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第12話_はじめての債権回収

あれから何日、時間が過ぎただろうか? 多分、今日で20日目くらいだと思う。

おかげでレベルが12から250まで上がったよ。


でも、これだけは断言できる。

ラズベリはドSだ! ヴィラン先輩はドSだ!

鬼だ! 悪魔だ! 化け物だ!!


「……グスターちゃん? 今、とっても失礼なことを考えませんでしたか?」

にこにこっとした笑顔でラズベリが聞いてきた。

「いや、鬼だとか、悪魔だとか、化け物だとか、思っていないぞ?」

「……(その言い方、何か怪しい)」

「わたくしが、化け物?」

「――ひぃっ!! に~げ~ろ~!!」


「逃げても無駄です! ご飯は社務所にしかありませんよ!?」

「うぐっ、ご飯を人質に取るなんて、ラズベリは鬼だっ! 悪魔だっ! 化け物だっ!!」

「ほほぅ? 言いたいことは、それだけですか?」

「繰り返すっ! ラズベリは鬼だっ! 悪魔だっ! 化け物だっ!!」


こうして、ラズベリとの命がけの鬼ごっこが始まった。

ふっふっふ~、レベルが上がったグスターに、敵う者はいないのだ♪ 分身の術も、魔力が満ちているこの異世界でなら、3体くらい同時にデキマスヨ?

「グスターを、捕まえられるものなら、捕まえてみ――「ましたよ?」――えっ?」

後頭部を、わしゃり、っと掴まえられていた。


そして、グスターの意識は途切れた。


 ◇


多分、ストレスがたまっていたんだと思う。

ついカッとなってやりマシタ。

だからラズベリ、ごめんなサイ。


――ご飯抜きの刑は……今日のお昼から明日の朝食までの3食、水と塩だけだというのは……あんまりデス。


 ◇


ご飯抜きの刑に服してから3日後、無事にグスターは元の世界に戻ってきた。

最終的にはレベル263、ちょっとしたドラゴンやオーガナイトの群れくらいなら、一人で倒せるようになった。


そう。星屑落下の連打でドラゴンを連れたオーガの群れを一掃する作業は、事実上のボーナス経験値獲得ステージ。むしろ、最終日にやったラズベリやヴィラン先輩との1対1試合(サシバトル)の方が、大変だった。

2人ともレベル500オーバーで、魔力がある場所なら無敵の最強状態。

いわゆる「キノコを食べる人が星をゲットした状態」だから、最初はグスターもボコられましたとも。


でも、気付いたんだ。

ケモ耳尻尾の神様の加護を得たグスターの方が、レベルは低いけれどステータスの素早さの値が上だって。

回避して、回避して、ちくちくHPを削って、ヴィラン先輩の大魔法を星屑落下をぶち当てて相殺して……時間切れという形で、何とか引き分けに持って行きマシタ。


――ということで、やって来たぞ、学校に♪

夏休み明けみたいな清々しさと解放感に包まれながら、教室に足を踏み入れる。

うん、何と言うのか、このほんわかとした感じに癒される。

「ああ、学生生活って素晴らしい♪」


 ◇


放課後になった。

精神的にぐったりしている。

グスターは動かない。ただのしかばねのようだ。


……うん、久しぶりの学校は大変だった。

夏休み明けに1学期の勉強の中身をすっかり忘れているのと同じで、グスターは、昨日受けたはずの授業の中身を一切覚えていなかったのだ。

おかげでいらない恥をかいてしまった。

……。

あとで異世界に潜って、眠ってご飯食べてお風呂に入ってから、のんびりした後に、ちょびっと復習しておこう。そう、異世界ならこっちの60倍だらだらしても大丈夫なのだ!

うん、そう考えたら、少し元気になってきたぞ♪

早く部室に向かうのだ(≡ω)


 ◇


部室に行くと、ラズベリとヴィラン先輩が待っていた。

「グスターちゃん、お疲れさま」「……(お疲れ~)」

「お疲れさまデス!!」


「それじゃ、早速、桜島事務所に向かいましょう♪ 今日から、グスターちゃんも債権回収に補助要員として同行してもらいます」

「うむっ♪ ついに、グスターも異世界サルベージが出来るんだな!! ラズベリ、ヴィラン先輩、よろしく頼む!」

「もちろんです♪」

「……(よろしく。――あ、でも気合入っているところ悪いけれど、ボクは、しばらくグスターさんとは別の異世界に潜るからね?)」


「別の異世界?」

「……(そう。昨日はグスターさんのパワーレベリングに付き合っていたから、他の仕事が溜まっているんだ。ほら、異世界って、24時間で60日分くらい時間が進むでしょ? 交渉を急がないといけない相手が、何人かいるんだよ)」

「ふむふむ。忙しいんだな?」

「……(そのうち手伝ってもらうから、早くグスターさんも仕事に慣れてね)」

「もち。頑張るぞ♪」

「ぅふふっ、グスターちゃんは、昨日の今日だから、まだ仕事のことは考えなくても大丈夫ですよ。それよりも、今は異世界を楽しみましょう?」

「うむ、ラズベリ、ありがとう♪」


そんな話をしながらグスター達は、桜島の本社へ向かうことにした。

ちなみに、今日のフェリーのうどんは奮発して「海老天ぷらうどん」にしてみた。

サクサク、じゅわ~(≡ω)♪


 ◇


桜島事務所の会議室。

さっき、早苗さんと瑞穂さんには挨拶をしておいた。

「……(んじゃ、ボクは先に行くね♪)」

「行ってらっしゃい」「イッテラッシャイマセ、ゴシュジンサマ!」

「……(ふふっ、グスターさんは面白いな。――ま、良いか、行ってくるよ♪)」

小さく手を振って、ヴィラン先輩が魔法陣の放つ光に包まれて消えた。

「さて、グスターちゃん。わたくし達もお仕事に行きますか♪」

「ああ、行くぞ!!」


異世界に行く準備は万端。

転移の指輪や追跡の指輪はもちろん、食糧や武器や魔法薬の類も、それぞれの「魔法箱(アイテム・ボックス)」の中に入っている。


グスターの異世界サルベージが、いよいよ始まる。


 ◇


カタカタと規則的に音を立てる馬車の車輪。

貴族用の高級馬車を使っているからか、思っていたよりも揺れが無い。

馬車の中には、黒と銀のドレスアーマーを着たラズベリとグスター。今回は、統一感を出すために、お揃いの衣装にしたとラズベリが言っていた。


もう何って言ったら良いのか、グスターのテンションはMAXを振り切って、スーパーMAXに上がっている。けれど、それは顔には出さない。

ラズベリと「異世界では、いつでも冷静でいる」って約束をしたから。


「それでは、今回の債務者の情報を、口頭で最終確認しましょう。覚えていますか?」

「うむ。さっき、ラズベリに教えてもらったから覚えている。今回の債務者の名前は野田藤力(のだふじ・ちから)。異世界ではチカラという名前で通している。異世界での外見年齢は25歳前後で、債務の内容は、転移前に残した借金が合計250万円+金利分35万円。そして奨学金の未返還が200万円だ」

「チカラさんの現在の状況は、どうなっています?」


「召喚勇者ということで魔王軍を倒し、勇者王として1つの大陸を統治している。統治者としては比較的優秀で、臣下や民からの信用も厚く、国は安定している。魔法技術が発展しており、サルベージ出来る魔法道具や技術は豊富。総合的に判断して、債権の回収は比較的容易と思われる。ただし、今回が正式なファースト・コンタクトであるため、注意が必要――って、ラズベリの資料には書いてあったぞ♪」

「合格です。それでは、馬車も王城に着いたみたいですし、気を引き締めて行きましょう!」

「うむっ♪ よろしく頼む」


意気揚揚とお城の中に入って行ったのだが……。

債権回収って難しいんだなと、グスターは思い知った。


「今はもう平和に暮らしている。邪魔しないで欲しい」

「元の世界とは、もう関係ない」

「日本の法律が及ばない土地だから、債務は返さなくても良いはずだ」

「合計500万円にも満たない程度の借金で、20年間、魔法道具や魔法技術の提供をしないといけないのは、とてもおかしい。ぼったくりだ。闇金業者よりもひどい。日本はいつから、そんなことが許される国になったんだ?」

「――でも、魔道具や魔法技術が欲しいということなら、多少の協力ならしても良い。それ相応の見返りをくれるのならば♪」


以上、野田藤力の言い訳デシタ。

でも、ラズベリが余裕の表情で口を開く。


「どんな報酬があれば、協力していただけますか?」

「ん~、正直、地位も名誉も金も女も間に合っている。日本にいた頃なら、ラズベリさんみたいな美人を放っておかなかったと思うのだけれど、今の俺には愛する妻や子ども達がいるからな。ラズベリさん達が支払える報酬は、無いと思う」

「褒めても譲歩は出来ませんよ?」


「……債務分を金貨で支払うと言っても、ダメなのだろう?」

「そうですね。わたくし達は、そしてJWXAは、異世界の神秘が欲しいのですから」

「そうか。……んじゃ、帰ってくれ」

「また来ます。次に来た時には、喜んで債権回収に協力してもらえるような『お土産』を持ってきますから♪」


「ははっ、楽しみにしておくよ」

「グスターちゃん、帰りますよ?」

「いいのか?」

「はい。今日は顔見せですから。――それじゃ、チカラさん、失礼します♪」

ラズベリは、ひらひらと手を振って、事前に打ち合わせていた通りに、帰還の指輪を発動させる。

「転移魔法ッ!? それで日本に帰るのか!?」

チカラさんが驚いているみたいだけれど、グスターには関係無い。

「あでゅ~♪」

再会の言葉を残して、去るのみだ。


 ◇


「さて、グスターちゃん、お疲れさまでした♪」

事務所に帰還した後、ラズベリは上機嫌だった。

「? ラズベリ、債権回収(サルべージ)できなかったのに、何で機嫌がいいんだ?」

「え? 日本語が通じる相手だったからですよ?」

「???」


「分かりませんか? そもそも、今回のように『話し合いが出来ること』の方が珍しいんです。人によっては問答無用で斬りかかってきたり、口封じをしようとしたり、無理難題を吹っかけてきたりしますから。まぁ、そういうのはこちらも実力行使させてもらいますから、債権回収も簡単なんですが。――まあそれは、別の機会に話すとして――色々な意味で、お話の出来るチカラさんは美味しい物件なのです♪」


「ラズベリ、何だか黒いぞ?」

「褒め言葉です♪ ――ってことで、次の債務者に会いに行きますよ?」

「了解だ」

「次の債務者は……魔王ですね」

「まぉっ、魔王なのか!?」


「珍しくもないですよ? 3回目のコンタクトですし、親切な方ですから大丈夫です。――さぁ、後がつかえていますし、ちゃきちゃきと行きましょう♪」

「……ちなみに、何件くらい周るんだ?」

「秘密です♪ 多分、教えたらグスターちゃんが逃げちゃいますので」


――結局、3時間で60件の異世界債務者をまわるという、ブラック企業も真っ青な業務に付き合うことになった。異世界と地球の間では、時間の進み具合が違うって知っているけれど……絶対におかしいだろ!


実質180時間労働だから、コレ!!

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