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第31話_1人VS魔王軍3万5000

魔王軍には宣戦布告という概念が無い。

ただ現れ、ただ戦い、ただ飲み込む。そこにあるのは無慈悲な力。

一般市民は巻き込まないが、立てつく者には容赦しない。一部の例外を除いて、権力者にも容赦はしない。

全ては、歪んだ世界を壊すため。魔王の理想の世界をつくるため。

そこには、話し合いなど無意味。通用しない。

もちろん命ごいも同様だ。


だから、迎え撃つとなったら普通は兵士を展開する。

前シナモン王なら、きっと全軍を出してでも魔王軍に抵抗しただろう。そうしないと、自分が殺されるのだから。下手したら、殺されるよりもひどい目に遭うかもしれないのだから。


でも、グスターは一兵たりとも軍を出す予定は無い。

ここ数日で「くっころさん」を含めた一部の兵には、多少の情が湧いてしまったし、亜人を虐待していた愚かな兵達も戦場という晴れ舞台(・・・・)で死なせるつもりはない。

前者は魔王軍の支配下でも人々を魔物から守る良き兵になってくれるだろうし、後者は適切な処罰を魔王軍が下してくれるだろう。


ちなみに、街の住民達には、グスターが魔王軍と戦うと宣言してある。

暴動が起きる危険はあるけれど、つい数日前に1人で王城を制圧したことが効いているのか、今のところ大きな混乱は見られない。

一応、「くっころさん」達も街を警邏して民の不安を抑えてくれているし。


――ということで。

グスターは単独で魔王軍に向かって歩みを進める。そして瞬動で加速する。

シナモン王都の扱い、一部兵士の助命、委員長のこと、おにーちゃんのこと、その他もろもろを含めて「交渉の舞台」に立つためには、一度、魔王軍を薙ぎ払う必要があるから。

力を示す必要があるから。


魔王軍を誰が率いているのかは分からないけれど、少なくとも委員長はいるだろう。

もしかしたら、おにーちゃんもいるかもしれない。


さぁ、グスターの大きな我儘(・・・・・)を実現させるために、戦おうか♪


 ◇


目を閉じる。息を3秒吸って、2秒止めて、10秒吐く。

酸素が肺胞をぴちぴち刺激する感覚を大切にしながら、己の集中力を高めていく。


目を開ける。

喪服代わりに持って来た、闇色甲冑と漆黒のドレスが風に翻った。


目の前に広がる魔王軍を見据える。

グスター1人VS魔王軍3万5000。山の向こうまで広がる、魔族と魔物の黒い群れ。

敵の本陣は見えない。


もっと緊張すると思っていたけれど、グスターの心は平穏だ。

「さて、始めるか」

魔王軍の前衛との距離は、およそ50メートル。

さっきからグスターの張った魔法障壁に、魔王軍の攻撃魔法や矢が当たって、煩わしい音を立てている。


「空に輝く無数の星よ、その赤き、青き、白き、黄色き、緑き炎を身にまとい、グスターの呼びかけに応じよ! ――」

腰を落とし、大地を踏みしめ、力を溜めた後、柔らかく握った拳を放つ。

「――非殺傷・(スター・ウルフ)星屑狼拳(ぱ~んち)!!」


グスターの拳から放射状に解放された、流れ星の肉球ぱんちが、魔王軍を蹂躙する。


ぺしぺしぺし☆彡

ぱしぱしぱし☆彡

しゃきーん、ざくっ★


「あ、やば、爪立てちゃった!!」

急いで魔術装甲の爪を収納する。

……あ、動いている。良かった~、死んではいない。

「ん? あれ?」

何だろう? 既視感というか、ずいぶん前に同じような光景を見たことがある気がする。

「――でも、とりあえず継続だっ♪」

気にしない、気にしない。戦闘中に集中力を乱すわけには、いかないから。


ぺたぺたぺた☆彡

ぷにぷにぷに☆彡

もきゅ、もきゅ、もきゅ☆彡

びたん、びたん、びたん☆彡


誰も死なせない。敵も味方も死なせない。

委員長がいなくなった時は嫌だったから。おにーちゃんがいなくなった時も嫌だったから。

だからグスターは強くなった。敵に手加減出来るくらいに、強くなった。


背後に降り立つ音。そして嬉しそうな声。

「少しは、腕をあげたみたいだね?」

振り向かなくても分かる。もう1人の自分(ばっちゃん)だ。

交渉ができそうな人物の1人の登場に、思わず頬が緩んだ。

今日のグスターは運が良い。


「――っ!」

無音でグスターの首があった空間を通り過ぎた手刀。

ばっちゃんは強い。でも、ここで負けるわけにはいかない。


緩み切っていた思考を奮い立たせる。

グスターは、交渉の舞台に立っただけに過ぎない。そう、ばっちゃんを倒さなければ、話し合いには応じてもらえないだろう。


バックステップで距離を取った瞬間――ばっちゃんが小さく笑う。

「今のをかわせるなんて、グスターも成長したじゃないか♪」

「やっぱり、ユーカリは、ばっちゃんだったんだな♪」

「ああ。真面目なローリエ嬢ちゃんに知られるとややこしいから隠していたが、この場所でなら話しても良いだろう。グスター、色々と積もる話はあるけれど――まずは拳で語ろうじゃないか♪」

「ははっ、戦闘狂な、ばっちゃんらしいな♪」

「素手だけれど、その分、手加減はしないよ? 『待った』も無しだからな?」

「知っている。いつものルールだ(≡ω)!」

「その笑顔、それでこそ、わたしの孫だね♪」


ばっちゃんが小さく笑った――直後に消える。

金剛武神よりも数倍速い。最初のギアを上げそこなると、確実に死ぬ。

でも、異世界で力をつけたのは、ばっちゃんだけじゃない。


グスターも強くなったんだ!

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