表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

27/38

第26話_おにーちゃんとの再会

委員長達と魔王城に向かって馬で移動する。


ぽっく、ぽっく♪

かっぽ、かっぽ♪


規則正しい蹄の音だけが響いている。

グスターとばっちゃんは祖国で練習をしていたから元々馬に乗れるのだけれど――インドア派だった委員長が、馬に乗れるようになっていたことが、グスター的には驚きだった。


「ん? グスターさん、何を驚いているのですか?」

沈黙を破って委員長が聞いてきた。

「いや、委員長が馬に乗れるなんて意外だなと思って」

グスターの言葉に、委員長が苦笑する。

「こっちに来てから、もうすぐこっちの世界の暦で1年が経ちますからね。ユーカリさんには、色々なことを教えて頂きました」

「そうか。ばっちゃんが、委員長に乗馬を教えたんだな♪」

「ばっちゃん?」


委員長が不思議そうな顔をする。あれ? 委員長は知らないのか?

「ああ。ユーカリはグスターのばっちゃんだろ? グスターのことを――「それ以上、ウチをあんたのババア扱いするのなら、殺すよ?」――ひぅっ!?」

とんでもない殺気だった。間違いない、ばっちゃんだ。


でも、ばっちゃんは意外な言葉を口にした。

「ウチは、あんたのことを……グスターって名前だったか? そんな奴は知らない」

「いやいや、グスターのことを『花ちゃん』って呼ん――「死にたいの?」――イイエ。死にたく無いデス。ユーカリサン、ゴメンナサイ(Tω)!」

「ふん! 分かればよろしい」

ばっちゃん、超こぇぇ……otz


本人は否定しているけれど、十八番の忍術(ブラック・アウト)が使えるし、グスターのことを知っているのも間違いないから、この黒髪の美少女(・・・)がばっちゃんなのは間違いない。

でも、グスターと同じ外見だから――ばっちゃんは、あっちの世界から転生したのかな?


だけど、おにーちゃんにキスしていたし、ちょっとそれはNTRと言うジャンルじゃないのかなとも思ってしまう。『大好きな従兄のおにーちゃんが異世界転移したのを追っかけて行ったら、異世界転生して若返ったうちのばっちゃんにNTRれていた……otz』――うん、それなんてエロゲのタイトル? いや、そもそも長すぎるか。


グスターが現実逃避&落ち込んでいると、委員長が小さく噴き出した。

「……ふふっ♪」

「ん? どうしたんだ、委員長?」

人の不幸を笑うのは良くないぞ? と言おうとした瞬間、委員長が言葉を発する。

「いえ、グスターさんが2人もいるなぁって思いまして。しかも仲良しです♪」


「それは違うと思うぞ?」「グスター達は仲良しじゃない!」

ユーカリとグスターの声が重なる。でも、委員長が言葉を続ける。

「ユーカリさんがグスターさんにそっくりだったから、私はこの世界に馴染むことができたんです。だから、ユーカリさん、グスターさん、ありがとうと言わせて下さい」


 ◇


その後も、ぽつりぽつりと話をしながらやって来ました魔王城の中。

ずらりと甲冑を着た騎士達が並ぶ謁見の間の奥に、おにーちゃんが立っていた。

そのそばには6人の女性。エルフやダークエルフ、ケモ耳、普通の人族、灰色の肌の魔族etc……華やかな服装とそのたたずまいから、一目見るだけでおにーちゃんのお嫁さん達だと理解できた。

それの中央――おにーちゃんの隣――に、ユーカリが無言で加わる。


……うん、分かってはいた。

覚悟はしていた。気持ちの整理はつけていたはずだった。

でも、気が付けば、叫んでいた。


「おにーちゃんの馬鹿ッ!!」

おにーちゃんも、お嫁さん達も、驚いた表情で戸惑っている。でも、グスターの言葉は止まらない。

「おにーちゃんは、なんでグスターの前から消えちゃったの!? なんでグスターとの約束を破ったの!? なんで……なんで……なんで……ふぇぇぇえっ!!」


おにーちゃんが小さく深呼吸したのが分かった。

そして、おにーちゃんがグスターの方に一歩ずつ近づいて来る。

「グスター、ごめん」

ぽふっと頭を撫でられた。

涙が止まらない――っていうか、鼻水(フラワー・ウォーター)が出てるかも。おにーちゃんの前なのに(Tω)

ぐしゃぐしゃなグスターの顔を、おにーちゃんが、柔らかいハンカチで拭いてくれた。

「おにーぢゃん」

「ごめん、グスター。また会えるとは思わなかった。待っていることが出来なかった。だから、ごめん」


なんでだろ? 素直に謝られたはずなのに、無性にイラッと来てしまう。

グスターの性格が歪んでいるだけなのかもしれないけれど。

「……おにーちゃん、一発殴らせて☆彡」

「え? 殴るの?」

「うん、それでチャラにしてあげるから。グスターは、おにーちゃんのことを諦めるから」

「……分かった」

おにーちゃんが軽く目を閉じる。


何でだろ、素直に目を閉じるおにーちゃんが許せないよ。

グスターがおにーちゃんのことを諦めるって言ったのに、それなのに、あっさりグスターの言うことを聞くなんて――やっぱり、おにーちゃんにとってグスターはその程度なんだ。


グスターも覚悟を決めて、拳を固める。足で大地と繋がり、腰を落ち着かせて、上半身の無駄な力を抜く。腕を構えて、一度引く。

さて、全力でいこう。中途半端なことをしても、お互いにすっきりしないと思うから。

「っ!?」

グスターの放つ殺気で、周囲の空気が凍る。

側近やお嫁さん達が止めに入る前に、右手を解放する。


――はずだった。

振り抜けなかった。手を止めてしまった。身体の動きを、心が抑え込んでいた。


風切り音が途中で止まり、衝撃が来なかったことで、おにーちゃんが不思議そうな表情でグスターを見た。

「グスター?」

「……」

おにーちゃんに何も答えられない。


「グスター、ごめん」

沈黙を押し崩すようなおにーちゃんの声。

今更、謝られても許せないよ。

「……おにーちゃんは悪くないよ。おにーちゃんをずっと信じていたグスターが馬鹿だった、それだけだから」

「そんなことは――「もういいっ!! グスターは帰るから、おにーちゃんはおにーちゃんで楽しく生きてよ!! ……。元気でね、おにーちゃん」――あ、うん、グスターも元気で」

小さな沈黙が流れた。

息を吐いて、謁見の間を出ていこうとおにーちゃんに背を向けたら、ゆっくりとおにーちゃんが言葉を発した。

「……グスターは、これからどうするの?」


「どうするって……多分、ラズベリが――部活の先輩が――数日したら迎えに来てくれるはずだから、委員長と帰るよ。宝石や金貨を持っているから、どこか適当な宿に泊まって迎えが来るのを待つことにする」

ラズベリは忙しいだろうから、色々と調整をすると考えて、こっちに迎えに来てくれるのは今夜になるだろうと思う。

仮に24時だと仮定したら、グスター達がこっちにやってきた午前10時から14時間×60倍=35日待つことになる。ちょっと長いけれど、アイテムボックス内に無数にある宝石を使えば大丈夫だろう。


「グスター、魔王城に部屋を用意しようか?」

「いらないよ。おにーちゃんの顔は見たくないから。お金も持っているし」

「そう。うん、そうだよね」

「ごめん、おにーちゃん。――さて、委員長、行くぞ?」

委員長の方を向くと、とても固い表情をしていた。


ゆっくりと委員長が口を開く。

「ちょっと待って下さい」

「委員長、どうかしたのか?」

「私は、日本には帰りません。この世界で生きて行きます。やることが残っていますし」

「え? 委員長、それはダメだ」

元の世界に帰らないとか、一番やっちゃいけないことだろ?

そんなグスターの視線に、寂しそうな微笑を返しながら、委員長が口を動かす。


「私は、日本ではもう死んだ存在になっているのでしょう? 日本に残した両親のことは気になりますが、それ以外は日本に未練はありません。友達と呼べる人は、グスターさん以外にいませんでしたし――「委員長、異世界サルベージの規則で、異世界にグスター達は残ることは出来ないし、逆に異世界の人を日本へ連れて帰ることも出来ない。それを委員長は忘れたのか!?」」

委員長の言葉を遮って叫んだグスターの声に、一瞬だけ、委員長の目が驚いたように大きくなった。


「覚えていますよ。でも、それでも私はこの世界に残りたいのです」

「委員長の好きな、漫画やアニメが見れなくなるんだぞ!? 腐った同人誌が読めなくなるんだぞ!? それでも、委員長は良いのか!?」

「腐ったとか言わないで下さいッ! 蓮さんに変な誤解されます!!」

そう言って、委員長がはっとした顔をする。

狼狽するように視線が揺れる。それだけで、鈍いグスターにも理解できた。


「……委員長、おにーちゃんのことが――「好きです。愛しています。蓮さんは私に手を出してくれませんが、20日後のシナモン王都の侵攻作戦で成果を出したら、やっと認めて(・・・)もらえ――「ローリエ。そこまで。グスターが固まっているから」――はい。ごめんなさい」――ぐしゅっ、えぐっ……委員長の馬鹿! おにーちゃんの馬鹿! 二人とも大っ嫌いだっ!!」


気が付けば、グスターは走り出していた。

視界が霞んでいる。目と鼻から水分が出ている。でも、そんなの関係無い。

王城の門を抜けて、屋根の上を跳んで街並みを抜けて、城門の外に出て――走って、走って、走った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ