書委員です。――って言うか、何でグスターさんは煮干しを持っているんです? 今日のお昼ごはんですか?」
言葉の裏に、昨日、みんなにお昼ごはんをたかったことへの非難が込められているような気がしたけれど……気付かなかったことにしてあげよう。
グスターは、大人なのだ♪
「んにゃ、お昼ごはんとは、違うぞ。通学路の佐藤さんちの猫に食べさせようと思って、持って来たんだ♪ 今朝あげて喰わなかったヤツの残りだが、委員長も喰うか?」
「よその猫を餌付けしちゃいけませんッ!! ――って言うか、猫の残りモノなんて食べませんよ!!」
「え~、美味いのに?」
「ちょ、ここで煮干しをカリカリ食べないで下さい!!」
「あははっ♪ カリカリと煮干しのカリカリをかけるなんて、委員長は面白いヤツだな~♪」
「……怒っても良いですか?」
「え? なに? よく聞こえな――「はいは~い、ホームルーム始めるよ~、って、春星さんどうしたの!? それは!」」
担任の先生が教室に入ってきた。
余談だけれど、オレンジ眼鏡の巨乳美人さんだ。生物の先生で、下の名前が「みかん」っていう美味しそうな名前だ。
「先生、『それ』って、この煮干しのことか?」
「うん、そうそう、煮干し――って、ちが~うっ!! 煮干しを持っていることも、めっちゃ気になるけれど、その耳!! その尻尾!! 海外ではどうなのか知らないけれど、日本は、学校におもちゃを持って来ちゃいけないのよ?」
ああ、そっちの方か。
委員長が面白かったから、すっかり忘れていた。
っていうか、ノリ突っ込みをしてくれるなんて、みかん先生は、なんて素晴らしい教師なんだろう。
「とりあえず、放課後まで預かっておくから――「無理。取れない。昨日、異世界に行ったら狼の神様に呪われて、生えてきたヤツだから」――え? えっと? 春星さんは、異世界に……行ったの? ……本当に?」
半分信じて、半分信じられない、そんな表情の先生。
クラスメイトがグスターの代わりに説明をしてくれる。
「先生~、グスターちゃん、主木先輩の会社を通して異世界に行ったそうです!」
「狼男とバトルして、勝ったらケモ耳が生えてきたらしいです」
「ぴこぴこ動くんです!」
「可愛いんです!!」
「ごめん……ちょっと、先生、よく分からないわ……」
みかん先生が頭を抱える。ここはグスターが助け船を出しておくべき?
「先生も触るか? 触れば、本物だって分かると思うから」
「い、いいの?」
「もち♪」
恐る恐るといった感じで、先生がグスターのケモ耳を触る。
「あ、温かいのね」
ぴこぴこ♪
「ひゃぅ!? う、動いた!?」
「尻尾も触るか? こっちも動くぞ♪」
「い、良いの?」
「もち♪」
「そ、それじゃ――きゃぅん! いきなり動かすのは、反則ですよ!!」
何でだろう? 男子の顔がツヤツヤしている気がするけれど――うん、グスターは悪くない。天然系美人教師って、食べたら美味しそうな響きだけれどな(≡ω)♪
先生が小さく咳払いをする。
「……とりあえず、作りモノじゃなくて、本当に頭から生えているのね。分かったわ、他の先生にも伝えておくから、そのまま授業を受けて良いわ」
「先生、ありがとう♪」
――んで、次の休み時間。
他のクラスの生徒達がやって来て大変だった。
ちなみに、見物料を1人100円取ろうとしたら、委員長にガチで怒られた。
「グスターさん、あなた、何を考えているのです!?」
委員長、血圧上がるぞ? って言ったら、もっと怒られそうだ。
空気を読んで、お口にチャック。
「理由を言いなさい!」
「いや、グスターも、ラズベリ――もとい、主木さんみたいに起業しようかなと思ったのだ!」
「グスターさんの場合、社会的な理念とか経営戦略とか一切無くて、単にお小遣いが欲しいだけですよね!?」
「あははっ、そうとも言う♪」
「ああ、もうグスターさんは、自分から目立つようなことはしないで下さい!! ただでさえ、このクラスは騒がしいのに!!」
「ん? グスターは、教室の中では、委員長が一番うるさいと思うぞ?」
「そんなこと、ありませ――」
委員長の言葉が、途中で途切れる。
ギギギギ、といった感じで委員長が周りに視線を向ける。
クラスメイトみんなの顔が、こくこくと縦に動いた。
「ほら、委員長が一番うるさいんだぞ?」
「え……あ……はぃ……ごめんなさい……」
委員長がしゅんとする。
「委員長、気にするな♪」
「でも――」
「みんなも、そう思うよな? 別に今のままでも良いよな?」
グスターの声に、クラスメイトが反応する。
「グスターちゃんが、そう言うのなら」「委員長、意外と面白いし♪」「もっと真面目なのかと思ってたわ」「委員長、面白い人だよね~」
委員長がにこっと笑う。あ、初めての笑顔かも。
委員長がすぅっと息を吸い込んだ。そして、吐く。
「私は、委員長じゃありません!! 図書委員です!! 月桂樹という名前があります!!」
「あはははっ♪ 本当に、委員長は面白いヤツだな、ツッコミに切れとコクがある♪」
グスターの言葉で、教室中が爆笑の渦に巻き込まれた。
ふるふると委員長が震えている。多分、嬉しいのだろう。
でも「委員長は、お笑い芸人の才能があるのな♪」って言ったら、めちゃくちゃ怒られた。
褒めたつもりなのに――解せぬ。
続きは、昼前に更新します。