第34話_秘密会議
※明日も更新予定です。
※9/28後半部分に追加してあります。
魔王軍をシナモン王都に引き入れると決まれば、話は早かった。
ばっちゃん――もとい、ユーカリが指揮する魔王軍が、粛々と城塞都市を制圧していく。
グスターもその隣で様子を見守る。
都市の中にいる兵や住民には、昨日のうちに告知をして「危険は無い」と伝えてあるとはいえ、必要以上に怯えさせるのはトラブルの元だから、なるべく人型に近い姿の魔族、それも女性を中心にして占拠してもらった。
その結果、小さな混乱や反乱があったみたいだけれど、特に大きなトラブルに発展すること無くシナモン王都の譲渡は完了した。
◇
そして時間はあっという間に過ぎた。
ひと通りの事務処理が終わって、全員が顔をあわせて話し合いをすることが可能になったのは、王城の窓の外が夕方の日差しに変化した頃だった。
会議室の四角いテーブルの上には、魔族のメイドさん達の手でお茶とお菓子が配られている。シンプルな形のクッキーだけれど、とても美味しそうな匂いがしている。
「まだ慌ただしいけれど、取りあえず、1個ずつ話を始めましょうか?」
ラズベリが笑顔を作って、集まった人達をぐるりと見渡す。
お誕生日席にラズベリ。向かい合うお誕生日席に、おにーちゃん。
その間にグスター、ヴィラン先輩、委員長、ばっちゃん、ケモ耳美人秘書、くっころ女騎士が座っている。
一応、おにーちゃんと委員長とばっちゃんが魔王軍グループ。
ラズベリとヴィラン先輩がサルベージ部グループ。
グスター&ケモ耳美人秘書&くっころ女騎士がシナモン王都グループ。
敵対する訳じゃないけれど、それぞれの立場から情報を整理しようということで、こういう形になった。
最初、ケモ耳美人秘書&くっころ女騎士は話に入れないつもりだった。けれど、人間側でも異世界サルベージのことを知っている存在がいた方が、今後のおにーちゃんとの関係構築に良い影響があるだろうという理由から、急遽会議に加えることになったのだ。
「それじゃ、わたくしが仕切らせてもらいますね♪」
笑顔のラズベリに文句を言う存在はここにはいない。
唯一、くっころ女騎士が顔合わせをした当初に、ラズベリに批判的な雰囲気を醸し出していたのだけれど――すぐに別室で“おしおき”を受けたせいか、今ではすっかり大人しくなっている。
ちなみに、話し合いに参加するにあたって、異世界サルベージに関する基本的なことは、ケモ耳美人秘書&くっころ女騎士にも話をしてある。最初は驚いていたみたいだけれど、転移の指輪での転移やSSランクの魔法具を見せることで信じてもらえた。
ゆっくりと周囲を見てから頷いて、ラズベリが言葉を続ける。
「魔王軍の今後のことは、蓮さんにお任せします。魔王軍とは言え、蓮さんはこの世界をより良き方向へ導いて下さるみたいですから」
ラズベリの言葉に、おにーちゃんが苦笑する。
「いえいえ。ラズベリさんには敵いませんよ」
「ご冗談を♪ ということで、この異世界の統治の件は蓮さんに一任しますので、ケモ耳美人秘書&くっころ女騎士とも協力して頑張って下さい。異世界トレジャーハンターのわたくし達は、過度な干渉はいたしません。ですが――」
言葉を区切って、ラズベリが笑顔を作る。
「蓮さんに対する債権回収は、強制執行ではなく任意で回収させてもらうことになります」
ラズベリの言葉に、おにーちゃんが口を開く。
「それは、20年かけて分割で、魔法道具や魔法技術の知識で支払うという考えであっていますか?」
「わたくし達としては、そうしていただけると助かります」
「分かりました。魔王城の整理をして、強制執行されても大丈夫なように資産隠しをしていたのですが、その必要はなかったみたいですね。僕の方も最初から、分割なら可能だと考えていましたので、大丈夫です」
「ありがとうございます。協力していただける見返りと言っては微々たるモノですが――こちらをお納めください♪」
そう言って、ラズベリがアイテム・ボックスから取り出したA4サイズの茶封筒を机の上で滑らせる。流石、ラズベリ。無駄に格好良い。
ちょっと不躾とも言える目の前で止まった茶封筒を、おにーちゃんがゆっくりと開ける。
「これは――!?」
ラズベリから差し出された封筒の中身を見て、おにーちゃんが息を飲む。
震える手でゆっくりと中身を取り出す。それは1冊の本だった。
「「「誰でも分かる異世界チート読本?」」」
グスターと委員長とばっちゃんの声が重なった。
その反応が嬉しかったのだろう。満足げな笑顔でラズベリが説明を始める。
「コレがあれば、1950年代までの工業製品や食品を異世界でも再現できるようになります。流石に核兵器のような危険なものは載っていませんが、銃火器や紡績機械はすぐに作れるようになるでしょう」
「良いんですか? この世界のバランスが壊れますよ?」
信じても良いのかという表情のおにーちゃん。
でも、ラズベリは小さく微笑むだけ。
「正直、良くはありませんね。ですが、口止め料が入っていると考えて、お納めいただけると助かります」
「口止め料ですか?」
困惑した表情を浮かべるおにーちゃんに、ラズベリが微笑みを投げかける。
「これは、わたくし達の判断ではなく、JWXAの意思です。そこだけは、誤解されませんように」
「――分かりました。悪用しないことを誓います」
「そうしてもらえると嬉しいです♪」
ぅふふっ、と小さくラズベリが笑う。
そのおかげで張り詰めていた空気が、若干、柔らかくなった。
「次の話題に入りたいと思いますけれど、ここまでで何か追加しておいた方が良いことや質問、反対意見はありますか?」
小さな沈黙と、質問が無いことに対する肯定の静寂が流れた。
ゆっくりとラズベリが口を開く。
「それじゃ、質問などが無いみたいですから、次に行きますね。――まずは、グスターちゃんとローリエちゃんが、この世界に放り出された原因を作った水神氏の処遇ですが、物理的に闇に葬られることになりました♪」
「ぉうふっ(≡ω)!?」「「「ええっ?」」」「本当ですか!?」
思わず変な声が出てしまった。
「ラズベリ、闇に葬られるって無かったことになるのか?」
「ええ。この話は無かったことになりました」
グスターの質問に答えたラズベリに、委員長が不満の声を上げる。
「ラズベリ先輩、それはちょっと納得がいきません! 主犯が無罪放免だなんて――「誰が無罪放免だと言いました?」――えっ?」
委員長の言葉を遮ったラズベリが、にこっと笑って説明を続ける。
「わたくしは言いましたよね? 物理的に闇に葬られることになったって♪ 今頃、どこかの異世界で、ボディーガードのおじさま達と草木の栄養になっているはずですよ?」
「……(水神氏と懇意にしていた職員やサルベージ会社には、監査が入ることが決まったよ。他の勇者や魔王にヒアリングしたら、けっこう大掛かりな不正が出てきたみたいだけれど――諸外国に突っ込まれないように、全部上層部が揉み消すと決めたらしいんだ)」
真剣な瞳でヴィラン先輩が言葉を続ける。
「……(世論が動くと困るから裁判すら行われない。ボクらも深入りするには危険だと判断したから、今回はJWXAに“貸し1つ”ということにして落とし所を作ったんだよ。そうしないと、ボクらも消されかねないから)」
くすくす、と悪戯っぽくラズベリが笑う。
「今は、大人しくしておくのが得策だと思ったのですよ♪ おいおい情報をくれるようには交渉してあります」
「「「……」」」
ラズベリの抱える闇に、グスターもおにーちゃんも委員長も言葉が出なかった。
ブルブルブル。見なかったことにしよう。うん、それが良い!!
グスター達が現実逃避している間にも、ラズベリは会議を進める。
「そういうことで、グスターちゃんや委員長ちゃんが元の世界に帰ってくることを阻む問題は何もないですよ――と言いたいのですけれど」
「けれど?」「やっぱり問題があるのですよね?」
グスターと委員長の言葉が重なった。
ラズベリがグスターの目を見て、委員長の目を見て、ゆっくりと口を開く。
「グスターちゃんが、単独行動を取ってしまったのが少々問題になっていまして」
「やっぱり、問題になるよな?」
グスターの言葉に、ヴィラン先輩が頷く。
「……(サルべーザーの監督不届きということで、ボクらの会社は制裁金。違反行動を取ったグスターさんはJWXAに対する始末書の提出が必要なんだ。レポート用紙換算5枚以上になりそうだけれど、ガリガリ頑張ってね?)」
「そんなぁ~(Tω)ノシ」
悲しみにくれて机に突っ伏すグスターに、追い打ちをかけるラズベリがいた。
「グスターちゃんに真面目に書いてもらわないと、反省していないということで異世界サルベージ業者の認定を取消されます。そうなると会社ごと潰れちゃうから――分かっていますよね?」
「はぐぅっ! 何とか、何とかならないのか!?」
「ごめんなさいね、これでも制裁金を1桁減らすのを頑張ったんですよ? ちなみに、制裁金の1割はグスターちゃんのお給料から天引きしますから、覚悟しておくように!」
「ぅにゃあぁぁ~(Tω)」
「……(制裁金の金額、聞いてみる?)」
「や、やめておきます……」
「3,000万円ですよ♪ 1割負担、よろしくお願いしますね?」
「ふにゃあぁぁ~(Tω)」
がっくしと倒れて動けないグスター。
憐みの視線が、グザグザ刺さってちょっと痛い。
「さてと。ここまでで、何か質問や意見はありますか?」
「……(一応、また30日後位に顔を出すつもりだから、今無理に出さなくても、大丈夫ではあるけれど――気軽に聞いて良いからね?)」
ラズベリとヴィラン先輩の言葉に、1人だけ手を上げる人がいた。
真剣な表情の、おにーちゃんだった。
「ラズベリさんに聞きたいことがあります。グスターや桂樹さんには言いましたが――」
小さく深呼吸をしてから、おにーちゃんが言葉を続ける。
「神、悪魔、妖怪、魔族、王族、貴族、その他――僕ら地球人を異世界転移させている存在がたくさんいますが、転移を未然に防ぐ技術はまだ見つかっていないはずです。だから、お願いします。異世界転移から、未来を守って欲しいんです。地球の未来を、日本の未来を、そして毎日一生懸命に頑張っている一人ひとりの未来を、守って欲しいんです」
「まとめると、“異世界転移が起こらないようにして欲しい”ってことですか?」
「そうなります」
「……(危険ではあるけれど、興味深い現象でもあるよね?)」
「そうですね――ええ、分かりました。こちらで動ける範囲で、わたくし達も異世界転移を防ぐ方法を探してみたいと思います」
ラズベリの言葉に、おにーちゃんが頭を下げる。
「ありがとうございます」
「蓮さんの方でも、念のため調べてみて下さいね?」
「もちろんです」
「それじゃ、他に何か質問や意見はありますか?」
「……はい」
委員長が申し訳なさそうな表情で右手を上げている。
ラズベリが、にこっと微笑んで、視線で言葉を促した。
「あの、ものすごく今更で、隠していようかなとも考えたのですが……私はこっちの世界に来て、多分、たくさんの人を殺しています。直接剣で殺したことはありませんが、広範囲攻撃の魔法を何度も使ったことがありますから。そんな私が、日本に帰っても良いものでしょうか? ……幸せな日常を……再び、手に入れても……良い……モノで……しょう……か?」
俯きながら、最後の方は声を振り絞るようにして、言葉を紡いだ委員長。
でも、ラズベリとヴィラン先輩が優しい声をかけた。
「わたくしも数え切れないくらい殺していますよ? たしか3桁くらいは殺しているはずです」
「……(ボクは4桁以上いっていると思う。砲台タイプの魔法使いだから、必要に迫られて都市ごと住民と兵を消し飛ばしたこともある)」
2人の先輩の言葉に、驚いた表情で委員長が顔を上げる。
「日本の法律で言ったらわたくし達は大量殺人犯。どんな理由があろうとも、罪を償わなければいけないのかもしれません。でも、委員長ちゃんは、自分がした行動が間違っていると思うのですか? 遊びや衝動に負けて人を殺したのですか? 無抵抗の人間を殺して弄んだのですか?」
「……違います」
「自分を守るため、大切な誰かを守るため、そして希望を守るために――相手を手にかけたんじゃないのですか?」
「……(信念があったよね? 守りたい存在があったよね? 失いたくないモノがあったよね?)」
すぅっと空気を吸い込んで、ラズベリとヴィラン先輩の言葉が重なる。
「「ここは異世界。自分の希望を守るためなら、自分の覚悟を差し出すしかない。だから私達は――前を向くのよ」」
場にいる全員が息を飲んだ。
そして生まれそうになった沈黙を、「くすっ」と小さく笑ってラズベリが壊す。
「さて、委員長ちゃんに質問があります」
少しだけ、試すようなその視線。紡いだ言葉は1つだけ。
「ここで立ち止まりますか? それとも、前を向きますか?」
ラズベリの質問に、委員長が決意の籠った瞳で、顔を上げる。
「私は――前に進みたい。蓮さんの願いを叶えるために、元の世界に戻ります!」
「よろしい。目的意識があれば、大丈夫ですよ♪」
優しい顔で微笑んだ後、ラズベリが言葉を続ける。
「さてと、他に何か聞きたいことや言っておきたいことはありますか?」
小さな静寂が場を包む。
全員で視線を交わし、全会一致で首を横に振る。
「分かりました。それじゃ、そろそろ邪魔者は日本に帰りましょうか♪」
ラズベリの言葉に、思わず声を返してしまう。
「え? もう帰るのか? 1泊くらいして行っても良いだろ?」
委員長もこくこくと頷いている。
「わ、私も、もう少し蓮さんとお話したいです!!」
小さく、ラズベリが苦笑した。申し訳なさそうな表情だった。
「グスターちゃん、委員長ちゃん、わたくし達の役割を思い出して下さいな。わたくし達は何のために、この異世界にやってきたのですか?」
「それは……」「……おにーちゃんに会って――」
そこで言葉が出てこなくなる。
グスターは、おにーちゃんに会うためにサルベージ部に入った。
グスターは、おにーちゃんに大好きと伝えるために頑張ってきた。
グスターは、おにーちゃんに……
でも、それを口にするのはちょっと違う気がする。
だから深呼吸をして言葉を続ける。
「「――借金を返してもらうためだっ!!」」




