表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

34/38

第33話_グスターと委員長とおにーちゃん

「……グスターさん、よくも邪魔してくれましたね?」

ぼそりと呟いた委員長の表情は、無表情。

でも、発せられているオーラは漆黒の闇に染まっていた。


うん、委員長、かなり怒っている。今までにないくらい怒っている。


「委員長、あのな――「うるさいっ!!――「ローリエ待て!」――待てません!!」」

叫びながら委員長が刀を抜こうとしたその手を、おにーちゃんが止めた。

かなりの力が入っているのだろう、委員長の腕がガクガクと震えている。でも、おにーちゃんの手は外れない。


「ローリエ、落ち着け! ユーカリに勝てないローリエじゃ、グスターの相手にならない」

「これが落ち着いていられますか!? 今回の侵攻が成功すれば蓮さんに認めてもらえるのに、それなのに――グスターさんは邪魔をしたのですよ!?」

キッとこっちを睨んだまま、委員長が言葉を続ける。

「グスターさん、これは私だけの問題じゃないんです。今でもあの街の中では、苦しんでいる人達がたくさんいます。魔王軍が解放しますから、道を譲って下さい」


真剣な表情の委員長。

でも、あれ? 委員長は知らないのか?

「えっと……だな、取りあえず、あの……その――「グスターさん、歯切れが悪いですね? 言いたいことは言っておいた方がいいですよ?」――それじゃ、はっきりと言わせてもらう。シナモン王都はグスターが制圧済みだ」

委員長がきょとんとした表情を浮かべたけれど、言葉を続けさせてもらう。


「どうしようもない奴は地下牢に入れたし、まともな兵だけ残して、あとは武装解除をしてある。だから魔王軍に迅速な引き継ぎをお願いしたい。……っていうか、委員長は知らなかったのか? 流石に密偵とかを送りこんでいるはずだと思っていたが」

「ほぇ? えっと――」

ギリギリギリと音がしそうな動きで首を動かす委員長。その視線の先にはお兄ちゃんがいた。


「ごめん、ローリエ。知っていたけれど、ローリエには黙っていたんだ」

「――っ!? なぜです! なぜ、蓮さんは教えてくれなかったんですか!!」

委員長の顔が、困惑に染まる。

一方で、おにーちゃんの顔は少しだけ悲しそうだ。

「……シナモン王都をローリエの指揮で陥落させることが、ローリエとの婚姻の条件だった。それが直前で消えて無くなってしまった以上、ローリエとの婚姻は延期になる。そしたらローリエはグスターに怒って面会することは無かったと思う」


浮かない表情を崩さないまま、おにーちゃんが言葉を続ける。

「でも、ローリエとグスターが話し合える機会が――ローリエが元の世界に戻れる機会が――僕は欲しかったんだ」

小さな沈黙が流れた。そして、委員長が顔に手を当てる。

「……ぐしゅ、ひどいです。私の望みは……叶わないじゃないですか」


「ごめん、ローリエ。ごめん、グスター。僕の我儘に巻き込んでしまって」

悲しそうな顔のまま、小さく息を吸った後、おにーちゃんが言葉を続ける。

「グスターに頼みがある。ユーカリを倒せた今、力づくでも出来ると思うから――「蓮さん!!」――ローリエを――「いや!!」――元の世界に――「蓮さん!!」――還してくれ」

「いやです! いやです! 私はこの世界で生きていくんです!」

おにーちゃんの服をぎゅっと握りしめて、泣き顔を隠そうともしないで、委員長が嗚咽を漏らす。


おにーちゃんが困ったような顔を作ってから、そっと委員長を抱き寄せた。

「ローリエ、ごめん。元の世界に還れると知った以上、ローリエを――いや、桂樹さんを僕の手元においておくわけにはいかないんだ」

おにーちゃんの腕の中にいる委員長にちょっと嫉妬そうになったけれど、弱々しい委員長を見てしまって、そんな気持ちはすぐに薄れてしまった。


「いや……いやです……いや……」

小さく首を振って泣いている委員長。

「桂樹さん、ごめん。日本に還れなくなった僕の分も合わせて、桂樹さんには幸せになって欲しいんだ」

おにーちゃんの言葉で、委員長がぴくんっと反応する。

「……蓮さんの分まで?」


「そう。僕はもう、日本には還れない。還りたくても還れない」

「……還りたくても……還れ……ない」

呟くような委員長の声。


おにーちゃんがこくりと頷く。

「だから、1つだけ僕の我儘を聞いて欲しいんだ。僕が生きていたという証明のためにも」

「……我儘? 証明? ……それは、何、ですか?」

泣くのを止めた委員長の言葉に、おにーちゃんはグスター達と視線を合わせてから、ゆっくりと口を開く。


「この十数年で異世界に飛ばされる人達が増え続けていることを、桂樹さんは僕に教えてくれたよね? 僕の願いは『異世界転移の犠牲者を、これ以上増やさないこと』なんだ」

そこで一度区切り、おにーちゃんが言葉を続ける。


「神、悪魔、妖怪、魔族、王族、貴族、その他――僕ら地球人を異世界転移させている人達はたくさんいるけれど、転移を未然に防ぐ技術はまだ見つかっていない。だから、桂樹さん、グスター、お願いだ。異世界転移から、僕らの未来を守って欲しい。地球の未来を、日本の未来を、そして毎日一生懸命に頑張っている一人ひとりの未来を、守って欲しいんだ」


 ◇


委員長は、おにーちゃんの腕の中でしばらく泣いていた。

なんかムカムカしたから、グスターもおにーちゃんに抱きつこうとしたのだけれど――委員長に邪魔されて無理だった。ちくせぅ。


そして、ひとしきり泣き終えた委員長が、落ち着きを取り戻した赤い目で、グスターの方を見た。

「……蓮さんの願いを叶えるのは、グスターさんでは無理でしょう」

そこで小さく息を吸ってから、委員長が言葉を紡ぐ。


「だって、グスターさんはお馬鹿さんですから(≧ω)b」

いきなり雰囲気が変わった委員長。

いや、忘れていただけで、元々はこんな感じだったな。

懐かしい。


「委員長、それは無いぞ! グスターは、やればできる娘なんだからな!?」

グスターの抗議に、委員長が苦笑する。

「グスターさん、本気でそう言っていますか?」


「本気だが(≡ω)?」

「ぅふふふっ♪」

「なんだ? その笑みは!!」

「秘密ですよ。――ああ、もう、仕方がないですね」

くすりと笑って、委員長が言葉を続ける。

「グスターさんにも蓮さんにも負けました。この私が、蓮さんの意志を継ぎます。異世界ではなく日本でしかできないことを、やってみせましょう!」


とても良い笑顔で委員長が言い切ったせいか、思わずグスターも笑顔になっていた。

「ということは――委員長、グスターと一緒に還ってくれるのか!?」

「そうなりますね」

「やった!! あ、でも……」

「「でも?」」

グスターの不穏な空気に、委員長とおにーちゃんの言葉が重なった。


気まずい事実というか、ちょっとピンチなのだけれど、話さないわけにはいかないからゆっくりと“その事実”を口にする。

「……帰還の指輪、今、グスターは持っていないんだ。ラズベリ達とけんかした時に投げ捨てちゃったから。それに――」


小さく深呼吸をしてから、言葉を続ける。

「グスター達、JWXAと敵対するような行動を取ってしまっただろ? 流石に異世界に放置という措置は無いにしても、なんらかの罪に問われ――「大丈夫よ♪」――えっ?」

言葉の途中で、誰かに話しかけられた。

気が付けば、グスター達の近くに2人分の気配が現れていた。


「ちょっとお話をしたいのですが、よろしいですか?」

「……(グスターさんと桂樹さんを回収しに来たよ♪)」


振り向くと、笑顔のラズベリとヴィラン先輩がいた。目線が合うとヴィラン先輩が小さく頷き、「全部大丈夫だよ」という表情で親指を立てた。

ゆっくりとラズベリが口を開く。


「とりあえず、ここでは落ち着かないので、シナモン城へ移動しましょうか。魔王軍は迅速かつ平和的に、シナモン王都を占拠する必要があると思いますので――詳しい話は、それが一段落ついた後でいかがでしょう?」


うん、有無を言わさない迫力。

笑顔なのに、その場の空気を全部丸ごと持って行ったのが分かった。

やっぱりラズベリは怖ぃ――じゃなくて、すごいな(Tω)ノシ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ