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第21話_虐げられている人々

車を降りて桜島本社に入る。

会議室に行くと、ヴィラン先輩と一緒に、2人のおねーさんがいた。

「僕は、JWXAの水神(みずかみ)ながれです。今日は、よろしくお願いします」

「わたしは、異世界サルベージの事前調査や事前交渉を専門にしている『株式会社_草原異世界調査』の草原(くさはら)れもんです」


軽く頭を下げた2人と自己紹介を済ませた後に、ラズベリが口を開く。

「それでは、全員そろったことですし、状況の説明を草原さんから、お願いします」

「はい。先ほどの自己紹介でも言わせて頂きましたが、弊社では異世界サルベージの事前調査を主に業務として行っております。今回の白木蓮さんの件でも、株式会社_異世界トレジャー・サルベージ部様からの依頼を受けて事前調査を進めていました」

淡々とした口調で、草原さんが言葉を続ける。


「白木蓮さんと調査員の最初の接触時は、いつもの事前調査にありがちなことですが、全く相手にしてもらえなかったです。しかし、こちらの仕入れた地球での情報を提示することで、こちらの世界から債権回収に来たことを信じてもらえる状態まで持って行くことが出来ました。今回の接触も、あくまでも事前調査であることをお伝えして、白木蓮さんで間違いないか多面的に調査させて頂き、本人であることを確認しました。お手元の資料の2ページ目をご覧下さい」


草原さんに言われて、資料をめくる。

「そして本日、異世界トレジャー・サルべージ部様に引き継ぎをしようと考えていた矢先、弊社のスタッフが白木蓮さんの異世界『宵闇に染まる世界』から大怪我をして帰還しました。いわく、白木蓮さんとの面会後、魔王城の庭で帰還しようとした際に、白木蓮さん本人に殺されそうになったとのことです。その後、急いで別の高レベルの調査員を複数名で交渉に向かわせたのですが、白木蓮さんは交渉員への傷害行為を否定しており、補償などを含めて、話し合いが難航している状態になっております」


「なぁ、おにーちゃんがやっていないって言うのなら、おにーちゃんは、やっていないんじゃないのか? ほら、交渉反対派の偽物とかが勝手に行動したとかありえるだろ?」

グスターの言葉に、草原さんが首を横に振る。

「いえ、最初に負傷した交渉員が『鑑定スキル』のステータス情報で確認していたため、白木蓮さんで間違いないそうです。白木蓮さんはそのことを否定して、『言いがかりだ』とおっしゃっていますが」


「そうなのか……」

納得のいかないグスターの呟きに被せるように、草原さんが言葉を続ける。

「さらに、負傷後に交渉に向かわせた別の交渉員も、何者かに襲撃を受けています。そのため、今後話し合いの継続は難しいと異世界トレジャー・サルベージ部様とJWXAに報告させて頂きました」

「……ぅ~」

「今から向かう交渉が、事実上の『強制執行通告』になると思われます。ですが、従妹でいらっしゃる春星さんに、白木蓮さんを説得していただければ、もしかしたら状況が変わるかもしれないとも、わたしは考えています」

「うむ。グスターは頑張るぞ! おにーちゃんが強制執行で怪我をしたりするのは、嫌だからな!!」


グスターの言葉に、草原さんが大きく頷く。

「はい。わたしも強制執行という形ではなく、話し合いで解決出来た方が好ましいと考えていますから――春星さん、よろしくお願いしますね」

「ああ、分かった。任せて――「グスターちゃん、ちょっと良いですか?」」

言葉の途中でラズベリに声をかけられた。

草原さんに渡された資料を、ずっと見ていたラズベリの表情が、何故か強張っている。


「ん? ラズベリ、どうかしたのか?」

「……グスターちゃん、ごめんなさい。今回の異世界サルベージ、グスターちゃんや委員長ちゃんは連れていけないかもしれません」

「え?」

「はい?」

一瞬生まれた小さな沈黙。


「なんでだ!?」「何故です?」

グスターと委員長の声が重なる。でも、ラズベリは固い表情を崩さない。

「おにーさんが、現在進行形で、積極的に人間と敵対している魔王だからですよ」

「どういう意味だ?」

「私も、ここまできて置いてけぼりは納得できません!」

グスターと委員長の非難の声に、ラズベリが小さく深呼吸をして息を整える。


そして、グスター達の目を見て、ゆっくりと口を開いた。

「異世界の闇を、人間の心の深淵を、覗く覚悟がグスターちゃん達にはありますか? あるのなら、資料の4ページ目を見て下さい」

真剣なラズベリの声に、グスター達は一瞬だけ戸惑って、ゆっくりと頷いた。

そして資料のページをめくる。


そこに書かれていたのは――おにーちゃんの魔王軍が潰した国と殺した人の数だった。


 ◇


おにーちゃんが魔王になっていることは知っていた。

多分、こうなっているのだろうなと薄々気付いていた。グスターも、サルベージに同行する中で、生きるために人を殺さないといけない立場になってしまった転移者や転生者をたくさん見ているから。


でも、そうだとしても――おにーちゃんは殺し過ぎていた。

……。

世界の3分の2の人間を殺すなんて、どんな深い闇が、おにーちゃんの中で渦巻いているのだろう?


ううん、今更怖がっても仕方がない。

ラズベリには「債権回収と異世界運営は、別モノだと考えなさい」っていつも言われてるじゃないか。

だからグスターは債権回収にまずは集中して、強制執行にならないように、おにーちゃんを説得してみせる。


そして、それが落ち着いた後――可能なら、おにーちゃんを闇の中から救ってあげたい。


 ◇


グスター達は異世界に飛んだ。そこで目にした光景は――戦争の跡。

「……(あんまり、見ない方がいいよ。夢に見るから)」

「……」「……」

ヴィラン先輩の言葉に、何も返せないグスターと委員長。


ラズベリが声をかけてくる。

「これもまた1つの現実です。今までは、こういう光景は2人には見せていませんでしたが、今回は避けて通れません。嫌でしたら、今のうちに、元の世界へ帰還して下さい」

うん、逃げ帰りたくなる気持ちは一切無い――と言ったら嘘になる。


グスター達を囲んでいるのは、無数の焼けた家跡、焼けた畑、焼けた家畜の骨、焼けたモンスターの骨、無数の焼けた武器、無数の焼けた人骨。


よほどの高温の炎で焼かれたのだろう、街だった場所は灰色の墓場に変わっていた。

そして、そんな墓場の中央には、頑丈な絞首台でプラプラと不規則に揺れている果実が23個。

「ぅ――」

委員長が顔をそむけて、口元を押さえる。

火傷を負ってアンデッド化している者達が、魔封じの縄に首を縛られた状態で、手足をバタつかせて揺れていた。


その足元には大きな看板が立てられている。

「……(『永久の苦しみをこの者たちへ』……か。よっぽど恨みを買ったみたいだね、この土地を治めていた元領主の一族は)」

呟くようなヴィラン先輩の声。小さな声なのに、とてもよく響いた。


「こいつらは、領民に圧政をしいたり、娘を攫ったり、遊びで人を殺したり――好き放題していたんだよ。人ならざる者の所業、その身で罪を被るのは当然の報いだよね?」


どこか笑うような声に後ろを振り向くと、黒いフード付きのマントを羽織った、スカート姿の女の子が立っていた。目深に被ったフードで顔は見えないけれど、黒髪で白い肌。身長はグスターと同じくらい?

何よりも印象的なのは、その手に持った死神のような大鎌。


一瞬、死神少女が、ぴくんっと反応した。

「今日は、珍しい客人が来る日だね。JWXAの関係者――と見て間違いないかな?」

死神少女の言葉に、ラズベリが言葉を返す。

「貴女は?」

「レンの側近だよ。JWXAの人達が強盗にやって来たと聞いて、おしおきをするために来たんだ♪」

死神少女が大鎌を頭上で構える。とっさに、叫んでいた。

「攻撃するのは止めてくれっ!! グスターは、おにーちゃんに会いにやってきたんだ!! おにーちゃんに会わせてくれ!!」


「グスター?」

後ろから、声が聞こえた。振り返ると――

「おにーちゃん!!」

黒い全身鎧に身を包んでいるけれど、半年前とまったく姿が変わらない、おにーちゃんがそこにいた。

良かった。生きててくれた。変わらないでいてくれた。

気持ちがあふれる。


大好き――だいすき――大好き――だいすき。


思わず駆け出そうとして、ラズベリと委員長に両腕を強くつかまれる。

「――ちょ、放してくれ!!」

「グスターさん、危険です」

「そうです」

「おにーちゃんは、危険じゃない!!」


「レン? 何で出てきちゃったの?」

委員長達に両手を捕まれて動けないグスターを一瞥した後、死神少女がグスターの頭上を飛び越え、おにーちゃんの隣に移動した。そして――

「あの小娘、レンのことが好きなのかしら?」

死神少女は、おにーちゃんの首に手を回して、キスをした。

おにーちゃんも拒まない。


「なんで?」


グスターの呟きに答えるように、風で死神少女のフードが外れ、その下の素顔が晒される。黒髪だけれど――死神少女は――グスターと同じ顔をしていた。


「……一緒だから?」


おにーちゃんは、グスターの代わりのグスター(・・・・・・・・)を、もう見つけていたんだ。

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