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第4話_アルバイトさせて下さい

主木さんには、色々と焦って一方的に話をしてしまった気がする。

でも、慌てていたせいで、何を話したのか覚えていない。「グスターちゃんが、お兄ちゃん大好きって言うのは分かりましたから、とりあえず落ち着きましょう?」と言われて、本日3杯目のお茶を、グスター達はリビングで飲んでいる。


そして、一息ついたタイミングで、ゆっくりと主木さんが口を開いた。

「アルバイトって簡単に言いますが、異世界は危険ですよ? サルベージをする際には、それなりの装備をして潜りますが、命を落とす人も少なくありません」

グスターを責めるという雰囲気ではなく、ただ単純に事実を伝えているという声色。

それゆえに、逆にプレッシャーを感じた。


「危険なのはグスターも知っている。昨日の異世界ドキュメンタリー番組でも、やっていたからな」

「ええ、わたくしも見ましたよ、なかなか面白い番組でした。この半年の死者数に加え、異世界のタブーには一切触れていない放送でしたからね」

グスターが何となく感じていた疑問。それを主木さんは、作り笑顔であっさりと口にした。

そして、追いうちの言葉を続ける。


「異世界で身を守る術がグスターちゃんにはありますか?」

「うむ。多少なら忍術が使えるぞ」

グスターの忍術が実戦でどれくらい通用するのかは、少し自信が無かったけれど、そう宣言させてもらった。おにーちゃんと会うには、ここで引くわけにはいかないから。


でも、主木さんが、きょとんとした表情を浮かべる。

「忍術、ですか?」

何と言うのか、クラスメイトと同じ反応。

……あれ? もしかして?

まさか、日本から、忍者がいなくなってしまったというのは、本当なのか?

クラスメイトの冗談じゃなくて?


「なぁ、主木さん、今の日本って――忍者はいないのか?」

「そうですね、少なくとも、昔ながらの戦闘者としての忍者は存在を聞きませんね。わたくしが知らないだけかもしれませんが……グスターちゃんは、忍術をどこで習得したのですか?」

「うちのばっちゃんが忍者だったんだ。だから、グスターも忍術を使える」

主木さんの目が、一瞬丸くなって、細くなる。

「そうですか♪」

「あ、信じていないな?」

「信じようが無いので……いえ、1つだけ良い方法がありました。――グスターちゃんの忍術で、わたくしを止めてみせて下さい!!」

作り笑顔を浮かべて、いきなり主木さんが殴りかかってきた。

視線から読むに、顎に向かって一直線コース。


ほとんど殺気を感じないから、寸止めしてくれるのだと思う。

多分、どれだけ口で言ってもグスターが聞かないから、必要な強さを実演してくれるのだろう。あと、グスターの忍者発言を確かめる意味合いもあると思う。

うむっ! グスターは、がんばるぞっ♪


ソファーの背もたれにのけぞって、その勢いのままに軽く1回転して、床に着地する。

「わたくしの拳を避けますか……では、コレはどうです?」

気が付けば、目の前に主木さんが移動していた。そして、すぐに視界から消える。

「口先だけの忍術使いには――えっ!?」

驚く主木さんの声。気配の消し方が甘い。グスターは左手を伸ばしている。

そう、主木さんに向かって左ストレートを放ったのだ。


でも、主木さんはグスターの左拳を、右手で止めていた。

「もっと行くぞっ!!」

握られた左拳を起点に、踏み込むようにして右ストレート。

――と見せかけて、抉りこむように右ひじを主木さんの鳩尾に打ち込む。

ぼぐっという音を立てて綺麗に決まった。

「かふっ!!」

鳩尾を押さえて主木さんが膝をつく。

あ、しまった。寸止めするつもりが、忘れてた。

一応、振り抜いていないから大丈夫だと思うけど……骨、折れてないよな?


主木さんは、苦しそうに肩で息をしている。

「はぁ……はぁ……。魔力が無い空間とは言え、レベル518のわたくしに一撃を入れるなんて、しかもこの威力、やりますね……」

「少しは手加減しておいたぞ?」

嘘だけれど。

30%くらい本気で打ち込んでイマシタ、ごめんなサイ。


「そうですか……そうですね、第1試験は合格にしておきましょう♪」

早くも呼吸を整えた主木さんが、にこっと笑う。

「第1試験?」

「ええ、うちの会社でアルバイトをしたいのでしたよね? 格闘術の適性試験は合格ですから、あとは魔法の適性試験をしましょう。魔法が使えない状態で異世界に行っても、魔物に殺されるだけですから」


「お、おおっ!! グスターも、おにーちゃんのいる異世界に行けるのか!?」

「それは、魔法の適性試験次第です」

「どうやって魔法の適性を調べるんだ!? っていうか、グスターにも魔法が使えるのか!?」

ゲームではお約束の魔法が、グスターにも使える可能性があるなんて。異世界は、なんて素晴らしいのだろう!!

「ぅふふっ♪ とりあえず、桜島にある会社の本社に行きましょうか。あそこなら異世界に転移出来る指輪がありますので、訓練用の疑似異世界で適正試験を行います」

異世界? 転移? 疑似異世界?

あまり馴染みがない言葉だけれど、とりあえず主木さんについて行けば大丈夫だろう。

「分かった! 桜島に渡るんだな♪」


 ◇


タクシーで一旦、黒神島学園に戻って、桜島には主木さんのバイクで移動することになった。

黒い250ccのバイクで、「sinobi(シノビ)」っていう名前らしい。

バイクに名前をつけるなんて可愛い趣味があるんだなと思っていたら、「メーカーがそういう商品名で売っているんですよ?」と主木さんに軽く突っ込まれてしまった。

なんでも、あまりバイクに詳しくない人には、よく間違えられるらしい。


そんな雑談をしながら――夕方の街並みを通り過ぎて、桜島フェリーに乗る。

このフェリーは、鹿児島市街地とその対岸にある火山島の桜島を、15分という短い時間で移動できる船。短い距離なのに、うどん屋さんが船の中にあるということでも有名だ。


ぐ~きゅるるるぅ~♪


美味しそうにうどんを食べているお客さんを見ていたら、お腹が鳴いた。

くっ、香ばしいダシの匂いがいけないのだ!!

「ぅふふっ♪ グスターちゃん、お腹空いていませんか? わたくしが、うどんおごりますよ?」

「え? 良いのか!?」

「お腹が空いているみたいですから。……って、お目々がキラキラですね?」

不思議そうな表情で主木さんがグスターに聞いてきた。

「だって! だって! 一昨日、生活費が丸ごと入ったお財布を落としてしまって、手元の残金が数十円しか無かったから、ご飯あまり食べていないんだ! 今日のお昼はクラスメイトにパンを貰ったけど、昨日も今日も、もやし生活だったんだ!!」


グスターの言葉に、主木さんがおかしそうに笑う。

「ふふっ、それはそれは、大変でしたね。今日の20万円で、美味しいモノを食べなきゃですよ?」

「ああ、主木さんのおかげで、今夜は、焼肉食べ放題に行く予定なのだっ♪」

「あら、それは素敵です♪ でも、その前に魔法の適正試験をしないといけないですから、腹ごしらえしておきましょう? お腹が空いていると力も出ないですから、わたくしのおごりです♪」

そう言って、主木さんは500円玉を2枚取り出した。

「きつねうどんで良いですか?」


 ◇


「ふ~、ふ~、ずるずる。ふ~、ふ~♪」

フェリーの甲板で食べるうどんは美味い。甘めの白だしと若干固めの麺のバランスもグスターの好みだ。

「ふ~ふ~、グスターちゃんが気に入ってくれたみたいで嬉しいです♪ ちゅるちゅる」

グスターの隣では、主木さんもうどんを食べている。


「それにしても、グスターちゃんはお箸の使い方、上手ですね」

「ん? 小さい頃から家で使っていたから普通だぞ? 忍術を教えてくれたばっちゃんも、その娘のおかーさんも日本人だったし」

「そうなんですね。日本の高校に通おうと思ったのも、お母さんの影響ですか?」

「ああ。大人になったら日本で暮らしたいって、ずっと思っていたんだ。おとーさんの会社の支店も日本にあったから、日本の生活にも慣れるためにも、こっちに来たんだ」


「そうなんですね。って、グスターちゃんはお嬢様でしたね」

「お金を持っているのはおとーさん達だ。グスターはお小遣い制だから、普通の高校生と変わらないと思う」

「そうですか。確かに、昨日まで『もやし生活』だったらしいですからね」

「ぅうっ、VRゲーム機がいけないんだ……。でも今度からは、お小遣いの一部は貯金して取っておこうと本気で思ったよ。はふはふ。主木さんにケータイを買い取ってもらえなかったら、正直ヤバかった」

「わたくしとしましては、異世界サルベージの独占権を得られましたので、20万円でも安い方なんですけれどね。――っと、いけません、もうすぐ桜島港に入港します。急いでうどんを食べ終わらないと!」

「了解だ。残すなんて、とんでも無いからな! ふ~、ふ~、ずるずる」

「ふ~、ふ~、ちゅるちゅるる」


うむ、海の上で食べる、うどんは美味い(≡ω)♪

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