第37話_特別ボーナスと打ち上げ
※本日、2度目の更新です。
光が収まると、見覚えのある桜島事務所の会議室にグスター達は立っていた。
「はぁ~、やっと日本に還って来れた~(≡ω)」
「グスターさんに、聞きたいことが山ほどあります!」
「うん。でも、それは後でな♪ まずは、日本に還って来られたことを喜ばなきゃもったいないぞ?」
「それもそうですが――そうですね。……何だか、今までのことが夢みたいです」
グスターと委員長のやりとりに、ラズベリとヴィラン先輩が小さく噴き出した。
「ラズベリ先輩、ヴィラン先輩、何を笑っているんです?」
ちょっとしんみりしていた委員長の、拗ねたような抗議の声に、ラズベリが苦笑する。
「ふふっ♪ 2人が帰って来てくれたことが嬉しいなと思いまして」
「……(右に同じく♪)」
そして、ラズベリが優しい笑顔を浮かべる。
「色々と話したいことはありますけれど――今日は、2人が無事に帰ってこられたことをお祝いして、ご飯を食べに行きましょう?」
「……(打ち上げと反省会という名の事情聴取だよ♪ 2人とも覚悟してね?)」
悪戯っぽい顔のヴィラン先輩の言葉に、委員長と顔を見合わせる。
グスターも委員長も、思わず苦笑いだ。でも、心の中は、すっきりしている。
ラズベリが、笑顔のままで、パンパンと手を叩く。
「それじゃ、着替えるついでにお風呂に入って――その後に、いつもの焼肉屋さんへ直行しましょう♪」
ご飯食べとは言っても、焼き肉だとは思わなかった。
思わず歓喜の声が口から溢れる。
「お肉っ♪ お肉っ♪ A5ランク~♪」
「グスターさん、あんまり食べ過ぎると太りますよ?」
グスターの『A5ランクの歌~ver.2~』を遮って、委員長がジト目で声をかけてきた。
「良いんだよ、委員長。異世界に行ってからグスターは身が引き締まったから。――委員長もそうだろ?」
「うぐっ!」
委員長が頭を抱える。もしかして――
「委員長――「言わないで下さいっ! ぷにっと体型が変わらないなんて、言わないで下さいっ!!」――いや、グスターは言わないが、委員長、自分で言葉にしているぞ?」
「はぐぅっ!」
動かなくなった委員長の肩に手を当てて、ラズベリが苦笑しながら口を開く。
「はいはい、漫才はその程度にして、お風呂入って来て下さい♪ 2人ずつ入るから、グスターちゃんと委員長ちゃんからどうぞ~」
「了解だ(≡ω)」「……了解です(Tω)」
こうして、落ち込む委員長と一緒に、桜島事務所のお風呂に入ることになった。
◇
お風呂から上がって、色々身支度を整えて。
書類と格闘している早苗さんと瑞穂さんにきちんと挨拶をしてから――グスター達は天文館の焼肉屋さんへ来ている。
グスター達の“異世界でトラブル”のせいで、早苗さんと瑞穂さんは、かなり忙しそうだったけれど笑顔で送り出してくれた。「「事情聴取、頑張ってね~♪」」という不吉な言葉とともに。
焼肉屋さんで注文して、お肉が到着する。
「それでは、グスターちゃんと委員長ちゃんの帰還を祝う会を始めたいと思いますが――長ったらしい挨拶は抜きにします。でも、みんながグラスを持つ前に、1つだけ大切な話をさせて下さい」
真面目な顔でそう言うと、ラズベリがグスターと委員長の目を見て、ゆっくりと言葉を続ける。
「コレはわたくしの我儘です。正直な考えを後で聞かせて欲しいので、そのつもりで聞いて下さい。今後、2人は異世界トレジャーサルベージ部の部活動をどうするつもりですか? グスターちゃんはケモ耳が無くなりましたし、お兄さんとも無事に会えて気持ちに整理ができたと思います。仮入部だったということもありますし、それは、異世界トレジャーサルベージ部を続ける理由がなくなったとも言えますよね?」
言葉を区切ると、真剣な瞳で、ラズベリは委員長の方を見る。
「その一方で、委員長ちゃんは、グスターちゃんに連れられてうちの部活にやってきました。蓮さんの気持ちに応える気が満々みたいですけれど、グスターちゃんが抜けても部活を続ける気はありますか? 今なら、2人とも“普通の女の子の生活”に戻ることが可能ですよ?」
ラズベリの言葉を聞いて気が付いた。
日本に還って来てから、なんかふわふわした気持ちになっていた自分がいることに。
極貧の“もやし生活”からは抜け出せた。
おにーちゃんのことはきちんとけじめをつけられた。
ケモ耳も無事に消えてくれた。
――これから部活どうしよう?
一瞬だけ生まれた迷い。
グスターは“おにーちゃんの願い”を聞いたはずなのに、「普通の生活に戻ることが可能」という言葉に心が揺れてしまった。
ラズベリが、お母さんみたいな優しい笑顔で、言葉を続ける。
「すぐに決めることじゃないですし、決められることでもないと思います。ただ、良い機会だと思ったので、2人にゆっくり考えて欲しいなと思ったの」
真面目な顔でそう言って、ラズベリがグスターと委員長に目線を向ける。
そして、にこっと笑顔を作った。
「――ということで、難しい話はここでお終いですっ♪ 頑張った2人には、“良いモノ”を渡したいと思います♪」
固くなっていた空気を払しょくするように、ラズベリは笑顔でそう言うと、シャツの胸元から2つの封筒を取り出した。
◇
出て来たのは、いわゆる定型封筒だけれど、厚みは2~3センチくらいもある。
よく2つも胸の谷間に入っていたな……ラズベリ、恐るべし!!
でも、下手したら、いつか垂れるぞ?
「……グスターちゃん、何か失礼なこと考えていません?」
「!? そ、そんなこと無いぞ!!」
「まぁ、良いです。大事に使って下さいね♪」
そう言って、ラズベリが糊付けしてある茶封筒をグスターと委員長に渡した。
あ、思っていたよりも重い。何だろ、これ?
「中身は確認した方が良いですか?」
固い声で委員長が確認するように言った。委員長は、これが何か分かっているみたいだ。
ラズベリが微笑みながら頷く。
「ええ。明細通りか、確認してもらえると助かります」
丁寧に封を開ける委員長と同じように、グスターも綺麗に封を切って中を見る。
茶色い紙の束が入っていた。……あれ?
封筒を傾けて中身を取り出す。
ずしりと重みを感じる、帯付きの諭吉さんがそこにいた。
「えっ?」
「あの、ラズベリ先輩!?」
委員長の方にも同じ物が入っていたらしい。委員長が青い顔になっている。
っていうか、グスターも手が震えている。
「2人とも頑張ってくれたから、特別ボーナスです♪」
「でもっ! 受け取れません、私、みんなの足を引っ張ってばかりで――」
「大丈夫。委員長ちゃんのおかげで、うちの会社は大きな利益を得られたから♪」
ラズベリは余裕の表情だけれど、グスターも罪悪感しか無い。
「グスターももらって良いのか? 制裁金とか支払わなければいけないんじゃなかったのか? おかしいだろ?」
「そっちは、別口で清算が済んでいるから大丈夫ですよ♪ それに――ここで返されるのは困るのです。正当な報酬として、そしてお互いにケジメをつけるためにも、受け取ってください」
真面目な顔で頭を下げたラズベリ。
鈍いグスターでも、ラズベリはラズベリなりに、ずっと心配したり責任を感じたりしてくれていたことが理解できてしまった。
普段が余裕たっぷりで、慌てたところなんて想像もできなかったラズベリだけれど、その根っこがとても優しいのをグスターは知っている。知ってしまっている。
自然と、委員長と顔を見合わせていた。
そして、お互いに頷きを返す。
「「ありがとうございます! 有意義に使わせてもらいます!!」」
「よろしい♪」「……(それが正解だよ♪)」
嬉しそうな笑顔のラズベリと、ヴィラン先輩がそこにいた。
◇
「それじゃ、報酬の支払いも済んだところで――みんなグラスを持って下さいな。2人の帰還を祝う焼き肉パーティーを始めますよ~♪」
笑顔でグラスを手に持つ。
もちろん全員、アルコールじゃなくてジュースだ。
「それでは、乾杯♪」
ラズベリの言葉に、委員長とグスターとヴィラン先輩の声が重なる。
「乾杯」「かんぱ~い(≡ω)」「……(乾杯)」
グラスを傾けて、冷たいミカンジュースを喉に送り込む。
くは~、美味い♪
ミカンジュースが身体に染みわたるぅ!!
“ぴょこん♪”
「――え?」
頭とお尻に感じる違和感が。
……今、何かが生えた?
ぺたぺた。
頭にモフモフがついている。
ぺたぺた。
おしりにフサフサがついている。
当然のように、皆の視線がグスターの頭に集まっていた。
“ぴこぴこ”“ふりふり”“ぴぴこ、ぴこっ♪”
……うあぅ、この感覚は――
「耳が生えてるッ!! っていうか、尻尾も生えてるッ!! 何でだッ!?」
グスターの絶叫に、ヴィラン先輩がぽつりと呟く。
「……(みかんジュースを飲んだからだと思う)」
「えっ? どんな理由で、そうなるんだ!?」
グスターの呟きに、真剣な顔で、ヴィラン先輩が流暢に説明を始める。
「……(みかんは、太陽の光を取り込んで光合成した栄養素を、その肉体に宿した魔法の果実なんだ。オレンジとは比較にならない、黄金の実であるみかんには、微量の魔力が含まれているはずなんだよ。実証されてはいないけれど!)」
きりっ♪ という感じのドヤ顔で言い切ったヴィラン先輩。
ちょっと可愛いんだけれど――どう考えても、某みかん県の歪んだ思考に汚染されたとしか考えられない残念感が漂っていた。
「いやいや、ヴィラン先輩、それは無いっ!」
「説明が、めっちゃ嘘っぽいです!」
グスターと委員長の声が個室に響く。
「でも、耳と尻尾が生えちゃいましたよね?」
冷静なラズベリの言葉に、何も言えなくなってしまう。
そのまま、ラズベリが言葉を続ける。
「グスターちゃん♪」
にこっとした笑顔のラズベリ。ヴィラン先輩も、委員長も微笑んでいる。
「ラズベリ……委員長……ヴィラン先輩……」
みんなが考えていることは1つらしい。
うん、正直、グスターもそれを考えていた。
ゆっくりと、全員の声が重なる。
「「「これからも、よろしく♪」」」
ハモった声に、全員で噴き出す。
「あ~あ~、ケモ耳の神様の呪いがやっと解けたと思ったんだけれどな~」
「可愛いからいいじゃないですか♪」
「ラズベリ先輩の言う通りですよ、グスターさんと言えば、ケモ耳なんですから♪」
「……(正直、羨ましいかも? ――いや、絶対に無いなぁ♪)」
ヴィラン先輩の言葉に、全員で笑顔になっていた。
「さてと、それじゃ、お肉を焼きましょ?」
ラズベリが網の上にカルビを置いて行く。
じゅわ~という香ばしい音のせいで、狼尻尾が自然と揺れてしまった。もちろん、狼耳もぴこぴこと元気に動いている。
この調子だと、グスター達の冒険の日々は、しばらく続きそうだな(≡ω)b
(終わり)
これで女子高生なグスター達の物語は、ひとまず終わりです。
色々と試行錯誤しながら執筆していましたが、最後までお付き合い頂きまして本当にありがとうございました。バイク事故で長期間、更新出来なかった時もありましたが、ブックマークや評価のおかげで最後まで書くことができました。この場を借りて、お礼を申し上げます。
なお、グスター達が“別の異世界”をサルベージすることが有ったら、お話が増えていくかもしれません。その時には、更新中の物語と合わせて、どうかよろしくお願いいたします。
本当に、ありがとうございました。




