第3話_異世界トレジャー・サルベージ部
お茶をすすりながら、主木さんに渡されたパンフレットに目を通す。
主木さんは悪い人では無さそうだ。
おっぱい、じぃ~って見ていたら3秒だけ触らせてくれたし。「もきゅ♪」ってしたら流石に怒られたけれど。
でも、主木さんから貰ったパンフレットには、明らかに怪しげな言葉が並んでいた。
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異世界転移者&転生者が残した借金、滞納金、奨学金、その他の債務――弊社にお売り下さい。高額買取りいたします。
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だとか。
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学園内起業しました。女子高校生が社長です!!
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だとか。
「ん? あれ? この写真……主木さんが社長なのか? って言うか、主木さん、うちの高校の2年生なのか!?」
落ち着き具合とおっぱいの育ち具合からして、絶対20代半ばくらいだと思っていたよ。
っていうか、この写真の制服姿が、ちょっと犯罪臭がするのは気のせいだろうか?
そんなグスターの思考が読まれてしまったのか、主木さんが苦笑いを浮かべた。
「本題に入る前に、わたくしの自己紹介からした方が良さそうですね。春星さん――「あ、グスターのことは、春星じゃなくて『グスター』って呼んでくれ。みんな、そう呼んでいるから」」
思わず言葉を遮ってしまったけれど、主木さんは嫌そうな顔をせずに軽く頷く。
「分かりました。『グスターちゃん』と呼ばせて頂きますね」
「うむっ♪ 話を続けてくれ」
「はい。わたくしは、グスターちゃんと同じ黒神島学園の高等部に所属しています、2年4組の主木いちごです。半年前、日本政府の方針で『異世界民間債権回収業』が解禁になるのに合わせて、起業して認可を受けた異世界サルベージ会社『株式会社_異世界トレジャーサルベージ部』の社長兼部活長をしています♪ 株式会社ですが、黒神島学園公認の部活動でもあります。改めまして、よろしくお願いします」
「え、えっと、よろしく。その、いまいち良く分からなかったんだが……異世界サルベージ会社って、何をする会社なんだ? グスターのおにーちゃんと、どんな関係があるんだ?」
「異世界サルベージ会社は、債権回収を行う会社です。借金を残したまま異世界に転移した方や、奨学金を返せないまま異世界に転生した方の債権を買い受けることで、異世界の魔法や技術を日本に回収する業務を行う会社です。なお、債権を買取った会社は、債務者がいる異世界に対して独占交渉権を得ることが出来ます」
「ん……良く分からない」
「簡単に言いますと、異世界版の借金取りをやっています♪」
にこっと笑う主木さん。うん、きっぱりと言い切ったな。
この人、見た目以上に凄い人なのかもしれない。
「身も蓋もない言い方するんだな?」
「事実ですから♪」
「そうか。……うん、主木さんが真面目に商売として、おにーちゃんの債権を買取りたいと思っているのは、何となく分かった。で、グスターは何をすれば良いんだ?」
「単刀直入に言います。――白木さんが残していった債権を、全額、弊社に売って頂きたいのです」
「え?」
「こちらで少し調べさせて頂きましたが、春星さんのお父様は、白木さんの連帯保証人になっていましたよね? その借金を、弊社がそのままの金額で買い取ります」
一瞬、何を言われたのか分らなかった。
深呼吸をして――3秒吸って、2秒止めて、10秒吐いて――。
ようやく理解できた。
「ほ、本当か!? おにーちゃんの借金、数千万円もあるんだぞ!?」
「大丈夫です。金利分も含めて、一括で弊社が買い取りますから」
「でも、どこにそんなお金があるんだ?」
そう、「世の中、儲け話と甘い話には気をつけろ」って、ばっちゃんがいつも言っていた。いくら主木さんがおっぱい大きくても――高校生が起業したばかりの会社なのだから――数千万円を一括で払える訳がない。
「ぅふふっ♪ ご安心を。債権売却の代金は、政府公認の『国立研究開発法人_日本異世界研究開発機構』が一括で払ってくれます。弊社は債権者と機構の債権移譲の仲介をすることで、仲介手数料をもらうだけですから。――そうですね、イメージとしては不動産取引に似ています。あれも、他社物件を売って仲介手数料をもらいますよね?」
「グスターは、不動産の取引のことはよく分からないが――信じても良いのか? 手付金とか着手金とか、成功報酬とか言って、お金が必要だと言わないよな?」
「大丈夫です、言いませんよ♪ 債権移譲や回収の手続きに必要な費用は、すべて弊社や機構が負担しますし――そもそも、グスターちゃんやご両親は債権の『売買契約』だけですから、B●●K_●FFに中古ゲームソフトを売るような感じでいてもらえると助かります」
……本当に? これは、マジで信じても良いのか?
でも、この話が本当なら、うちのおとーさんの会社は助かることになる。
グスターも、秋葉原が近い大学に通うことが出来るかも???
でも、重要なことに気が付いてしまった。
「あ、でも、うちのおとーさんとおかーさん、今、海外出張に行っているんだ。帰ってくるのが27日後なんだけれど……グスターの署名と印鑑じゃ、契約が出来ない、よな……?」
B●●K_●FFでも言われてしまったのだ。未成年者の契約は、後日取り消すことが出来るから、保護者の同意が無いと意味が無いのだと。
「ええっと……グスターちゃんのご両親は、今、海外出張中なのですか?」
「ああ。おにーちゃんが残した借金を返さないといけないから、販売先と仕入れ元を開拓しに行っているんだ」
主木さんが頬に指を当てて、少し考えるような仕草をする。
「そうなのですね……グスターちゃんの方から連絡は取れますか? 電話を使った口約束でも録音させて頂けるなら仮契約は可能ですし、ご両親さえ良ければ、全てメールでのやりとりも可能ですよ? あ、もちろん、英文対応も可能です」
「いや、それが……何か通話料が高くなるとか言ってケータイを置いて行っちゃったから、電話もメールも出来ないんだ。何かあったら、あっちから国際電話を掛けてくるとは聞いているんだけれど」
「こっちからは連絡が出来ないのですね?」
そう言いながら、主木さんが腕を組む。本人は自覚が無いのだろうけれど、おっぱいが強調されて、物凄い破壊力を生み出していた。
グスターは男の子じゃないけれど、目線が吸い寄せられてしまう。
「早く……きゃ……に先を越さ……。何でもいいから……を押さえなきゃ……。横入りされる危険が……」
主木さんが小声で何か呟いているみたいだったけれど、あまりよく聞こえない。
そんなことよりも、おっぱい観察の方が重要だ。多分、今日を逃したら一生拝むことが不可能なイキガミ様だから!
「なむなむ~♪」
「グスターちゃん、どうしたんですか? いきなり、わたくしを拝み始めましたけれど?」
「いや、おっぱい大明神に、グスターも胸が大きくなりますようにとお願いしていたんだ」
「……女同士でも、セクハラですよ?」
「見るだけじゃん!」
「わたくしの会社、弁護士がいますけれど?」
「……訴訟は勘弁して下さい……otz」
「分かれば良いです。――って、遊んでいないで、話を進めましょう。少し気になったのですが、白木さんはグスターちゃんに借金をしていませんでしたか? グスターちゃん個人の債権があれば、それだけでも買い取らせて頂きたいと思うのですけれど」
真剣な瞳の主木さん。
グスター個人の債権を買取ってくれるって、何か難しいことを言っている。
けれど――B●●K_●FFにゲームを売る感覚だって、さっき言っていたよな? それはつまり、債権とやらを買い取ってもらえば、今月の食費の足しになるということか!?
……うん、少ない金額だけれど、買取ってもらおう♪
「おにーちゃんに、何回か、お金貸したことはあるぞ。少しだけ、だけれどな」
「本当ですか!?」
「2000円とか3000円でも良いのか?」
「もちろんです♪ 証拠になるモノが残っていたら、大丈夫です」
「え? 証拠になるモノが必要なのか?」
「はい。グスターちゃんが嘘をつくとは思いませんが、第3者に対して債権があることを証明できないと異世界サルベージは認められませんから」
「う~ん、口約束だったから、証拠になるモノ……残っていないな」
「そうですか……」
とっても残念そうな主木さん。グスターも残念だ。
ぅうっ、ここで買取ってもらえたら、食費の足しになると思ったのにっ!!
どうにかして、グスターの債権を買取ってもらえないかな?
でも、主木さんが言葉を続ける。
「証拠が無いと、買い取れないのですが――何か、残っていませんか? メモみたいな簡単なモノで大丈夫ですので」
ん? メモでも良いのか?
「えっと、携帯のメールの履歴はどうだ? それなら、残っているぞ?」
「それ、多分、大丈夫です! どんな履歴ですか!?」
初めて見る余裕の無い表情で、主木さんが喰いついてきた。
ちょっとびっくりしながらも、それを顔に出さないようにして、主木さんに説明する。
「おにーちゃんから『食費分5000円貸して』というメールが入って、『3000円ならOKだよ』ってグスターが返して、『ありがとう! 今すぐ、借りに行く!!』っていうメールだ」
「それ! それで行けますっ!! 携帯ごと、20万円で買い取ります!!」
「ほ、本当か!? 今、20万って聞こえたぞ!?」
主木さんがにっこりと笑う。
さっきまでと違って、数分前までの余裕たっぷりな表情だった。
「本当と書いて、マジです♪ さぁ、今すぐ、買取りたいと思いますので――携帯ショップに行って機種変更してきましょう♪」
「ああ! よろしく頼む!」
よかった~。これで1ヶ月、食費に困らない。
っていうか、20万だよ、20万!!
残ったお金で何を買おうかな? 欲しかったアレやコレやアンナモノが買えちゃうぞ?
◇
おにーちゃんとのメールが残っていることを確認してもらってから、主木さんが用意してくれた書類に目を通して、債権の売買契約を交わす。
「これでOKです♪」
そう言って笑う主木さんと一緒に、タクシーで近場の携帯ショップに移動して、機種変更の手続きを行った。ほくほく顔の主木さんに、テンションあげあげのグスター。
WIN&WINの関係って素晴らしい(≡ω)♪
タクシーで家の前まで送ってもらって、別れることになった。
ラズベリは、タクシーを待たせて、車から降りてグスターを玄関まで送ってくれた。
本当に、律儀なヤツだと思う。
「それでは、後日、お父様の持っている債権も買取らせていただくという方向でよろしくお願いします。ご両親から連絡がありましたら、先程お渡しした名刺の番号に電話して下さいとお伝え願います」
「うむっ♪ こっちこそ、よろしく頼む!」
「よろしくお願いします」
頭を下げた後、ラズベリが言葉を続ける。
「まずはグスターちゃんから買取らせてもらった債権から、手始めにサルベージしようと思っています。明日の夜には、白木さんが転移した世界にわたくしが潜りますので、もし良かったら、それまでに『白木さんへの手紙や、渡したい品』等を用意してもらえると助かります。白木さんも喜んでくれると思いますし、電話してもらえれば、お昼休みにわたくしが取りにきますので」
その言葉に全身が痺れて、一瞬、動けなくなった。
でも、固まったグスターに気が付かないラズベリは、にこっと微笑む。
「それでは、契約通り、サルベージの経過は1週間ごとに書類で報告しますので、よろしくお願いします」
そう言って、車に戻ろうとした主木さんを――グスターは引きとめていた。
「あのっ! 主木さんは、おにーちゃんに会いに行くのか!?」
「はい、それが異世界サルベージ会社の役目ですから。……って、最初の説明の時に、言っていませんでしたか?」
言っていたような、言っていなかったような?
でも、そんなことはどうでもいい。
気が付けば、思わず叫んでいた。
「グスターも、主木さんの会社でバイトしちゃダメか!? そのっ、おにーちゃんに一目で良いから、会いたいんだ!!」