第36話_帰還
「い、今の光は……?」
思わず呟きながら周りを見ると、おにーちゃんが驚いたような顔でグスターに視線を向けていた。
いや、正確に表現するなら、その視線はグスターの頭の上にある。
恥ずかしいから、耳を動かそうとして――無い。
恥ずかしいから、尻尾を動かそうとして――無い。
ぺたぺた。
うむ、頭に異常なし。
ぺたぺた。
うむ、おしりに異常なし。
「ケモ耳と尻尾が消えた!? ――まじで消えたのかっ!?」
気が付けば、思わず2回叫んでいた。
その直後、階段にいたみんながこっちに駆けて来た。
「グスターちゃんのケモ耳が消えましたね……」
「……(完全に消えた。もっとモフりたかったのに!)」
「本当に、消えちゃいましたね、グスターさん」
ラズベリ、ヴィラン先輩、委員長が少し残念そうに言いながら、でもグスターの頭を撫で撫でしてくれた。
ばっちゃんやケモ耳美人秘書、くっころ女騎士も声をかけてくれる。
「まぁ、良かったんじゃないのか? グスター」
「ケモ耳がなくなっちゃいました……」
「元は人族だったって本当だったんですね」
ぽつりと言葉が口から出てくる。
「グスターのケモ耳……消えちゃったんだ」
無くなってしまうと何だかさみしい。
我儘だって分かっているし、消えてくれることを願っていたけれど、文字通り身体の大切な一部が消えてなくなってしまった感覚。
ゆっくりと、おにーちゃんが口を開く。
「ケモ耳は、神様にもらったんだよね? ――多分、役目を終えたから消えたんだよ」
「役目を終えた?」
グスターが視線を向けると、おにーちゃんがこくりと頷く。
「ケモ耳と尻尾が生えたことで、グスターは異世界と縁が結ばれた。でも、それが消えたっていうことは、『グスターは、もう異世界に来ちゃダメ』と神様が言っているんだよ」
優しい笑顔のおにーちゃん。
ちょっとロマンティストなのは昔と変わらない。
本当に、格好がつかないんだから。
「分かった。多分、おにーちゃんにはもう会わないって、グスターが覚悟を決めたから、ケモ耳と尻尾が消えたんだと思う。ありがとう、おにーちゃん。そして――」
おにーちゃんと視線を合わせる。
自然な笑顔だった。
「――さよなら」
グスターも最高の笑顔でこの言葉を言えた。
おにーちゃんの笑顔のおかげかもしれない。
◇
「さてと、それじゃ、そろそろお家に帰りますか♪」
ケモ耳美人秘書やくっころ女騎士、そしてばっちゃんとも別れの挨拶を済ませた後――タイミングを見計らったようにラズベリが笑顔で言葉を口にした。
「それでは蓮さん、今後の交渉や回収はわたくしとヴィランが担当します。次回は、こちらの時間で1ヶ月後くらいに訪問しますので、初回の返済分のご用意をお願いしますね」
「はい。こちらこそお願いいたします」
「何かグスターちゃんとローリエちゃんに言っておきたいことはありますか? 本当に、これが最後になりますので」
「ラズベリさん、お気づかいを、ありがとうございます。――グスター、ありがとう。変わらない姿と態度のグスターに会えてうれしかった。おかげで僕もこっちで頑張れるよ。――桂樹さん、ありがとう。最初は大人しかったのに、強引になった桂樹さんには、色々な意味で何度もヒヤヒヤさせられたよ。そのアグレッシブさで、グスターのことをよろしく頼む」
おにーちゃんの言葉に、委員長と一緒にこくりと首を縦に振る。
「おにーちゃん、ありがとう」
「蓮さん、さよなら」
委員長もグスターも多くは語らない。それ以上の言葉を口にしたら、涙が溢れそうだから。
最後は笑顔でお別れしたいから。
「さて、それじゃ、日本に帰りましょうか!」
「……(打ち上げと反省会するよ~♪)」
ラズベリとヴィラン先輩の言葉と同時に、足下に虹色に輝く魔法陣が生まれた。
「グスター様! 受けたご恩は、一生忘れません!」
「私も一生懸命、頑張ります!」
ケモ耳美人秘書とくっころ女騎士が大きな声で叫んだ。
それに笑顔を返す。
「ぐ~すた♪ 達者でな♪」
「ばっちゃんも、はやくおにーちゃんと子ども作れよ! そして、おにーちゃんと他のお嫁さんと一緒に、今以上に幸せになってくれ!!」
「りょ~かい(-ω)b」
グスターとばっちゃんのやり取りに、委員長が驚いたような顔をする。
あ、やべ、そう言えば委員長にはグスターのばっちゃんだと隠していたんだっけな?
「グスターさん、ユーカリ師匠、どういうことですか!?」
……まっ、もう隠す必要はないか。
「ユーカリはグスターのばっちゃんが転生した姿なんだ(≧ω)♪」
「そういうこと。ローリエ嬢ちゃんには隠していたけれど、もう隠す必要はないからね。黙ってて悪かった♪」
「え!? ええっ!? えええ~~っ!?」
委員長の叫び声と同時に、虹色の光に世界は包まれて――グスター達は日本へと飛んだ。




