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第16話_グスターと魔界

何の変哲もない街中の雑居ビル。

しかし、エレベータから1歩足を踏み出すと、そこに広がっていたのは魔界だった。


――『スプリン・グ・スター・フラワーの日記』より――


 ◇


「……グスターさん、何をドヤ顔しているんですか?」

「ん? いや、天文館にこんなお店があるなんて知らなくてな♪ それよりも、委員長、活き活きしているな?」

「――っ、良いじゃないですか!」

ラズベリ達は「明日で大丈夫」って言ってくれたけれど、アニメや漫画の専門店がまだ営業中だったから、一緒に行ってみることにしたのだ。


と、いうことでやって来ました、アニメショップという名の魔界に。

うん、やってくるまでは聖地かと思っていたんだが、実際に来てみると魔界だな。混沌とした欲望が渦巻いている感じで、多分、グスター1人だと店内に入れなかったと思う。

何て言うのか……そう、結界が張ってあるのだ!!


「ん?」

視線を感じて振り返る。

大学生くらいのおにーさん達が4人固まっていた。


「銀髪ケモ耳ランドセル!? しかもレベル高ぇ……っていうか、あの制服、黒神島学園の高等部だろ?」

「真面目そうなイメージがあるけれど、女児用ランドセルOKなんだな」

「留学生だからかな? 可愛いな~」

「いやいや、お前達、ツッコミどころはそこで良いのか?」

「「ふっ、まさか!! ――ケモ耳に反応しない男はいないッ!!」」


変な奴らだ。ぴこぴこ♪


「「「えっ? 動いた?」」」


ふりふり、ぴこぴこ♪


「「「ちょ、スマホ! スマホで動画撮らなきゃ。永久保存してネットにアップ――「あの? ちょっと良いですか?」――はい?」」」

おにーさん達は、突然、委員長に話しかけられて固まっている。

委員長、怒るとちょーこわいからな。


「私の友達に付きまとうのは止めて下さい。あと、女子高生を盗撮するのは犯罪ですよ? ――ということを踏まえて、何か言いたいことはありますか? 最低でもこの店に出入り禁止、こっちの話の持って行き方次第では、警察に御厄介だなんてこともあり得ますよ?」

「「「……すみませんでしたっ!!」」」

「ええ、それじゃ、早く消えて下さい。目障りです!」

委員長の言葉に、おにーさん達がダッシュで店を出て行く。それを冷たい視線で見送った後に、委員長がグスターの方を向いた。


「グスターさん、あなたも迂闊な行動は慎んで下さい。世の中にはストーカーのようになる危険な人もいますし、ケモ耳は珍しいんですからね? ケモ耳のことがネットに広がったら、グスターさんは研究所行きかもしれませんよ?」

「あ~、うん、気を付けるぞ。でも、ケモ耳の件は大丈夫だ♪ 魔力で出来ているせいなのか、写真や動画に映らないんだ。あと、ラズベリが日本政府に確認して、普通の日常生活を送っても問題ないと許可してもらっている。むしろ、なんとか委員会ってところが、グスターに護衛をつけてくれているみたいだから、大丈夫だ♪」


「……グスターさんは、色々な意味でとんでもないですね。まぁ、その話は信じましょう。それじゃ――「こんにちは~♪」」

委員長の後ろから、店員さんっぽいお姉さんが話しかけてきた。

黒髪をポニーテールにした30歳くらいの美人さんだ。

「やっほ~、いらっしゃいライブラリー・(図書館の)プリンセス(眠り姫)と、可愛いケモ耳女子高生ちゃん♪」

「らいぶらりー・ぷりんせす? 誰だ、それ?」

「ケモ耳女子高生ちゃんの隣にいる、黒髪眼鏡の女の子だよ☆彡 中学生の時に――「や~め~て~!!」」

「ああ、発症していたのか♪ プリンセスは(笑)」


グスターの言葉に、委員長は石像のように固まり、おねーさんは笑顔になる。

「そういうこと♪ で、ケモ耳女子高生ちゃんも現在進行形で中二病なの? 可愛いじゃない、その耳と尻尾。アクリルとかの合成繊維の安物じゃなくて、最低でもラビット・ファーかな? 本物の毛を使っているよね?」

「おねーさん、詳しいのな?」

「ええ、これでもコスプレしていたからね~♪ 素材には、こだわっていたのですよ~」

「そう言うことか。ここだけの話、グスターの耳と尻尾、本物なんだぞ♪ 狼の耳と尻尾なんだ」


おねーさんがくすりっと笑う。

「え~、本物なの~?」

「ちょ、グスターさん! 店長も、聞いちゃダメです!!」

委員長がグスター達を止めようとしているけれど、店長のおねーさんは気にしていない様子。

「へぇ~、狼か。貴重そうだけれど、ワシントン条約とか関係無いのかな?」

ワシントン条約? なんだろ、それ?

「ん~、異世界で貰ったから大丈夫だと思う。日本政府公認だし」

「え? 異世界? 日本政府? 黒神島学園って、確か異世界サルベージ会社を起業した女の子がいたよね? ……もしかして、そのケモ耳と尻尾、異世界の魔道具なの!?」

おねーさんが真顔になっていた。

ラズベリのことを知っているなんて、ラズベリって結構有名人?


でも、取りあえず今は、おねーさんの勘違いを否定しておこう。

「いや、違うぞ? 魔道具じゃない」

「だよね~、一瞬、本物だと思ったよ」

「ん? いや、本物だが?」


ぴこぴこ♪


「う、動いたっ!?」


ふりふり♪


「尻尾も!? ちょ、それ、もしかして――本物なのっ!?」

「ああ。最初から本物だって言っていただろ? 異世界で狼の神様に貰ったんだ」

「――っ!!! ケモ耳女子高生ちゃん! ライブラリー・プリンセス! ちょっと店の奥で話をしましょう!! 美味しいケーキとコーヒーがあるのよ!!」

「ケーキ? 食べて良いのか?」

グスターの問いかけに、おねーさんが笑顔になる。


「もちろん♪ さぁ、奥へ行きま――「店長! 私の友達をおやつで釣らないで下さい!!」――え~、でも、本物だよ、本物。ちょっとお話を聞くくらい、モフモフするくらい、ハムハムするくらい、良いじゃないの?」

「ダメです」

「そうだぞ。モフモフまでで、やめといてくれないか?」

「ぁははっ、ハムハムは冗談だよ。だから、おねーさんとイイコトしよ?」

「……店長、怒りますよ?」

委員長の呟きに、おねーさんが笑う。


「それはヤダ♪ でもさ、ライブラリー・プリンセスがお友達と来てくれたことって、初めてじゃない。私にもお祝いさせてよ?」

「本心は?」

「リアル狼耳娘と遊びたい♪ 今日の仕事は、もう終わり!」

にっこりと笑うおねーさんに、げんなりとした表情を委員長が浮かべた。

「……仕方ありませんね。店長には、無理なお願いを聞いてもらいますよ?」

「お願いか~、18禁はダメだからね~」

「そうですか。同人誌の注文が500冊を超える美味しい大口取引を持って来たんですけれど――「ナニソレ? ちょっと詳しく話を聞かせて!」」


 ◇


委員長の「異世界に転移&転生した債務者が、日本のアニメや漫画の情報に飢えている」という話を、店長さんはじっと黙って聞いている。

そして、一通りの説明が終わった後、ゆっくりと口を開いた。

「ん~、高校生に18禁を売っちゃいけないんだけれど……いや、今回の取引は(株)異世界トレジャー・サルベージ部さんという法人が相手だから、法的には何も問題無いか。――うん、その話、乗るよ♪ 長期的な取引もしてもらえるみたいだから、一般書籍も合わせて、債務者さん別に分けて注文してあげる。他にも、可能な限り協力するし!」


「ありがとうございます」「ありがとう、おねーさん」

「いやいや、私だって異世界に憧れている人間だからね~。って言うか、2人とも異世界に行って来たとか『何それ羨ましい!!』って状況なんだけれど!」

「ん? 普通の人は、異世界に行けないのか? 日本なら、普通のことじゃないのか?」

グスターの言葉に、おねーさんが目を丸くする。

「え? ケモ耳女子高生ちゃんは知らないの? 異世界に行くのは、宇宙とか深海に行くような感覚よ? 宇宙飛行士とか、深海探査船乗員とかをイメージしてもらったら、私が言っているニュアンスが伝わると思うわ。アメリカだって、民間宇宙飛行は何千万円ってお金がかかるの知っているわよね?」

「んにゃ、知らないぞ?」

店長さんと委員長が困ったような表情を浮かべる。


そして、委員長が口を開いた。

「グスターさん、普通の異世界サルベージ会社なら、厳しい入社試験があるって知っています?」

「そうなのか?」

「はい。書類審査、筆記試験、心理テスト、体力テスト、さらに自衛隊経験者や武術の高位有段者とか医学部卒といったアピールポイントが有って始めて試験に合格できる『可能性がある』といった狭き門なのです。今日の私みたいに、『それじゃ今日から異世界に潜ってみましょうか♪』っていう会社は、多分、どこにも無いと思います」


「へ~、でもグスター達は違うんだから、別にどうでも良くないか? それよりも、今は1つ残ったケーキを、いかに綺麗に3等分するかという問題の方が重要だ!!」

真剣なグスターの声に、委員長と店長さんが小さく噴き出す。

「ちょっ、失礼だぞ!! グスターは真面目に考えているのに!!」

「そういう所が、グスターさんが主木先輩達に選ばれた理由かもしれませんね。多分、私はグスターさんのおまけです」

委員長が微笑んでいた。これは褒め言葉なのか?

……うん、よく分からない。


でも、委員長が笑っているのは、グスターも何だか嬉しい気がする。

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