第35話_お別れと指輪
※ラストの方、切りが良くなかったので、微修正しました。
グスターと委員長の重なった言葉。
それを聞き、ラズベリが広げた両手をぱちんと胸の前で合わせる。
「2人とも良く出来ました♪ でも、蓮さんに言いたいことがあるのでしたら、それを済ませる時間くらいは取ってあげられますよ?」
はにかむような表情と言葉に、緊迫していた空気が和らぐ。
「ラ~ズ~ベ~リ~、先に言ってくれ。性格が悪いぞ(≡ω)ノシ」
「ラズベリ先輩は本当に性格が悪いです」
グスターと委員長の講義の声に、ラズベリがにっこりと悪戯っぽく微笑む。
「あら? 感謝されることはあっても、性格のことを言われるいわれは無いですよ? 何でしたら、今すぐに帰ります?」
「帰らないぞ!!」「ごめんなさいっ!!」
「分かればよろしい♪」
満足げな表情を浮かべてから、ラズベリがおにーちゃんの方に視線を向ける。
「さて、蓮さん。ちょっとお付き合い願います」
「はい、ラズベリさん、分かっています。でも、場所を変えさせてもらっても良いですか? 最後になるかもしれないので、外の景色を見ながらお別れを言いたいのです」
真剣な表情のおにーちゃんの言葉。それを聞いて、ラズベリが嬉しそうに微笑む。
「ええ。ロマンティストな男の人、わたくしも嫌いじゃありませんから、良いですよ♪」
◇
王城の天辺にある塔の上。
地平線に夕日が飲み込まれるまさにその時。
森も大地も街並みも、見渡す限り全ての世界が、真っ赤な色に染まっていた。
「怖いくらいに綺麗ね」
ラズベリの言葉を否定する人間は、ここにはいない。
誰もが外の世界の輝きと変化に心を奪われ、心を重ねていた。
「さて、時間もあまりありません。グスターちゃん、委員長ちゃん、どっちが先に用事をすませますか?」
「ここは私が。グスターさん、トリを譲ってあげますね」
「トリ? チキンという意味か?」
グスターの言葉に、委員長が小さく首を横に振る。
「いいえ。トリというのは“最後の締め”っていう意味です。元の世界に帰ったら、私が日本語を教えてあげますから、一緒に勉強しましょう」
何だろう、ちょっと委員長が優しい。
でも、優しくしてくれるのは良いことだ。
「うむっ♪ よろしくな、委員長(≡ω)」
「ええ。楽しみです」
小さく笑ってから、委員長がグスター達を見る。
「蓮さんと2人だけで話をしたいので、少しだけ皆さんは階段の所にいてくれませんか?」
「分かったわ♪ みんな、移動しましょ?」
「……(最後だもんね。話したいこと、全部話しておいで♪)」
ラズベリとヴィラン先輩の言葉に頭を下げて、委員長はおにーちゃんと一緒に、塔の手すりの近くへ歩いて行った。
固い笑顔の委員長。
泣きそうな表情の委員長。
小さく笑う委員長。
グスター達がいる場所からは、委員長とおにーちゃんが何を話しているのかは分からない。
泣き出した委員長。
話すのを止めない委員長。
そして――笑顔を作って――委員長が口を動かす。
(さ・よ・な・ら・あ・り・が・と・う)
言葉は聞こえないはずなのに、委員長の想いがグスターにも聞こえた気がした。
◇
ハンカチで涙を拭きながら、委員長がグスター達のいる所へやってきた。
そしてグスターの前で足を止めると、ぎこちない笑顔を作る。
「私は気持ちの整理が出来ました。次はグスターさんの番ですよ?」
委員長に背中を押されて、おにーちゃんのもとへと歩いて行く。
心臓がドキドキして、手が汗で湿って、喉が渇いて――逃げ出したい気持ちに襲われたけれど、グスターは足を止めない。
だって、多分、これが最後のチャンスだから。
塔の手すりで外を見ている、おにーちゃんの隣に並ぶ。
地平線の向こうに太陽が沈み、夜の闇の紫と無数の星が空に広がりつつある世界。
風が吹いて、グスターの前髪を揺らした。
「おにーちゃん、色々と迷惑をかけてしまって、ごめん」
最初に口から出た言葉は、謝罪だった。
「僕の方こそ、グスターにはたくさん謝らないといけない」
おにーちゃんは苦笑するような困っているような、優しい表情だった。
「うん、知っている。おにーちゃんが“クズ”で“女たらし”で“無責任”で“女心が分かっていない”ことなんて、グスターも知っている」
「本当に、返す言葉も無いよ」
おにーちゃんは優しい顔のまま、言い切った。
だからグスターは確信してしまう。おにーちゃんがひどいヤツだということを。
「……知っているよ? おにーちゃんが、グスターに――わざと嫌われようと一生懸命になっているの、知っているよ?」
泣いちゃいけないのに、視界が歪んでしまう。おにーちゃんは何も言葉を返さない。
「おにーちゃんは不器用だから、グスターにはバレバレだよ!?」
泣いちゃいけない。
いけない。いけない。いけない。
――のに、熱い滴が目から溢れる。
「おにーちゃんの馬鹿」
「……ごめん」
「……おにーちゃんのことなんて、知らないって言いたいけれど――グスターの気持ちは、ユーカリさんと他のお嫁さん達に全部渡していく。だから、全員を大切にしてね」
目の前の空が、どんどん紫色に染まっていく。
残された時間はあまり長くない。
「おにーちゃん、今までありがと。コレ、もうグスターには必要ないから、返すよ」
ずっと大事に身につけていた、プラチナのリングを薬指から外す。
このタイミングで役割を終えたことを知っているのか、指輪は、すっと外れた。
「コレのおかげでグスターは、毎日笑顔でいられた。強くなれた。頑張ることが出来た。だけど、もう、グスターには必要ないんだ♪」
深呼吸をして――指輪をおにーちゃんにそっと手渡して――ゆっくりと言葉を続ける。
「おにーちゃん、本当に今までありがとう」
最後だから、笑顔で。
泣いたらいけない、笑顔で。
お別れしよう、笑顔で。
「ずっとずっと、おにーちゃんのことが大好きでした。異世界まで会いに来るくらい、大好きでした。本当は……おにーちゃんの……お嫁さんになりたかったです」
ありがとう、おにーちゃん。……さぁ、最後の言葉を紡ごう。
「おにーちゃん、さよな――」
視界が歪んだ。
その直後、グスターの視界いっぱいに白い光があふれた。




