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第5話_異世界転移

桜島フェリーを降りて5分くらいバイクで走ると、3階建ての小さなビルの前に着いた。

主木さんの会社「株式会社_異世界トレジャー・サルベージ部」の本社事務所らしい。目立つ看板が掲げられていたから、すぐに分かった。

主木さんと一緒に2階までエレベータで上がり、ドアを開けてもらい、入ってすぐ左側にある部屋に案内されて、ソファーをすすめられる。


「さて、無事に桜島事務所に到着しました♪ ということで、早速、疑似異世界に向かおうと思います。転移の魔法具を持ってきますから、グスターちゃんは、ちょっと待っていて下さいね♪」

そう言って、主木さんがドアの向こうに消えた。


数分後、主木さんが戻って来た。手に持っているのは小さな箱。

その中から主木さんは、デザインが異なる銀色の指輪を、大事そうに2つ取り出した。

「まずはコレを右手の人差し指にはめて下さい。次にコッチを右手の中指にはめて下さい。この指輪は魔法道具なので、自動アジャスト機能がありますから、多少緩かったりきつかったりしても問題ありません」

「うむ♪ ちょっと緩かったが、今、ピッタリになったぞ!」


グスターの言葉に、頷きながら主木さんが説明を続ける。

「そして、異世界転移と言ったら異世界に飛べるのですが――「異世界転移!!」――ちょっ、説明の途中で発動させちゃダメです!! 違う異世界に飛んじゃいま――」


主木さんの言葉が遠ざかったと思った瞬間、グスターの周囲の世界が、白く染まった。


 ◇


ふと、気が付けば、真っ白な光に包まれていた。

とても温かくて、ふわふわと身体が浮かんでいる感覚。


あ、何か気持ちいいなと思った瞬間、重力に逆らえずに落下した。

「――ぁうちっ!!」


お尻から落ちてしまって、思わず変な声が出た。でも、それだけじゃ終わらない。

がしゃがしゃぱりん! からんからん、べきべきべき!!

グスターのお尻で、お雛様の祭壇のような場所を壊してしまったのだから。


「ぅ、いたたっ……」

何だろう? この場所、前に来たことがあるかも?

そんな既視感を覚えながら周囲を見渡す。


「バウバウッ!!」

「ガウガゥ~!!」

「グルルル~!!」

獣のような鳴き声。狼男がたくさんいた。狼男がたくさんいた。

繰り返す、モフモフがたくさんいた。


……うん、どうやらグスターは異世界にやって来てしまったらしい。

っていうか、これは今朝見た夢と同じ内容だ。確か、この後、狼男が斬りかかってくるんだよな。


「バウッ!!」

片手剣で斬りかかってきた狼男の攻撃を、バックステップでかわす。その動きのまま、グスターの後ろに近付いていた別の狼男に右後ろ回し蹴りを叩きこむ。

「キャィン!!」

可愛い悲鳴をあげて倒れた狼男に、周囲の空気の温度が変わった気がした。そりゃそうだ、こんな小娘相手に、2メートルはありそうな狼男が一撃で倒されたのだから。

よし、ココまでは一緒。


「夢じゃないと分かっているから、余計に手を抜くわけにはいかないんだ!! 春星流くのいち15代目頭目だった、うちのばっちゃんの名にかけて!!」

ドヤ顔で決めてみたけれど、やっぱり狼男達の反応は薄い。

でも、2回目だからか、1回目よりも恥ずかしくは無い。


「剣を抜いたお前達が悪いんだぞ?」

「バウバウッ!!」

「ガウガゥ~!!」

「グルルル~!!」

やっぱり、言葉は通じないらしい。


斬りかかってくる3匹の狼男を、一撃で床に沈める。

他の狼男が飛び出そうとした瞬間、ヤツの声が横から聞こえた。

「――ソコマデダ!!」

片言だけれど、人間の言葉。狼男達の囲いの向こうから、一回り大きな狼男が現れた。

「ワレハ、オウ。コノムレノ、オウ。オマエ、セイナルギシキヲ、ジャマシタモノ。カミノナノモトニ、オマエヲサバク。ワレラノ、ドレイニナレ」

うん、ここも夢と同じ内容。


「悪いが、その提案に乗るつもりはない」

「イザ、ジンジョウニ、ショウブ!!」

大きな狼男が叫んだ瞬間、グスターは大きく身体を横にスライドさせて、ポケットに隠し持っていた食器の欠片を後ろに投擲する。最初に尻もちをついた時、こっそりと回収しておいたのだ。

「ギャン!!」

悲鳴をあげて、吹き矢を構えていた狼男が鼻を押さえる。


そのまま接近して、首に上段回し蹴り。

バックステップで距離を取り、左足を軸にして180度身体を回転させて、驚愕の顔で固まっている大きな狼男に肉薄する。

「とても良い性格しているよな、歯ぁ喰いしばれ♪」

抜き手で鳩尾と肝臓の位置に連続して打撃を与え、身体を一回転させて左肘を狼男の顎に叩き込む。

主木さんの時とは違って、今回は完全に振り抜いた。

「――」

声にならない声を漏らして、狼男が、白眼を剥いて倒れた。

「さぁ、次は誰がグスターの相手になるんだ?」

ぐるりとまわりを見渡す。

狼男たちが、1人、また1人と地面に平伏していく。

さてと、どうしようかな?

落とし所を見つけないといけない。


「はい、そこまでです♪(ガウガウ、ッガガウッ!)」

声がした方を見ると、主木さんだった。何かの魔法を使っているのか、主木さんの声に、狼の鳴き声が重なっていた。

「まったく、説明を聞かずに1人で異世界に飛ぶなんて、危ないですよ!!」

「すまない。主木さん――「わたくしの名前は、ラズベリですよ♪」――え?」

にこっと主木さんが微笑む。

「異世界では、偽名で通しているのです。主木いちごだから、メーン・ラズベリという名前を名乗っています。グスターちゃんは丁寧語が苦手みたいだし、呼び捨てで構わないですから、ラズベリという名前の方で呼んで下さい」


「分かった。んじゃ、遠慮なく『ラズベリ』って呼ばせてもらうぞ。――で、ラズベリはどうやってここに来たんだ?」

「グスターさんに渡した指輪には、追跡機能があるのです。他にも、色々な機能がついているのですが、現時点での説明は省略させてもらいます。とりあえず、この場所から離れましょう? 何をするにしても、装備と準備を整えた方が良いと思いますから」

「それもそうだな」

「ということで、一旦、日本に帰りましょう」


「マ、マテ……」

野太い声に振り返ると、さっき倒した狼男のボスが立ちあがっていた。

「ん? 勝負はついただろ?」

グスターの声に狼男のボスが頷く。

「ハイ、モウタタカウキハナイデス。アナタサマハ、オオカミシンノ、ツカイニマチガイナイ。ダカラアカシヲ、ウケトッテクダサイ」

次の瞬間、大きな狼男の手が光り、グスターの身体が白い光に包まれた。

「攻撃魔法!? グスターちゃん、大丈夫!? ――って、それは……」

「え?」

微笑ましいモノを見るようなラズベリの視線を辿って、自分の頭に手を載せる。


「!?」

モフモフな、ピンと立っているモノが2つある。

わさわさ。oh……ケモ耳が付いている。

――ってことは、まさか!?

……あったよ。ふさふさの尻尾まで生えていた。


ちなみに尻尾は霊的な素材でできているのか、服を引っ張って確認したけれど、パンツやスカートに穴は空いていなかった。生地の部分だけ、尻尾が半分、透き通っているのだ。

……違う。そうじゃない。そこじゃない。

今は、不思議素材を冷静に考えている場合なんかじゃ、ないんだよッ!!


「ちょっ、何なんだよ、これっ!!」

「サスガ、ワレラノカミサマ。オニアイデス!」

きりっとしたドヤ顔で狼男のボスが言ってきた。コイツ、あと2~3発殴ってやろうか? 勝手にグスターを恥ずかしい格好にしやがって!!


「おい、ワンワンボス! この耳と尻尾を早く外せ!!」

「ソレハムリデス。カミサマカラノオクリモノナノデ、カミサマシカハズセマセン」

「……ウソだろ。ラズベリ、何とかならないのか?」

ラズベリの方を見ると、なんだかとても真剣な怖い顔をしていた。

思わず、背筋と尻尾がピンと伸びてしまう。

――って、尻尾、動かせるんだ?

あ、耳も動く!?


ラズベリがこっちに気付いて、にこっと笑顔を作る。

「グスターちゃん、過去には、こういう前例はありませんでしたので、今は何とも言えませんが――とりあえず現時点では準備不足なので、後日、またここに来ることにして、元の世界に戻りましょう」

すうっとラズベリが息継ぎをして、言葉を続ける。

「これ以上、この異世界に干渉するのは、今は避けた方がいいと思われます」

「でもっ、グスターがケモ耳になってしまって――「異世界では、どんな時でも冷静さを失わないのが大切ですよ? 必ず、わたくしが元に戻してあげますから、今日は引きましょう」」

有無を言わさないラズベリの口調。


従った方がいいのかな、と取りあえず思えた。

「……ラズベリがそう言うなら、仕方がない。ワンワンボス、迷惑をかけたな。あと、美味しそうなご飯や大事な祭壇をダメにしてしまってすまなかった。また来るから、その時に、色々話をしよう」

「ハハッ! リョウカイシマシタ!!」

ワンワンボスが頭を下げたのを確認して、ラズベリが小さく頷く。


「それじゃ、帰還します。指輪に向かって、『リターン・ゲート!!』と唱えたら、桜島事務所に帰還出来ますので、やってみて下さい」

「分かった。リターン・ゲート!!」

キーワードの発動と同時に、足下に金色の魔法陣が現れた。

それが眩しく光った次の瞬間、光に包まれる。


気が付けば、グスターは桜島の事務所にいた。

はぁ、何とか帰ってくることが出来たけれど……外が暗くなって鏡状になっている窓に映る、自分の姿を見てため息が出た。

窓枠の中には、銀色のケモ耳尻尾娘が立っているのだ。


ちょっとコスプレみたいで可愛い。――とか言っている場合じゃない。

明日から、学校どうしよう?

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