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第28話_ペパーの村でのごはん

ビーフシチューのような、とろりとした茶色のシチュー。

それをスプーンで一掬いして口に運ぶ。

「うむっ、とても美味い♪」

こっちの世界に詳しくないから何の肉かは分からないけれど、大きな塊で贅沢に入っているジューシーな肉。そこからダシが出ていて、口の中で芳醇な味わいを生み出していた。

この間、ラズベリに連れて行ってもらったA5ランクのお肉には負けるけれど、A3ランク位の美味しさは十分持っていると思う。

気が付けば、グスターも、ミントも、その両親も、思わず笑顔になっていた。


「それにしても、うちの娘を助けて頂いてありがとうございます」

「本当にありがとうございます」

ミントのおとーさんとおかーさんがグスターに頭を下げた。

これで何回目だろうか? 5回まで数えたところで、カウントするのは止めたけれど、多分20回は超えたと思う。

「いや、たまたま通りかかったところを助けただけだから、頭を上げてくれ。それよりも、このシチューの中のお肉、美味いな♪ 何の肉なんだ?」

頭を下げられるのは気恥ずかしいから、それとなく話題を変える。

でも世の中には知らないでおいた方が幸せなことが沢山あるのだなと、グスターは思い知ることになる。


「あれ? グスターさん、知らないんですか? このお肉、さっきのキラー・マンティス(カマキリ)のお肉ですよ?」

一瞬、何を言われたのか理解が出来なかった。

ギリギリギリと音がしそうな首を動かして、ミントを見る。

「そ、それは……マジか?」

「ええ。キラー・マンティスは村長が買い取ってくれましたけれど、お肉がたくさんあるからお裾分けしてくれたんです♪」

天使の微笑み。うん、ミント達に悪気がある訳じゃないのは、理解できる。

でもさ……数時間前まで、自分が食べられそうになっていた相手を食べるって――ちょっとその神経の太さを理解することが難しい。


どんな言葉を返したらいいのか迷っていたら、ミントのおかーさんが口を開いた。

「あの~、グスター様は魔物のお肉は嫌いでしたか?」

「いや、えっと、その――」

グスターが返事に困っていると、ミントのおかーさんが小さく笑う。

「大丈夫ですよ、私達も最初は(・・・)苦手でしたから♪」

「最初は?」

グスターの言葉に、ミントのおかーさんが首を縦に振る。


「はい。魔王様の計らいでこの村に移住させてもらってからは、良い意味で食生活ががらりと変わったんです。まぁ、今日みたいに巨大な魔物が狩られることは珍しいのですが、1メートルに満たない位の大きさの魔物なら、日常的に狩って食べていますよ」

「ん? グスターは良く分からないが、冒険者でもない普通の人間が、魔物を狩るのは危険じゃ無いのか?」


首を傾げるグスターに、ミントのおかーさんが説明をしてくれる。

「はい。普通なら危ないのですが、魔王様が『防衛兼狩猟用の装備』を村に貸与して下さっているので、事前に準備をすれば、安全に魔物を狩ることができるんです。それに、最近では村人のレベルも上がって来ていますし」

「そうか。普段は安全に狩っているんだな。でも、ミントのような女の子が、1人で魔物が棲む森に入るのは危険じゃないのか?」


グスターの言葉に、そのつもりは無いのだが――責められていると感じたのか、ミントが頭をかく。

「すみません、薬草が採れる森には『魔物除けの結界』があるので、普段は魔物が近付かない安全な森なのです。――が、今日は薬草採りに夢中になっていて結界の外に出てしまったみたいで……だから、本当に助かりました。グスターさんがいなかったら、美味しいご飯になっているのは私の方でした」

誤解されないように、グスターも笑顔を作る。

「そうか、普段は安全だと聞いて安心したぞ。今度からは、気を付けてくれよな?」

「はい! もちろんです。薬草が必要な期間は、あと1ヶ月も無いと思いますが、気をつけます!」


食事が出来るまでの間にミント達から聞いた情報によると、ミントのおかーさんは「魔素中毒」という病気になっているらしい。

魔素中毒は、軽い風邪のような症状が出るけれど、薬草のお茶を飲むことで症状が緩和されるとのこと。魔王領に移住してきたばかりの人間がなりやすい病気だけれど、1~3か月程度で身体が魔素に慣れて、自然と症状が出なくなるとミントのおとーさんは話していた。

とりあえず、ミント達がこの村に移住してから2ヶ月が過ぎたらしいし、最初の頃に比べたら幾分症状は軽くなったらしいから、グスターは心配しなくても大丈夫とのことだった。


「ところで、この村から人間の領地に向かうなら、どっちの方角へ行ったら良いか?」

「グスターさん、人間の領地へ行くんですか!?」

どこか驚いた表情をしているミントに、笑顔を返しておく。

「ああ。ちょっとした仕事があってな♪ シナモン王都へ行かないといけないんだ」

「「「……」」」

「ん? どうかしたか?」

いきなり生まれた沈黙。


それを押し崩すようにミントが口を開いた。

「えっと、グスターさん、シナモン王都は――」

そこで言葉を区切ったミント。その言葉の続きをミントのおとーさんが引き継ぐ。

「シナモン王都は行かない方が良いですよ。タライロン至上主義&人族至上主義者が集まる場所ですから、グスター様みたいな獣人族は差別されていますので。それに、魔王領と人間領の境目にはいくつもの関所があって、魔王軍の兵士が厳重に守っているはずですから、通行許可証が無いと、多分、通れないはずですし」


ミントのおとーさんの言葉に、ミントのおかーさんの言葉が重なる。

「それに、そもそもこの村の住民は、この村の外がどこに繋がっているのかを詳しく知らされていないです。せいぜい、隣村の2つ向こうにある、大きな街くらいしか分からないですね……」

ふと、感じた疑問。

どうしようかなと迷ったけれど、あえてストレートに聞いてみる。

「それは逃亡防止のためか?」


一瞬の沈黙を置いてから、ミントとそのおとーさんとおかーさんが、可笑しそうに小さく噴き出す。

そして、ミントのおかーさんが口を開いた。

「ははっ、それは無いですね♪ この村から逃げ出して、人間領に戻ろうという人間はいないですから。こっちに来るまでは、重税や領主の圧政で毎日生きていくだけで精一杯だったのに、あの頃の暮らしに戻りたい人なんていないです」


ミントのおとーさんが言葉をつけ加える。

「これは聞いた話ですけれど、あまり遠くに行くと危険な魔物が出てくるらしいのです。だから、魔王様は私達の安全のためにも、行動範囲を狭めているのだと聞きました。それに、ここだけの話ですが将来的には、希望者が村々の間を行き来する商人や冒険者になれるように魔王様は考えてくれているみたいです」

ミントも頷く。

「魔王様はすごいんです!」


「そっか。それもそうだな♪ 魔王様はすごいとグスターも思うぞ」

そこまで言って気が付いた。

「でも、そうなると、どうやってシナモン王都へ行けば良いのだろう……otz」


身体の力が抜けて、ぐたっ(・・・)としたグスターを見て、ミントのおとーさんが小さく微笑んで口を開いた。

「本当は秘密にしないといけないことなのですが――どうしても人間領に行きたいのでしたら、村長に聞いてみると良いです。村長や村の有力者は、万が一の際に備えて、人間領への行き方を知っているはずですから。キラー・マンティスを3匹も倒してくれたグスター様の頼みなら、多分、教えてくれると思います」

「おぉぅ、それは本当か!?」

「嘘をついても仕方がないですよ」

ミントのおとーさんの笑顔に、グスターも笑顔になっていた。


「ありがとう、早速ご飯を食べ終わったら村長の家に向かう……のは迷惑か。もう外は暗くなるし――うん、明日の朝になったら行ってみようと思う!」

「はい、最初の予定通り、今日は私の家に泊まって行って下さい!」

ミントの言葉と、ミントのおとーさんとおかーさんの笑顔に、胸の中が感謝の気持ちでいっぱいになる。

「ありがとうな♪」

「「「いえ、こちらこそ、()を助けてもらって――」」」

3人の言葉が重なっていたけれど、恥ずかしいから遮らせてもらう。


「と、とりあえず、ご飯を食べるぞ!」

グスターの声が大きくなってしまったからか、ちょっと驚いた顔をしていたけれど、すぐに3人が頷いて、食事を再開することにしてくれた。

「はい、食べましょう」「冷めてしまうともったいないです♪」


もぐもぐ♪ カマキリ・シチューは初めてだけれど、美味いは正義だ(≡ω)b

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