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第30話_グスターの内政ターン

「や~り~す~ぎ~た~ぅぁ~(Tω)!」


元シナモン王がいた執政室で絶叫するグスター。

でも、どんなに叫んでも、手を動かしてサインをしても、目の前には書類の山が残っている。全然、減ってくれる気配は無い。いや、むしろ水を吸った増えるワカメみたいに、じわじわ増殖している。

「えぐっ、ひぐっ、こんなゴミの山、炎の槍で燃やしてやるっ!!」


「グスター様、お止め下さい!」

即席で雇ったケモ耳美人秘書が、なぜか反抗的な態度をグスターに取る。

ちょっと前まで死んだ魚よりも酷い目をしていたけれど、グスターを羽交い絞めできるくらい元気になるなんて――ちょっとグスターは嬉しいよ。


いや、うん、えっと、「何が重要なのか」グスターだって知っているよ?

ちゃんと分かっているよ? 認識しているよ? 王都を武力で制圧したら、どんなことになるのか……薄々、途中で気付いていたよ?


使える人材や信用できる人材は殆どナシ。

(助けた獣人族や亜人、前政権に批判的だった者達が協力してくれる程度)


都市機能は治安維持のために停止中。

(下手に兵を動かしたら、暴動になる危険が高い)


重要情報はどれもこんがらがっている。

(意図的に歪んでいなくても、情報自体とそれを処理する人員が足りない)


何この三重苦! 幸い、恐怖を与えたおかげで、反乱分子は今のところ大人しくしているから良いものの、書類の山は増えるばかり。グスターの手はもう腱鞘炎だ!!

「よし決めた! 判子を作ろう♪ 判子を作れば、サインしなくても書類の決裁が出来る! 内政チートの王道だよな☆彡」

グスターの名案に、ケモ耳秘書が口を開く。

「はんこ? 良く分かりませんが――それ、誰が作るんですか? どのくらい時間がかかるんですか?」

「ん~、専用の職人さんが半日くらいかけて彫るのが一般的かな? 萌え判子にしたら、もっと時間かかるかも?」

「……寝言は寝て言って下さい♪」

うぐっ、この子、ちょっと目が怖いんですけど!? 数時間前の死んだ目の方が、ちょっと可愛げがあるとすら感じるんですけれど!?


グスターの戸惑いの視線に気付かないのか、気付いていてあえて無視しているのか、ケモ耳秘書が言葉を続ける。

「ということで、グスター様は、ちゃきちゃき手を動かして下さいね?」

何だろう、心の中の細い糸がプツリと切れた。


「い~や~だ~!! もう、手が痛いから、嫌なモノは嫌なんだぁぁぁ(Tω)ノシ」

「グスター様! いい加減、現実逃避は止めて下さい!! この国を制圧したのは誰ですか? 新しい王は誰ですか? 言わなくても分かっていますよね?」

まさしく正論。ぐうの音も出ない。

でも、ごねる。その位の人権はグスターにもあるはずだ。


「もう寝る! グスターは寝る! 1日10時間睡眠じゃないと、グスターは死んじゃうんだぞッ!!」

「いえ、死にません。心身ともにボロボロだった私達を救ってくれた回復魔法と心理療法が有れば、1週間くらい徹夜しても大丈夫なはずです♪」

「自慢じゃないが、グスターは、心が弱い子なんだ……(Tω)」

「はいはい。まだサインしていただく書類が残っています。コレを済ませないと、都市機能が停止したままで――「スルーするな!! もう、きゅーけぃだッ! きゅーけいを命じるッ!! 作業効率を取り戻すために15分だけ休憩をするぞ。王様命令だ、甘いモノを持って来い!!」――はぁ……仕方ないですね。誰か、お茶とお菓子を! 10分だけ休憩にします」


ふふっ、やっと一息つくことができる。

――え? 何をどうすれば、こんなことになるのかって?

うん、自分でも誰に説明しているのか分らないけれど、そんな気分になるくらい追い詰められているんですよ、コレが!!!

ということで、話せば長くなるんだが。まぁ、今更だけれど、一言で表すなら武力ターンから内政ターンへ移行した感じ?


シナモン王を人質にして王都の機能を停止。

そして、虐げられている異民族や奴隷に対する酷い扱いを即刻停止させ、傷を負っている人達は回復魔法と精神緩和魔法とちょっと(・・・・)口には出せない禁呪(・・・・・・・・・)で治療&心と身体のケア。

(まぁ、なんだ、その、余談だけれど、倫理的には問題ないぞ?)

その後、王城の中でも比較的使えそうな人材を厳選して通常業務の再開。街は大きな混乱もなく、グスターの手に落ちた。


……はずだけれど、何と言うのか書類の数が尋常じゃない。

うん、今気付いたけれど、内政ターンの「な」の字すら到達していない。多分、1画目の「一」(なのよこぼう)にも達していないと自覚してしまった。

グスター、寝ないで頑張っているのに(Tω)!


お菓子も出てこないし、ふて寝してやろうかと思った瞬間、執政室のドアが勢いよく開け放たれた。入って来たのは、さっきお菓子を取りに出て行った「エルフたん」じゃなくて、「くっころ」が似合いそうな金髪の女騎士。

よく覚えていないけれど、確か、騎士団の中でも比較的マシだった女傑のはず。

若干、日和見的な奴だけれど、裏切る可能性はその分低いだろうと思ったから、この部屋への出入りは許可している。


「緊急報告です! 魔王軍が王都に向かって進行中との伝令が入りました!! このペースだと、あと2日で王都は包囲されてしまいます!」

絶望に染まった「くっころさん」の白い顔。部屋の空気も一瞬凍って、悪くなる。

……ってあれ? 言わなかったか?

「魔王軍が来ることは、グスターも知っていたぞ?」


グスターの声に、執政室にいる人達が口々に言葉を発する。

「本当ですか?」「何か手を打っているんですね!!」

「王城を数分で制圧するグスター様ですもの、何か秘策があるんですよ♪」

「安心ですね」「良かったですぅ~」

おおむね、安堵の声が多い。

でも、グスターの言いたいことは、まだ途中だぞ?


「魔王軍にこの街、明け渡すから(≡ω)♪」


それでグスターの仕事は、終わりになるのだ。


 ◇


「ぅぅぅ~。仕事放棄したら、下剋上された(Tω)ノシ」


グスターの呟きに、ケモ耳女王(仮)が苦笑する。

「グスター様、何を遊んでいるのですか? 私達は誰も下剋上していませんよ?」

「いや、だって、ほら……場の雰囲気って大事だろ? 『ボクの王座を狙って、キミがケモ耳女王になってよ?』って感じで!」

「……よく分かりませんが、女王なんて嫌ですよ。私達は、グスター様について行きます。グスター様が魔王のことを信用しているのなら、私達も信用します!」


一応、ここにいるみんなには、ミント達に聞いた魔王領の生活のことや、おにーちゃん改め魔王様の考え――理不尽な差別や暴力は否定し、自主性を尊重すること――のことは話してあるのだけれど、こうも信頼されてしまうと何だかくすぐったい。

「お前ら、地獄まで付き合ってくれるか?」

「「「もちろんです♪」」」


さて、良い返事を聞いてしまったから手は抜けないな。魔王軍と委員長を迎える準備を、グスターも始めますか♪

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